ハイスクールD×S   作:超人類DX

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此処まででしたね。

またアンチ要素強しです。


崩壊への道

 もしも……もしもリアスがその選択を間違えなければ。

 もしも……もしもリアスがきちんと筋を通して居れば。

 もしも……もしもリアスが下僕にした理由が違ければ。

 

 

 もしも、もしも……もしも……。

 

 

 

 

「っ……ドライグの声が聞こえない!? しかも力も――」

 

「目……覚めたのね?」

 

「……!? アンタはたしか……」

 

「今アナタの身に起きている事を順番に説明するのと同時に、私はアナタに謝らなければならないの。

その……聞いてくれるかしら?」

 

「………………」

 

 

 力の強大さだけでは無く、その中身をちゃんと知ろうと努めて対話をしたなら……もしかしたら未来は変わっていたのかもしれない。

 

 

「まずアナタは死にかけていた。

これは覚えてる?」

 

「あ、あぁ……確か修行に熱が入りすぎてつい。

だが死にかけたとしても5分も寝てれば治るし、それと俺の力が消えてるのと何の関係が……」

 

「五分!? …………そ、そうだった、の?

そ、その……ごめんなさい! アナタが死にかけてるのを発見したから、その……助けるつもりでその……駒を使ってアナタを転生させてしまって……」

 

「…………………は?」

 

 

 これはそんなもしもにもしもを加えたおとぎ話。

 

 

 

 

 兵藤一誠は失った力を取り戻す為に毎日死ぬ気で鍛練をしていた。

 学業以外の全てを鍛練へと費やすその姿はまさに鬼気迫るものであり、一刻でも早く全てを取り戻そうと躍起になる姿は、リアスをより罪悪感を抱かせる要因だった。

 

 

『Boost!』

 

「キャオラッッ!!」

 

 

 そしてげに恐ろしきは全ての力を赤子同然にまで封じられた一誠が、封じられて満足いく成長も出来ないというのにも拘わらす、出来無いなりに地獄の様な鍛練スケジュールをこなした結果、既に上級悪魔ですら始末できるまでの力を獲た事だった。

 

 大公からの指令によるはぐれ悪魔討伐の任も、既に兵士の駒を礎に悪魔へと転生した一誠単騎で達成させられる程であり、今日も一人ではぐれ悪魔を消し飛ばした一誠は、ちょっと無愛想な顔で何とも言えない顔のリアス達にこれまた無愛想な声でこう言った。

 

 

「終わりました」

 

 

 蹴り潰し、殴り千切り、叩き殺したはぐれ悪魔を最後に消し飛ばした一誠の距離を置いた様な言い方にリアスは気弱そうに頷く。

 

 

「ご苦労様……その、力の方は?」

 

「話になりませんね。

全力で殴ったのに、殺すまで二・三発必要でしたし、赤龍帝の籠手も禁手化すらできやしない」

 

 

 ぶっきらぼうに自分の力が話にもならないレベルまで落ち込んでいて、まだまだ取り戻すには全てが足りないと告げた一誠は、左腕に纏わせた会話も出来なくなった相棒の力を引っ込め、スタスタと自分一人だけ先に帰ってしまう。

 兵藤一誠は正直イラついていた。

 

 それは勿論、悪魔に転生してしまった事で全盛期の億分の一にまで落ちてしまったのもそうだが、何よりも悪魔に転生したってだけで自分の力が落ちたという脆弱さが実に許せなかったのだ。

 

 確かにリアスは自分に許可も無く勝手に悪魔に転生させたのかもしれない。

 けどしかし、リアスは死にかけていて、寝てれば治ると知らずに自分を取り敢えず死なせないと思って苦肉の策として悪魔に転生させただけで、話を聞いたり観察した結果、彼女に打算的な内面が一切感じなかった。

 だから一誠はリアスを憎む事もなく、ただただ消えたのなら取り戻せば良いと、全盛期の頃よりも更に殺人的なトレーニングメニューに取り組んだ。

 

 

「あの、イッセー? ご飯作ったのだけど、良かったら――」

 

「修行するんで結構です」

 

「あ、う、うん……そうね。邪魔してごめんなさい」

 

 

