比企谷八幡の現実   作:きょうポン酢

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彼は恐れを知らない、そして彼は真理を探究する

 

 

 

俺は現在謎の不審者によって、警戒しなければならない状態にある

 

この不審者は俺の名前を呼んでいた

 

何故俺の名前を知っている...?そして何故こいつは奉仕部を訪れた...?

 

ん?よく見るとあいつコートの下に制服着てね?

 

学生かよ...どう見ても顔おっさんじゃねえか...

 

「我を忘れるとは見損なったぞ八幡!我らは戦場を渡り歩いた同志では無いか!」

 

「だそうよ、比企谷君、なんとかしてちょうだい」

 

「そうだよヒッキー!ヒッキーの知り合いなんじゃ無いの!?」

 

「そんなこと言われても......あ」

 

もしかして、体育でバスケのペアを一度だけ組んだことがあるような...

 

「お前...材木座か?」

 

「如何にも!我は剣豪将軍、材木座義輝である!」

 

剣豪将軍て...足利義輝からとってんのか?

 

「奉仕部というのはここであろうな、我は依頼を頼みに参ったのだ」

 

そう言って材木座は原稿用紙を俺たちへ見せる

 

「この小説を読んで感想を聞かせて欲しいのだ、ネットで酷評されたら立ち直れんからな、友達も居らぬのでお主らに依頼したいのだ」

 

理由が悲しいなぁ...

 

「材木座君ね、了解したわ、この依頼奉仕部が受けましょう」

 

「俺たちは今日家で読んでくるから、明日部室に来い」

 

「あい分かった!」

 

材木座は部室から出ていく

 

「もう下校時刻ね...私たちも帰りましょうか」

 

「そだね」

 

「鍵は返しておくから、あなた達は帰っていて良いわ」

 

「ゆきのんのこと待ってるよ!」

 

「そう」

 

「じゃあお前らまた明日な」

 

「ええ、また明日」

 

「ヒッキーまたね!」

 

俺が人に再会の挨拶をするなんて思わなかった

 

今まで俺と関わってきた奴は、俺に別れの挨拶をするか、挨拶さえしない奴らがほとんどだった

 

しかし、あいつらは再会の挨拶をした

 

変な奴らだと思う

 

俺なんかと関わるなんてな...

 

 

俺は材木座から渡された原稿用紙に目を向ける

 

これ何枚あんだよ...今日中に読み終わるのか?

 

俺はその日徹夜で、材木座の原稿に目を通したのだった

 

 

.......

 

そして次の日の放課後

 

今日一日は眠気と戦いながら、授業を受けていた

 

ただでさえ腐っている目がさらに腐ったという訳だ

 

なにそれ壊死寸前だね

 

小町は俺の事をとても心配してくれていた

 

小町はやっぱりええ子や...

 

嫁にしたい、割とガチで

 

小町を幸せにするのは俺じゃぁぁあ!!

 

「やっはろー!」

 

俺は部室の前で由比ヶ浜に声をかけられる

 

「お前...原稿読んで無いだろ...」

 

「え、何のことだかさっぱり...」

 

読んでないんだな

 

とにかく本を読むというのは自分のためになるんだぞ

 

本は良い、とても良い

 

 

イイゾ〜〜コレ〜

 

ガラッ

 

俺たちは部室の扉を開けると雪ノ下と材木座はすでに椅子へ座っているようだ

 

「いらっしゃい、由比ヶ浜さん」

 

俺は...?

 

遂にステルス能力まで会得しちゃったの??

 

いつでもどこでもステルスしてるような感じだけどさ

 

常時発動の光学迷彩をぼっちは纏っているのだ

 

なにそれかっこいい

 

「比企谷君も今日は一段と目が腐っているわね、腐りすぎて腐り落ちてしまいそうだから心配になってしまうわ」

 

暴言吐くのか心配するのかどっちかにしてくれませんかねぇ...

 

まぁ、今日の俺の目はいつもの三倍増しで腐っているがな

 

「待ちわびたぞ、比企谷八幡!さぁ、我に感想を聞かせるのだ!!」

 

ほぅ、随分と自信があるんだな

 

うちの部長は酷評に定評のある女だぞ?

