Fate/is inferior than Love 作:源氏物語・葵尋人・物の怪
死を連想させる禍々しい意匠の具足を、まばゆいばかりの宝剣が貫く。
黒鉄を通し、肉に突き刺さり、刃を伝い血が滴る。
「ヌオォォォッ……」
普通、仮令英霊といえどもそこまですれば死ぬものだが、山の翁は痛がる様子すらなく、寧ろ、刃を掴み無理矢理引き抜こうとする。
拙いと、傍で見ているライダーは息を呑んだ。
「――弾けろ!」
だが、キャスターがそう叫んだ瞬間だった。
髑髏の甲冑の継ぎ目から、目もくらむばかりの光が漏れ出した。
「グアァァァ……」
山の翁はうめき声を上げる。ダメージが入ったのだ。
「今のは、キュロス大王の剣技……」
キャスターが放った絶技を、ライダーは知っていた。尤も実際に見たわけではない。生前ペルシャ帝国のパサルダガエにあるキュロス二世の墓を訪れた際に、イスカンダルはそこに残された碑文を読んだのだ。その中には、キュロス大王がマルドゥク神の加護を得て手にした愛剣“原罪(メロダック)”と、自身の振るう技についての言及があった。
自身が号した“王の中の王(シャー・アン・シャー)”と同じ名を持つその技は、碑文に曰く、“城をも崩す剣の光を切っ先に集約することであらゆる具足を貫き、そして刃を通すと同時に体内で光を爆発させる”。
これこそ、イザヤ書四十一章に於いて言及される、“敵を塵の如くに散らす剣”の正体である。
詰り“原罪よ、塵に還せ(シャー・アン・シャー)”を食らった人間は内側からの凄まじい威力の為に、塵のように四散することになるのだ。言う間でもなく、大抵の英霊の場合は死を免れない。
併し、キャスターは追撃の手を辞めない。
「“无二打・源流闘争(グレンデルバスター・デドリー)”!」
キャスターは柄から手を離し、徒手による連撃を放つ。
小柄な少年の細腕から放たれているとは思えない程重い拳。一打、一打が黒の具足を砕くほどの乱打。然も、ただ剛拳というわけではない。キャスターは中国拳法の理論を織り交ぜ、自身の五体から“気”を流出させ、一帯を満たしている。“気”に呑み込まれた状態に於いては、中国医術で気や血液を体内で循環させている通り道――所謂“経絡”が乱される。そこに拳での一撃が加われば、意図的に暴走上体を引き起こすことが可能となるのだ。
端的に言ってしまえば、気で相手を呑める程の達人に一打を浴びせられると、即死する。尤も、キャスターの拳撃の技量はそこまでの極地には至っていない為、精々が致命的な一撃となるか、即死の危険を孕むといった程度の攻撃でしかない。
だが、それが乱打であれば話は別だ。死ぬ確率は大きく跳ね上がる。その上、肉体強化の魔術で膂力そのものが向上しているのだ。それこそ、山の翁を今襲っている一撃は、カインの末裔“巨人グレンデル”を撃退したベオウルフの白打に比する。
「ウルァァァァァッ!」
頸が爆裂するほどの叫びを上げ乍ら、キャスターは止めの一撃を放つ。小惑星が衝突したかのような威力が髑髏の騎士の胸元で爆発し、そしてそのまま柵を押し破りながら空中へと投げ出されていく。
「やったか?」
ライダーは誰に問うでもなく、声に出した。
「いや」
それを問い掛けと受け取ったキャスターはそう言いながら、また新たに二振りの剣を召喚した。
一振りは、虹を刃の形に押し留めたかのようにも見える機械の柄を持つ奇妙な剣であった。そしてもう一振りもまた奇妙だ。その刃は、熔解した鉄が冷えることなく剣の形に変じたように見え、それでいながら、刀剣特有の凛烈な鋭さも兼ね備えているようにも見えた。拵えは宝玉が散りばめられ絢爛。
ライダーはこの一振りを知っていた。この一振りこそ、イスカンダルが崇め敬う英雄が一人の愛剣であったのだから。
然う――これこそオリンポス十二神が一柱ヘファイトスに鍛えられし名剣。後にギリシャを離れ、騎士王アーサーの手にも渡った、大英雄ヘラクレスが誇る最強武装の一つ。
