比企谷八幡の現実   作:きょうポン酢

8 / 9
それは邪悪であり歪である

今日の天気

 

雨のち雨

 

こんな日には憂鬱な気分になってしまう

 

ただでさえ学校に来るだけで憂鬱になるのに、さらに雨で憂鬱になるとか

 

もう鬱病発症するレベル、向精神薬服用した方が良いかもしれん

 

今日も教室は騒がしい

 

こんな天気にも関わらず、クラスのカースト上位ども相変わらずに騒いでいるのだ

 

奴らのテンションはいつも高い

 

何故あれだけのテンションを毎日維持できるのだろうか

 

まさに疑問である、ぼっちの学校の七不思議の一つである

 

彼らの声に耳を傾けるといつもどうでも良いような事を話している

 

やれ昨日のテレビがどうだっだの

 

やれ新しいネイルを買っただの

 

やれ誰と誰が付き合っただの

 

そんな事を話して何を得られると言うのだろうか

 

テレビに関しては人に話しても相手にはあまり伝わらないのでは無いかと思う

 

何故なら聞かされる相手は、テレビを見ていないから

 

相手にとってその情報は、一度話している相手が変換した情報なのだ

 

それは相手の感性などにより、変化してしまった情報だ

 

果たしてそのような情報に価値があると言えるのだろうか

 

俺ならばテレビの話題を話したいのならこうするだろう

 

テレビを録画して相手に見てもらい、互いに感想を言い合う

 

だがまぁ、二人とも同じテレビを見ている可能性があるからその分には良いと思うのだが

 

 

 

新しいネイルを買ったこと、だから何だと言うのだ

 

お前は事実だけを伝えたいのか?それを伝えて相手は何を得られるんだ?お前は何を得られるのだ?

 

人に情報を与えるのなら、事実だけを伝えてもあまり意味は無い

 

例えばこう言うのが良いだろう

 

新しいネイルを買って使ってみたらとても綺麗だったから、あなたも使ってみてはどうですか?とか

 

この新しいネイルは今年流行しているから、流行に乗り遅れないためにも、買ってみたらどうですか?とかな

 

相手に事実だけを伝えるのではなく、自らの意見も交えることでコミュニケーションはより円滑になるだろう

 

まあ、ぼっちは話す相手がいないからコミュニケーションが円滑になるもクソも無いんですけどね

 

コミュニケーションを車輪だとするのなら、何かが引っかかっている状態なのだ、ぼっちというものは

 

誰と誰が付き合った、これに関してはもうどうしようも無い

 

だから何だと言うのだ、その片方と付き合いたいから二人の仲を邪魔でもしたいのか?それとも自分もその中に加わりたいのか?

 

俺はお前が好きだ!

 

私も!

 

僕も!

 

 

最後の誰やねん、誰得やねん

 

僕はどっちが好きなんだよ、もしかして二人でイチャイチャしてんの見るのが好きとか言わないよな

 

まぁ、そんなくだらない事を考えながらもぼっちの一日は過ぎていく

 

ぼっちは基本自分の考えを人に伝えないからな

 

全て自分の中で完結してしまうのだ

 

ぼっち最高

 

 

今日は雨なので俺のベストプレイスで昼食を取る事は出来ない

 

だから今日は教室で独り購買のパンを貪っている

 

雨の日が憂鬱な理由の一つでもある

 

何故なら周りに見られるから、教室で独りで食ってる奴なんて居ないから

 

ぼっちは人に見られる事を嫌う

 

俺は便所飯だけはしたくない、便所とは排泄するための場所なのだ、便所で飯を食うというのはおかしいだろう

 

周りと異なるというだけで、普通と違うというだけで人は、奴らはそいつを奇異の目で見るのだ

 

 

 

「今日の帰りさー、駅前のデパート寄んない?あーし新しいネイル買いたいんだけど」

 

「ああ、俺は別に構わないよ、皆もどうかな?」

 

「私も大丈夫だよ」

 

「優美子また新しいネイル買ってるし!マジウケるわー!」

 

「ちょっと戸部!あんた一辺しばかれたいん?」

 

「あはは...ところであたし今日の昼行くところがあるんだけど...」

 

