サブキャラ転生〜金色は闇で輝く〜   作:Rosen 13

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短いです。


第3話

「はあ、今日も平穏ね~。お茶が美味しい。随分と淹れるのが上手くなったね」

 

「ありがとうございます、お嬢様」

 

 

 緑茶入りの湯呑みを卓袱台に置いて、ほっと一息つく。畳の香りと障子の隙間から見える海岸線が私の心を落ち着かせる。私の後ろには世話役のメイドが控えていた。しかし紅茶とは勝手が違う緑茶も上手く淹れることができるメイドってすごい有能だね。しかも緑茶を淹れたのは少し前が初めてなのに。

 ここは屋敷の一角にある六畳半ほどの広さがある純和風の部屋。何故洋風の屋敷に和室があるかというと、日本の物が恋しくなった私がパパにおねだりして造ってもらったからだ。パパは私の日本らしいという要望に応えるために、畳、障子、襖、卓袱台などは最高級品を日本から直輸入し、部屋も日本らしさを徹底するため日本から職人を呼んで設計させた。パパァ……

 

 そして完成したのは何処ぞの書院造かと言いたいほど立派な和室だった。

 部屋の中央に卓袱台が設置されていて、床の間には一振りの日本刀が置かれている。部屋の右側にある障子を開けると、そこには海岸線を眺められる縁側まで付いていた。

 普通の和室を予想してた私がその立派な部屋を見て、驚きのあまり顎が外れそうになったのは余談。

 最初は立派すぎて行く度にビクビクしてたけど慣れというものはおそろしく、今ではリラックスできる場として、暇さえあればいつもここに通っている。洋風一辺倒だった屋敷にできた和室(?)の存在感は際立っており、黒服達が物珍しそうに見つめてるのは風物詩になりつつある。

 私の世話役であるメイド達はマフィアの中でも仕事ができる有能な人材だ。そんな彼女達も最初は和室に慣れてなかった。しかし今では作法も完璧にこなしている。中には日本に興味をもった人もいるらしい。元日本人としては嬉しい限りだ。

 

 

「平和だね~」

 

「そうですね。今週はお嬢様を狙った敵対組織の幹部を生け捕りにできましたし」

 

 

 後ろに控えているメイドの一人がそう答える。

 

 

「……平和だね」

 

「そうですね……」

 

 

 ハミルトン・ファミリーには敵が多い。故に抗争なんて日常茶飯事だし、私自身も狙われていることもある。その場合、パパが恐ろしい報復をするけど。

 最近、死人が出なければ平和だと思っている私はマフィアに毒されたのだろうか。

 

 平和ってなんだろう?(哲学)

 

 

 遠い目をして黄昏てると、一人の黒服の男が部屋に慌てて駆け込んできた。

 

 

「お嬢!」

 

「ちょっと! 土足で入らないでよ、靴を脱ぎなさい! 」

 

 

 土足で和室に入るな! 最高級の畳が傷むでしょうが。一大事でも最低限のマナーくらい守りなさいよ。

 

 

「スイマセン! でもお嬢、日本が大変です! 今すぐテレビをつけてください」

 

 

 屋敷の人間は私が大の日本好きと認識している。まあ日本が恋しくて日本の物を集めてるからあながち間違いじゃないけど。

 黒服が慌てて私に伝えようとするほど、日本で何かが起きたのか。でも残念ながらここにはテレビは置いていない。

 

 

「お嬢様、携帯用ではありますが、これをご覧ください」

 

 

 私はメイドの一人が取り出した小型の携帯テレビの画面を覗く。

 

 

『速報です! 先程日本が射程圏内にある各地の軍事基地がハッキングされ、二千発以上のミサイルが日本に向けて発射されました。現場から中継です』

 

 

「ふぇ!? な、何よこれは!? 」

 

 

「こ、これは一体……合成、ではありませんね」

 

 

 それは信じがたい映像だった。

 

 映像には雨のように降り注ぐミサイルを高速移動しながら刀一本で斬り落としていく人型のナニカが映っていた。やがてミサイルの大半を斬り落とし、自衛隊の戦闘機が到着するとそのナニカは猛スピードで現場から離脱。反応もロストしてしまった。

 この映像を見た評論家達から様々な意見が出るが、遂に正体を特定することはできなかった。

 

 

「「「「………………」」」」

 

 

 誰も声を出すことができなかった。それ以前にこの映像について理解することができなかったーー私以外は。

 

 

『あれ?これって白騎士事件じゃね?』

 

 

 ニュースを見てなんとなくデジャブを感じた私はふと前世で読んだある小説を思い出した。

 それはライトノベル『インフィニット・ストラトス』。そして白騎士事件はその中でISが登場するきっかけになる重要な出来事だ。

 でもその白騎士事件がニュースでやってるということは——

 

 

 もしかして私、インフィニット・ストラトスの世界に転生しちゃってた?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………っは!?

 

 いかん、どうやら少し意識がとんでたみたい。でもまさか転生した先がインフィニット・ストラトスの世界だなんて誰が思っただろうか。

 転生の間で会った天使君は転生先はランダムと言ってたけど、創作物の世界まで対象とは予想もしていなかった。

 しかしインフィニット・ストラトスの世界に転生したことを理解した時から妙に何かが引っかかってるような……

 

 

「インフィニット・ストラトス……IS……ティナ・ハミルトン……あっ 」

 

 

 思い……出した!

 

 ティナ・ハミルトンってIS学園の生徒だったじゃないか! しかもヒロインの一人だった鳳鈴音のルームメイト。ほとんどモブだったから存在を忘れてたよ。

 うーん、でもインフィニット・ストラトスかあ。別に嫌いではないけど、いざ自分が当事者となるとあまり関わりたくないのが本音かな。だって原作だとIS学園って無人機やテロリストに襲われるんだもん。それに主人公とヒロイン達の痴話喧嘩って一般生徒からしたら相当危険だよね。だってよく考えてみてよ。しょっちゅう癇癪起こして日本刀で斬りかかったり、ビーム兵器撃ったり、不可視の弾丸(空気砲)撃ったり、パイルバンカーぶつけてきたり、ナイフで襲ってきたり……って普通に怪我人どころか死人でる案件じゃん! てか原作、よく怪我人出なかったな! 特にあの酢豚の空気砲は確実に死人出るわ!

 一度だけヒロインに会ってみたいという気持ちもないわけではないけど、わざわざ危険地帯に行くつもりはない。幸い女として転生したから、女尊男卑の世界で虐げられることはないだろう。尤も前世の記憶を持つ自分としては女尊男卑は好ましく思っていないから、生きやすいとは感じていない。

 

 しっかしモブとはいえ原作キャラに転生したけど、馬鹿正直にIS学園に行く必要性はないよね。いくらチートがあってもテロリストとバトる原作に関わる気は毛頭ない。ぶっちゃけIS学園を受験しなければ何も問題ないのはラッキーといえる。

 私はこの世界でのんびり生きたい。IS学園に行ったなら間違いなくのんびりとは程遠い日常になるのは確定だろう。願わくばISと関係ない人生を歩みたい。ちなみにマフィア関係は諦めた。

 

 

 

 

 しかしこの時の私はこれがフラグだったことに全く気づくことはなかった。


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