サブキャラ転生〜金色は闇で輝く〜   作:Rosen 13

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短いですが今の自分の全力になります


第27話

 篠ノ之束のラボから小気味良い包丁の音と高火力の中華鍋で具材を炒めている音が聞こえてくる。しかしそれらを奏でているのはラボの持ち主ではなく、検査のために連れてこられたイチカだった。

 

 

「はい、酢豚に回鍋肉、青椒肉絲、炒飯の出来上がりだ」

 

 

 テーブルに並べられる料理の数々に目を輝かせる束とクロエの様子に満足そうに笑みを浮かべる。

 中華料理屋を営む二人の友人の親から直々に学んだ中華料理は日本にいたときからの得意料理だ。中華鍋と材料があればメジャーマイナー問わず一通りのものは作れるが、特に酢豚はプロの料理人から絶賛されるレベルでイチカの中でも思い入れのある料理のひとつだったりする。

 

 

「どれも美味しそう〜! どうしてもいっくんの手料理食べたかったからいつでも作ってもらえるように密かに調理器具集めてた甲斐があったよ」

 

「それで妙にキッチンの設備だけ異様に豪華だったんすか……束さん家事全然できないのに何でだろうとは思ってましたけど」

 

 

 一方イチカと束が談笑している傍ではクロエがお預けをもらった子犬みたいにじっと料理の方を凝視していた。普段は大人しく束に従順なクロエでも空腹を刺激するイチカの料理の魅力には抗えないらしい。その様子を二人から微笑ましく見られていることに気づいたクロエは顔を真っ赤にして俯く。

 クロエの小動物みたいな愛らしさに

 

 

「しばらく会わないうちにずいぶんとスーツが似合うようになったね。身体つきも大人っぽくなってる」

 

「ここ二年は世界中飛び回って荒事こなしてましたからね。自然に身体も鍛えられますよ。そういう束さんは昔と全然変わらないですね」

 

 

 イチカと束。二人が最後に会ったのはイチカがハミルトンファミリーに保護された二年前までに遡る。イチカのハミルトン家に養子入りが決まったあとはイチカが世界各国に飛び回ることになったので二人が直接会う機会はなかった。何度か電話でやり取りしていたといっても簡単な世間話程度しかなかったので二人でじっくり話すのは久々だった。

 イチカがマフィアになったことに束は内心複雑だった。マフィアにするためにイチカを助けたつもりではなかった。イチカには一般人として平和に暮らしてほしかった束は一時は恩人ではあるがエドワードに預けるべきではなかったのではないか、自分が多少無理してでもイチカを引き取るべきだったのではないかと自分を責めた。

 しかしイチカがマフィアになったことに後悔はしていないこと、あのまま日本にいたらいつか壊れてしまったかもしれないこと、そもそも日本にいたときからマフィアと関わりがあったことを告げられ、逆にイチカから命を救ってくれたことや自分のことを思い感謝された。

 気づけば夕餉の時間からかなり時間が回っていた。

 

 

「ありゃりゃ、もうこんな時間なんだ。いっくんお風呂入る? 実はこのラボには檜風呂があってね〜。流石にエドくんちの大浴場には及ばないけどその辺の高級旅館には劣らない出来だから是非堪能してほしいな」

 

 

 束の言うことに従って着替えを片手に風呂場に案内されると入口は暖簾がかけられている本格的なもので引き戸を引いて中に入るとそれなりに大きい脱衣所があった。何度かハミルトン本家の大浴場に入った経験はあったがほとんど外で暮らしていたイチカにとってこういった純和風の風呂を味わうのは久々だった。

 だからなのか、イチカは完全に油断していた。このラボにはいたのは束だけではないということを。

 

 

 何の警戒もせずに風呂場に入ったイチカの目に飛び込んできたのは薄い湯気と神秘的ともいえる白い肌をした小さな背中だった。全く想定してなかった光景に絶句してしまい僅かに物音を立ててしまう。そして相手がその物音に気づいて振り返ってしまったことでイチカは自分の状況にようやく気づいてしまった。

 先に風呂場にいたのはクロエ・クロニクル。とある実験場から束に救出されそのまま助手として束に仕える少女。イチカがハミルトンファミリーによって救出された際に同じ病院にいたことから少し親交があった人物だった。

 そしてクロエが物音に気づいてタオルもないまま振り返ってしまったことでイチカの視界に彼女のあられもない姿が映ってしまい、少女の悲鳴が風呂場に響き渡ることになったのだった。


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