サブキャラ転生〜金色は闇で輝く〜   作:Rosen 13

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第17話

「こちらが我々が作り上げた第二世代のIS“グレイズ”です」

 

 

 主任に連れられて案内された実験場の一角にソレは鎮座していた。

 

 正式名称 EB-06 グレイズ

 

 ハミルトン・インダストリーの特徴であるモノアイ型の全身装甲型だが、良くも悪くも実験機の色合いが強かったゲイレールと比べてデザイン等が全体的に洗練されている印象を受ける。

 ゲイレールとの違いを調べようと手渡された資料を片手に機体を隈なく観察していると、主任の方から説明が入った。

 

「第二世代グレイズは大量生産を念頭に置いた機体で構造の単純化をコンセプトにしています。その結果、開発・運用コストの低減化に成功しています。本来なら完成の予定は大分先だったのですが、ボスから新しいコアとゲイレールの対通常兵器の戦闘データを提供していただいたおかげで大幅に期間を短縮させることができました」

 

「ああ、新しいコアって私達が回収した奴ね。というか解体されてたんだ、あのIS」

 

 

 回収後はすぐに情報部門と開発部門に押収されてたから消息が分からなかったんだよね。でも出来れば一度だけでも乗ってみたかった。スコールにはあんな寄せ集めのジャンクに乗りたがるなんて物好きだと呆れられたけど、あのツギハギ感や左右非対称な感じの良さが理解できない方がおかしいと思う。

 

 

「ええ、元のパーツは使えないので溶かしてリサイクルさせていただきました。では準備が出来たようなので、早速テストの方をお願いできますか? 」

 

 

 主任に急かされて更衣室でISスーツに着替えてから戻ると、既にグレイズの周りにはたくさんのスタッフと機材が集まっていた。

 初回のテストということなので、今回は基本的な動作で反応速度や不具合の確認がメインとなる。

 しかしいざ新機体に乗るとなるとちょっと緊張しちゃうわね。

 

 

「お嬢様、乗り心地はいかがでしょうか? 」

 

「悪くはないわね。でもハイパーセンサーが良くなってるからか、視界がよりクリアになったかな。特に支障はないから問題ないと思うけれど」

 

 

 むしろより遠くまでくっきり見れるようになったから、戦闘の場面ではかなり助けになるかもしれない。

 新しいハイパーセンサーに目を慣らした後は、ゆっくりと歩いたり手を動かしたりするなど基本的な動作を繰り返して、機体が正常に反応するかどうかを確認する作業がひたすら続いた。

 地味で単純な作業だけど、これもテストパイロットの大事な仕事だ。

 

 

「スタッフ、さっきの右腕を上げた際に反応速度が〇.〇七秒の遅れ」

 

「今度は左足を曲げた時に反応速度が〇.二八秒速くなってる」

 

「スラスターの出力が一定していない。特に旋回時の出力が不安定ね」

 

 

………………………………………………………………

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 それから大小の不具合を微調整しつつテストを始めてから数時間が経過した。ちょくちょく調整や休憩を挟みつつの作業とはいえ流石に疲れた。

 ISスーツのまま壁にもたれかかり、スタッフから渡されたゼリー飲料を飲んでいると、作業を終えたらしい主任がこちらに向かってくる。

 

 

「ではこれで今回のテストを終了いたします。協力ありがとうございました。今日だけで大部分の誤作動や不具合を再調整することができました。実際に乗ってみた感想はいかがでしたか? 」

 

「そうだね。一番感じたのはグレイズの操縦のしやすかったことかな」

 

 

 そう素直に思ったことをそのまま口にしたら、突然主任が「良かった、良かった…… 」と静かに涙を流しながら膝から崩れ落ちた。

 

 

「ちょっと主任!? いきなりどうしたの!? 」

 

「嗚呼、申し訳ありません…… 少々、お嬢様のそのお言葉で天に召されそうになりかけただけですので」

 

「ごめんちょっと何言ってるのか分からない。ところで主任がガチで灰になりかけてるんだけど、これどうすればいいのよ? えっ、いつものことなんでスルー? いやこの人、本当に人類? 吸血鬼じゃなくて? 」

 

「実はですね、お嬢様の操縦しやすいという言葉はグレイズ開発スタッフにとって最高の褒め言葉なのです」

 

「(みんなスルーしてるし、灰のことは放っておこう)どういうこと? 」

 

「何故ならゲイレールの時の反省を踏まえてグレイズの操縦性は構造の単純化と並行して徹底的にこだわり抜いてきた部分だったからです! 目標は初心者からベテランまで扱える機体。おかげで連日残業残業残業残業。連勤、休日出勤は当たり前。その分給料やボーナスは出てましたけど、やっと取れた休日は一日中睡眠だけで終わってしまった。ここは、日本じゃ、ないんですよ……!! 」

 

「あ〜、その、お疲れ様ですマジで」

 

 

 後半部分ほとんど仕事の愚痴になってんじゃないですかやだー。いや本当にちゃんと身体休めてね。

 

 ゲイレールの時はバランスとかが繊細で慣れれば問題なかったけど、操縦しやすかったかどうかと言われると微妙だったからね。私も慣れるまでよく壁に激突してたっけ。シールドエネルギーと絶対防御がなかったら何度機体をスクラップにしてたことやら。

 そう考えると今回のグレイズはそういった癖みたいなものは全くなかったので、とてもスムーズに操縦することができた。

 開発・運用コストを抑えられて操縦もしやすい第二世代、しかも整備もしやすいなんて、これが本格的に実用化できれば世間は絶対欲しがるだろうね。

 まだ試運転以前の段階だけど、ひとりのパイロットとして私はグレイズにとても満足している。

 

 ただ満足はしているんだけど、ひとつだけ注文があったりする。まあ、注文というより個人的な要望(わがまま)なんだけど。

 

 

「ねえ、主任。資料には標準兵装はマシンガンとアックスって書いてあるけど、追加や変更って可能? 」

 

「結論から言いますと可能です。標準兵装はあくまで標準に過ぎませんし、今回から兵装を全面的に量子化いたしましたので、容量の問題はありますが積載量を気にする必要はありません。しかし何故そのようなことを? 」

 

「いや、マシンガンとアックスだけじゃちょっと心許ないかなって。競技用ならこれで十分なんだろうけど、実戦を想定すると不測の事態に備えてあといくつか武器が搭載できればありがたいんだよね」

 

 

 これは篠ノ之博士救出作戦のときに強く思ったことだ。あのときもマシンガンとアックスのみだったので、篠ノ之博士特製の通常兵器の突破に相当苦労した。もしバズーカか何かひとつでもあったならば、戦術の幅も広がりもっと楽な展開になったかもしれない。

 それにマシンガンがジャムったりする可能性も考えると、やはり標準兵装のままだと不安がある。

 

 

「なるほど。一考の余地ありですね」

 

 

 個人的には予備のマシンガンとアックス、あとは牽制用のミサイルや狙撃用ライフル、グレネードランチャー、チェーンガンは欲しい。そういえばハミルトン・インダストリーと提携してる企業の中に火炎放射器やとっつきといわれる武器を作っているところがあった気がする。気になるからそれも追加してみたいな。

 実験を終えて屋敷に帰る際、追加したい兵装の希望を主任に伝えると、途端に顔を引攣らせてたけど一体何故だったのだろうか。


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