嫌われの忌み子あれば拾われる鬼子あり   作:時雨日和

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第4話 小さな暴君、誠実なる鬼

顔は男とも女とも取れる顔立ちと肩まで届かない程の金髪のショートヘア、玉座よりも小さく、マリーよりも小さいはっきり言って子供の見た目、しかし服装は明らかに王様と言える服装、この子が王なのだというのは3人とも理解した。

 

「ふむ、やはり我に会う者は皆驚くのだな。そんなに我が可笑しいか?どうなのだ?カイルよ」

 

「まあ、お嬢は小さくて幼いですからね、そのせいでしょうね」

 

「む、我が小さいのは当たり前だ!まだ10と1年しか生を受けてないのだからな!」

 

つまり、11歳の少女だった。しかし、それではおかしい。

 

「国王なのですよね?しかし、今お嬢と…」

 

「そういや説明してなかったな。フェデル王は女の性を受けている、別におかしくもないだろ?よくある事だ男と偽り王の座につくことなんて、隣国にも昔あったそうだしな」

 

「うむ、我はれっきとした女だ。今はまだ成長期が来ておらぬからな、身体は小さいが…まあ、これからだ!」

 

ふん、と、誇らしげに胸を張る。

 

「大体の概要は察しました。これは、今問うことではありませんでしたね。それでは本題です。どうして僕は呼ばれたのですか?」

 

少しその場がざわつき、非難の声もあがったがルイスにはその言葉がどれだけ軽いかを理解している。故に靡かない。

 

「そうであったな、話がそれていたすまぬ。では本題といこう」

 

王は玉座への階段を降り、ルイス達と同等の高さの床まで降りルイス達の目の前まで来た。

 

「此度は、我が兵士達の隊長にして、我が兵の最強の一角と呼ばれた者、『慈愛の騎士 レオ』『星雄の騎士 マルク』、そして噂に聞いておる。あの『タロットの騎士』も数人倒した…いや、殺したと言った方が合っておるな、何にしろ良い働きをしておるな」

 

「……え?」

 

「あら…」

 

「ふぇ?…」

 

連れられた3人は三者三様の声を発したが、3人とも根っこは何故褒められたかだった。普通は兵をやられたのだから処罰どうこうという話になるだろうと予測があった。

 

「つまり、鬼のルイス、元『タロットの騎士』メリー・アステッラ、不干渉の恩賞を持つマリー・セレスティア、お主ら我の元につけ」

 

「…はい?」

 

「我の元につけと言ったのだ。我は強いものに興味があり、必要としている。我はまだ弱い故に守護が欲しいのだ、その1人がカイルだが、流石にカイルだけでは頼りないとまではいかぬが、忍びない」

 

「……」

 

「お待ちください、フェデル王!奴は鬼です!!そんな者に王の守護など…!!」

 

それに同調してか、周りの兵士達や権力者達も異議を唱える声が上がる。

しかし、それを聞いた王は腕を組み一言

 

「黙れ」

 

空気の流れが変わり、体がビリビリと痺れる感覚にルイスは陥った。周りの兵士達は倒れるものまで現れている。

王は、瞳を紅く爛々と輝かせながら言葉を放つ。

 

「始まったか…」

 

「今の我にも及ばない雑魚共が!気安く我に異議を申すな!貴様らを使わぬのは、貴様らに力がないからであろう?そんな事もわからぬのか?」

 

その言葉、その気配、そしてその能力は、とても11歳の少女とは思えぬ迫力を持っていた。

その光景に唖然としていたルイス達を見て口元に笑みを浮かべた。

 

「驚いたか?お主らよ。見ての通り、我は暴君なのだ、自覚はある。しかし、当然であろう?我は弱い自覚もある、ならば強い者に守ってもらいたいのだ、それがカイルであり、そしてお主らだ」

 

倒れた兵士達などに目もくれずただルイス達を真っ直ぐと見ていた。

 

「む?ああ、気にするな、我に背いた者達だ、勝手に破滅に向かっておるのだ。我はそういう風に生まれたようなのだ、恩恵か恩賞かは知らぬがそういうものを持っておるようだぞカイル曰くな」

 

「これは…さしずめ『エンペラー』と同等かそれ以上ね」

 

「『エンペラー』…」

 

「ええ、『エンペラー』の恩賞は簡単に言えば従わせる恩賞」

 

『タロットの騎士』の情報を知るメリーが話す。

 

「そして、これも言っておくわ。タロットの恩賞は元々恩恵を弱体化したものを元に作っているものよ、つまり、『エンペラー』の恩賞の元になっているのが王の持ってる…なんて言えばいいのかしら?服従の恩恵?とでも名付けようかしらね。つまり、貴女は皇帝、いえ、貴女の場合王と言った方がいいかしらね、そう、王になる為に生まれた存在という訳よ」

 

「ふむ、そうか、ならば、兄様達が死んでいったのも頷けるな」

 

「死んでいった?」

 

「うむ、私には2人の兄様がいた。しかし、なんの因果か2人とも死んでいったな、朝起きたら2人とものベッドが共に自らの血で真っ赤に染まっておった。だから我が今ここにおるのだがな」

 

「…そうですか、王は2人が死んで寂しいですか?」

 