 結果一誠は眷属でも完全に浮いており、周囲に壁を作って孤立しており、リアスなりの謝罪の意を込めて色々と気を使いまくってる行動も避け続けていた。

 だが決して一誠はリアスに恨み言の一つも吐かなかった。

 

 理由はある程度リアスを一誠は信用しているからだ。

 良かれと思った行動が失敗してしまった……のは痛いほど謝られたので理解はする。

 しかし仲良くなれと言われたら……元々どうでも良かった相手なので仲良くなろうとは思わなかった。

 雇い主と労働者……あくまで一誠の認識はその程度だった。

 

 でも一誠に憎悪は無かった。

 そう……一つでも選択を間違えてなければ、もしかしたらこうなっていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅ……お、がぁぁぁぁっ!?!?!?」

 

「っ!? ち、鎮静剤を投与しろ!」

 

「ぎぃぃぃっ!?!?」

 

「リアス様の眷属様にもだ!!」

 

 

 肉体を破壊され、死んだ方が楽だった目に合わされる事も無かったのかもしれない。

 収まらない激痛と恐怖の底へと閉じ込められ続けるリアスは、失えない意識の中と言葉すらまともに紡げない地獄の中、最近現実逃避の様に冥界の集中治療室に閉じ込められ続ける中、そう思うようになったが……。

 

 

「どんな手を尽くしてもまったく回復の兆しが見えない……。

いったいどうすればリアス様達を……」

 

「やはり魔王様がリアス様を裏切った者から直接聞き出すしか無いのか……」

 

 

 所詮、全てはリアスの中での妄想でしか無く、現実は地獄のままだった。

 

 

 

 リアス・グレモリーが元下僕により再起不能となった更に後、今度はリアスの代わりにグレモリー家の管轄だった人間界の土地にて、三大勢力のトップの集まる最中に勃発した禍の団の襲撃に伴い、ソーナ・シトリーとその下僕が拉致されたという新たな問題に、魔王達も悪魔の上層部達は頭を抱えていた。

 

 

「リアス・グレモリーに続きソーナ・シトリーまで……。

セラフォルー殿はどうされた?」

 

「今シトリー家にて眠らせてある。

あのままだと単騎で禍の団に戦いを挑みかねない勢いだったからね……」

 

 

 ルシファード・ルシファー城大広間。

 そこには今冥界中から集められた悪魔の有権者が、今回負った自分達の痛手についてどうリカバリーするかについて話し合っている真っ最中だった。

 

 三大勢力の中で悪魔だけが同盟を結べなかった。

 

 禍の団(カオスブリケード)というテロ組織にソーナ・シトリーとその下僕達が拉致された。

 

 旧魔王の血族とその支持者の同族がそのテロ組織に加盟した。

 

 そして……リアス達を完全に再起不能にした、癒えない傷を生み出す赤龍帝。

 

 尽きる事の無い頭の議題は魔王と上層部にとって頭の痛いものであり、それ故に上層部の一部はその全ての元凶になった赤龍帝に対して其々思うものがあった。

 

 

「リアス嬢が赤龍帝に対して行った所業は全て愚策だったな。

でなければ、今頃此処まで追い詰められる事も無かった筈だ」

 

「何を言うか!

下僕の分際で主に牙を向ける時点で万死に値する!」

 

「だが彼女の行動が赤龍帝の我々に対する不信感を完全なものへとした事は事実だ。

ふん、慈愛のグレモリーというのは嘘だったようで……サーゼクス殿?」

 

「………」

 

「貴様、サーゼクス様を愚弄する気か!」

 

「愚弄では無い、事実を言ったまでだ。

現にリアス・グレモリーは赤龍帝により癒えない傷を負わされて再起不能。

ソーナ・シトリーは禍の団(カオスブリケード)により拉致される。

天使と堕天使との同盟は断られる。

どれもこれも理由を辿れば彼女が赤龍帝に悪魔全体への不信感を植え付けたからではないのか? でなければ、少なくともソーナ・シトリーはもしかしから助かったかもしれないのだ」

 

「そ、それは……」

 

 

