比企谷八幡の現実   作:きょうポン酢

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やはり俺の青春も間違っている?

 

 

ラブコメとは一体なんだろうか

 

曰く、幸せになるもの

 

曰く、胸踊るもの

 

曰く、楽しいもの

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とは関係の無い異世界の出来事である

 

 

「姫菜さぁ、隼人はあーしの事どう思ってるのか分かる?」

 

「うーん、私は結構良さげな感じするかな」

 

「姫菜それあるよね!やっぱり隼人君も優美子の事気になってそうだし!」

 

「結衣もそう思うん!?やっぱ隼人あーしの事気になっちゃってるかー」

 

「そうだよ!アタックしちゃえばいいんだよ!」

 

「そー言う結衣や姫菜はどうなん??気になる男子とかいないワケ??」

 

「私はとべ×はやが見られれば...ぐ腐腐腐腐」

 

「あたし!?あたしはその...なんと言いますかー...」

 

「お、その反応怪しいし!話してみなよ!!」

 

「え、いいよ〜あたしは...」

 

今日もどこぞのカースト上位どもは恋バナをしているようだ

 

ラブコメ、それは俺には縁の無いものだ

 

俺が中学生の時、女子に体育館裏に呼び出された事があった

 

その女子は俺に告白してきたのだ

 

俺はとても舞い上がり二つ返事でokした

 

やっと俺にも春が来たのだとそう思ったのだ

 

だが現実は俺に優しくない

 

次の日その子に勇気を出して話しかけたら...

 

 

 

 

「ごめん、あれ罰ゲームなの」

 

 

 

 

 

ぐわああああああ!!!罰ゲームでしたーーー!!!

 

俺はそんな出来事を数回経験しているため、ラブコメなんて信じない

 

真実が残酷であると言うのなら、きっと嘘は優しいのだろう

 

だから優しさは嘘だ

 

 

俺に優しくする女の子は

 

 

きっと嘘をついている子だ

 

 

だから俺は優しい女の子なんて信じない

 

 

 

俺にはラブコメの神様なんて居ない

 

だから俺は今日も思うのだ

 

 

ラブコメなんて異世界転生でも起こらない限りあり得ない、ってな

 

 

今日も教室は騒がしい

 

 

俺は机に突っ伏して耳にイヤホンを掛け、寝たふりをする

 

これは周りが俺に話しかける隙を無くすために必要な事である

 

 

 

まさしくぼっち極まる、真のぼっちは隙を決して作らない

 

 

キーンコーン、カーンコーン

 

「お前らー席につけー、出席取るぞー、相川ー」

 

朝のホームルームの予鈴が鳴る、一時間目は数学だったか...

 

二次関数なんて日常で使わないだろ...まだ理科の方が役に立つレベル

 

やっぱり国語最強だな、言語はコミュニケーションに必要不可欠とも言うしな

 

 

...俺コミュニケーション取って無いけどさ

 

 

だがしかし、言語というものはコミュニケーションにだけ使われる訳ではない

 

今こうして思考している事を纏められるのは言語があってこそだ

 

ぼっちは思考のリソースを他人に使うこと無く、深い思考をする事が出来る

 

そうして培われた思考力

 

俺に関して言えばもはや未来予知に到達するレベル

 

何故なら生まれてから友達なんか出来たことが無いから

 

気づいた時から独りで物事について思考していたから

 

これはカースト上位どもには決して得ることの出来ない財産である

 

「比企谷ー」

 

俺は顔を上げ挙手をする、そうする事で声を出さずとも主席している事を伝える事が出来る

 

「平田ー」「はーい」

 

ぼっちが声を出すと、周りの人間は様々な反応をする

 

誰だよあいつと俺を見る奴

 

あんな奴居たか?と周りの人間へ話しかける奴

 

もはや俺に対して興味を示さない奴

 

俺は場数を踏んでいるので、極力目立たないように心掛けている

 

そうする事で俺に対する認知度を極力下げ、人間関係のトラブルを回避する事が出来るのだ

 

そもそも高校生のトラブルというものは主に人間関係が原因になっている事が多いように思える

 

やれ誰と誰が付き合っただの

 

やれ誰と誰が喧嘩しただの

 

やれ誰が誰の陰口を言っていただの

 

その様なトラブルは全て人間関係から来ている

 

ぼっちならそんなトラブルを全て回避出来る

 

何故ならぼっちには人間関係なんて無いから

 

関係を持たず、作らず、持ち込ませずの三拍子揃うぼっちは最強なのである

 

口は災いの元、口を持たぬのなら災いが起きる道理も無いだろう

 

「次は数学だからなーお前ら準備しろよー」

 

寝ようか

 

 

......

