嫌われの忌み子あれば拾われる鬼子あり   作:時雨日和

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第5話 消失と反転

フェデルの元につくことになったその夜、ルイスは城を抜け出し、城の裏にある森へと向かった。もちろんメリーは付いてきている。

城を出た理由、それは

 

「どうしたの?旦那様」

 

「気配がする…よく分からないけど、何とも言えない感覚がする」

 

「よく分からないの?」

 

「うん、でも嫌な予感しかしない。『エンペラー』に会った時よりもより強い何かが…」

 

その時、より一層の気配と悪寒が一気に流れてくるのをルイスは感じた。その感覚に足を止めた。

 

「近い…」

 

草むらを歩く音がした。薄暗い月明かりだけの森に足音だけを響かせながら、その主は現れた。

月明かりに照らされた姿は、真っ白だった。スラリと細い体は白い服に身を包み、白い髪に病気なのではないかと疑うほどの白い肌をしていた。その中で黒い目が余計に目立つ女の人。

 

「なんだ、思ったよりも早く気がついてしまったんだね」

 

「お前は…」

 

「無理矢理聞き出してみなよ。ただ、暴力に屈する程僕はやわじゃないけどね」

 

腕が隠れるほど異様に長い袖で口元を隠しながら笑った。別にその人の身長が低い訳でも腕が短い訳でもないのに…とにかく異常だと察した。

その様子にルイスもメリーも動けないでいた。

 

「メリー、見覚えは?」

 

「無いわ、でも…『タロットの騎士』である事には変わりないはずよ」

 

その言葉を聞いて白い人はメリーの方に視線を向けた。

 

「へぇ、君かアイテールに仇なしたっていう子か」

 

「それがなんだと言うの?」

 

「いいや、アイテールがそのまま見逃す事が珍しいと思ってね」

 

不敵に笑った瞬間白い人に氷の礫が襲う。それを後ろに飛びかわす。

 

「お前が誰だとかどうでもいいんだよ。お前を殺せばなぁ!」

 

「そうか、君がレイだね。兄の人格、いや、兄の怨霊と言った方が良いのかな?」

 

「好きにしろよ。俺はお前を知っているぜ、お前が……俺を殺した奴だってなぁ!!

エルネンデルタ!」

 

白い人の上空から銀竹状の氷柱が複数飛んでくる。しかし、その間を縫うように上手くかわしていく。氷柱はそのまま地面に突き刺さったままだ。

 

「ネストバイエル!!!」

 

その詠唱の瞬間白い人のいる氷柱の刺さった付近が凍り付く。

 

「おや…」

 

「蜂の巣になりやがれ!!」

 

その叫びとともに小さな銀竹の雨が降り。突き刺さった場所からどんどんと白く凍り付き、そして白い人に突き刺さる…はずが

 

「終わりかい?」

 

周りには被害が出ている。白い人を中心になるように放った魔法だったためそいつにも被害が出ていなければおかしい。しかし、結果は無傷だった。

 

「……恩賞か」

 

「正解。さて、ではどんな恩賞でしょうか?」

 

「俺の魔法は俺の意思でしか消えない。それに氷柱に不自然に刺さっている氷…反射か」

 

その答えを聞き、今まで以上に上機嫌な表情へと変わった。

 

「大正解!少ないヒントでよくここまで解いたものだよ!僕は感心したよ!」

 

パチパチと拍手をしながらレイを褒め称えた。

 

「さて、それで?まだ続けるつもり?」

 

「当たり前だ!!そうじゃなきゃ…」

 

「そうじゃなきゃなんだい?君の無念かい?それともこのまま僕が王都にでも行って国王を殺しにでも来たと思ってるのかい?」

 

「お前!そんな事を思って」

 

「いやいや、僕はそんな事微塵も思ってないよ。人はそれぞれいろんな感情と考えを持っている。僕達をどう思っていようと関係ないさ」

 

白い人は顔の前でぶかぶかの袖のまま手を振り、ないないというような仕草をする。

だが、すぐにその仕草を止め言葉を繋げた。

 

「でも…僕にも許せない事があるだよね…」

 

顔の前にあった手をぶらんと下げ、一歩ずつレイに向かって近づいていく。

 

「…っ!」

 

その反対にレイは遠ざかろうと下がろうとするが何故か、逆に近づいてしまう。

 

「無駄だよ。さっき言った通り、僕の恩賞は反射、正確には反転と言った方が正しいかな。だから、氷はギリギリで向きを変えることによって横に突き刺したし、後ろに行こうとするのを反転させて前に行くとすることもできるんだよ。だから、僕からは逃げられないよ」

 

そして、2人が本当に手を伸ばせば触れるほどの距離まで行った時に白い人は止まった。そして、今までのふざけたようなおどけた表情を変え、無表情にレイを睨む。

 

「君は卑怯だよね…」

 

「っ!?」

 

それはとても冷たい声だった。蔑みと悲観が入り混じった感情で発せられた言葉だった。

 

「生前騎士達の人形を相手して、そして最後に僕に挑んで死んでいった。

それでまさか、怨霊を集める弟の性質で人格として出てきてまた僕に挑んで手も足も出ていない…」

 

「ぐ…」

 

レイには反論できなかった。それもそのはずすべてが事実で、反論したところで虚しくなるだけだということを知っているから。

 