「寂しい?なぜだ?」

 

「なぜって…」

 

「家族だからか?そんなもの関係ない、あ奴らは我に特に何もしていない、むしろ、我を蔑ろに扱い、蔑む対象にしていた。いようがいまいが変わらぬどころか、いなくなって清々するほどの者達だ、それを寂しいと感じるか?いやないな、まあ、流石にカイルを失えば寂しいという感情が出るかもしれぬな」

 

「おお、嬉しいこと言ってくれるじゃないですかお嬢」

 

「さて、では話を戻すが我の元につくか?」

 

「もし、僕がそれを断るとしたらどうしますか?」

 

明らかなる牽制、今ルイス達に出来ることはただ話を聞き質問し答えるだけ。それならば牽制する事は必然と言えるだろう。

その質問に対し王は思案するように顎に手を当てる。

 

「そうだな…そうなると、手始めにお主たちが世話になっていたアンデルセン家を襲撃し、皆殺しにするだろうな」

 

「そんな…!」

 

声をあげたのはマリーであった。無理もないだろう、ルイスやメリーと違い何年もそこに住み世話になっていた人たちを襲うと言われているのだから。

 

「何を驚いておる?こんな事必然であろう?我は暴君だと言ったはずだ、気に食わぬ事があれば無理矢理にでも正当化する。

今はお主らがおらぬからな、容易いだろう」

 

「脅し…という訳ですね」

 

「そうだな、ただ、脅しではすまぬ事を忘れるなという事だ。いくら魔法を使えるものがいると言っても、大勢の者を相手にすればやられる、というよりカイル1人でも落とすのは簡単であろう」

 

たしかにルイスがいない今、いたとしても無事に済むかという話だ。

 

「さて、どうする?我としては二つに一つだと思うがな。我も嬉嬉としてはやりたくはないぞ」

 

「…まだ、貴女の目的と理由がよく分からない…どうして僕達を誘うのですか?」

 

一度、王は苦い顔をしたがすぐに答えた。

 

「むう、用心深いな…まあよい、さっきも言った通り我はまだ弱いのだ。だから誰かに守ってもらいたい、それが多ければ多いほど、強ければ強いほど良い。鬼などそれにうってつけだ、故にお主を誘っておる、鬼だからという偏見はあるがお主はかなりの実力者だからな。ほか2人も、特にメリーは『タロットの騎士』にいた程だ」

 

「本当に…それが目的ですか?」

 

「?ああ、本当だ」

 

「…僕はこの世界を守っていると言っても過言ではない『タロットの騎士』を破滅させようとしています。貴女はこの国の王だ」

 

「我も『タロットの騎士』達の扱いは困っている。奴らは我の言うことも聞かぬからな、無いに等しいのだ我にとっては。なら滅ぼされても苦はない、むしろその方が我は楽しいぞ。話に聞くコロッセオという古代の催しを頭の中で彷彿とされるな」

 

歪んでいるという感覚が流れた。まだ11歳の少女がどうしてこうなってしまったのか、と。しかし、それを聞いたルイスには気持ちがわかった。ルイス自身元々は歪んだ感情も持っていたし、それに今も『狂人化』というものもある。

 

「つまり、王は僕の『タロットの騎士』への…というより国に対する叛逆を認めるという事ですか?」

 

「そうだな、むしろ我は手助けするつもりだぞ」

 

「ここに攻めてくるかもしれませんが、それでも構わないのですか?」

 

「我に危害が加わらなければ何をしても構わん」

 

「最後に…鬼の存在を、僕の存在を認めますか?いえ、認めてもらえますか?」

 

「おかしな事を聞くな?我は暴君であり、弱き者の戯言は嫌い、強き者でも気に食わぬことがあれば異を唱えるが、偏見はせぬ。たとえそれが人間だろうと、鬼だろうと、どんな種族で、人種でも、その者自体を見る。その上で対応する。我はまだ11だ、経験が浅い、が、知識はそれなりにある。鬼の歴史は変わっている事は知っておる、そう知っておるぞ伝説と呼ばれた鬼の存在も、その功績もな。それに、お主のような鬼もおる事を知った。お主は実に誠実だ、忌み子でありながらここまでというのは良き支えがあったということでだな。ほか2人もそんなお主を慕い付いてきておるのだろうな。故に、我は認めよう。お主という存在を、ルイスという鬼を、偏見無しに我はお主と接する、むしろ今もそうだ」

 

服従の恩恵を持つ者、王という者のカリスマ性なのだろうか、本当に11歳の少女とは思えない主張だった。ルイスは人生で2度目となる感銘を受けた。

つまり、シグレと同じく尊敬する存在として認めたという事だ。

ルイスは両脇にいるマリーとメリーを1度ずつ見てから王の前へと一歩踏み出し、跪いた。

 

「僕は貴女様に服従し、貴女様の元につかせてもらいます」

 

「顔を上げよ。お主には…いやお主ら3人には我に服従せず、自由にしていて構わぬ」

 

「…少し、受け入れ難いものはありますが、これからお世話になります」

 

「うむ、良い働きを期待しておるぞ」

 

顔を上げたルイスは王、フェデルに差し出された手に応え握手する。

その光景は、宛ら人間と鬼が和解するように見えたという。


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