比企谷八幡の現実   作:きょうポン酢

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天災が八幡を襲う!?

頑張れ八幡、負けるな八幡


天災現る

 

 

 

 

ぼっちの天敵

 

それは予期せぬ出来事である

 

ぼっちは突然の出来事に弱い

 

突然の出来事とはどういうことだろうか

 

曰く、急に名前を呼ばれる

 

曰く、二人組を作れと言われる

 

曰く、隣の席の消しゴムが足元へ転がる

 

 

否!

 

 

変な女に絡まれてぼっちの生活が脅かされる

 

 

 

俺は変な女にあなたを助けてあげるとか言われ

 

逃げたものの、足を掛けられ転ばされてしまう

 

その上、俺を見下ろしながらあなたを逃さないわよとか言われる始末

 

 

なに?なんなん?

 

お前マジなんなん??

 

助けてあげるとか俺が困ってるみたいじゃないですかヤダー

 

孤独体質を改善するとかもうそれ俺じゃない

 

俺のアイデンティティは雪ノ下雪乃という変な女に崩されようと言うのか

 

 

 

そんなことはさせん!神が許してもぼっちは許さんぞ!

 

 

 

 

俺は今の生活をそれなりに満足しているし

 

それこそ、ぼっちが行動を起こせば叩かれると言うのがオチだ

 

出る杭は打たれる、出すぎた杭は引き抜かれると言うが

 

 

俺の場合出たら徹底的に叩かれるし、出すぎたらへし折られてしまう

 

心をへし折られるのは慣れているが、身体をへし折られるのは勘弁して貰いたい

 

身体をへし折られては、死んでしまうでは無いか

 

俺は他人から、なんで生きているのか、死んだ方が楽じゃねとか言われるが死のうとは思わない

 

俺は現実に向き合っている

 

俺の現実はいつも独りだが、ぼっちらしくコケのように生きているのだ

 

 

「放課後F組の教室で待っていなさい、私が迎えに来てあげるから、感謝しなさい」

 

 

こいつの上から目線はなんなのだ、見下しているという訳でも無く、蔑む訳でも無い

 

こいつは俺が出会ってきた人間どもの中には居なかったタイプだ

 

正直よく分からない

 

なんでこんなぼっちに話しかけ、関わろうとするのか

 

理解できないのは怖い事だ

 

分からないという事は俺だけが取り残されているという事

 

誰に取り残されているとは言わないが、とにかくそんな気持ちになるのだ

 

解らないのはひどく怖い

 

「逃げようとしても無駄よ、逃さないと言ったから」

 

そうして雪ノ下雪乃は去って行く

 

 

あいつは国際教養科だから頭も良いのだろう、俗に言う天才というやつだ

 

だがしかし、俺にとってあいつは災害以外の何者でもない

 

よって俺はあいつをこう評価しよう

 

 

 

天災と

 

 

 

 

キーンコーン、カーンコーン

 

 

昼休みの終わりのチャイムが鳴ってしまう

 

 

結局小町の弁当を食べそびれてしまった

 

小町ぃ〜、お兄ちゃん変な人に絡まれてお弁当食べれなかったよ〜

 

 

はぁ...次は国語だっけか...

 

サボろ、もうどーでもいいやー

 

今だけは全てを忘れて、小町の弁当の味を噛み締めるとしようでは無いか

 

やっぱりうちの妹は料理が美味い

 

将来妹に養ってもらうのも良いかもしれないと思うハチマンであった まる

 

 

......

 

「で?私の授業をサボった言い訳を聞こうか??」

 

平塚先生は拳を鳴らしながら俺を威圧する

 

やめて!ぼっちは威圧には弱いのよ!

 

特に数の多い威圧はキツイものがある

 

これは俺が小学六年生の時の話だ

 

女子の体操服が盗まれたと担任がホームルームで話をした

 

クラスの奴らは犯人を探し始めたのだ

 

そのうち誰かがヒキタニじゃね!?と言い出すとそれはあっという間に広がった

 

「俺もそう思う!あいつ怪しいし!」

 

「何考えてるか分かんないしねー」

 

「犯罪者だー!逮捕逮捕ー!」

 

「おい謝れよ!悪い事したら謝るんだぞ!」

 

「そうだそうだ!!しゃーざーい!しゃーざーい!」

 

「しゃーざーい!!しゃーざーい!!」

 

「どーげーざ!!どーげーざ!!」

 

そうして俺はクラスの愚か者共に糾弾された

 

俺は泣きながら、すみませんでしたと土下座したのを今でも鮮明に思い出すことが出来る

 

あれは今まで受けた虐めの中でも特にキツかった

 

あれ...思い出したら目から水溶液が...

