マサトが辿り着いた場所は、アルゼナルにある食堂であった。辺りは静かであったが、マサトは警戒していた。
「何でこんなに静かなんだ?」
マサトがアサルトライフルを構えていると、食堂の階段から兵士が転がり落ちてきた。
「っ!?」
マサトはアサルトライフルを構えると、その兵士は肩を怪我していた。
「おーい!逃げろ!」
「今さら、引き返せるか!早いとこナオミを助けないと!」
「頼む!アンタだけでも逃げてくれ......!」
「さっさと退け!」
マサトがトリガーを引こうとした直後、
「ああーーーーっ!!!」
横からゾンビ化された兵士が負傷した兵士に襲い掛かってきた。負傷した兵士に悲鳴、そしてゾンビ化した兵士が負傷した兵士の肉を食いちぎる。その於曾ましい光景にマサトは息を殺す。
「...........(何だ、あれは!?......人が....人を食っている!?.......もし、俺があの兵士と出会さず、警戒しないまま行っていたら、)」
パキッ!
「っ!」
っと、マサトが落ちていた皿の破片をうっかりと踏みつけてしまった。
「(まずい!!)」
マサトが踏みつけてしまった皿の破片見て、正面の方を向いた直後、ゾンビが襲い掛かって来た。
「来たっ!!!!」
ゾンビが噛み付こうと襲い掛かり、マサトは急いで義手で防御する。
「グッ!!」
人間とは思えない程の咬力で義手の籠手が簡単に凹んだ。
「(何て馬鹿力なんだ!!コイツは本当に人間なのか!?)」
ゾンビが義手を噛んでいる事に気付き、顔を喰おうと迫ってきた。マサトはゾンビの首を掴み、距離を取る。そして、
「そうだ!(ゾンビは頭が弱点って....翔の奴が言っていた、なら!!)」
マサトはゾンビの頭を掴み、翔から貰ったアサシンブレードが展開され、ゾンビの頭に突き刺さった。するとゾンビの様子が一変し、魚の様にぐったりと倒れた。
「やっ.......たか.....?」
マサトは義手で思いっきり殴ってみるが、起き上がらなかった。
「ふぅ、どうやら殺ったみたいだな......」
マサトは安心し、振り向くと、さっきの負傷した兵士がいつの間にかゾンビになっていた。
「嘘だろ!?」
ゾンビは呻き声を上げながら、マサトへ走ってくる。
「糞が!!」
マサトはハンドガンを取りだし、頭部目掛けて銃弾を放った。ゾンビの額に風穴が空き、倒れる。その時、アルゼナル内に呻き声や叫び声が聞こえてきた。
「まさか.......」
そう.....今まさに、このアルゼナルは死者の巣と化していた。マサトは急いで食堂から出て、ジャスミンモールがあったホールへと向かう。マサトはゾンビを『アンデット』と名付けた。しかし、ジャスミンモールに着くが、そこにはたくさんのアンデットが死肉を喰らい合っていた。
「惨い......」
マサトは翔からのゾンビに遭遇した時のアドバイスを思い出す。
・【ゾンビは目が見えない変わりに、音で把握する。】
・【必ず頭を狙う。】
・【集団で来られたら、直ぐに逃げろ。】
・【奴等は血の匂いで、嗅ぎ付けてくる。】
・【噛まれないように注意。】
「何としてでも、第二研究室へ行かないと.........?」
マサトは横のフォークリフトカーを見て、思い付く。
「そうだ!」
早速マサトはフォークリフトカーを動かす。
「さぁ、来い!」
マサトはゾンビの群れの中をフォークリフトカーで突撃した。フォークリフトカーが掃除機の様にゾンビを刺したり、引いていった。そしてゾンビを一掃したマサトはフォークリフトカーから下り、第二研究室へ急いで向かった。
マサトが次に辿り着いた場所は、動物を保護している管理室であった。マサトがそこで目に焼き付けた物は、山羊の様な巨大な角をした豹であり、元の時代にいるアストラのペットであるブリッツと同じだが、模様がなく、黒であった。マサトは他の檻を見たが、扉が開いており、この黒豹だけ、置き去りにされたのであると分かった。マサトは扉を開け、中に入ると、黒豹が目覚め、威嚇する。
「大丈夫.....ほら、」
マサトは大人しくさせようとするが、黒豹はまだ威嚇する。だがよく見ると、黒豹の左後足に家畜用の足枷が付けられていた。
「........どいつもこいつも.......」
マサトはそう呟くと、義手から高周波ソードを展開し、足枷の鎖を断ち切った。
「逃げろ.....お前はもう自由だ......」
マサトはそう言い、第二研究室へと向かった。しかし、黒豹がマサトが立ち去るのを見て、後を付いていく。
マサトは第二研究室に到着し、レオスとエクセリアを見る。
「レオス...無事だ!」
マサトがレオスの所へ向かおうとした直後、上から巨大な影が、腕のチェーンハンマーを振り下ろしてきた。
「っ!!?」
