比企谷八幡の現実   作:きょうポン酢

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彩は加えられ、彼にも新たな彩りが広がる

ホームルームの始まる前

 

俺と雪ノ下と由比ヶ浜と戸塚はテニス部の部員を昼休みに集めるべく、各々の教室を渡り歩いている

 

何故そんな事をしているのかをこれから説明しよう

 

 

......

 

 

「戸塚...確認するがお前はテニス部を強くしたいんだよな?」

 

「そうだよ、このままじゃますます弱くなっちゃうから」

 

「比企谷君、私は戸塚君のテニスの腕を上げて、みんなにやる気を出させようとしたのだけれど、それでは駄目なのかしら?」

 

「駄目という訳では無いんだ、しかしはっきりいって効果は薄いだろう」

 

「ヒッキー、どういうこと?」

 

「確かにテニスに熱心な奴も居るだろう、そいつらが戸塚が頑張っている姿を見て自分たちもやらなければと思うかもしれない」

 

「だが、人間はそんなに単純じゃない」

 

「人が頑張っているのを見ても、何も思わない奴だっているし、なんで本気なんか出してるんだって思う奴もいて、そいつらは人が頑張っている姿を見るだけじゃ、頑張りなんてしないんだ」

 

そう、昼休みに戸塚と出会った時、昼休みに練習をしているのは戸塚だけであった

 

しかし、戸塚の話を聞く限り、部員達は部活には前向きだと思う、サボりをしているなどは聞かなかったからな

 

ならばその前向きな思いを刺激してやれば良いのだ

 

「言葉で表さなくても伝わる思いは確かに存在する、だが、言葉で表さなくちゃ伝わらない思いも存在するんだ」

 

「...!」

 

雪ノ下が少し反応する

 

「人をやる気にさせるにはどうしたら良いと思う?」

 

「うーん、ご褒美を与える?」

 

「それもあるだろうな、しかしそれでは一時的なものにしかならない」

 

「ならばどうすれば良いか」

 

三人は俺の顔を見る

 

「いつだって人を動かすのは熱意だ、本音だ、気持ちだ」

 

「それをテニス部員達に真正面からぶつけるんだ」

 

「彼らはテニスがやりたく無い訳では無いようだからな、部活に出ていて練習もしているとなれば、その部活に前向きな気持ちを刺激するんだ」

 

「戸塚はただ自分の思っている事を真正面からぶつければいい、俺たちに出来るのはその場を整える事くらいだ」

 

「俺たちはテニスに関しては素人だ、テニス部の部員達がテニスを素人から教わるなんてプライドが許さないだろうよ」

 

「逆にテニスを嫌々やっている奴をやる気にさせるのはとても難しい、何故ならそいつの意思を180度変えなければいけないんだから」

 

「人の意思を60度変えるのと180度変えるのがどちらが大変かと言われれば分かるよな?」

 

「結局は人のやる気なんてそいつの問題なんだ、俺たちはそのきっかけを作ってやるに過ぎないのさ」

 

「まぁ、でも雪ノ下のやり方と併用すればもっと効果が出ると思うんだが、頑張っている奴がみんなで頑張っていこうと伝えればこれ程説得力のあるものも無いだろう」

 

「これぞまさしく飢えた人に魚を与えるのでは無く、魚の取り方を教えるって事なんじゃ無いですかね?部長さん??」

 

俺は雪ノ下を見る

 

「ええ...あなたの解決方法の方が奉仕部の理念に沿っているわね、私はあなたの意見に賛成するわ」

 

「あたしも!ヒッキーのやり方の方が、みんな頑張って強くなるって感じで良いと思う!」

 

「戸塚はどうだ?俺のやり方は不満か?」

 

「ううん、凄いよ比企谷君!これならみんなも頑張ってくれるかもしれない!」

 

戸塚は立ち上がり、ガッツポーズをする

 

「そ、そっか、なら良かったよ」

 

「じゃあ、明日の朝にでも部員達に声をかけて、昼休みに集まってもらう事にしよう、場所はこの奉仕部の部室を提供したいと思うんだが良いか?」

 

「ええ、問題は無いはずよ」

 

「よし、それなら明後日からは戸塚を鍛えるためにも俺たちが動こう、基礎的な体力作りなら俺たちにもアドバイス出来ると思うしな」

 

「出来れば戸塚はいつもの練習が始まる前にもみんなへ声かけをやってほしい」

 

「うん!分かったよ!」

 

 

 

......