 

お前はそれを知らない

 

知らないことは怖いよなぁ??(ゲス顔)

 

クククッ、お前も雪ノ下の毒舌地獄に足を踏み入れ天災の裁きを受けるのだ!!

 

あれ?

 

移った?

 

感染するのん??

 

 

.......

 

 

 

俺たちは材木座と長机を隔て、座っている

 

「では感想を聞かせるのだ!」

 

「じゃ、じゃあ、あたしから!」

 

「良かろう!」

 

「難しい漢字一杯知ってるね!」

 

「ぐほぉ!」

 

材木座は胸を抑える

 

「次は私から良いかしら」

 

「う、うむ」

 

「まずストーリーの筋道がブレ過ぎているわ、起承転結がなっていないわね、それに登場人物に何をさせたいのか分からないわ、性格があまりにも変わり過ぎて別人なのでは無いかと思うほどよ、人が変わるにはそれなりの理由が無ければいけないと思うのだけれど、何の理由もなしに人は変わらないわ、それなら今頃こんな世の中じゃなくなっているはずだもの、主人公がたくさんのヒロインに好意を寄せられていると思うのだけれど、普通女性というものはこんなにホイホイ男性に好意を寄せることはあり得ないわ、好意を寄せるにはそれに相応しい理由があってこそなのよ、このヒロイン達は頭空っぽなのかしらね、頭空っぽでは夢も何も詰め込めないのよ、それを受け止める下地が出来ていないのだから、それに漢字にルビを振っているようだけれど、これはもはや論外ね、漢字もきちんと読めないようでは文章を書く資格は無いわ、私もそれなりに本を嗜むのだけれど、言葉の意味というのは正確に使わないと読者は混乱してしまうわ、文章を書くのなら正しい日本語で書くことをオススメするわね、みんながみんなあなたの様な感性を持っているとは限らないのだから、しっかりと筆者が何を考えているのかを文章に表さないといけないわね、ねぇ、あなた聴いているのかしら??自分から感想を聴かせて欲しいと言っておいて、感想を聴かないのはどういう了見なのかしら、あなたは自分の言ったことさえ守れない様な人間なのかしらねそれではこの先、生きていく上でとても困難になると思うのだけれど、そもそも......」

 

「お、おい!もうやめとけって!材木座の口から魂が出てんじゃねぇか!」

 

そう、予想以上の雪ノ下雪乃による毒舌地獄で材木座義輝は魂を吸い取られてしまった様だ

 

材木座...お前の事は3日くらいは忘れないぜ...

 

「は!?我は一体...どこかの川に居たはずなのだが」

 

三途の川渡りそうになってたのかよ...

 

あそこで雪ノ下を止めておいて良かったわ

 

「まぁ、概ねこんな感じね」

 

やべぇ...この天災雪ノ下雪乃に口喧嘩で勝てそうも無いわ

 

まぁ、争いというのはお互いに近いレベルじゃ無いと起きないっていうしな

 

という事は俺と雪ノ下が争うことも無いわけだ

 

何故なら俺は雪ノ下よりもレベルが下だから

 

......何で俺はこんな結論に至ったのか不思議で仕方がないわ

 

たまに予期せぬ結論に至ることがあるのだが、

 

これは病気ですか?

 

いいえ、比企谷八幡です

 

ゾンビじゃ無いのかよ、俺は相川さんとは別の意味でゾンビだと思うけどな

 

 

 

主に目で

 

 

何これ悲しい

 

 

「じゃあ俺も感想を言わせてもらう」

 

「うむ!何でも来い!」

 

こいつは雪ノ下の毒舌地獄を耐え抜いて自信満々になっているかもしれないが

 

俺の感想は雪ノ下とはベクトルが違うことを思い知らせてやる

 

「大体は雪ノ下と同じ意見なんだが...」

 

「うむ!」

 

俺は材木座へある言葉を放つ

 

 

 

 

 

「で、これ何のパクリ?」

 

 

「ぐべらぁぁ!!」

 

材木座は椅子から転げ落ちて、自らの首を押さえつけている

 

こいつは一々リアクションがでかいから疲れる

 

まじドッキリとか出たら良い反応するんじゃ無いだろうか

 

 

厨二病タレント...

