嫌われの忌み子あれば拾われる鬼子あり   作:時雨日和

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第4話 忌み子は忌み子

「1…2…3…」

 

ああ…死んでいく、死んでいく…

 

「4…5…6…」

 

流れてくる…

 

「7…8…9…」

 

父さん…母さん…

 

「10…11…」

 

兄さん…

 

「12…」

 

僕も…死のう…

 

「……11」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

現在は夕食時、食堂には屋敷にいる面々全員が揃っている。貴族の食事中のマナーを知らないルイスだが、その点は食事前にミリアに教わったため全てではないが恥ずかしくない程度には出来るようにはなっていた。

 

所々で話す事はあったが、基本は静かな食事の中上座に座っているカルロスがルイスへと質問する。

 

「ルイス」

 

「はい、なんですか?」

 

「つい先程、この屋敷に来ていた兵士達と何があったか聞かせてくれないかい?」

 

「……」

 

カルロスの表情は最初にルイスと出会った時の柔らかい表情でも屋敷に着いた時の軽い表情とも違う、真剣味の帯びた堅い表情へと変わっていた。言葉自体は今まで通りだが心做しかその言葉にも強みを感じる。

 

「あの時は…」

 

「エグル、私はルイスに聞いているんだよ?」

 

ルイス達がが行く前に対応していたエグルが説明しようとしたところそれをカルロスは遮った。

 

「失礼致しました。」

 

「…村から鬼がいるという報せが届いたようで、僕を連れていくために兵士5名、隊長格1名が屋敷に来ました」

 

「へぇ、それで?」

 

カルロスは顎に手を置きながらその話を聞く。その場に居なかった他の使用人達もそれに聞き入る。マリーを含めたあの場にいた4人は他の使用人達に何も言っていなかったようだ。

 

「最初はエグルさんだけで対応していてそれを僕とクリスとマリーで2階でその様子を見ていたのですが、隊長格の人物が現れた所でクリスがそこへわって入っていきました。」

 

カルロスがクリスの方をチラリと目だけで見る、クリスはその視線と目が合ったがすぐに逸らす。

 

「そして、クリスと隊長格の人物が口論に発展しクリスが魔法を放とうとした時に僕が出ていきました」

 

「それはどうしてだい?」

 

「騒ぎを起こす事は得策ではないと感じたから……いいえ、正確にはクリスが騒ぎを起こす事ではないと感じたからです」

 

「つまり?」

 

「…囮です。僕が連れていかれればそれで良いと思い、大人しく従おうとしましたが…僕は裏切られ殺されました」

 

「殺された!?」

 

その発言に1番反応を示したのはミリアだった。それもその筈だろう、彼女は見ていなければ、聞かされてもいないからだ。それはもちろんリクやメルも大層驚いていた。

 

「殺された…か。では今私の目の前にいる君は何だい?」

 

ただ、カルロスのみが大きな反応を見せなかった。

 

「僕は…僕のままです。ただ殺されたのも事実です」

 

「………」

 

「僕には怨霊が取り憑くという恩恵が与えられています。それに気づいたのが、鬼の殆どが壊滅したあの日です。死体をこの目で見るとそれに憑いてる怨霊が僕に憑き今取り憑いている怨霊の数を発するんです。そして僕が死ねば怨霊が変わりに死ぬという流れです。今現在怨霊の数は84、上限は無いと思います」

 

「………」

 

その説明に誰しもが言葉を失う。全員、見えているのだルイスの後ろにはっきりとは見えないが、黒い靄のようなものが大量にオーラのように漂っているのを……

 

特にマリーは肩を抱き小さく震えている。

 

「(あぁ…本当に…かっこいいよぉ〜…)」

 

でもそれは恐怖ではなく興奮し自分の理性を抑えようとしているものだというのはまだ、誰も知りはしない。

 

「…申し訳……ありません」

 

「どうして謝る?」

 

尚も変わらぬ視線でルイスを見るカルロスが、少しだけ怪訝そうな表情で見やる。

 

「屋敷に…エグルさんやクリスに迷惑をかけたのは僕の責任です。僕が…ここにいることで迷惑をかけてしまいます。本当に…申し訳ありません」

 

「ルイス」

 

「僕が居れば確実にここには災厄が来ます。鬼の一族がそうだったように…この屋敷にも!」

 

「話を聞きなさい」

 

「でも!」

 

「いいから」

 

ルイスが興奮し、声を荒げようとカルロスは諭すよう優しく落ち着いて声をかける。

 

「……ぅ」

 

「少し落ち着くんだ。誰も君を責めないし、君を追い出したりしない」

 

「でも…僕は忌み子で……だから村にも…」

 

「君が今までどんな扱いを受けてたとかは私にはわからないし、みんなにもわからない。でも、君だってここにいるみんながどんな扱いを受けてたかだってわからないだろ?」

 

「え…」

 

「まずはエグル、エグルは10年以上も前に家族を魔獣に殺された。エグル自身も重症を負って何ヶ月も療養して傷は完治したが精神までは閉ざされた。一時は自殺まで考えていた、歳も歳だから雇う所も少ないだろうからね。そんな時に私はエグルに出会って私が雇った」