 

 

俺たちは戸塚と共にテニス部員達へ昼に奉仕部へ集まるように声をかけた

 

俺だけが声をかけても、彼らは取り合ってくれないだろうが、

 

学校一の有名人である雪ノ下と人当たりの良い由比ヶ浜、そして何やら頼まれたら断りにくいような雰囲気を持つ戸塚が居る

 

これで取り合わない奴というのもいないだろう

 

まさに策に策を重ねたのである

 

 

そうして俺たちは昼に奉仕部の部室を提供する事になった

 

 

......

 

「みんな!僕の話を聞いて欲しいんだ!今テニス部は弱小になってしまう危機にあるんだ!三年生が引退したら人が少なくなってしまって、モチベーションも下がってしまうと思う!だから、僕たち二年生が一年生を引っ張っていかなきゃいけないんだ!そのためにも僕らがテニスを頑張っている姿を後輩へ見せれば、後輩達も付いてきてくれると思う!だからみんなには部活でもっと頑張って欲しい!僕も昼休みにはテニスの練習をして後輩に頑張っているところを伝えたいんだ!お願いします!!」

 

戸塚は頭を下げる

 

それは熱意がこもっていた

 

それは本音が入っていた

 

それは気持ちが溢れていた

 

「やっぱ、戸塚君に言われたら断れねえよな!」

 

「俺たちも最近たるんでると思ってたし!」

 

「お前らいっちょ気合入れていこうぜ!」

 

「目指せ、全国!」

 

「ははは!!まずは県大会出場だろ!?」

 

「みんな...!ありがとう!」

 

そう戸塚はとても素直な奴だ

 

俺が気づいたのだから、俺よりも長く一緒にいたテニス部の部員達が気づかない筈は無いのだ

 

彼らは戸塚の熱意により、動かされた

 

自らやる気を出し始めたのだ

 

これが戸塚彩加という男の魅力なのだと思う

 

戸塚彩加は女子とよく間違えられてしまうだろうし、男子だと気づかれない事もあるかもしれない

 

しかし、戸塚彩加は女子のようでありながら漢らしいのだ

 

自らの意見を堂々と述べ、周りを鼓舞し、自らが先頭に立って部員達を引っ張っていこうという決意がある

 

これでどうして戸塚彩加を女子であると言えるのだろうか

 

言える筈も無い

 

何故なら彼は誰よりも漢らしいのだから

 

 

......

 

 

 

俺たちはテニス部の部員達を解散させた後、戸塚と話していた

 

「奉仕部のみなさん、本当にありがとう!これで部員達はやる気を出してくれたと思う」

 

「俺たちは何もしてねぇよ、お前が自分で行動したから掴み取った現実なんだ、その...なんだ、かっこよかったと思うぞ...?」

 

「ありがとう比企谷君!僕も比企谷君の事かっこいいと思うよ!」

 

「お、おう、さんきゅな」

 

やばいそんなに真っ直ぐ言われると照れてしまう

 

ぼっちは真っ直ぐ言われてしまう事に弱いのだ

 

「あ!ヒッキー照れてるし!さいちゃん男なのに!」

 

「そうね、遂に男と男の道へ進んでしまうのかしら?目だけで無く、性癖も腐っているのね」

 

酷い...雪ノ下がいつもの三割増しで酷い...

 

俺も男だって言うのはわかってるんだけど、なんかたまに忘れちゃうんだよな

 

病気かな?病気じゃないよ病気だよ(病気)

 

病気でした

 

俺はいつか見つけた川柳を頭に浮かべながら、奉仕部の部室を後にしたのだった

 

.......

 

そして翌日の昼休み

 

俺たちは戸塚を鍛えるためにテニスコートへ足を運んでいた

 

「まずは体力をつけるために走り込みをしましょうか、テニスでは体力が無ければ厳しいものがあると思うわ、体力をつける事により、長いゲームにも対応できると思うの」

 

「おう、それが良いだろうな」

 

そしてトレーニングをするのは戸塚と由比ヶ浜だ

 

何故由比ヶ浜がいるのだろうか

 

おそらく一人でトレーニングするのは心細いのを察したか、自分もトレーニングする事でダイエットでもしようとしたのか

 

俺は前者であると願いたい

 

彼女は人の気持ちや感情読み取り、気を配れる女の子だと思う

 

そう、彼女は人間潤滑油だと思うのだ

 