「マルミアドワーズ……ッ!」
畏れから、ライダーはその名を知らず知らずの内に口にする。そして、それと同時に疑問が湧いた。
「貴様、どうしてそれを持っている?」
普通に考えれば、キャスターの正体はヘラクレスかアーサー王に縁のある英雄ということになる。だが、その一方で先程、キュロス大王の“原罪(メロダック)”を振るったという事実がある為に、それは考えられない。さらに言えば、ザッハークやロスタムに由来する霊薬に、あらゆる契約を破棄する短剣、最初の戦闘で展開した劇場、そして何度も披露しているアゾット剣など一サーヴァントが持つには宝具の数が多すぎるのである。
然も、アーチャーのようにただ投げつけるだけでなく、何かが欠けている印象こそあれ使いこなしている様子すらあるのだから最早何が何だか分からない。
「ごめん、それを論じている暇はないんだ」
だが、ライダーの疑問を、キャスターはけんもほろろに突っ撥ねた。
「今すぐ、皆を連れて、逃げて」
焦燥とした口調でキャスターはライダーに振り返る事無く、ただ破れたフェンスの先を見つめている。
最初、その頼みの意図が分からなかったライダーだったが、直ぐに理解することとなる。
「……是で終わりか?」
全身の血液が凍結するような声で齎された問い掛けの先に居たのは在り得ない者だった。山の翁である。キャスターの空拳を受け、転落した山の翁が剣を片手に校舎の壁をよじ登ってきたのだ。
流石に在り得ない。ライダーは冷たい汗が全身からどっと吹き出るのを感じる。ライダーの見立てでは、キュロス大王の剣技で一回、乱打の中で計三回、山の翁は死んでいるのだ。
……死んでいる筈なのだ。だのに、何事も無かったかのように、髑髏の騎士は二騎のサーヴァントと相対している。
「我が信仰に伏臥は無く、退却も非じ。ただ、神託の下、孜々と首を求むるのみ」
疑問を察し、それに応じた山の翁の言葉はまるで理屈が伴っていなかった。
神を信仰している。そして、その神は死するべくして死ぬ者を殺せと言っている。だから少なくともそれを成すまでは死ねない。だから死なない。
そんなものは理不尽でしかない。気合で生きていると言っているのと同義である。
「解したとあらば、路傍に退くが良い。百貌の首を差し出せ。さもなくば、汝らの頭上にも晩鐘が鳴ろう」
晩鐘――それは黄昏を告げる寺院からの響き。それは、人々に葬送の時を告げる死の訪れでもある。
薫は震えるミナの肩を寄せ、そして理解する。
ミナが恐れた鐘の音とは畢竟、死の運命なのであろう。山の翁は死する運命にある者の首を刎ねる見た目通りの死神だったのだ。
享受すべき死を受け入れないというのならば、邪魔立ても許さず、情け容赦なく殺す。否、彼の言葉を汲めば、そんな邪魔だてすらも、神は堕落への迎合と忌み嫌い、序でと言わんばかりに殺せと命ずるのだろう。
「キャスター……」
薫はそう呼びかけキャスターを見つめる。感情の振動が、自分でもよく理解出来た。
「と、いうわけだ。僕らとしてはミナを死なせるつもりも、ウェイバーの思いをドブに投げ捨てる気もないからおじいちゃんにはなんとしても折れて貰わないといけないわけだ」
詰る所、諦めるまで戦うしかないということ。
キャスターが嘆息しながら言ったロジックはライダーにも理解出来た。
「そんなことは、言われるまでもない。だが、小僧の蛮勇に報いたいという意思は余も同じ。ここで退くわけにはいかん」
何もキャスター一人で戦う必要はない。ライダーとてこの世に雷名轟きし征服王。守るべき誇りと意地がある。だが、それでもキャスターは首を横に振った。
「君と僕が二人掛りで暴れたら、ミナ達を巻き込むし、もし二人でやって共倒れになったら誰が守るって話になるだろ」
「正直まるで底が見えんが……あれは、そこまでなのか?」
「無事でいるには、残りの三騎士の皆の力も必要になるね」