「ふーん、ねえ結衣、あーし喉乾いたから飲み物買ってきて欲しいんだけど」

 

「あ...うん、それは良いんだけど、あたし戻ってくるの昼終わりになっちゃうから...」

 

「あっそ、なら良いし、結衣も今日の放課後付き合ってくれるよね??」

 

「あー、でもあたし部活あるからそれはちょっと難しいっていうか、なんというか...」

 

「はぁ...最近あんた付き合い悪くない?あーし達友達でしょ?」

 

「うん...それはそうなんだけど...」

 

「まあまあ、優美子も落ち着いて?結衣も最近忙しくなってるのは分かるからさ」

 

「隼人は黙ってて!あーしは結衣に聞いてんの」

 

「えっと、その...あの...」

 

「そのあの言われてもこっちは分かんないし!」

 

 

なんなのだ

 

こいつらの会話は

 

本当になんなのだ

 

反吐が出るほど薄っぺらい

 

それに何だあの金髪縦ロールは

 

こいつは由比ヶ浜や周りに自分の欲を押し付けているだけでは無いか

 

これが友達だと?友達の意見を聞かない、友達の意見を待ってあげない友達など居るのだろうか

 

確かに俺は友達が居ない

 

しかし、人間関係についてはそれなりに観察出来ているつもりだ

 

本や今までのクラスの人間関係を見て、こんなものは友達などでは無いと分かる

 

それだけならまだ良いのだ、あの二人がきちんと意見を交わせばまだ、関係は修復出来るだろう

 

しかし、このグループをさらに歪めている存在が居る

 

そう、あの金髪イケメンだ

 

あのイケメンは場を整えようとした

 

場を整える事それ自体は悪い事では無い

 

それぞれが意見を述べやすくなるという利点があるからだ

 

しかし、あのイケメンのやり方は気にくわない

 

あれではあの二人の問題はなんら解決しないでは無いか

 

奴はあの二人の問題を先送りにしたのだ

 

直接、意見を述べる訳でも無く

 

まるで俺の顔に免じて、二人とも意見を押し込めろと言っているようなものだ

 

反吐が出る

 

奴には何も問題の本質が見えていない、このままではあのグループはもっと歪み始め

 

いずれ崩壊する

 

これは断言しても良いだろう

 

俺が今まで見てきた人間の行動パターンを組み立てれば

 

難しく無く達する結論だ

 

あの金髪イケメンにより、グループの問題は押し込められ、歪められ、さらに上辺だけを取り繕って

 

やがて誰も信じることが出来なくなり、疑心暗鬼が疑心暗鬼を呼ぶのだ

 

そうして人は衝突し、修復出来ないところまで傷が深くなり

 

後戻りが出来なくなる

 

あれは内輪揉めよりももっと酷い

 

そして歪で邪悪なものだ

 

自然界ではこんな関係はあり得ない

 

人間は知恵を持つ、そして知恵を持つが故にこのように歪んだ関係が生まれるのだ

 

しかも、クラスの奴らは由比ヶ浜を助けなんてしない

 

都合の良い時だけみんな仲良しなどと言っているのだ

 

貴様らも砕け散ってしまえ

 

口だけの偽善者どもめ

 

 

しかし、由比ヶ浜は俺に助けを求めない

 

自分で決めた事だから、本音をズバリと言うことの出来る雪ノ下をかっこいいと思ったから

 

由比ヶ浜は雪ノ下の生き方に共感をしたのだ

 

由比ヶ浜よ、しかし場が悪い

 

相手は普通の相手では無い、お前とは違い思ったことははっきりと言い、人の意見を聞かない威圧する金髪縦ロールと

 

もっとも性質の悪い、真の偽善者である邪悪イケメンがいる

 

これでは由比ヶ浜に勝てる要素は少ないだろう

 

彼女は俺に助けを求めない

 

きっと自分で決めた事を自分でやり通したいのだろう

 

だから、俺はそんな彼女の心意気に敬意を評して、手伝ってやることにする

 

彼女が自らの意見を述べることが出来るように

 

俺が邪悪を打ち破ってやる

 

これは由比ヶ浜のためでは無い

 