 

その時からなのだ、俺が人に隙を見せなくなったのは

 

隙を見せたら容赦なくつけ込まれるから

 

俺の周りには敵しか居ないのだ

 

故に数の暴力に威圧が加われば、相乗効果で物凄い威力になるのだ

 

なにそれ、そんな事小学生で知りたくなかったわ

 

「いえ、不審者に絡まれてしまいまして、それで心身の損傷が激しいので回復に努めていたんですよ」

 

嘘は言っていない

 

「ほう、不審者か...ならば今頃校内放送が流れている筈なんだけどなぁ」

 

「ええ、もっと警備態勢を充実させた方が良いと思いますね」

 

「屁理屈を言うな!馬鹿者!」

 

「ぐぇぇ!」

 

俺は平塚先生に腹パンされてしまい、地に沈む

 

うぅ...平塚先生はワンパンマンだったんだね...

 

ワンパンでやられる俺情けない

 

俺が涙を流して、無力を嘆いていると...

 

「お前もサボりなのか、川崎」

 

川...なんだって?聞いたことが無いから分からない

 

俺はクラスメイトの名前は覚えていない

 

覚える必要が無いから

 

そして俺は周りからクラスメイトとして認識されていないから

 

なにそれ俺いないものじゃん

 

俺のおかげで2年F組は死亡事故が起きていないと言えるな

 

俺マジ救世主

 

 

「体調が悪かったので、保健室で休んでました」

 

「そうか、体調には気をつけるんだぞ」

 

おい、なんで不審者に絡まれた俺より体調の悪い川なんとかさんの方が優遇されているんだ

 

この世に差別は無くならないな

 

アメリカを見ていれば分かる、アメリカが何故あれだけ平等平等と叫ぶのか

 

それはアメリカが人種差別のある国だからだ

 

一見アメリカとは平等な国だと思ってしまうが実は違う

 

アメリカの人たちは誰よりも平等を求めているのだ

 

そして今この瞬間にも俺は平等を求めている

 

 

 

あれ?これ俺の普段の行いのせいじゃね?

 

なんだしっぺ返しじゃないですかヤダー

 

俺は上を見上げるとある物を発見してしまう

 

「黒の...レース!!」

 

そう黒のレースだ、何故だか分からんが俺の上には黒のレースが広がっている

 

こ、これは

 

パンツチラ見え!!

 

略して

 

パンチラ!!

 

伝説のパンチラを拝める日が来るとは思わなかった

 

「ばかじゃないの」

 

川なんとかさんは席へ戻って行く

 

ば、ばかだと!?

 

それは俺のことを言っているのだろうか

 

見せてきたのはそっちであろうに、何故俺がばかと言われなければならんのだ

 

やはり世の中には不可抗力が多すぎる

 

例え話をしようか

 

あるサラリーマンはいつものように満員電車に乗っていた

 

そのサラリーマンは自分の前に立っていた女性に

 

「この人痴漢です!!」

 

と言われてしまったのだ

 

男は必死に弁明した

 

「私はやっていない、どなたか証明しては貰えないだろうか」

 

だがしかし、無実を証明する者は現れない

 

「そこのあなた、次の駅で降りましょうか」

 

そして拘束された男は警察へ届けられ

 

無事有罪判決となりました

 

ちゃんちゃん♪

 

例え話なのだが、世の中は本当に腐っているな

 

世の中が腐っているのなら、俺の目が腐っているのは普通の事では無いだろうか

 

俺は正しい、周りが悪い

 

そして、きっとそんな目にあってしまうサラリーマンも世の中には居るのだろう

 

そのサラリーマンは人生を不可抗力によって狂わされてしまう

 

このように不可抗力からは決して逃れる事は出来ないのだ

 

 

 

俺は立ち上がり、自分の席へ戻る

 

 

「ヒッキー...」

 

だからヒッキーてなんやねん、俺は引きこもりでは無いのだが

 

イメージですかそうですか

 

俺はぼっちだが、引きこもりでは断じて無い

 

休日は家からは出ないがな

 

それは引きこもりだって?

 

違うな、休日とは読んで字の如く休むためにある物だ

 

そんな俺は休日は日頃のストレスから解放され、英気を養っているのだ

 

何故なら平日にはストレスを受ける毎日が始まるのだから

 

よって俺は誰よりも休日を満喫していると言えるだろう

 

 

......

 

キーンコーン、カーンコーン

 

さあ放課後がやって来たぞ、俺は不可抗力には負けない

 

俺はどこぞのサラリーマンとは違うのだ

 

早速行動を起こすべく、俺は準備を始める

 

いざぼっちライフを守るために戦わん!

 

 

 

 

俺の予想ではJ組のホームルームが終わり次第、あの天災はこのクラスにやって来る

 

 

その間に帰ればいいって??