マサトは急いで回避し、アサルトライフルを構える。
「何だ!?」
「フハハハハハハハ!!!!!」
「!?.......誰だ!?」
マサトが笑い声を上げる桐山 次郎を見る。
「僕は桐山 次郎........偉大な神の子 "天草四郎"様を崇拝する神に祝福されし者!」
「神に祝福?」
「そう!私の頭脳、そしてこのメモリアルキーが僕を神へと導いてくれる♪」
桐山が手に持っているメモリアルキーを見て、マサトは驚く。
「っ!それは元々俺のだ!返せ!」
「そうはいかん♪......折角神への一歩に近付いているのに.......薄々返されては困るよ、大門寺 真人君♪」
「はぁっ!?」
「やっぱりか.....君はまだ.....エクストリーマー計画の全貌を知っていない.......」
「何を言っているんだ!?って言うか、何でお前が俺の前世の名を!?」
「ま、そうだろうな........良いだろう♪教えてやるよ.......何故、大門寺 諒と華怜の計画であるエクストリーマー計画を知っているか、そして君の前世の名を.........それはだなぁ........私が.......」
「君の父のパートナーであり、エクストリーマー計画に賛同していた科学者で、.........前世の君を........殺した人物でもあるから♪」
衝撃の言葉にマサトは驚く。
「前世の父のパートナーで......俺を殺した人物.....!?」
「そう!君の父に復讐する為だったからだよ!」
「復讐!?......何の!?」
「フフフ......自分で知るが良い♪」
桐山はそう言っていると、チェーンハンマーを振り回すロボットが出てくる。マサトはアサルトライフルを撃つが、ロボットの装甲が弾を弾き、無効にされる。
「チッ!無理か......なら!」
マサトは大樹から貰ったスティックロッドを二刀流で構える。ロボットはチェーンハンマー振り下ろしてきたが、マサトは回避し、チェーンハンマーを伝って登る。
「何をやっている!?早く来世の真人を殺せ!」
桐山の命令に、ロボットがマサトを掴もうとしてきた。だがマサトは華麗な宙返りで掴もうと伸ばした腕に跳び移った。マサトがロボットの後ろに回り込み、スティックロッドを叩こうとした瞬間、ロボットの後頭部が露出展開され、中から体のあちこちに配線が繋がれたナオミが出てきた。
「ナオミ!?」
マサトは驚くと、桐山が説明する。
「ありゃりゃ、該当プロセスが狂っちゃたか」
「テメェ!ナオミに何をした!!?」
「どうもしてないよ♪只、言えることは一つ.........."君と接するのを拒んでいる"事だ♪」
「拒んでいる?どういう事なんだ!?」
マサトが桐山の言葉に分からなくなっている中、ナオミが起き上がる。
「!良かったナオミ......無事で.........っ!!?」
突然ナオミがマサトの首を締め付けて来た。
「カハッ!!や!止め....ろ.....ナ....オミ!?」
ナオミの目を見ると、その瞳には輝きもなく、殺意の目でもあった。
「自分が死者だから、大切な者と断ち切ろうとしているのだよ♪」
「ナオミ......止めて.....くれ」
「無駄だよ、改造したその娘には君のような下等生物には聞こえない........聞こえるのは私の声だけだよ♪」
「そんな.....!」
「だから、言っただろ?私は神に祝福されし者って.....」
桐山がそう言う中、マサトはナオミに苦しめられる。
「ナオミ......ごめんな、一人で抱えさせちゃって......だから、もう背負わなくても良いんだよ.......」
マサトがそう呟いていると、横から黒豹が襲い掛かり、ナオミの腕に傷がつく。そして黒豹はマサトを助けた。
「お前は!?」
マサトがそう言うと、黒豹はナオミではなく、桐山の方に牙を剥く。
「お前......」
すると黒豹が尻尾でマサトの尻を叩いた。
「痛っ!!何するんだ!」
マサトが怒ると、黒豹の口が傾き、笑いを示した。
「この野郎......助けてしまった事を後悔しとけよ!」
するとナオミがチェーンハンマーを振り下ろしてきた。マサトと黒豹は回避し、黒豹がロボットの腕に噛み付く。マサトはその隙に、ナオミに近付き、頬を叩く。
「起きろ!ナオミ!こんな所で素っ裸になっている暇はないぞ!」
しかし、ナオミは一向に目覚めなかった。
「チッ!ダメか」
するとチェーンハンマーがナオミやマサトに落ちてくる。
「嘘!?」
マサトは必死にナオミを庇う。その直後、レオスのツインアイが光、レオスが動きだし、チェーンハンマーを受け止めた。
「何だと!?」
桐山が驚くと、持っていたメモリアルキーが消えた。
「神の力が!!?」
そしてメモリアルキーはレオスのコックピットのコンソールに接続され、コックピット内で音声が鳴る。