就職面接での私は潤滑油ですなんてもんじゃ無い

 

彼女は場の空気を読むという点に関しては、俺よりも高い能力を持っており、観察眼も眼を見張るものがある

 

こればかりは負けてもしょうがないだろう

 

人間関係の中に常に身を置いてきたものと、人間関係を持つことのなかったもの

 

どちらが場の空気を読めるかは明白では無いだろうか

 

彼女には彼女にしか出来ないことがあるのだ

 

そう、彼女は周りと比較して絶対的な個性を得ることができたとも言える

 

「はぁ、はぁ」

 

戸塚は諦める事なく、グラウンドを走っている

 

由比ヶ浜も負けじと走っているが、やはり男子と女子

 

体力に差は出てきてしまうのは当然なのだ

 

「では、走り込みが終わったら、テニスの練習に移るわ、私がボールを打つから戸塚君はボールを打ち返してちょうだい」

 

「はい!お願いします!」

 

雪ノ下が鬼コーチに見える件について...

 

それにしても雪ノ下の練習メニューはスパルタである

 

由比ヶ浜なんかもうダウンしてしまっている

 

もっと熱くなれよ!!

 

出来る!出来る!君なら出来る!

 

国内から居なくなっただけで国内の天気が悪くなってしまうような男の言葉である

 

「では少し休憩しましょうか、戸塚君はしっかりと体を休ませるのよ、休憩時には体を動かしてはトレーニングの効果が薄まってしまうもの」

 

「私は平塚先生に話があるから、私が戻ってきた時に練習を再開させましょう」

 

雪ノ下はテニスコートを出て行く

 

 

 

すると何やら騒がしい声が聞こえてくる

 

「あ!テニスやってんじゃん!!」

 

この声は...もしや金髪縦ロールか?

 

「お、結衣じゃん、あーしらもテニスに混ぜてもらっても良いし?」

 

「優美子それあるわー!」

 

「三浦さん、僕たちは遊んでるんじゃなくて...練習を...」

 

「え?なんて言ったん?全然聞こえないんだけど...」

 

「まあまあ、みんなでやった方が楽しいからさ、君たちもそれで良いよね?」

 

出たな、人間関係を歪みへと導く邪悪イケメン

 

俺が言ったことの8割も理解できて無いんじゃないか、こいつは

 

これで本当に成績学年二位なのかよ、呆れちまうぜ

 

しかもこいつはそれを平然と行うのだ

 

まるでそうすることが正しいことであるかのように

 

そうすることで上手く行くと信じているように

 

自分の信じていたものを否定するのは酷く難しいだろう

 

それは今までの自分を否定することだから

 

自分を肯定してやるのと、自分の非を認めないのは違う

 

自分を肯定出来るのは自分が正しいという根拠を持ってこそだ

 

自分の非を明らかにされた時点で、自分を見つめ直すべきなのだ

 

しかし、この邪悪はそれをしない

 

まるで聞き耳を持たないのだ

 

聞き耳を持たぬ者に成長はあり得ない

 

自分では気づけなかった事を他者から示されるというのは貴重だ

 

何故なら自分だけでは、自分に非がある事に気付くことが出来ないのだ

 

それとも...

 

非を認めた上でこの生き方を貫いているのだとしたら...

 

俺はこいつと衝突するだろう

 

俺はこいつと相容れないだろう

 

俺はこいつを理解出来ないだろう

 

理解したいとも思えない、理解したところで何を得られるわけでも無い

 

俺はこいつとは真逆の性質を持っているのだ、俺とこいつは水と油なのだ

 

「おい、お前...」

 

「違うよ」

 

俺は由比ヶ浜に言葉を遮られる

 

「あたしたちは遊んでるわけじゃないの、奉仕部としてさいちゃんの依頼を受けてるんだよ?それにあたしたちは許可を取っているから部外者じゃないの、優美子達はあたし達の依頼を手伝ってくれるのかな?これからさいちゃんが良いって言うまで付き合ってくれるのかな?」

 

由比ヶ浜は自らの意見を述べる

 

誰の言葉でも無い、自分の言葉で自分の意思を伝える

 

彼女は学習したのだ

 

自らの意見を相手に伝える重要性について

 

先日に俺が奴らと対峙した時のことから

 

彼女は周りの感情をよく把握している、そして、彼女は俺よりも場を読むことが出来る

 

そして、俺から学習した、理論を根拠を持って相手へ提示する

 