 

 

違うな

 

人の悪意を受け続けた俺はそんな愚かな事はしない

 

何故なら雪ノ下率いる一味が昇降口で張っている可能性があるからだ

 

あの天災は友達はいなそうだが、人を従えていそうな雰囲気を感じ取れた

 

あくまで雰囲気だから実際はどうなのか分からない

 

俺はホームルームが終わった後すぐに男子トイレへ向かう

 

ここにいれば奴は入ってこれないし、奴がクラスに居ないのを確認すれば昇降口へ向かうだろう

 

そして俺が帰ったことを知った奴は渋々家へ帰宅するのだ

 

何という完璧な作戦

 

俺はこの方法で何度も、虐めっ子の追っ手から逃れることに成功している

 

 

え?昇降口の靴はどうするんだって?

 

 

ばっかお前、俺はプロのぼっちだぞ

 

 

俺が昼休み後の5限をただ小町の弁当を味わっていただけだと思うなよ

 

 

俺は奴が放課後迎えに来ることを知っている

 

だから5限のうちに昇降口から靴を運んでおいたのだ!!

 

 

洗練されたぼっちには隙は無い

 

 

後は下校時刻まで待つだけ...

 

 

「ラノベでも読むか」

 

俺はラノベを読み始める

 

うお!この新ヒロイン可愛い!!

 

やっぱり二次元は最高だぜ!!

 

 

......

 

 

そろそろ下校時刻の筈だ

 

すっかりラノベを読み耽ってしまったようだ

 

やっぱりラノベは良い

 

読みやすいし、ヒロインは可愛いし、主人公は強い

 

ちょっとエッチなシーンだってある

 

うおーーー!!!

 

ラノベの主人公になりたい!!

 

俺もこんな世界に生まれたかった......

 

 

俺はトイレから出て、昇降口へ向かう

 

この時間ならば流石に奴も諦めて帰っているだろう

 

俺はF組の教室の前を通る

 

そして俺は驚愕してしまう

 

「嘘だろ...なんで...」

 

 

 

 

それは何故か

 

 

 

 

 

天災、雪ノ下雪乃はF組の教室で一人机の上に座っていたのだ

 

 

 

「お、お前!なんで居るんだよ!」

 

俺はF組の教室を開けて、天災へ声をかける

 

「あら、やっと来たのね、待ちくたびれたじゃない」

 

天災は机から離れ俺の元へやってくる

 

「なんで...なんで居るんだ!普通帰ったと思うだろ!?なんでお前は帰らないんだ!?」

 

俺は天災へ言葉を投げかける

 

分からない

 

俺にはこいつが何を考えているのか

 

何故こんな時間まで教室へ居るのか

 

何故俺なんかにここまで関ろうとするのか

 

分からない

 

経験が無いから

 

「私、暴言も失言も吐くけれど、虚言だけは吐いたことがないの」

 

「私は迎えに来てあげると言ったのよ?」

 

なんて事だろうか

 

この女は律儀に自分の言った事を守っているだけなのだ

 

何故こいつはここまで真っ直ぐなんだ

 

何故こいつは虚言を吐かない

 

何故こいつはここまで自分だけで完結している

 

分からない

 

俺には何も分からない

 

分からないが...

 

俺は羨ましく思った

 

こんな風に生きられたなら...俺は

 

こいつの隣なら、俺も...

 

「な、なあ雪ノ下...俺と」

 

「ごめんなさいそれは無理」

 

何も言ってないのに断られた...

 

何も言って無いのに...

 

ハチマン悲しい

 

「でもあなたを助けてあげる」

 

雪ノ下は夕日の差す教室から俺に微笑みかける

 

なんだよ、そんな顔も出来んのかよ...

 

「私は飢えた人に魚を与えるのではなく、魚の取り方を教えるの」

 

「持つ者が持たざる者に慈悲の心を持ってこれを与える、人はそれをボランティアと呼ぶの」

 

「人はみな完璧ではないから、弱くて、心が醜くて、すぐに嫉妬し蹴落とそうとする、不思議なことに優れた人間ほど生きづらいのよ、この世界は」

 

「そんなのおかしいじゃない、だから変えるのよ、人ごとこの世界を」

 

「あなたを助けてあげるわ、比企谷君?」

 

雪ノ下はいたずらな笑みを浮かべる

 

 

俺はこの日とんでも無いやつと関わってしまったらしい

 

それは天才であり天災

 

慈悲の心とか人ごと世界を変えるだとか訳わかんねぇことを言っているこいつは

 

 

やっぱり俺には分からなくて

 

 

でも

 

 

俺にはこいつの生き方がかっこいいと思えて

 

 

こいつはなんでも独りでやって

 

 

こいつはとても強い女の子で

 

 

理想を押し付けちゃいけないのに

 

 

 

 

 

 

俺は今日この瞬間からこいつに憧れてしまったんだ

 

 

 

 

 

 

 


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