俺の目に付くところでこんなやり取りをしているこいつらが悪い

 

こんな歪なものを見せられながら、飯を食うなんて俺には出来ない

 

俺は飯を美味く頂くために動くのだ

 

「おい、お前らいい加減にしろよ」

 

俺は世間体やクラスでの立ち位置なんて気にしない

 

何故なら俺はクラスの一員では無いから

 

クラスの奴らのように自己保身には走らない

 

俺は後悔しないためにも俺のしたい事をするのだ

 

「ヒッキー...」

 

「は?あんた誰だし、関係無い奴は引っ込んでなよ」

 

関係無いだと?おいおいこいつは何を言ってやがるんだ?

 

ちゃんと脳みそ付いてんのか心配になっちまったぜ

 

「関係無いだと?馬鹿言うんじゃねえよ、お前らここがどこだが分かってんのか?」

 

「教室だし、あーしらの勝手じゃん」

 

「ああ教室だよな、だがお前らの勝手なんて事はあり得ねぇんだよ、ここはてめえらがよく行くカラオケボックスじゃねえ、てめえらの会話を聞きたくも無いのに、聞いてしまう奴らがいて不快に思う奴だって居るんだよ、それでどうして関係無いなんて言えるんだろうなぁ?俺頭悪いから分かんねぇんだわ、しっかりと根拠を持って俺に教えてくれよ、馬鹿だからさぁ」

 

そう、こいつらは教室でこんな話をしやがった時点でこいつらの負けなのだ

 

それはつまり関係無いなんて事は無くて、すでに関係してしまっているのだ

 

何故なら教室はこいつらのものでは無いのだから

 

「...」

 

金髪縦ロールは何も言わない

 

「関係あるから言わせてもらうぜ、まずそこの金髪縦ロール、お前は周りに自分の欲をぶつけてばかりじゃねえか、なに?そこはお前の王国なの??お前が一番偉いの??それでよくもまぁ友達でしょなんて言えるもんだよなぁ、目に見えない上下関係が出来ている事すら気づかない程お前の目は節穴なのか?由比ヶ浜はさっきから自分の言いたい事を言おうとしていただろうが、なんでそれに気づかないんだよ、お前の言う友達は自分の言うことを何でも聞く奴のことなのか?」

 

「俺よく分かんねぇんだわ、友達居たこと無いからさぁ、教えてくれよ?なぁ?」

 

「ヒキタニ君...だっけ?もうそこまでにしておいてくれないか?優美子も反省しているようだしさ、俺の顔に免じて...な?」

 

出やがったな、邪悪な金髪イケメン

 

お前が一番の問題なんだよ、この邪悪野郎

 

「良いんだよ間違えるのは、間違わない人間なんてこの世には居ないんだから、でもな、間違いを正そうとしない事は悪だ」

 

「そこの二人は後できちんと意見を交わせば、和解することは出来るんだよ、何故ならそうなってしまった原因があるんだからな」

 

「だがお前は別だ、お前は二人の問題を解決するでも無く、ただ問題を先送りにしているだけだろうが、お前は自分のやっている事すら気づいていないのか?それとも分かった上でそれをやっているのか?もしそうなのだとしたらお前にとってのそのグループなんてその程度のもんなんだよ、お前にとってそのグループはどうでも良いその場しのぎの関係なんだろうな、どうせクラスが分かれたら集まることは無いんだろ?違うと言い切れるのか?違うなら俺に根拠を持って、理由を提示してくれないかなぁ?さっきも言ったけど俺馬鹿だから分かんねぇんだよ」

 

「俺は...そんなこと...」

 

どうやら図星みたいだな、違うのならば真っ先に反論してくる筈なのだ

 

こいつらは反論しない、何故なら俺の言っている事はあながち間違いでは無いからだ

 

人の意見を否定するには、それに伴う絶対的な根拠を持っていなければ難しい

 

口や勢いだけの否定では限界があるのだ

 

ぼっちは普通の人間よりも深く思考する

 

思考する事で物事の本質が見えてくるのだ

 

本質が見える事で根拠も理由も見えてくる

 

俺は数の暴力に対抗するために、ぼっちのための

 

