「うん?ここはどこ?」
気がつけば私は真っ白な空間にいた。夢の中だろうか。だけどそれにしては妙にリアリティがあるような気がする。現実なのか夢なのかよく分からなくなってきた。
『やあ、お目覚めかい?』
後ろから声が聞こえた。振り返るとその気のお姉さんにお持ち帰りされそうな、天使のコスプレをしたショタが立っていた。金髪碧眼の美形で将来有望そうだ。
「あなたは一体誰?ここはどこなの?」
『僕は天使だよ。ここは転生の間っていうんだ』
転生の間?やっぱり夢なのかな。転生って私が死んでるみたいじゃん。私に死んだ記憶なんてないし、自分が死んでるなんて信じられるわけがない。
『残念ながらこれは夢じゃない。憶えていないようだけど、君は間違いなく死んだんだよ……ただどうやって死んだか憶えてないのは、ある意味幸運だったかもしれないね』
天使君は私を見ながら哀しそうに笑う。多分、後半部分は私の死についてだろう。彼は私の死を知っている。だけどわずかに彼の笑顔が曇ったのを見て、私は自分の死について聞くのをやめた。
しばらくすると、死んだ時の記憶がないのに自分は死んだんだなと何故か理解した。悲しみや虚しさが押し寄せてきて一瞬気持ちが混乱しかけたけど、時間が経つにつれて次第に気分は落ち着いていった。
ようやく冷静になれた私は彼と向き合う。
「それでこれから私はどうなるの?天国か地獄でも行くの?」
『どちらでもないよ。ここは転生の間。君には異世界に転生してほしいんだ』
それっていわゆる異世界転生?私としては別に構わないけど。
『ごめんね、理由は言えない。できれば天国に行かせてあげたいけど、上司の命令でそれはできないんだ』
彼ーーいや天使君と呼ぼう。天使君は眉をハの字に曲げてショボンとしている。ちょっとかわいい。
『でも転生先で困らないように特典を与えるから安心して』
なんかテンプレみたいな展開だ。
「チートって奴かな?それと転生先ってどういう世界か分かる?」
『転生先はランダムだからこっちも分からないんだ。できれば平和な世界に行ってほしいけどね』
転生先までランダムなのか。ここはテンプレとは違うんだね。でもミジンコとかに転生したくはないなー。
「ランダムなのは仕方ないね。じゃあ特典の方は?」
『特典もランダムだね。ちょっと待ってて、準備してくる』
そう言うと天使君の前にズモモモッと金ピカのでっかいガチャガチャが地面から生えてきた。
「ふええええええ!?」
な、何ぞこれ! 女性として平均的な身長だった私より大きい。少なくとも二メートルはありそうだ。
『これは特典を決めるためのガチャだよ。チャンスは三回だ。やり直しはないからね』
むむむ、チャンスは三回ということは貰える特典は三つということだね。やっぱりリセマラはないのか。転生先はランダムらしいから、出来れば特典は汎用性のあるものが欲しい。
というわけで早速ガチャを回す。
出てきたのは野球ボールほどの大きさをした銀色のカプセルだ。ガチャガチャの大きさに比べてカプセルは小さいな。いやカプセルもデカかったら開けづらいだけだから、むしろこれで良いのか?
『お、いきなり銀色とは運が良いね。ちなみにガチャに入っているカプセルの色はレア度の高さ順に金、銀、銅、白の四種類だよ』
つまり銀は結構レア度が高いんだ。ソシャゲで例えるならハイレアぐらいかな。ともかく一回目で銀が当たったのは幸先が良い。どんな特典かな?
ドキドキしながらカプセルを開けるが、中には何も入っていなかった。
ちょっとどういうこと! と天使君に抗議しようとすると、突然女性の声が頭に直接響いた。
“【肉体強化(大)】を取得しました”
「えっ?」
『おっ、無事特典を取得できたようだね。で、特典は何だった?』
「えーと、肉体強化(大)だって。これってどういう効果なの?」
『効果はその特典の名前を頭の中で念じれば分かるよ』
ふむ、【肉体強化(大)】!