 

「エグルさん…」

 

その話を聞きルイスはエグルの方へと目を向ける。エグルはルイスと目が合うとゆっくりとその話を肯定するように頷く。

 

「次にメドニカル姉弟とマリーだけど、3人とも同じような境遇なんだ。3人とも親に捨てられた。理由はそれぞれだ、メドニカル姉弟の方は少し逃げてきたような要素も含まれるが生活維持の問題と父親からの虐待。マリーの方は…服で隠れてはいるが体のいたるところに原因不明の痣がある。医者に聞いてもわからないけど命には別状はない、と判断されたのが私の屋敷で働いてからだ。つまり、その痣を不気味に感じて捨てたようだ」

 

ルイスは3人を順番に見回す。3人とも最初は俯いていたが、ルイスが見回していると感じると顔を上げてエグルと同じように静かに頷いた。

 

「メルは、逃げてきた子だ。メルは小さい頃から魔力が高く、神童と呼ばれるまでだった。でもそれがダメだった。メルは人体実験を受けていた。理由は簡単、神童の細胞を取り神童を量産する。つまりは使い捨ての戦力を増やし尚且つ強い生命体をつくるため…だ」

 

同じくメルにも視線を送る。メルは笑いながら頷いた。

 

「そしてクリスだが、聞いているとは思うけどクリスは元々貴族だった。私とはほとんど縁のない家系ではあったのだけどね。クリスはその家系を嫌っていた。日々村民を虐げ、汚職に塗れ、クリスに対してもまったく興味を示さなかった。そしてクリスはその家系を家ごと燃やし、二町ほど離れた私の屋敷まで来たというわけだ」

 

「そんな事もあったな」

 

など呟いたクリスは、少しだけバツが悪そうな感じにルイスを見て

 

「今聞いたとおり俺は罪人だ。でも一応バレてないんだけどな、だから今もこうしてここで働いていける。ていうか、バレてるバレてないとか関係ないんだよな、俺でも罪の意識はある、お前だってあるかもしれない。でも、俺とお前は違うだろ。俺は自分でやった、でもお前が村に災厄をもたらしたとかはたまたま起きた事だ。もしかしたら本当かもしれないが確証はないんだからな、だからお前がそんなに背負い込む事じゃない」

 

「でも僕は忌み子だ…角が小さい…生まれてから3年間ずっと声もあげず目も開かなかった…村からも、家族からも見放されてた…」

 

重々しくルイスの口からそれは告げられる。そして椅子から立ち上がり言葉はそのまま繋がれる

 

「兄さんだけだった…兄さんだけが僕を見てくれた。兄さんは天才だった…小さい頃から現存する鬼の中でも最強だったんだ…兄さんは僕の憧れだった、救いだった、最後の…縋りつくための存在だった…そんな…そんな兄さんを…鬼の一族を…王国軍の兵士達が….タロットの騎士達が滅ぼしたんです。僕を残して…僕が、残ってしまって……」

 

1度目を伏せた後開いた時には青白い光が目の周りを覆っていた。

 

「だから…俺の野望はタロットの騎士を根絶やしにする事だ…ルイスがタロットの騎士と聞いて倒れたのは一族の事を思い出したのが原因だ」

 

「君が、ルイスの兄…だね」

 

「そう、レイジャル・テスタロット通称レイ。正真正銘ルイスの兄だぜ。ルイスの主殿…ん?」

 

カルロスに挨拶した。その姿を見た使用人達が驚きに声も出せておらず、呆然とその姿を見ていた。

ふと、レイがマリーの方へと向かい座っているマリーに目線を合わさるように少ししゃがむ。それをマリーは自分の肩を抱きながら見ていた。

 

「お前…恩恵…いや恩賞持ちか。ふーん……」

 

「ぁ…ぁぅ…」

 

レイはまっすぐマリーと目を合わせる。マリーは緊張からみるみる顔を赤くしていく。

それをそこにいる全員が見ることしか出来なかった。仮にこのままレイがマリーに危害を加えてもレイには何も出来ないという事がそのオーラでわかるからだ。

レイはマリーの頭にゆっくりと手を乗せる。

 

「良いものを持っているな。気に入ったぜ」

 

そのままマリーの頭を撫で、ルイスね特徴的な八重歯をチラつかせながら笑った。

その光景を見てその場にいる全員が安堵した。

だが、それをぶち壊すように1人の男の声が響いた

 

「身長約173cm、体重約61kg、青髪の黄眼、頭には角が生えている、現在は執事服に身を包んでいる、そして、周りには常に怨霊が憑き纏っている…と。全部当てはまるな」

 

全員がその声の方へ…食堂に備え付けてある窓の方へと目を向ける。

そこには片目が無く、片腕が無く、片足が無く、片耳が無い男が壁に寄りかかりながら立っていた。

男はそのまま言葉を続けた

 

「言いたい事はわかる、誰だ?だろ。答えてあげるよ。吾輩の名前はガイア、『チャリオット』の騎士だ」


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