ぼっちだから持つことの出来る理論武装を纏うのだ

 

これは俺がこれから先生きて行く上で大きな武器となる

 

世の中の理不尽に負けないためには絶対的な真理が必要なのだ

 

そして俺には持ち前の観察眼がある

 

いくら理論が完璧であろうと覆されてしまう事はある

 

だから場を読むのだ、空気を読むのだ、周りの人間が考えていることを思考し、あらゆる可能性を導き出すのだ

 

そうして俺の理論はより強固なものとなる

 

俺はぼっちならではの理論武装と場を読む観察眼を持ち合わせることで

 

俺の究極の矛は究極の盾となる

 

故に俺はこいつらに勝利したのだ

 

勝利の方程式なんて存在しない

 

この世には無限大の場合分けがあるのだから

 

だから真理を導き出すのだ、真理はあらゆる場合分けに共通する

 

そこからヒントを得るのだ

 

何者にも変えられない、いつまでも変わらない

 

俺だけの現実

 

 

 

「あながち間違いでも無いようね、比企谷君の言っている事は」

 

すると何者かの声が響く

 

「あなたは昔から何も変わっていないのね、葉山君」

 

「雪乃...下さん...」

 

そう天災、雪ノ下雪乃である

 

「由比ヶ浜さんとお昼を一緒にする約束をしていたのだけれど、由比ヶ浜さんがいつまで経っても来ないから、迎えに来たわ」

 

「ゆきのん...」

 

「そうしたら比企谷君の声が聞こえてきてとても驚いたわ、彼はクラスで声を発する事は無いと思っていたもの」

 

今まではそうだったな、だが状況が違う

 

「由比ヶ浜さん、そこの人と話をするのでしょう?なら待っているから早く済ませて頂戴?」

 

「う、うん!」

 

「あなた達も見ていないで席を外したらどうなのかしら、彼らの話を聞いて何をすべきなのか分からないのかしらね?」

 

雪ノ下は腕を組みながら、頭を傾げる

 

凍てつく目や...

 

ガタガタッ

 

クラスの奴らは一斉に席を立ち、教室から出て行く

 

怖ぇぇぇ!!

 

まさに氷の女王である、やはり天災は普通の人間には相手に出来ないようだ

 

まぁ、俺は違う意味で普通じゃ無いんですけどね

 

何それ悲しい

 

「さあ、俺たちも行こう、優美子と結衣を二人にするんだ」

 

カースト上位どもも教室を出る

 

「俺たちも出よう、これはあいつらの問題だ」

 

「そうね」

 

俺と雪ノ下は教室を出る

 

「本当にあなたはお人好しなのね、彼女から聞いたわ、身を挺して彼女の飼い犬を助けたらしいじゃない」

 

「あんなのただの気まぐれだ、気づいた時には体が動いたんだよ」

 

「そう...本当になんであなたに友達にいないのか不思議に思えるわね」

 

「ほっとけ、俺は生来のぼっちなんだよ」

 

生まれた時から宿命づけられていたのだ

 

やはり俺は生まれた時からぼっちである

 

「でもあなたが動くなんて思わなかったわ、てっきり何もしないと思っていたのだけれど」

 

そうだな...

 

何で俺がこんな事をしたのかと言われると困ってしまうが

 

彼女は俺に対してお礼を言ったからな、もしあそこで犬のお礼を言われなかったら、

 

俺は由比ヶ浜の事を誰にでも優しい女の子と評価していただろう

 

俺は誰にでも優しい女の子は嫌いだが、俺には優しい女の子は結構好きだ

 

だから、俺は俺の動ける理由を探してまで行動したのかもしれん

 

まぁ、気の迷いというものだ

 

俺の黒歴史ノートが更新されただけ

 

今までと変わりは無い

 

「良かったのかしら?あなたが彼らに言ってしまえば、彼らはあなたを虐めや排斥するかもしれないのよ?」

 

「良いんだよ、俺はいろいろ考えてんだからな、虐めや排斥に対する抵抗の仕方なんて嫌って程学んでんの」

 

「まあ、一種の気まぐれだ、他意は無い」

 

「そう、ならそういう事にしておいてあげるわ」

 

みなまで言うなというやつである

 

 

......