 リアスの行動により悪魔全体が危険な状況に追い込まれていると非難する者も居れば、あくまで主に牙を向いた赤龍帝を始末すべきだと主張する者も居る。

 とはいえ、今回の会談と禍の団の襲撃に伴い浮き彫りとなった赤龍帝の実力をサーゼクスから聞かされた、赤龍帝排除派の悪魔の誰もが、今すぐにでも殺しに行こうとはしなった。

 

 理由はそう……襲撃に現れた旧レヴィアタンであるカテレアを簡単に捻り潰した挙げ句殺したという事実があったからだ。

 

 

「先代レヴィアタンの血族であるカテレア・レヴィアタンを無傷で殺したとなれば、もはや並の実力ではない。

聞けば、リアス・グレモリーはそんな赤龍帝を無理矢理転生させた挙げ句、その力の一部を奪って使役していたと聞くが……これでフェニックス家の三男とのレーティングゲームの快勝の理由がわかった――――ふん、実に我等と同じ悪魔らしくて感心するな」

 

「貴様先程から……!

下僕は王の為に全てを捧げてこその下僕な筈だ!」

 

「その横暴さで多くのはぐれ悪魔が生まれた事を忘れたのか? それにその横暴さのせいで天使と堕天使との同盟すらも断られた。

分かって無いのは貴様の方だ……天使と堕天使にはあのガブリエルとコカビエルが居るんだぞ?」

 

「うっ!?」

 

 

 旧魔王の血族を難なく絶命させる程の力を取り戻した赤龍帝だけでも厄介だというのに、初老の悪魔が口にしたガブリエルとコカビエルという二大実力者の名前に、リアス擁護派の悪魔は言葉を詰まらせる。

 

 

「赤龍帝を殺したければ殺してみれば良い。そう簡単にいくとは思えないが。

だが忘れるな、そうすれば既に赤龍帝と友好関係を結んだ天使と堕天使を一挙に――――更に云えばあの二人を相手にしなければならないことを」

 

『…………』

 

 

 初老悪魔の悠然とした口調に他の悪魔達は口を噤んでしまう。

 今までアザゼルとミカエルの意地の張り合いが元で成立してなかった二つの勢力の同盟は、今回の騒動と……何よりコカビエルとガブリエルのスキャンダルにより一気に成立してしまった訳で。

 そんな二大勢力の同盟と共に赤龍帝までもが加わったともなれば……もはや悪魔が単騎でどうこう出来る事は不可能だ。

 

 しかも――

 

 

「ご、ご報告します! ジオティクス様とヴェネラナ様が赤龍帝の元へとリアス様の治療法を聞きに人間界へと向かわれました!!」

 

「なっ!?」

 

「馬鹿な! 父と母にも彼と接触することは厳禁と伝えてある筈だ!」

 

「お、お二人もそれは承知していました。

しかしリアス様の為と……」

 

 

 悪魔達の結束の弱さもまた、この事態を招いている訳で。

 娘の治療法を聞こうと単身赤龍帝の元へと乗り込んだという報告に、サーゼクス達が焦る中、この事態を招いたのは自分達の自業自得と主張した初老の悪魔はどうしようも無いようなモノを見るような顔で一言。

 

 

「…………。また愚策か。

我等ももう先は長くないかもしれない」

 

 

 悪魔という種族の末路を悟っていた。

 

 

 

 

 素晴らしいね、平和。

 誰にも邪魔されず、誰にも指図されず、誰にも強要されない。

 当たり前だと思っていただけに、より素晴らしく感じるぜ。

 

 

「そうは思わないか? クソ悪魔が」

 

「「……」」

 

 

 だからこそ……悪魔共(オマエラ)なんぞ必要は無い。

 

 

「治せ治せ治せと二言目にはそればかり。

テメー等はそれしか言えねぇのか……ゴミが」

 

「ぐ……ぅ……!」

 

「が……ふ……!」

 

 

 例の日より後日。

 休日で修行が身に入る時間が増えたと喜び、ゼノヴィアとイリナと一緒に修行の日々を送っていた事だ。

 ご飯の材料を買いに行った二人を送り出し、その間に修行を続けようと寂れた広場で身体を鍛えていた時だ。

 同族に対して情が深いのか何だか知らねーが、前に見た気がする悪魔の二人組が現れ、開口一番にリアスを治せと言ってきた。

 