 

 

 

ワイワイガヤガヤ

 

 

 

何やら騒がしい、俺はイヤホンを外して周りの奴らの声に聞き耳をたてる

 

イヤホンで音楽を流している訳では無いので周りの音はある程度聞こえるのだ

 

「次はテニスかよー、だりぃな〜」

 

「マジでそれだわ、サボりて〜」

 

「俺のミラクルショットを見せてやるぜ!よっ!ほっ!」

 

「ギャハハ!!お前マジでだせえから!」

 

次はテニスか、なら準備しないとな

 

俺は馬鹿な事をやっている奴らを尻目に、着替えを済ませテニスコートへ向かった

 

 

......

 

 

「じゃあ今日はラリーの練習を行う!二人組のペアを作れー」

 

体育教師の号令で一斉にクラスの奴らはペアを組み始める

 

え、お前は組まないのかって?

 

ばっかお前、ぼっちに組むペアの相手なんて居ないんだよ

 

「先生ちょっといいすか?」

 

俺は長年の経験から、この状況を切り抜ける策を編み出している

 

「どうしたヒキタニ?」

 

ヒキタニって誰...

 

「ちょっと調子悪くてペアの相手に迷惑を掛けるの嫌なんで壁打ちしてても良いすか?」

 

「おう、体調が悪くなったらちゃんと休めよ」

 

「うす」

 

俺はテニスコート横の壁へ、ボールを打つ

 

 

ポン、ポン

 

俺は淡々と壁打ちを続ける

 

俺は運動神経は良い方だ

 

だがテニスにはこんなエピソードがある

 

これは俺が中学一年生の時の話である

 

俺は初めてのテニスの授業を楽しみにしていた

 

ペアは出席番号順なので、二人組でラリーをしたのだ

 

だがしかしペアの相手は嫌そうな顔をしていたのを覚えている

 

「あ...じゃ、じゃあやろっか」

 

その時のラリーはやたら相手が場外へ飛ばしていた

 

場外へ出るたびに俺はボールを取りに行く

 

そして次のテニスの授業からだ、ペアの相手が違う奴と三人組で組んでいたのは

 

俺はその出来事から独りで壁打ちスキルを会得したのだ

 

 

そんな時、俺の元へボールが転がってくる

 

「あ、キミヒキタニ君だっけ!?ちょっちボール取ってくんない??」

 

だから誰なんだよヒキタニ君

 

俺はボールをヤンキーみたいな奴へ投げ返す

 

「ありがとう!ヒキタニ君!」

 

なんだか爽やかな金髪のイケメンが俺に礼を言う、眩しすぎてハチマンの目さらに腐りそう

 

俺とした事がついボールを返してしまった、条件反射で

 

だがしかし、ここでヤンキーを無視したり、あらぬ方向へ投げたりすれば様々な問題が生じるだろう

 

無視すれば、あいつ調子乗ってねとシメられる

 

あらぬ方向へ投げれば、あいつコントロール悪すぎと言われ陰口を叩かれる

 

ちなみにこれは経験則から分かった事だ

 

人間関係にトラブルは付き物である、プロのぼっちである俺は余計なトラブルは増やさない

 

それがぼっち道であり、俺の生き様である

 

......

 

 

野球グラウンドにて

 

 

「ヒッキー、テニスも上手いんだ...」

 

「結衣ー、早くボール投げろし!」

 

「あ!うん!」

 

「男子同士が玉を追いかけまわす...ぐ腐腐腐腐」

 

「擬態しろし」

 

「隼人君、テニス上手いねー」

 

「だっしょ!?あーしが認めた男だから当然だし!」

 

「あはは...」

 

......

 

俺はいつものようにベストプレイスで昼食を取る

 

今日は久しぶりに小町が弁当を作ってくれたのだ

 

小町マジでいい子

 

妹じゃなかったら求婚して振られるレベル

 

......振られるのね、分かってるけどさ

 

俺は涙を流しながら弁当に喰らいつく

 

「あら?そこにいるのは...」

 

何者かが俺の後ろで声を発する

 

知らん、そこには誰も居ないぞ、俺を除いてな

 

なぜなら俺は人数に数えられないから、みんなで遊ぼうの"みんな"じゃないから

 

なにそれ悲しい

 

「あなた...比企谷君じゃないかしら?」

 

なんだよ、呼ばれてるぞ比企谷君

 

「あの、ちょっと無視しないで欲しいのだけれど...」

 

おい無視すんなよ比企谷君、困ってんだろ

 

「あなた...分かっててやっているのね?」

 

なんて意地悪な奴なんだ比企谷君、女子を無視するなんて酷い奴にも程があるぞ

 

「そんなに無視するならこっちにも考えがあるわよ...」

 

 

パァン!!