 

「優美子ごめんね、あたし思った事とか全然言えないし、周りに合わせちゃうし」

 

「...」

 

「優美子の事が嫌いって訳じゃ無いの、優美子とはこれからも仲良くしていきたい」

 

「分かったし、あの根暗に言われて気づいたし、あーしも悪かったと思う、そこんとこは謝る」

 

「それにあいつの言い分も分かる、やっぱり気分良いもんじゃないし」

 

「だからあーしとまたやり直して欲しい」

 

「うん!あたしもよろしくね!!」

 

 

......

 

 

 

ガラッ

 

由比ヶ浜が教室から出てくる、話はついたようだな

 

「ヒッキー、盗み聞きしてたの!?キモい!まじキモい!」

 

「おいキモいキモい言うな、俺はベストプレイスに行けないから居場所が無いんだよ」

 

「でも...嬉しかった...あたし嬉しかった!」

 

「お、おう、それなら良かったんじゃ無いか?俺は俺のためにやったけど」

 

「うん!分かってる!ありがとうヒッキー!」

 

「では私たちは奉仕部へ行くわ、また放課後にね」

 

「ああ」

 

二人は廊下を歩き出す

 

さて、マッカンでも買いに行きますかね...

 

 

......

 

ガラッ

 

俺は奉仕部の扉を開ける

 

「いらっしゃい、比企谷君、相変わらず世界を恨んでいそうな目をしていて安心したわ」

 

「おう、言っておくが世界を恨んじゃいないからな、世界が悪いのは否定しないが、俺は正しい」

 

「そう、あなたのその自己肯定は時々羨ましく思うわ」

 

「そうかい」

 

雪ノ下が俺を羨ましがる...?

 

俺にとっちゃ丸っ切り逆なんだけど

 

だがしかし、俺は雪ノ下の言葉の意味を理解すべく思考する

 

自己肯定できて羨ましい...それは雪ノ下は自己肯定が俺よりも出来ていないということだ

 

果たしてそうなのだろうか...?

 

自分だけで完結しているこの天災は自分の事を全面肯定しているのでは無いのか...?

 

でないと、あの人ごと世界を変えると言えるには自分に自信が無いと言えないことだ

 

人ごと世界を変えるという思考に至るまで、彼女はどんな経験をしたのだろうか

 

彼女は人を変えなければならないと思う必要があったのだ

 

それは一体なんだ...?

 

彼女はこの世界は優れた人間ほど生きづらいと言っていたな

 

この優れた人間とは恐らく雪ノ下自信の事だろう

 

生きづらい...か

 

彼女はいつも独りであったと思う

 

それは出会った時には分かった事だ

 

人は完璧で無い...すぐに嫉妬し蹴落そうとする...

 

そうか!

 

雪ノ下は周りの嫉妬により自らの人生に弊害を受けた事があるのだ

 

それが生きづらいということなのだろう

 

しかし、疑問が残る

 

それほどの決意をするに至る経験は分かった

 

ならば彼女には明確な意志があり、自己が存在している筈だ

 

自己が存在し、確立しているのならば、自信を持つことなど容易いと思うのだが...

 

そうだろうか

 

その自己が、自らの生き方が

 

自分のもので無いとしたらどうだろうか?

 

例えば自分では無い他者のものをトレースしているのだとしたら...

 

俺は自信を持てないだろう

 

真の意味で自分はこれで良いのだと肯定してやれるのは難しいのでは無いだろうか?

 

他者は自分では無いし、他者を完全に真似ることなど不可能なのだから

 

それは他者の現実なのだから

 

これは俺が雪ノ下の生き方をかっこいいと思った事から分かった事だ

 

理想だが、俺には真似できそうも無い生き方なのだ

 

だが、それを真似できるほどのスペックを持っていたのなら...

 

俺は真似をするのかもしれない

 

本当の意味で自分を肯定出来なくても

 

自分が絶対的に信じられる他者の生き方があるとしたら

 

だから彼女は自己肯定出来る俺が羨ましいと言ったのでは無いか?