無限の宝具を持つアーチャー。そのアーチャーの投擲を総て凌ぎきるだけの技量を持ったバーサーカー。聖剣の担い手たる騎士王アーサー。そして、絶対零度の龍牙を振るう関羽雲長。この三人の力も加わり十全の力を発揮し、それで漸く無事が保証される。
それだけに山の翁は強大な存在なのだ。
「……何せ、あの山の翁はサーヴァント召喚の元となった決戦魔術で呼び出される原初の七柱。グランドサーヴァントの一角だからね」
ライダーはその真実に驚愕することはなかった。寧ろ、出鱈目な生存能力にもそれで合点がいった。
グランドサーヴァント。これは人類史が続く限り発生し続ける自滅因子への対抗策として生み出された、特に強力なサーヴァントである。
サーヴァントとは元となる英霊をある程度再現したものであるが、グランドサーヴァントはその再現度がより高く設定されている。例えば、同じ格の英霊のサーヴァントとグランドサーヴァントが戦った場合、グランドサーヴァントの方が圧倒的に強い。
文字通り“器”が違うのである。
「……逃げるしかないか」
「頼むよ」
キャスターは笑顔をライダーに残し、グランドアサシンへと疾風怒濤の突撃を敢行した。先程、アゾット剣を用いた真エーテルの砲撃を試みた際に、山の翁は真エーテルそのものを完全に“殺し”、攻撃を打ち消していた。そこでキャスターは彼の大剣ないしはその剣技があらゆる概念を殺す宝具であると予測したのだ。
であれば、山の翁を放置してはおけない。ライダーが戦車を出そうとしても、“出す”という行為そのものが“殺される”可能性があるからだ。
「でやッ!」
一歩で間合いを踏み殺し、キャスターは二つの剣を山の翁の胴と首へ振るう。
本気で殺(と)りに行く気で。
「フンッ……!」
自身に降りかかる必殺の双刃を、山の翁は難なく受け止める。
キャスターの行動の意図を理解していたライダーはその瞬間を見逃さない。キュプリオトの剣を一閃させ、ゴルディアスの縄目を解き放ち、“神威の戦車(ゴルディアス・ホイール)”を召喚する。
辺りに紫電が走り、屋上の一部を瓦礫に変えながら登場した戦車に、ライダーはウェイバーとミナと薫を一偏に担ぎ上げ搭乗する。
「武運を祈るぞ、キャスター」
「死なないでね」
薫とライダーのキャスターへの激励を残すと、二頭の神牛が牽く雷の戦車は夜天に高く、どこまでも高く疾走する。
キャスターはそれを見送ることはなかった。気を抜けば、山の翁に首を刎ねられかねない為、そんな余裕はなかったのだ。
現に、山の翁の大剣は今も二つの宝具ごとキャスターは両断せんとし、凄まじい力が掛っている。
――このままでは拙い。
キャスターは状況を好転させるべく、足で地面を打ち鳴らした。此れは所謂モールス信号である。もっと言えば、簡易的な音魔術である。その効果は捕縛。
だが、即興で編み上げた魔術はいくらサンジェルマンを語ることが出来るほどの技巧を誇るキャスターといえども弱いものでしかなく、況してそれを掛けた相手はグランドアサシンである。
拘束時間は一合持つか否かだ。併し、その時間があれば、十分な間合いを取ることが出来る。
キャスターは後退し、その位置から攻撃に移る。
「“射殺す百頭(ナイン・ライブス)”!」
双剣が成す、九つの斬撃が山の翁に叩き込まれる。ヘラクレスがヒュドラを無数の矢で射殺した逸話の再現である。九つの首を持ち、幾ら落としても再生し、然もそこからまた新たに首を増やす怪物を、ヘラクレスは死ぬまで何度も殺すことで討ち取ったのである。
本来は弓の技であるが、ヘラクレスはあらゆる武器で放つことが出来る。無論、愛剣“栄光冠す灼鉄の刃(マルミアドワーズ)”でもだ。然も、“栄光冠す灼鉄の刃”は鍛冶を司る神、ヘファイトスが持てる技術を尽くして打った剣であり、液体化した超高温の金属でありながら刃としての鋭さを持つという矛盾を両立させた宝具である。液体でありながら打ち合いが成立する剣は、高熱に触れ続けるという状態を成立させることが可能である。これが意味することは、打ち合った剣に対し熱を送り続けることが出来るということ。そんな状態になった武具は容易に熔解する。そうでなくとも、本来の担い手であるヘラクレスの剛腕と合わされば、余程高ランクの宝具でもない限り破壊される可能性があるのだ。