このようにすれば数の暴力に勝てると

 

このようにすれば理不尽に立ち向かうことが出来ると

 

由比ヶ浜はあの出来事から自らに必要な事を学んだのだ

 

「結衣も落ち着いて、俺たちはただみんなでやることが良いって思って...」

 

「お前はまた邪魔をしようとするんだな、解決へ向かうわけでも無く、何を変えようともしない、それにお前の言う、みんなでやることは良いこととは何故だ?何故みんなでやると良いんだ?みんなでやる事は良くて独りでやる事は間違いなのか?そんなわけ無いだろうが、確かに場合によってはみんなでやる事は良い事かもな、団結感も生まれるしモチベーションも上がるだろう、しかし何故この状況でみんなでやることが良いと言い切れんだよ、明らかにみんなでやる事で弊害が生じるだろうが」

 

「みんなでやる事で学べる事は確かに存在する、だがな、独りでしか学べない事も確かに存在するんだよ、人の隣にはいつも誰かが居る訳じゃねぇ、必ず独りで向き合わなきゃいけない時は来るんだよ、それでどうして独りでやる事は間違いで、良くないことなんて言えるんだよ、お前には何も本質が見えていないんだ」

 

邪悪イケメンは何も言わない

 

 

「じゃ、じゃあテニスで勝負をして勝った方がテニスコートを使えるというのはどうだろう?強い方が戸塚君の練習相手になった方が良いだろう」

 

ふざけんな

 

どうしてそういう思考回路になるのだ

 

お前は普段何も考えていないんじゃないのか?

 

何故強い相手が戸塚の練習を付き合うのに適していると言えるのだ

 

テニスが強いからと言って教えるのが上手いとは限らないだろうが

 

教えるのが上手い人がテニスが強いというのはあるかもしれない

 

それは何故か

 

教えるのが上手い人というのは、本質を理解しているからだ

 

本質を理解していなければ、相手に教える事など出来ない

 

勉強でもそうだろう

 

他者に教えるには、他者よりも数倍理解していなければ無理なのだ

 

教える内に自らの矛盾に気づいて、身動きが取れなくなる

 

だから、教える人が強いことはあっても、強い人が教えるのが上手いとは限らないのだ

 

この問題の本質を理解していない、しようとしない偽善者め

 

お前はいつか自らの矛盾に気付くだろう、そしてお前は自己を見失うのだ

 

学ぶ意志のない者に学ぶ資格はない

 

「そっか、結衣の言うこともわかったし、何も知らないであーしたちが首突っ込んだのは謝るし、悪かったね戸塚、邪魔したよ」

 

「ゆ、優美子...俺は」

 

「いいから来るし!あーしたちは戸塚に教える覚悟もやる気も無いし、そんなんじゃ戸塚に失礼だし!」

 

奴らはテニスコートから出て行こうとする

 

「悪いなヒキタニ君たち!邪魔しちまってさ!」

 

ヤンキーが俺たちに声をかける

 

あのヤンキーは見た目ほど悪い奴では無いのだろうか

 

「私も謝るよ、邪魔しちゃってごめんね」

 

眼鏡をかけた黒髪の女子も俺たちに謝る

 

「...」

 

邪悪イケメンは何も言わない

 

謝罪をしないと言うことは自分の非を認めていないということだ

 

何故あいつはあそこまであのやり方にこだわるのか

 

俺はそんなこと知ろうとも思わない

 

奴は人間関係を拗らせる元凶なのだから

 

それに意外だったのは金髪縦ロールだ

 

あいつは由比ヶ浜に真っ向から反論するかと思いきや、自らの非を認め謝罪した

 

あいつにはこの問題の本質が見えたということだ

 

俺はあいつの事をただ周りへ欲を押し付ける、横暴ギャルだと思っていたが、評価を改める必要があるようだ

 

「見てんなら助けろよ雪ノ下...」

 

「ゆきのん!?」

 

俺はテニスコートの脇からこちらを見ている我が部の部長へ話しかける

 

「あの低脳どもは懲りないわね」

 

低脳...彼女はまたもや毒舌を発揮する

 

まあ、否定は出来んがな

 

俺は彼女が戻ってきていたことなんてとっくに気付いている

 

ぼっちはいつも聞き耳を立てているし、周りをよく観察している

 

だから気付くことが出来たのだ

 