「君の気持ちもわかるよ。殺された相手だ、憎む気持ちもわかる。でも、今一番思っている事は違うよね?」

 

「…っ!?」

 

「僕は知っているよ、君の本音。以前は力もなかった弟君が君以上の力を持ったこと、だろ?それに君は嫉妬した。…醜いね君」

 

その言葉にはレイもキレた。白い人の首に手をかけようとしたが、その手が弾かれるように腕が回って自分の首の前で止まった。

 

「どうしたの?ほら、早く。僕が止めを刺すよりも自分で自害した方が良いでしょ?僕に2度も殺されるよりもさ。あ、言っておくけど中に戻ろうとしても逆に君はすぐに弟君の体から出ていくことになるからね。逃げようなんて思わないでよ?流石にそれは醜すぎる」

 

「ぐっ!!…お前…は何者なんだ…」

 

「力ずくで聞き出してって言ったよね?まあ、君はもう死ぬし関係ないか。メリーも弟君も聞いているだろうけど少しだけ教えて上げるよ。僕は弟君に似ている、それにクレハ様と同じで天啓が聞こえるんだ」

 

「お前!?それは!?」

 

「はい、時間切れ。結局僕が止めを刺すね」

 

長い袖から手を出し、首の前にあった手に自らの手をかけ、その手でレイの首を締めていく。

 

「言ってなかったね。今日来た僕の目的は君を潰すためだよ」

 

「がっ!!…あ…ぁ…」

 

「君は明らかに醜すぎるだよね、僕としては。そんな君がいる事に嫌悪感を抱くんだ、弟の君も君には愛想をつかせている。君の本音を知っているからね…君の本音、嫉妬は本当に醜い」

 

「………!!!」

 

その言葉を最後に目の青い光が消え、レイの怨霊はルイスの体から抜け出ていった。

絶命したのを確認して手を離し、また長い袖に戻していく。その手は暗闇に包まれていたように見ることは出来なかった。見たのはレイただ1人だろう。

 

「貴女は…!」

 

「おや、君も怒るのかい?君は彼の事を嫌っていたと思っていたけど?」

 

「ええ、そうね。でも旦那様にとっては大切な家族だった!!」

 

その答えに白い人は肩をすくめながら応えた。

 

「それはどうかな?弟君はもう彼に愛想が尽きていたと思うけど?」

 

「そんなこと!」

 

「本当にそう言いきれるかい?弟君がタナトスに精神世界に飛ばされてから1度でも兄の事を口にした事はあったかい?以前に比べて考えてみるといい」

 

「ぁ…」

 

基本的に行動を共にしていたメリーは気づいた。以前に比べ確実にレイの事を話す事が減った。むしろ言っていないと言っても過言ではないほどあからさまだった事に気づいた。

 

「ね?だから君が怒ることはお門違いな事だよ。それとも、『タロットの騎士』殲滅の為に僕を相手にする気かい?」

 

「ふふ…あの、鬼の天才ですら相手にならなかった相手が、私に務まるとでも?」

 

「君の魔法はよく知っているよ。僕に通用するかはやってみないと分からないとしか言えない。君の魔法は特殊だからね」

 

「…私は、貴女とは戦えないわ」

 

「ほう…」

 

「逃げと解釈してもらって構わないわ。私では貴女に手も足も出ない、それを確信しているもの、やるのも無駄だわ。…弱者が逃げるなんて当たり前じゃない、それしか手段がないもの。…いいえ、もう一つあったわね強い者の元につく」

 

「そうかい…君は清々しいね」

 

「あ…あぁ…」

 

そして、ルイスが目を覚ました。頭や首の感覚を確かめるように触れながらゆっくりと体を起こした。

 

「お目覚めかい?先に謝っておいたほうがいいかい?君の兄の事は」

 

「…いや、必要ない。死んでいったのも、その人の罪だ。ただ、家族を失うのは悲しいものだ。それが、どんな人でもね」

 

「そうかい、では僕の最後の目的を果たそう」

 

そう言うとルイスの方へと体を向ける。

それにルイスは警戒心を強める。

 

「安心していい、僕からは何もしない。ただ、一言言いたいだけだから。

…お父さんによろしく伝えておいてよ。モミジは今も生きていますと」

 

「…!?貴女は!!」

 

「お母さんはいないみたいだしねお父さんだけでいいよ。僕は帰るよ」

 

「待って!!!」

 

「だーめ♪」

 

そう言うとそのまま暗闇に消える。

そして、ルイスは膝から崩れ落ち地に手をつく。

 

「旦那様?どうかしたの?あの人が言ったことはどういう事なの?」

 

「あの人…いや、あの方は…」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ルイス、お前にだけ教えておく秘密があるんだ」

 

「僕にだけ…ですか?」

 

「そうだ、これは文献にも話にもなっていない事だ。俺とクレハだけの事にしていた事だったからな」

 

「それは…?」

 

「俺の子孫がすぐに絶えたことは知っているな?」

 

「はい、何でもヒイラギ様の代に何者かに命を奪われたと聞いておりますが…」

 

「そう、そして、俺とクレハには隠し子いる…訳あってな、隠さざるを得なくなってな。そのせいでな、その子供を鬼の一族から外さなきゃならなくてな…正直悪いと思っているよ」

 

「そうでしたか、それで…」

 

「まあ、この話を前振りの後にしたって事でわかると思うが…ヒイラギを殺したのはその子供だ。名前は…モミジ」


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