 

 

絶対売れない、干されるどころか社会的に抹殺されるレベル

 

材木座義輝に希望は無いんですか!?

 

「いまのはいたかった...いたかったぞーーーーー!!!」

 

材木座は立ち上がる

 

お前はどこの宇宙の帝王だよ

 

不思議な玉を七つ集めちゃうのん??

 

ナメック星人殺しちゃうのん??

 

 

「我はまたここに戻ってくるさ...また感想を聴かせてもらおうか...」

 

お前...そんなに傷付いて何を求めているんだ...

 

いや、ただの厨二病患者だね

 

材木座は行ってしまった、深い傷を負いながら

 

あいつがここへ来て何を学んだのかは分からない

 

だが、俺はあいつを少し面白い奴だと思い始めたのだ

 

「さぁ、今日の部活もここまでね、鍵は返しておくわ」

 

「あ!あたしも行く!それに明日にご飯食べる約束もしたいし!」

 

「そ、そう...比企谷君もまた明日ね、あなたもこれだけ依頼を解決していれば慈悲の心が芽生えてきたのでは無いのかしら?」

 

「さあ、どうだかな、俺には分からん」

 

俺は部室を出て、自転車置き場へと向かう

 

 

......

 

 

 

慈悲の心があるかなんて自分には全く分からない

 

もし俺慈悲の心があるんだぜって言う奴がいるのだとしたら

 

そいつは人を見下しているだけだ、自分に酔いしれているだけだ

 

相手が自分よりも弱いと決めつけ、自分勝手なエゴで相手を救おうとする

 

そう、俗にいう弱者に手を差し伸べる俺かっこいいである

 

ふざけるな

 

何故弱者だと決めつけられなければならんのだ

 

雪ノ下に最初に会った時はそう思った事もある

 

だが、彼女はそんな事は無かったのだ

 

彼女は人ごとこの世界を変えると言った

 

おそらく、本当に世界を変えるのは難しいどころでは無いのかもしれない

 

だから彼女は自分の出来ることから始めたのだ

 

自分に関係の深いところから、自分の身近なところから

 

彼女は自らの信念に向かって突き進んでいるだけなのだ

 

俺はその言葉を聴いて、俺かっこいい連中とは違うことを知った

 

あいつらなんかより彼女の方がよっぽどかっこいい

 

都合の良いときだけ、弱者に手を差し伸べるとか

 

気分が乗る乗らないで行動を決める奴らとは

 

彼女は決定的に違う

 

彼女は俺のことを弱者だとは思っていない

 

何故なら彼女は俺の依頼の解決方法に耳を傾け、そういう方法もあるのかと

 

ただの捻くれていた人だと思っていてごめんなさいと言ったのだ

 

人の評価を改める事は簡単では無い

 

彼女は真っ直ぐであるが故に自らにも真っ直ぐで

 

決して嘘はつかなくて

 

自分が悪いと思ったら、訂正して、謝罪して、認識を改めて

 

そんな天災雪ノ下雪乃はかっこいいのだ

 

俺が女だったら一発で惚れるレベルなのだ

 

それくらいに彼女はちょーかっこいいのだ

 

これは俺の理想なのかもしれない

 

理想を押し付けてるだけなのかもしれない

 

だけど

 

彼女の行動は紛れもなく本物で

 

そこに偽りは無くて

 

裏表なんて存在しなくて

 

彼女の行動に偽りが無いことだけは俺の理想そのものなのだ

 

理想は理想でも、現実に存在する理想だって、

 

あってもいいんじゃないか?