「由比ヶ浜さん、あなたはちゃんと言えるようになったじゃない、あなた自身の本音を、あなたは立派に成長しているわ」

 

「あはは...やっぱり建前とか言わないのは、ちょっと怖かったけど...」

 

「あたしは前を向きたいんだ、変わらないなんて嫌なの」

 

由比ヶ浜は強い決意をその瞳に宿して、雪ノ下を見つめる

 

彼女はこの数日という短い時間でここまで変わることが出来た

 

何が彼女をそうさせるのかは俺には分からない

 

だが、彼女の心意気だけは、尊敬すべきだと思うのだ

 

「あの!由比ヶ浜さんありがとう!僕だけじゃ押し切られちゃってたかもしれなかったから...」

 

「ううん、あたしたちはさいちゃんの依頼を受けたからね、一度決めた事を途中で投げ出すなんて駄目だと思うの」

 

「ああ、それに戸塚だって、きちんと言おうとしてたじゃないか、それが無かったら由比ヶ浜だって動けなかっただろうさ」

 

「う、うん!」

 

「思わぬ邪魔が入ってしまったけれど、練習を続けましょうか」

 

 

そうして俺たちは毎日戸塚の練習に付き合うのだった

 

 

 

......

 

 

 

俺たちは戸塚から後は自分で出来ると言われ無事依頼を完了することが出来た

 

そして、昼休みに練習しているのを見つけた部員が自分たちも加わり始めたのだ

 

この様子なら、彼はもっと練習を積んで、実力を上げていくだろう

 

これにて、戸塚の依頼であるテニス部を強くしたいという依頼は時間の問題となったのだ

 

そして現在、俺はテニスの授業を受けている

 

「お前らー、二人組作れー」

 

さぁ、いつもみたいに壁打ちでもしますかね...

 

「比企谷君!」

 

俺は名前を呼ばれる?俺に話しかける奴なんていたのだろうか

 

俺は振り向くと、頬に指を差されてしまう

 

「あはは!引っかかったね!」

 

それは戸塚であった、彼はとても無邪気な笑顔をしている

 

「良かったらテニスのペアを組まない?いつも組んでる人が休みなんだ」

 

「お、おう、俺で良ければ相手になるぞ」

 

俺たちはテニスコートでラリーをする

 

「やっぱり比企谷君は上手いね!絶対才能あるよ!」

 

「そんなこと言って、さっきから押されてるんだけどなっ!」

 

俺はボールを返す

 

「あはは!僕はテニス部員だからね!」

 

俺たちはラリーが終わった後、ベンチにて休憩をしている

 

「やっぱり惜しいなー、比企谷君が入ってくれればもっと強くなると思うのに」

 

「ふっ、俺が入っても気まずくなるだけだからな、今テニス部はいい感じなんだろ?」

 

「うん!みんなやる気を出してくれて、大会でも良いところまで行けそうなんだ!」

 

「そっか」

 

戸塚...お前はなんて良い奴なんだ

 

俺は今まで他人からは悪意しか受けてこなかったが、戸塚からはそんな邪気は微塵も感じられない

 

戸塚といるのは悪くないと思える

 

戸塚彩加...

 

俺は新たな彩りを加えられてしまったのかな

 

この俺の腐った心の中にも

 

「彩加...ね」

 

「え!?比企谷君、僕の名前を!?」

 

「やっべ!声に出てた!?」

 

この前から俺の口ガバガバ過ぎませんかねぇ...

 

プロのぼっちには許されぬ事である

 

「ううん、嬉しいよ!僕も名前で呼ぶね!八幡!」

 

うおお!笑顔が眩しい!?

 

あの邪悪イケメンとは違う、真の聖なる微笑みじゃないのか!?

 

ああ、心の邪気が浄化されていく...今ならハチマンはボランティア頑張れそう

 

「そ、そっか、俺も名前で呼ばれるのは初めてだし、戸塚がそれで良いって言うなら俺もそうするよ...彩加」

 

「うん!八幡!!これからもよろしくね!」

 

俺はこの日、戸塚彩加という一人の人間と名前を呼び合う仲となったのだ

 

彼は誰よりも素直で誰よりも純真だ

 

もし彼を傷つけたり、陥れようとする輩がいるのなら

 

俺は自らのために立ち上がるのだろう

 

きっと俺が動ける免罪符を作ってまで

 

きっと俺が動ける理由を貰ってまで

 

俺は邪悪に立ち向かうと思うのだ

 

 

 

 


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