無論、キャスターはヘラクレスではないから、武具の真骨頂も技の威力も発揮することは出来ない。それでも、片手に持ったもう一つの宝具の威力とも合わせ、ヘラクレスに並ぶことが出来る。
死なない山の翁でも、流石にただでは済まない。
だが、それも刃が総て通ればの話だ。山の翁は一瞬で叩き込まれる無数の斬撃を総て大剣で受け流したのである。
然も、剣は“栄光冠す灼鉄の刃”の熱に晒されたにも関わらず、鎔けた形跡が見られない。
「なッ……!?」
「愚かな」
驚愕するキャスターにそう吐き捨て、山の翁はキャスターの両手首をあっさりと切断する。
手首ごと、二つの剣が宙を舞った。
「ただの模倣がこの身に届くか」
形だけをなぞった技など通じない。山の翁はキャスターに己の力を誇示することもなくただ、指摘した。
確かにその通りかもしれない。ただ真に迫るだけの贋作ではこの強大な敵には太刀打ち出来ないかもしれない。
だが、それでも……
「舐めるなッ!」
キャスターの目はまだ死んではいなかった。
瞬時に飛ばされた剣の内、虹の刀身を持つ方を口元に転移させ柄を銜え、山の翁の腹に切っ先を突き立てた。
「オ……オオ……」
幾許か苦しそうな唸り声を上げるが、直ぐに山の翁は大剣でキャスターの首を薙ぎに行く。
自信に突き刺った刃を抜こうとも思わず、何の躊躇いもなく、キャスターを殺すことを優先させる胆力は凄まじいの一言であった。
だが、山の翁は気が付いていない。その剣が、嘗て遊星から飛来した巨人が軍神から奪い、そして幾星霜を経て大陸を支配する馬賊の王の手に渡ったものだということに。
「“涙の星、(ティアードロップ)”……」
夜空に魔法陣のようなものが浮かび上がる。月を覆うように、赤く輝くそれは砲台だ。軍神は、己の剣を奪った者への恨みを忘れていない。そして、剣の在処こそが怨敵のいる場所に他ならない。
これより降り注ぐは、軍神の剣を起点にした怨讐の号砲である。
「“軍神の剣(フォトン・レイ)”!」
瞬間、剣の本来の持ち主に怨みを抱く神々の怒りが光の柱として顕現し、校舎ごとキャスターと山の翁を呑み込んだ。
夜闇が一瞬、白むほど明るくなり、そして光が晴れると、校舎は瓦礫の山となっていた。
軍神の剣の本来の担い手である馬賊の王は、涙の如き神の怒りが滴り落ちるその場所を剣からある程度ずらし攻撃手段とすることが出来るのだが、キャスターが使う場合には本当に剣の真上となる。
詰りは実質の自爆技である。だが、そんなことはキャスターには関係なかった。
「ノォォォ……」
瓦礫の中からうめき声を上げつつ、キャスターは自身に覆いかぶさったコンクリート片をどける。
そして、ふらふらと立ち上がると、今度は瓦礫の中に埋まった自分の手首を手元に転移させた。
キャスターが仮の名として語ったのは不死の怪人サンジェルマンである。死なない者を名乗る以上、それに値する能力を持っていて当然なのだ。
――でも、山の翁も生きてるな。
瓦礫の中から未だ姿を現さない髑髏の騎士であったが、あれで死んでいるとは到底思えなかった。
それを考えキャスターは空間からオルフェウスの琴の弦のみを取り出し、それを口に銜え巧みに操りながら切断された手首を縫合する。
山の翁に切断された傷は治癒魔術を阻害する呪いが掛けられていた。故にキャスターは治癒を諦め縫合することを選んだ。手が無ければ剣を握ることも適わない。飾り物でもあった方が良いに決まっているのだ。
動かす方法はキャスターの手札の中にいくらでもある。