『システムログイン ID"イリス"』
レオスはそう言うと、ナオミごと取り抑える。マサトはレオスが勝手に動いたことに、驚いていた。
「レオス!?」
『マサト.......大きくなったわね♪』
「母さん!?」
『私は......貴方をずっと見ていたわよ、真面目で、仲間思い、兄弟愛、さらには大切な彼女を守ろうとしていたことも.......お母さんは......あなたに、天草四郎の遺伝子の意思を託そうと思うの........それが大門寺家...."歩む者"の掟ですから♪』
「歩む者?」
「フフ」
イリスはそう言うと、マサトの瞳が十字架へと変わり、十字架の周りの色が黒から虹へと変色した。そしてイリスの声が聞こえなくなると、マサトはその目で機械を睨んだ。するとどういう事か機械が溶け始めた。
「何て事を!!」
桐山は慌てる。何故なら、その機械にメモリアルキーからコピーして奪ったデータが入っているからだ。だが、機械は水のように溶け、排水溝に流れ落ちる。
「僕の神の力が!僕の神の力がぁぁ!!」
桐山は必死に溶けたデータをかき集める。触れた手が大火傷を負い、そしてあらゆるパソコンが壊れていく。桐山は呟く。
「許さん............許さんぞ!この"悪魔"め!!!!」
桐山はマサトを睨み、マサトはナオミの背中と繋がっている配線を高周波ソードで断ち切り、持ってきた実験用の服を着させる。そしてコアファイターを呼んだ。マサトは後部座席にナオミを乗せると、桐山が言う。
「待て!悪魔め!!許さんぞ!絶対に許さんぞ!......いつか復讐してやる!お前の家族、友達、恋人、子供にも!僕の神の力で呪い殺してやる!私は神に祝福されし......嫌、......神なのだぁぁぁぁぁ!!!!!」
桐山は腕を大きくあげ、首に掛けていたキリスト教の十字架を持って、狂信の叫び声を上げた。
「違う!お前は神じゃない!人の命を実験用のモルモットの様にして.........そんなの神でも何でも何でもない!.........お前こそが........醜く穢れた心を持った堕天使その物だ!!」
マサトはそう言うと、炎がマサトを包み、炎の形が段々と悪魔の姿を幻の様に見せる。
「あ、悪魔!!」
桐山は悪魔の於曾ましい姿を見て、腰が抜けてしまう。そして炎の中からコアファイターに乗ったマサトが義手にパルスグレードと、硫酸が入った瓶を持っていた。マサトはパルスグレードの安全ピンを抜くと同時に、硫酸が入った瓶と共に、投げた。そしてパルスグレードが爆発し、それと同時に瓶が割れ、中に入っていた硫酸が飛び散り、桐山の右半分の皮膚が溶け、半分抉られた。マサトは硫酸が飛び散らないように、レオスの腕の中に隠れていた。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁぁぁ!!!!!」
桐山は断末魔の悲鳴を上げ、硫酸で大火傷した右半分の面を抑え付ける。
「大門寺 真人ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
桐山がマサトの名を叫んだ直後、コアファイターが突っ込んできて、コアファイターの尖端が桐山の腹を突き通し、壁に激突した。
「グヘッ!!」
桐山は血を吐くと、マサトは高周波ソードを展開し、桐山の髪を掴み上げる。
「........眠れ」
マサトはそう言い、高周波ソードで桐山 次郎の首を斬った。首は数メートルまで飛び、炎の中に包まれた。そしてマサトはレオスに乗り込み、コアファイターに乗せているナオミや黒豹、エクセリアと共に、アイオス・フェースの空間転移システムで、大門寺邸へと跳んだ。そしてレオスがいた格納庫が崩れ、火はアルゼナル全体を包み込み、研究所と共に燃え落ちた。
大門寺邸に戻ってきたマサトは急いでナオミを治療した。華怜はナオミに容態を見てもらうと、命に別状はなかったと報告される。そして2時間後、ナオミが目覚めた。
燃え尽きたアルゼナル、内部は黒く染まっており、たくさんのゾンビは焼死体となっていた。その中で、十字架を持っていた死体が動いていた。そして全焼したアルゼナルを調査しに来た軍が到着した。
「どうだ、そっちは!?」
「駄目だ.....もうデータは残っていない」
「そうか......第一の素粒子研究所である『アルゼナル』と並ぶ第二の素粒子研究所であるこの『ナチュラル』が消えたか....」
兵士がそう言っていると、奥から足音が聞こえてきた。兵士は構えると、その人物は怪我をしており、すぐに救助され、アルゼナルへと搬送された。だが、その人物の首に十字架が掛けており、これからの先の事を政府は誰も知る良しもなかった。
みなさん......お分かりでしょうか?