女性しか動かせないとされてきたISが男性に反応したという前代未聞の出来事によって訓練は当然中止となり、イチカはいつの間に現れた篠ノ之博士に検査という名目で彼女のラボへ連れていかれた。おそらく今日一日は拘束されてるかもしれない。
私は原作知識でイチカが動かせることを知っていたので、あのタイミングで動かしたことには驚いたけどそれだけで動かした事象については驚きはなかった。けれど大して驚かなかったのは私だけでまわりは目の前で起きた前代未聞の出来事に驚きを通り越して軽くパニックになっていた。オータムらは口をあんぐりしたままフリーズするし、常に冷静沈着なスコールさえも一時は思考が完全に止まっていた。すぐに再起動したものの周囲の様子に訓練の続行は無理と判断して解散させるとスコール自身も疲れたといって部屋に戻っていった。
日没までの予定が完全に空いてしまった私は開発部から渡されたポテトチップスの試作品をつまみながら暇を弄んでいた。
どうやら最近開発部が新しいシノギとしてなぜかポテトチップスの開発をしているらしく、その試作品ができるたびに毎回私に味見役として渡してくるのだ。私はポテチも好きだしどれだけ食べてもこの身体は太らない体質だったこともあって最初は快諾したんだけど、開発部は何をトチ狂ったのか普通のはつまらないといって毎回変な味の試作品を送ってくるのだ。
「うわ、あっっっっま!」
なにこれ甘すぎてポテチなのに塩っ気どころかポテトの味すらしてないんですけど。というか一口食べただけなのに甘すぎて口の中から甘さが抜けない。食感はポテチなのに味は大量の角砂糖を頬張ってるような甘さで正直微妙。ほんのりした甘さだったらさつまいものチップスみたいになると思うけどこれは限度を超えている。これ一袋全部食べろなんて新手の嫌がらせか何か?
袋の裏面を見て何味が確認したら書かれていたのはグラブジャムンフレーバー。そしてその隣に注釈で『ほぼ本物に近づけました』の文字。グラブジャムンって世界一甘い食べ物だったよね?
量は試作品ということもあってそこまで多くはないけど、あまりの甘さゆえにさすがにこれを全部食べ切るのは厳しい。なんとなくオータムを贄もとい道連れにしようかなと考えてたところに一通の着信が入る。それはイチカを検査していたはずの篠ノ之博士からだった。
「どうかしましたか篠ノ之博士? てっきりイチカの検査をしていると思ったのですが」
『いっくんの検査はもう終わったよ〜。検査といってもバイタル測定といっくんに束さん特製のお注射を一本ブッ刺しただけだからね。今後の研究材料としていっくんの遺伝子をちょろっと拝借しちゃったけど。あともう検査は終わったけど今日一日いっくん借りてくね〜』
どうやらイチカは今夜篠ノ之博士のところに泊まるようだ。元々検査で今日は帰ってこないと思ってたから大丈夫だと伝えると篠ノ之博士からとても感謝された。なんだかんだイチカも世界中飛び回ってたから篠ノ之博士とあまり会う機会がなかったので話したいことがたくさんあるかもしれない。
そういえば篠ノ之博士のところにはとある研究所で博士が保護したクロエという子もいたことを思い出す。篠ノ之博士と一緒に彼女を保護した際はしばらく治療が必要な状態だったけど、今では目も覚めて普通に日常生活を送れるまでに回復していた。ただ彼女の両目にはIS用のナノマシンが移植されているらしく、それに伴う脳や目への負担を避けるために普段は目を閉じている。しかし視覚なしでも空間把握は完璧で特に支障はないそうだ。
篠ノ之博士はどこで保護したのか明らかにしなかったけど、おそらく彼女の目に移植されているのはヴォーダン・オージェかそのプロトタイプである可能性が高いことからドイツの軍事施設で保護したかもしれない。
クロエという名は篠ノ之博士がつけたという。性格は大人しく従順的だが好奇心旺盛で世間知らずな彼女の存在を篠ノ之博士はすこぶる可愛がっており、まるで娘かのように愛情を注いでいる。
そこで私はふと気づいた。今日イチカが篠ノ之博士のところに泊まるということはそこにクロエも含まれるのではと。
「いやいやいや、今のイチカは原作とはほぼ別人だしフラグだったりハプニングがそうそう起こるなんて……」