 

「ひゃん!?」

 

俺は耳元の音にびっくりして、奇声を上げてしまう

 

俺はその音を出したであろう人物へ目を向ける

 

「にゃ、にゃにしゅるだ!?」

 

噛みまみた

 

一日に数回しか声を出さないため発音の仕方を忘れてしまったようだ

 

なにそれ人としてどうなんだろうね

 

「やっと気づいたわね」

 

その人物は膝に手を置き、髪をかきあげる仕草をしながら俺を見据える

 

てか俺に話しかけてたのかよ...会話をしないから別の奴に話しかけてるもんだと思ったわ

 

「にゃ...何か用がおありでごさいますでしょうか?」

 

また噛んだ上に変な日本語になってしまった、もう人間でも日本人でも無いね

 

俺は人間をやめるぞ!!◯ョ◯ョーーッ!!

 

早く人間になりたーい!

 

俺は人間じゃなかったのね、だから友達が出来なかったんだ、そうかそうか

 

「あなた...凄く目が腐っているのだけれど病気なのかしら?もし病気だとしたら病気へ行く事をオススメするわ」

 

何この子心配するように見せかけて、ナチュラルにお前は異常だって言いやがったな

 

異常なのは否めないが...

 

「これは生まれつきだ、病気かな?病気じゃないよ、病気だよ(病気)」

 

何これ凄くいい川柳出来ちゃったんだけど

 

「そ、そう...」

 

やべっ!声に出てた!?

 

ぐおおおおお!!!引かれた引かれた引かれた引かれたー!!

 

ぼっちが一番やっちゃいけない事の一つ、それは、独り言を他人に聞かれることである

 

訓練されたぼっちである俺がこんな失態をするとは...

 

それは俺が小学五年生の時の話である

 

グループで宿泊学習の行動を決めている時だ

 

俺はグループの行動を決めるために資料を漁っていた

 

その資料を見ていた時うっかり、「ここ面白そうかも...うふっ」と言ってしまったのだ

 

そうしたら班の奴らなんて言っていたと思う?

 

「うわ...ヒキガエルまた独り言言ってるよ...」

 

ふざけんなよくそが、俺は真面目にグループの班の行動を決めていたのに

 

そんな経験則から独り言は極力避けるように意識していたのだが...

 

「あなた比企谷君よね?F組にいつも独りでいる気持ち悪い人がいるって言う噂があったからもしかしてと思ったのよ」

 

「なん...だと...?」

 

そんな馬鹿な!?確かに独りでいるが気持ち悪い行動なんて一度もしていないはずだ!!

 

あ、今したね

 

だが!クラスで抜かりは無い筈なのだ!

 

「何故だ...俺は誰とも関わらずに孤高に生きてきたのに...誰にも迷惑は掛けていない筈なんだ!」

 

俺は小町の弁当を握りしめる

 

「そう...あなたも独りで生きてきたのね...誰にも理解されずに」

 

謎の女の子は意を決したように俺へ言葉を放つ

 

「私は2年J組国際教養科、雪ノ下雪乃よ、あなたの身に染み付いた孤独体質を私が改善してあげるわ」

 

「感謝しなさい?こんな美少女があなたを助けてあげると言っているのよ?」

 

「はい?」

 

雪ノ下雪乃という人物は俺の孤独体質を改善させると言った

 

改善も何もこの状態が悪い事だなんて思って無いんですがねぇ...

 

しかも自分で美少女とか言っちゃうとかこいつやばすぎる...

 

俺のぼっちセンサーが警報を鳴らす

 

こいつは危険人物だ、逃げるが勝ちだな

 

「そっすか、ではまた来世で」

 

俺は立ちあがり雪ノ下から逃げようとする

 

「あら、逃さないわよ?私は一度決めた事は最後まで貫くの」

 

雪ノ下が俺を通せんぼしてくる

 

ええい!退けい!

 

(孤高の)帝王は退かぬ!媚びぬ!顧みぬ!

 

「ぬおおおお!!!ぼっちなめんなぁ!!」

 

俺は反転しテニスコート側を走り出す

 

ぼっちの生活を脅かそうとする奴は誰であろうと許さん

 

「甘いわ比企谷君」

 

俺のすぐ後ろまでぴったりくっついてくる雪ノ下

 

マジか!?俺は50m6秒7で走れるのに!?

 

「私は容姿端麗で文武両道なの」

 

俺は足を掛けられて転んでしまう

 

「ぐわぁ!膝が思ったりより痛え!!」

 

膝が...ズルムケだぜ...

 

俺は雪ノ下に見下ろされる

 

「覚悟してね比企谷、あなたを逃さないわよ」

 

どうやら俺のぼっちライフは最大の危機を迎えているらしい

 

どうしてこうなった...

 

 

 

 

 

やはりお前らだけでなく俺の青春も間違っているのだろうか

 




ありがとうございます。

八幡は雪乃の魔の手から逃れる事が出来るのでしょうか

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