「フン。神の裁きといえど所詮は紛い物。我、斃すに能わず」
キャスターの予想通り、山の翁が姿を現した。鎧が多少砕けているが、戦闘不能には程遠い外傷だった。
故に翁は当然、剣を取る。キャスターに天命は下っていない。だが、百の貌のハサンの残り香に、まだ天命が下っている以上は必ずや首を断たねばならない。併し、目の前の魔術師はそれを許す気が無い。ならば、動けなくなるまで傷つけるしかないのである。
真なる麻薬(ハシン)を前にしても、意思を貫き続けるキャスターの信念を思えば、山の翁としては戦いを避けたい。だが、避けられない以上は戦うしかないのだ。
「……悪く思うな」
山の翁はそう言いつつ、空間から自身の巨躯すら覆ってしまうほどの無骨な意匠の大盾を取り出し、再び剣を構える。
この姿こそ山の翁の全霊なのだろうと、キャスターは踏み、自身も本気を出すことを決意した。
「カバファクァフィキジュテブククチ
ジオテヅクポォダジョジャクァフィドタヂジュテブ」
詠う、人ならざる言葉で。
キャスターは一つ、山の翁に感謝しなければならないことがあった。先程手首を切られた痛みが切っ掛けとなり、キャスターはまた記憶を取り戻したのだ。
そのお蔭でキャスターは、自身の本当の切り札を使えるようになった。
「ボトイファツタプタェタバキジョトトドフチクテヅクァフィ
ファバデコクォクォタゥキフォィボクェコクォコファゥ
タトコイクェクィチデコプフィタダゥチジャジョデクァゥボフィタヂジョクェジクジェ
ボフォィジョクォジェククテヅ
タォデクェトコェタアコクォクォフィクォククォクォオクァクァタァタダアヅィッ
クァタダキォコクツジョヂケタアトイ」
殆ど発音不能のこの言葉は天使の言語だ。
マグダラのマリアは処女懐妊を天使に告知されたとされたがそうではない。逆だ。天使が告知したから受胎したのだ。天使の言葉は結果を齎す。
嘗て、世界の言葉が統一されていた頃の言語に最も近い、キャスターが操る本当の魔術である。
「“コフォツコァアトイクォジョクァクィ”――キトコクェボクィタダ!」
最期の詠唱をキャスターは一気に結ぶ。
瞬間、空を無数の刀剣が埋め尽くした。それだけではない。槍も在り、斧も在り、戦車や馬、船に幻獣の類までもがいる。それは、まるで山の翁を閉じ込める檻のようであった。
「……成程、是が汝の宝具か」
「そうだ」
キャスターは答え空を埋め尽くす無数の武具の中から赤い槍を呼び寄せ、構えた。
「僕の本当の切り札。対座宝具“ぼくの、最高の友達(イネーウィータービリス=サギッタルーミニス)”。座にアクセスし、其処にいる英霊から直接宝具を借りる」
正確には召喚魔術であった。英霊と直接交渉し、宝具を使用可能な状態にした上で、キャスターが使用する、反則級の大魔術である。
尤も、この魔術の消耗は馬鹿にならない。これは宝具の召喚と実際に扱う上での真名解放の両方に魔力を必要とするからだ。彼が本当に薫からの魔力供給で現界しているならば、一つ宝具を召喚しただけで薫は枯渇している筈だった。
一体その魔術をどこから持ってきているのか?
山の翁は疑問を抱くが、キャスターに答える気は無かった。
「さぁ、掛って来い山の翁。何度死ねるか試してみろ!」
最早、彼の頭の中が山の翁への敵意のみだったが故に。
ぼくの、最高の友達(イネーウィータービリス=サギッタルーミニス)
ランク:EX(E~A++)
種別:対座
・正確には大魔術。座に直接アクセスし、英霊と交渉、宝具や一部戦闘技能を借りる。本来の担い手の許可もある為、召喚した宝具の真名解放も可能であるが、召喚と解放両方の魔力消費は並みの魔術師であれば一発で枯渇を招く代物である。また、本来の担い手ではない為、真名解放に少しばかりの欠陥が生まれることもある。
無論、一般人の薫にこの宝具の解放を賄うだけの魔力などある筈もない。にも拘らず、キャスターがあれだけ宝具を連発できるのにも実は理由があり……