 

彼女はもしかしたら他者の生き方を真似て、トレースしていて

 

俺は知らなくて、雪ノ下雪乃は知っていて

 

雪ノ下雪乃が信じられるほどの生き方を持つ第三者...

 

 

 

 

分からない

 

ここから先はどうしても分からないのだ

 

ここから先は完全に推測の域になってしまう

 

俺と彼女は互いの事をほとんど知らない

 

だから俺には分からないのだ

 

彼女がどんな人物を信じているのか

 

俺には分からない

 

俺に分かるのはさっき述べた事だけだ

 

これは保留にしよう

 

俺は決して疑問を投げ出さない

 

疑問を投げ出すことは、考える事を放棄する事だから

 

ぼっちに考える事を取ってしまったら何が残るというのだ

 

きっと何も残らないだろう

 

 

ガラッ

 

扉が開く

 

「やっはろー!依頼をしたい人を連れてきたよ!」

 

「こんにちは由比ヶ浜さん、それで依頼人というのはどなたなのかしら?」

 

「じゃじゃーん!さいちゃんだよ!」

 

「どうも...戸塚彩加です」

 

「ええ、戸塚君ね、ようこそ奉仕部へ、座ってちょうだい」

 

雪ノ下は紅茶の入った紙コップを戸塚へ渡す

 

「あなたもどうぞ」

 

「お、おう、良いのか?」

 

「ええ、一人だけ飲み物が無いというのは気分の良いものではないもの」

 

「そうか、なら頂く」

 

俺は紅茶を啜る

 

美味い、こいつは紅茶を注ぐのも美味いのか

 

「では依頼の内容を聞かせてもらえるかしら?」

 

「う、うん!実はうちのテニス部は部員が少なくて、それで凄く弱いんだ...三年生が抜けたらもっと弱くなると思う」

 

「だからうちのテニス部を強くしたいんだ!」

 

「比企谷君、良かったらうちのテニス部に入ってくれないかな?」

 

戸塚が頭を下げる

 

そんなこと言われてもな...俺は一応奉仕部員だからな...

 

俺は雪ノ下へ目線を向ける

 

「だめよ、彼は奉仕部の備品であり、」

 

備品かよ

 

「大事な部員なのだから」

 

......やっべ

 

顔赤くなってきた

 

見られて無いかな、大丈夫かな?

 

ハチマン恥ずかしい

 

「そ、それはだめ!ヒッキーと離れ離れになっちゃうじゃん!」

 

「...あ」

 

こいつは何を言ってんじゃあぁぁぁ!?

 

それじゃまるで俺と離れたく無いみたいに聞こえるだろ

 

やめろよ、勘違いして振られちゃうだろ

 

こういうビチ臭いセリフを他の奴にも言っているのだろうか...

 

なんか良い気分じゃないぞ

 

俺にそんな事を思う権利などある筈は無いのだ

 

なぜならそれは彼女の自由なのだから

 

意志の自由を妨げてはいけないのだ

 

だから俺は理性で持って、その感情を押し殺す

 

これは気の迷いだ、極めて論理的じゃない

 

ぼっちが自らの理論に従わなければ何になるというのだ

 

自らの理論が崩れることにより、悪意あるものにつけ込まれ、利用される

 

俺はあの頃の俺じゃない、今やカースト上位どもにも対抗できるほどの理論を持ち合わせているのだ

 

だから俺は自分の理論には逆らわない

 

「ああ、俺は奉仕部員だからそれは出来ない、だが他の事で手伝ってやれる事は出来る」

 

「ヒッキーどうするの?」

 

「雪ノ下、お前の言った事を借りるぜ」

 

「何かしら?」

 

「人ごと世界を変えるのさ、お前も言っていただろう?」

 

「「「?」」」

 

ふっ、俺はまた勝利への解答を導き出してしまったらしい

 

戸塚よ、この奉仕部には真理を追究するぼっちと才色兼備で文武両道な天災と自らの意思を持つ優しい女の子がいるのだ

 

 

これでどうして依頼を解決出来ないと言えるだろうか

 

 

ふははははは!!

 

愉快!愉快!

 

 

 

 

俺は独り、奉仕部の部室で不敵に笑うのであった

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。