サブキャラ転生〜金色は闇で輝く〜   作:Rosen 13

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途中で視点が変わります。


第11話

 パン、パン、パン、パン、パン

 

 

「五発中五発命中。内訳は頭部二発、心臓二発、局部一発。お見事ですティナお嬢様」

 

 

 ナンシーの報告を聞きながら手元のベレッタM92をくるりと一回転させてホルダーに納める。格好いいからと始めたこの動作も随分と様になってきた。最初は臭いと思っていた射撃場に広がる煙硝の匂いが今では心地よい。

 まだ的を確認していないが、ナンシーの報告が正しければ何発か急所から外れた前回と違って今回は全弾急所に命中させることができた。魔弾の射手の恩恵なのか射撃をこなすうちに手応えも感じるようになり、日に日に射撃の腕が上がってきてる気がする。

 ナンシーに事前につけていた目隠しを外させるると五発撃ち込まれたという目の前の人型の的に近づく。

 銃弾はナンシーの言う通り、それぞれ急所を貫いていたが、頭部の二発は数ミリの誤差だが微妙に額から逸れていた。部位から外れてるわけじゃないけどまだまだ成長の余地はありそうだ。

 

 

「目標が高すぎませんか?」

 

「甘いわねナンシー。この程度で根を上げてたらIS乗りとして生きていけないわ。特に裏の連中は化け物よ。妥協してたら命を落としかねない」

 

 

 本人達曰く、相当な手練れであるはずのスコールやオータムもIS乗りとしての腕は中の上、よくて上の下らしい。IS誕生から数年しか経ってないのに化け物多すぎでしょ。

 それに比べて私は一応チート持ちだけど単純な身体能力は常人以上軍人未満だ。

 それに強力なチートといえる魔弾の射手は実は努力なしでどうにかなるような万能なものではない。若干の補正はあるものの魔弾の射手はあくまで英雄に至れる可能性をもつ才能にすぎない。当然努力を怠れば英雄クラスに至れる可能性を秘めた力もただの宝の持ち腐れに成り果てる。

 

 この力を生かすのも殺すのも自分の努力次第。

 

 そんなことはとうの昔に分かってたつもりだったし、自分はちゃんと努力してると思っていた、いや思い込んでいた。

 でも現実はそう甘くなかった。

 

 篠ノ之博士救出戦。

 

 あのとき私は罠から逃れるのに精一杯でほとんど何もできなかった。

 篠ノ之博士を救出できたのも彼女自身が襲撃犯を返り討ちにしたから。罠に手間取って時間をロスした私達にできたことは無力化された襲撃犯を輸送するだけ。事実上の作戦失敗だった。

 それまで能力に驕らず真面目に努力をしてたつもりだったけれど、結局それは「つもり」でしかなかった。

 初陣だったからか私は終始冷静を欠いていた。なんとか生き残れたのはベテランのオータムが私をリードしてくれたからだ。

 だから余計に自分の認識の甘さと未熟さが恨めしかった。周囲からは初陣だから仕方ないと慰められたけど思ってる以上に無力だった自分が悔しくて情けなくて、許せなかった。

 

 もう二度とあんな思いはしたくない。

 

 

「ナンシー、新たな的を用意してちょうだい。もうワンセットやるわ」

 

「かしこまりました」

 

 

 結局私はワンセットだけでは満足できず、ナンシーに止められるまで射撃訓練を続けたのであった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 その日の深夜、ハミルトンファミリー幹部御用達のバーのカウンターにオータムとスコールはいた。最近の彼女達の話題は同僚のティナについてだった。

 

 

「それでティナの様子はどうだった?」

 

「チッ、あいつ今日も夜遅くまでやってたぜ。ナンシーがいるおかげで無茶はしてねぇみたいだ」

 

「アレからずっとあの調子よね。正直初陣のティナにあの任務は荷が重すぎたわ。あれはあまりにも不確定要素が多すぎた」

 

「あんとき分かってたのは隠れ家の座標だけだったからな。しっかし襲撃犯に迷路のような隠れ家、限られた時間さらにはオーバーキルな迎撃システム、か。そう考えると初陣のあいつが無事に戻れたのは奇跡に近かったんだったんだよなぁ。アタシも何度か走馬灯が流れたことか……」

 

 

 特に『三千世界』のときは酷かった、と苦い記憶を振り払うようにスクリュードライバーを口に流し込む。

 好戦的なオータムすらも死を覚悟した今回の任務。誰もが生きて帰れただけで充分と初陣のティナを責めようとしなかった。

 けれどティナはそうは思わなかった。

 作戦終了以降、自分の未熟さを責めた彼女はより訓練に没頭するようになる。訓練の時間が長くなるのは勿論、内容も以前より濃密になっていた。

 新人時代に似たような経験をしたオータムとスコールは挫折を味わったティナの気持ちを痛いほど理解できる。二人も何度も苦い経験を糧にして這い上がってきた。

 最初はティナの変化を快く思ってた二人だったが、どんどんハードになっていくティナの訓練の様子に次第に顔を曇らせるようになった。

 忘れているかもしれないが彼女はまだ十二歳なのだ。成人女性でも根をあげる彼女の訓練は未成熟な身体に過度の負担を強いていた。しかしティナは週に一回休息日を設けるなど身体が壊れないように工夫しているため、頭ごなしに訓練をやめて休めとは言いづらかった。

 

 

「できればティナには年相応な暮らしをしてほしいんだけどね。友達、いるのかしら……」

 

「スコール……それ完全に母親ポジのセリフだ。あと、あいつ本人にダチのことは絶対聞くなよ、ブッ壊れるから」

 

 

 オータムは一度だけティナに友達の有無を尋ねたときがある。オータムとしてはちょっとしたからかいのつもりだったのだが、質問を聞いた途端にティナが急に挙動不審になりはじめたのだ。

 

 

『えっ、と、友達?い、いるし!ちょーいるし! 百人とかよゆーなんですけど!』

 

 

 声を震わせて視線を明後日の方向に逸らす姿にオータムは目頭が熱くなった。その後も必死に友達いるアピールしまくるティナに二度とこんな質問はしないと心に誓った。

 

「そ、そうなの……」

 

 なんとなく察したスコールは気まずそうにカクテルの入ったグラスに手を伸ばす。

 甘いはずのピニャ・コラーダがほんの少し、苦く感じた。

 

 

 

 


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