【肉体強化(大)】
◯筋力、敏捷、耐久などの身体能力を大補正。常時発動。鍛錬によってさらなる効果が期待できる。スキルに驕らず、地道に頑張ろう。
「身体能力を大補正って。これ結構当たりじゃん」
でもこれで安易にチートできるとは思っていない。怠けて貧弱な身体になれば補正があってもせいぜい人並み程度にしかならないだろう。説明に書かれてる通り、運動はしっかりやった方が良さそうだ。
さて切り替えて再びガチャを引こう。いきなり当たりがでたからこれ以上良いものが出る気がしない。そんなに期待はしないようにしよう。
コロンコロン
「うわぁ……」
『えっ嘘っ!?』
出てきたのは金色。つまり最初のやつよりレア度が高い。金色が出るとは思わなかったのか、天使君は顎が外れそうなほど口を開いている。私もまさか金が出るとは思いもしなかった。正直、喜びより戸惑いの方が強い。
「えっと、開けるね?」
恐る恐る開けると、先程と同じく中には何もない。
“【悪のカリスマ】を取得しました”
「……DIO様かよ」
まず名前からして明らかにヤバイやつなんですが。当たりである金なのに嬉しくもありがたくもない。
【悪のカリスマ】
◯絶大なカリスマ性。特に悪党から慕われやすい。常時発動。目指せ裏社会の首領。
説明見て、改めて思った。この特典マジいらねぇと。だって悪党から慕われやすいって明らかに面倒事じゃない。裏社会なんかに関わってたまりますかっての!
「ねえ、特典のやり直しって……『もちろんなしだよ』デスヨネー」
まあ分かりきっていたことだけどね。天使君の黒い笑みで淡い期待は砕け散ってしまった。トホホ。
「仕方ない……最後は白でも良いから本当にマシなものが欲しい」
変なの出ませんように変なの出ませんように変なの出ませんように変なの出ませんように変なの出ませんように変なの出ませんように変なの出ませんように変なの出ませんように変なの出ませんように変なの出ませんように変なの出ませんように…………
覚悟を決めてガチャを回す。出てきたのは——
「これは……虹色?」
出てきたのは金でも銀でも銅でも白でもなく、虹色に輝くカプセルだった。
うわー虹色なんてあるんだ……ってこのガチャって四種類だけだったよね?
『えっ虹色?こんなの僕知らないよ……』
どうやら天使君にもこの現象が分からないようだ。
「バグなのかな?」
『分からない。もしかしたら上司が悪ふざけで入れたかもしれないね。そのカプセルに邪悪な気配はないようだし、開けても問題はないと思うよ』
いや開けても良いのか!? 微妙に不安だけど引き直しはできないようだし開けるしかなさそうだ。
せめてさっきみたいなヤバイ感じじゃないやつ来てください。
パカッ
“エキストラスキル【魔弾の射手】を取得しました”
エキストラスキル【魔弾の射手】
◯あらゆる遠距離兵器における人類最高峰の類稀なる才能。射撃はおろか、知識、開発にも極大補正。成長スピード五倍。才能は英雄クラス。死後は英霊になるかも。
『「………………………………」』
二人とも絶句して言葉がでない。英雄クラスの才能なんてある意味【悪のカリスマ】よりタチが悪すぎる。
『ま、まあ……このスキルを生かすのも殺すのも君次第だからね……』
天使君よ、声が震えてるぞ。
でも出てしまったものは仕方ない。チート過ぎるけど、このスキルを眠らせておくのは、さすがにもったいない気がする。
『あっ、もう時間だから転生させるよ! とにかく頑張って。後、マジでごめん』
突然、私の身体が
下を向くと私の足下には真っ暗で底が見えない穴ができていた。
「うひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
最後に私が見たのは、穴に吸い込まれるように落ちていく私に向かって笑顔で手を振っていた天使君の姿だった。
せめて君の上司に一言文句言わせろやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
◇◇◇◇◇
『さてさて、あの子の転生先はどこかな~?』
ガチャガチャの後ろに備えてあった転生先を決めるルーレットを見る。
ルーレットの針が刺していた転生先の世界は——
『インフィニット・ストラトス』