「そのモノアイ型の全身装甲……ハミルトン・インダストリー社の第一世代、ゲイレールだね。なるほど、君がエドの言ってた援軍なんだ。来てくれたのはありがたいけど、でも欲を言えば、もうちょっと早く来てほしかったなぁ……」
まず部屋に突入した私の目にとびこんできたのは内部で爆発でも起きたのかと思うほど瓦礫とスクラップで滅茶苦茶になっている部屋。あたりに転がってる機械の残骸を見る限りここは篠ノ之束のラボだったと思うけど、無残に破壊されていてその面影はほどんど残されていない。液晶が割れたモニターや何に使うか分からない大きな機械がなかったらここが何の部屋か分からなかった。
そんな部屋にいたのは地面に横たわる数人の女性と彼女らが装着してたと思われるISの残骸も放置されている。地面に突き刺した刀で身体を支えながら片膝をつく篠ノ之束の姿だった。
「篠ノ之博士!?」
彼女は肩で息をしながらドバドバと鼻血を流していた。明らかに尋常じゃない様子に焦った私は急いで篠ノ之博士のもとへ駆け寄る。篠ノ之博士は安心したのかふらりと私に倒れかかった。
「ううっ頭が痛い……やっぱり禁術って使うもんじゃないや。代償の脳への負担が予想以上……これ、束さんじゃなかったら、絶対廃人になるね……」
禁術? 代償? 廃人?
事情は分からないけど何か色々とやばいフレーズが聞こえてきた。いや本当にどういうことなの? ていうか絶対科学者言うセリフじゃないよねそれ。
「だ、大丈夫ですか——ッ!?」
苦い表情で頭を押さえる篠ノ之博士を支えようと手を伸ばしたその時。突然背筋が凍るようなぞわりとした悪寒が私に襲いかかった。
一瞬遅れてこちらが狙われてることを知らせるISの警告アラームが鳴り響く。
アラームが示してる先は篠ノ之博士の背後。
そこには左手で耳を押さえ、残った右手でIS用のハンドガンを構えたISを纏う金髪の女がいた。
うそっ、さっきまで全員ISが解除されてたのに! まさか一人だけ見逃してた!?
「クソッタレがァァァァ!! 」
「クッ、ウゥゥゥ! 」
考えるより先に篠ノ之博士を庇うように女の前に飛び出すと同時にパンパンパンッと銃声が上がった。
「グゥ……! 」
身体中に衝撃が走り、シールドエネルギーが削れる。
何発かは左腕に装備してたシールドアックスで防げたけど、残りの銃弾は食らってしまったみたい。だけどおかげで後ろにいる篠ノ之博士には一発も銃弾は跳んでこなかったようだ。
「チキショウ……」
篠ノ之博士の無事を確認しほっと安堵してると女は弱々しく悔しそうな声をあげた。ガチャッガチャッと引き金を引いてるが弾は出てこない。どうやら彼女の銃が弾詰まりを起こしてしまったらしい。
チャンスだ。だがゲイレールの標準装備であるシールドアックスはさっき盾として使ってしまった。武器として使うにしてもタイムロスが起きてしまう。ならば私が選ぶのはひとつ。
空いてる右手にオータムと別れるとき彼女から受け取ったもうひとつの武器を展開する。そしてその柄を掴んだ瞬間にそのまま女に向かって投げつけた。
それはピッケル。
「ふぇ?」
女は思わず呆けた声を上げる。ハンドガンを投げ捨ててブレードを展開していたが、既に疲労困憊だった女にかなりのスピードで回転しながら飛んでくるピッケルを避けることはできず、ピッケルの先端が女の頸に勢いよく突き刺さった。急所に命中したけど絶対防御が発動したので死ぬことはない。だけどその絶対防御の発動でシールドエネルギーが底をついたのかISが強制解除された。女は声を上げることなく、受け身もとれずにそのまま地面に倒れる。ぐったりしてるから死んだかもと焦ったけど、胸が上下してるのが見えたからただ気絶してしまっただけだった。
しばらくは大丈夫だけどまた動かれると困るのでさっきのを含めた倒れてる女達は篠ノ之博士から借りた専用のロープで全員拘束させてもらった。ちなみにISは彼女達から離れた場所に一箇所で集めてある。
「ねえ、君に頼みがあるんだけど」
まだ体調が回復せず横になってた篠ノ之博士がISの回線でスコールに連絡してた私に話しかける。
「何でしょうか? 救援ならさっき仲間に連絡したのでしばらくしたら到着しますよ」
「そうなの? なら君の仲間が来たら話すとしようかな。人手が必要だからね」
数分後、私から連絡を受けたスコールが部屋に到着した。ISのダメージが大きかったオータムは一足早くトラックに戻ったらしい。
しかしオータムがいないとなると困ったな。こっちには拘束した女四人とそのISがあるんだけど。
えっ、何個か処分すればいい? いやいや絶対数の少ないISは確保しておきたいし、この人達も貴重な情報源なんだから面倒って理由で消しちゃだめだって!
結局、ISと女達は後でトラックと控えていた他のメンバーを引き連れてきたオータムに丸投げ。オータムは怒ってたけど、私には篠ノ之博士の頼みを聞かなくてはならないのでさらば。
「それで頼みとは一体何でしょうか? 」
「それは…………」
篠ノ之博士曰く、この隠れ家の最奥部にある核シェルターに博士が違法研究所から助け出した少女がいるらしい。しかし衰弱しており、現在も意識が戻らず医療用カプセルで眠っている状態だという。離脱が可能だったにもかかわらず篠ノ之博士が侵入者と対峙したのも身動きがとれないその子を守るためだったようだ。
他に要救助者がいるなら頼みに応えないわけにはいかない。
まだ本調子でない博士を抱えながらその部屋に辿り着くと、そこには銀髪の小柄な美少女が医薬品らしき黄緑色の液体が入った巨大なカプセルの中で眠っていた。少女は治療のため衣服を纏っておらず、液体の中で髪をゆらゆら揺らしながら眠るその姿は同性である私が見惚れてしまうほど神秘的に見えた。
「ほら、惚けてないでさっさと運びなさい」
ジーッと少女を見つめてたらスコールに叱られてしまった。少女の入ったカプセルはIS一機では持ち上がらず、私とスコールの二人掛かりでようやく動かせることができた。
行きは私が抱えていた篠ノ之博士は帰りは自力で歩いている。大丈夫かと聞くともう副作用だった脳へのダメージは回復したそうだ。脳へのダメージってこんな簡単に回復したっけ?
落とさないように慎重にカプセルを外に運び出すと、外にはISと女達を回収済のトラックとややイラついているオータムが待ち構えていた。オータムはカプセルと篠ノ之博士を女達を詰め込んだのとは別のトラックに乗せる。いつの間に二台目のトラックが、と荷台に乗るオータムを見てると、オータムは頭をガシガシかきながら面倒くさそうに事情を語った。
「あ~、トラックの手配はボスからの指示らしいぞ。アタシ達が出撃した後に篠ノ之束を乗せるためにつってな。あの野郎、絶対アタシ達が最初のトラックに敵を乗せるって分かってやがったぜ」
だったら最初から二台連れてくって言えよな、とぼやくオータムを宥めながら私達も同じトラックの荷台へ乗る。スコールから状況を連絡されたパパの指示によって篠ノ之博士と少女はこのままハミルトン・ファミリーの息がかかった病院へと搬送することになった。
ブロロロロッとエンジン音を上げながらトラックは鬱蒼と木々が茂る山道を駆け抜けては廃墟となった隠れ家から遠ざかる。やがて二台のトラックは闇の中へと姿を消したのだった。