 

だって、それは人が考えることの出来る理想だから

 

人に考えられない事を人は行動に移す事は出来ないから

 

 

 

 

 

先ほどの話の続きだが

 

俺は自分を弱者だと思った事は無い

 

自分が負けと思わなければ負けでは無いと言うように

 

人は諦めさえしなければいつでも這い上がることが出来る

 

どんなに惨めでも、どんなにみっともなくても

 

自分はこれで良いのだと肯定してやりさえすれば

 

それは負けでは無い、それは弱者では無い

 

俺は人に人生を失敗していると言われたことがあるが

 

何故お前に決めつけられなければならんのだ

 

友達がいないから人生を失敗しているのか?

 

クラスで浮いているから人生を失敗しているのか?

 

普通の人とは違うから人生を失敗しているのか?

 

違う筈だ、そうでは無い筈だ

 

俺の青春は失敗してなんかいない

 

人の人生を失敗しているだなんて決めつける権利は他人には無い

 

俺は自らの現実へ向き合い、自らの思う最善の道を歩んでいるのだ

 

自分が失敗していないと思えば、それは失敗では無い

 

もし過去へ戻りたいと思うならいつ?その時の自分になんて言いたい?

 

こんな問いがあったとしようか

 

諸君らはなんて答えるだろうか

 

あの時小銭を落としてしまった時へ、その前に落とすなと言うか?

 

あの時こう言ってしまった時へ、そんな事は言うなと言うか?

 

あの時家を早く出なかった時へ、もう少し早く出ろと言うか?

 

あの時こっちを選んでしまった時へ、そっちは選ぶなと言うか?

 

 

俺はそのどれでも無い

 

俺は戻りたくないと答えよう

 

何を言っているんだこいつはと思うかもしれない

 

だが、問いと俺の答えをもう一度見て欲しい

 

俺は"戻りたくない"と答えたのだ

 

あの時こうしていればよかった、あの頃は最高だったからあの頃に戻りたい

 

これらの正体は後悔だ

 

前者はこうしていれば、こうならなかったのにという後悔

 

後者は時間の流れが進んで行くことに対する後悔

 

無論、後者は自分ではどうしようもない事だが、これは紛れもなく後悔だ

 

俺は反省はしたいが後悔はしたくない

 

後悔とは後に悔やむと書く

 

悔やむとは残念に思う事だ

 

俺は自分の人生を後悔したくない

 

それはきっと自分の人生を残念に思う事だから

 

俺は自分の人生を残念だなんて認めない

 

だから俺は過去へ戻りたくないと答えた

 

そして、もし過去へ戻ったのならば、その時の自分に何か言うとしたら

 

俺はこう言うのだ

 

 

 

 

「後悔はするなよ」ってな

 

 

だから俺はどこまでも最善を行く

 

だから俺はどこまでも自らに責任を持つ

 

 

......

 

 

 

俺は総武高校を出て、チャリで自宅へ帰宅している途中である

 

 

やはりぼっちは良い

 

このように深い思考をする事が出来る

 

思考が深くなればなるほどそれは真理へと近づく

 

真理とはいつまでもどこへでも変わることの無い永遠不変の理だ

 

それは俺だけの真理

 

誰にも真似することの出来ない

 

俺だけが辿り着くことの出来た真理

 

なんと素晴らしいことだろうか

 

俺はこれからも深い思考をしていきたいと思うのだ

 

そしてぼっちにはそのような機会はたくさんある

 

前述した事だが、ぼっちは思考のリソースを自分だけへ向ける事ができると言うのはこういう意味なのだ

 

 

さっ、早く帰って小町におかえりを言ってもらおう

 

小町に労られ、小町を労う事により

 

俺たちは明日を生きることが出来るのだ、俺たちは嫌な事に立ち向かえる事が出来るのだ

 

やっべ!小町って俺にとって超重要!?

 

今度なんかプレゼントでも送ってやろう

 

「お兄ちゃん素敵!結婚して!」

 

なんて言われたりしちゃって...ぐふふ...

 

ぐはははははははは!!!

 

妄想が止まんねえぜ!!!

 

ぼっちの思考力は思わぬところで、役に立ったようだ

 

あいつの喜ぶ顔を見るのが楽しみなハチマンであった まる

 

 

 

 


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