♀ポケに愛されて   作:愛され隊

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ウラウラじま巡り

O月◯日

 

 

 

ポケモンバトルにおいて戦闘不能とはポケモンが戦闘の続行が不可能な状態、文字通りの意味を持つ。ゲームでは異常状態アイコンの所に"ひんし"と記載され、"げんきの"シリーズを使わなければバトルに復帰させる事は出来ない。それを回復、場合によっては蘇生などと呼んでいた。

 

 

だがこの世界では蘇生という表現はふさわしくない。何故ならば、ポケモンは戦う力が無いだけで、死んでいる訳では無いのだから。その証拠としてアニメでは戦闘不能になってもポケモンはトレーナーの声に反応したりなどの行動を示している。何より、ポケモンバトルでは戦闘不能になればトレーナーがボールにポケモンを戻す事でダメージによる心身の消耗を抑え、ポケモンセンターでの治療や店で売られている回復薬で傷を癒せる。

 

 

だが、自然界ではボールに戻したり薬品による傷の治療は行われない。ある物といえばオボンやオレン、マゴなどの治癒効果のあるきのみ位。戦闘不能になっても、誰として攻撃を止める様な事はない。それは元の世界でいう食物連鎖にあたり、自然の摂理。そこへの介入は人としてあまり良い事ではないと俺は考えている。

 

 

でも今日出逢った傷だらけのポケモンを、俺は助けていた。それが後々、俺にとって深い関わりになる予感を、特に鋭くもない勘が告げている様な気がしたから。

 

 

 

 

 

 

パチッ!!

 

 

焚き火の中の木が音を立て崩れる。それを見てそろそろ追加どきだろうと側に積んでおいた薪を投げ入れ火を絶やさない様にする。まだ薪は残っていて、これなら朝まで持つだろう。

 

 

「大丈夫か?」

 

「ルゥ………」

 

 

俺は側に横たわるアブソルをそっと撫でてやる。本当は痛みで寝れもしないだろう。本来警戒心が高い此奴にとって人に触れられるのは嫌だろう。でも、アブソルは逃げようとせずに俺の声に応えてくれる。

 

 

「ユキィ………」

 

「お前も心配してるのか?」

 

「ユキッ!!」

 

 

そして、側で氷を作ってくれていたユキワラシにも声を掛ける。俺がアブソルを見つけた時には既にこの子が側におり、治療しようといたのだ。そして俺を見るなり必死にしがみついてきた事に流石の俺も根負けし、こうして治療をしているのだ。傷に消毒代わりのすごいきずぐすりを染み込ませたガーゼを当てて包帯で固定し、消耗した体力をきのみで回復させる。それだけの作業を数時間毎に繰り返し既に夜は遅く、周囲の森を闇が覆っている。

 

 

「ユ………キ………」

 

「眠いなら寝ててもいいんだぞ?」

 

「ソル……」

 

 

メトロノームの様に右左にフラつくユキワラシに俺はそう言い聞かせる。アブソルもそんなユキワラシが心配なのか小さく諭す様に呼び掛ける。

 

 

「ユキッ!?ユキユキッ!!」

 

 

声で眠気が飛んだのか、ブルブルと顔を震わせて大丈夫だと伝えてくるユキワラシ。でも、その様子からして大丈夫とは思えない。今も足取りが心許ない。フラフラでどう考えてもマトモではない。

 

でも、ユキワラシに寝て欲しくないというのが本音だ。この常夏に位置するアローラ地方は夜も蒸し暑い日が多い。今日もその日だ。アブソルの疲労を癒すためにも純粋なこおりタイプであるユキワラシには周囲の気温を下げる役割をして貰っている。一応ミロもこおり技は使えるがれいとうビームなどの取り回しの効きにくい技しかない。ハイドロポンプなどのみず技でもダメだ。だから出来ればユキワラシが良いんだが………。無理強いは良くないだろうと鞄を漁りミロのボールを取り出そうとする。

 

 

「ユキィィィッ!!」

 

 

しかしユキワラシが俺の手に飛び付き鞄を奪い取って俺から引き剥がす。どうやら、どうしても曲げるつもりはないらしい。はぁ、と溜め息を混じらせながらユキワラシに頼ろうとした瞬間、鞄から何かが零れ落ちた。

 

 

コトン

 

 

それは俺がアララギ博士から謝罪の気持ちとして受け取ったとある石。ポケモンに特殊な進化をさせる作用がある石だがその関連があるポケモンは他の石より見つかっていない。でも、これは運命なのかもしれない。

 

青緑色に透き通っていて、中心にトゲトゲした模様が見えるその石。その名前をめざめいし、キルリアはこの石によってエルレイドに進化する。そして何より、ユキワラシはユキメノコに進化する。目の前で条件の1つがクリアされた。だが他にも条件があり、特定の性別でなければ進化しない。現にキルリアの雄しかエルレイドにはなれず、ユキワラシの雌しかユキメノコになれないという研究成果が発表されている。

 

でも、俺には目の前で進化が起こるという確信があった。何故なら俺は、雌ポケモンに異常に好かれているのだから。

 

 

「ユキィィィッ!!」

 

 

ユキワラシの体とめざめいしから光が溢れ出し、めざめいしだった物は色を失い地面を転がりユキワラシだったそれは大きく姿を変えていく。着物を思わせる姿、それのアクセントとなる赤い帯。光が収まった其処にはユキメノコが静かに浮かんでいた。

 

 

「メノ………」

 

 

静かに彼女は目を開き、自分の変化に気づく。進化前は小さかった手は長くなり、短かった足の代わりに体を浮遊させる力を得た。体はさぞ軽く楽だろう。でも、その目には次第に涙が浮かび始め、遂には俺の足元で土下座を始めた。恐らく俺の持ち物を勝手に使ってしまった罪悪感を感じているのだろう。でも、俺は怒る気にはなれなかった。目の前で進化を見れたらそんな事どうでも良くなった。そもそも、宝の持ち腐れ状態だったのだから有効活用してくれるならそれで良い。

 

 

「気にすんなって」

 

「ユキ………」

 

 

安心させようと頭をそっと撫でてやる。だが予想以上に冷たく直ぐに撫でるのが辛くなる。でも手は止めない。目の前で恥ずかしげに頬の辺りを抑えて右左に揺れるユキメノコを見たらもっと見ていたいという欲に駆られてしまう。流石雪女がモチーフのポケモン、魅力はたっぷりである。

 

 

「ソル…………」

 

 

不機嫌そうに鳴くアブソル。見知った仲の奴が人に撫でられて喜んでいる姿が気に食わなかったのだろうか?そんなことを考えながらも、俺はユキメノコを暫くの間撫で続けていた。

 

 


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