 当然そんな事してやるつもりも無いし、教えもしないつもりで無視していた訳だが、あんまりにもしつこいというか……はぐれ悪魔にはしないしどうのとほざいて煩かったので、取り敢えず黙らせて今に至る。

 

 

「教えるつもりなんて無いと何度言えばわかるんだ? ん? その耳は飾りなのか? あ?」

 

 

 内臓を破壊し、手首を枝で切り落とし、両足の関節を逆に折り曲げて身動きすら取れない……確かあのクソ悪魔の親だか何だを見下ろしながら俺は問うも、二匹は呻き声しか出せない様子だ。

 治せ。教えてくれ。許してやってくれ……全てくだらない戯言ばかり。

 

 尊厳を踏みつけられ、無理矢理犯され、力を勝手にさも自分のものですと使う様なカスを許す? 馬鹿かコイツ等は? つーかあの眼鏡の方のクソ悪魔はどうしたんだ? あぁ、テメーの娘ないし妹の方が大事って訳かい。

 

 

「なあ、魔王サマよ? いい加減しつこいぜテメー等は」

 

 

 なあ、アンタが代わりに答えてみろよ。魔王。

 

 

「ち、父上と母上を……!」

 

 

 転移用の陣の出現と共に現れたあの愚図と同じ紅髪の悪魔は、俺の足下に転がる悪魔二匹を見るや否や、同行していた銀髪の悪魔と一緒に切羽詰まった顔で駆け寄り、虫の息である事を確認すると、俺を睨みだす。

 

 

「私の父と母が君に何かしたのかい?」

 

 

 親が傷つけられてご立腹といった様子だな……ふん、何をしたかなねぇ?

 

 

「カスを治せ治せ治せ治せ治せ治せ治せ治せ治せと喧しかったから、黙らせただけ」

 

 

 耳元で煩い蚊が居たら黙らせる。

 フッ……それは常識だろクソ悪魔共。

 

 

「父と母がキミにしつこかったのは謝る。

だけど、何も此処までしなくても……!」

 

「…………と、いう所業をアンタの妹は俺にしてきたぜ?」

 

 

 だから俺も……という訳じゃないが、どうも俺は悪魔が心底嫌いらしい。

 ちょっとイラッとしただけで直ぐこうしてしまう。

 

 まあ、反省なんてしないがな。

 

 

「治すよりあの眼鏡の悪魔を助けるべきだろうに。あーぁ、可哀想になぁ……今頃変態に何されてるのやら」

 

「っ!?」

 

「おっと怒った? くく、テメーの妹にゃ散々世話になったもんだからな。これぐらいの皮肉は許せや」

 

 

 オカルト研究部員に加えて生徒会役員が全員休学となって騒然としたのはまだまだ記憶に新しい。

 だが俺にとってはどうでも良い事案だ……拉致されようが、変態プレイさせられようが、ぶち殺されようが知った事じゃない。

 というかだ……。

 

 

「それにしても貴様等悪魔にはいい加減飽きてきたな……げげげげげげ!」

 

「がはっ!?」

 

「グレイフィア!!?」

 

 

 ここまでしつこいのであれば――もう良いよな?

 

 

「貴様っ……!!!」

 

「目新しさゼロ。意外性ゼロ。しつこいだけのゴミはどするべきか……………焼却炉で燃焼だクソ共。

なぁ、そうだろドライグ?」

 

『意外な末路だったな悪魔共』

 

 

 ゴミはゴミ箱だ。

 

 

「やるぞドライグ」

 

『コイツ相手にはちとオーバーキルな気がしないか?』

 

「そうでも無いだろ。あの魔王はどうも只の悪魔とは違うらしいしな」

 

 

 口から血の塊を吐いて倒れた女と両親とやらを比較的安全な場所まで運び、戻ってきた――見てるだけで殺意が沸く紅髪の魔王の全身から溢れる殺意と高密度のオーラ……いや魔力を見ながら俺とドライグは、徹底的にぶち壊さなければ此方がやられると判断する。

 

 

「おいおい、でき損ないの分身なんか作ってどうするんだ? てか、そんなの振りかざしたら人間様の世界が壊れるだろうが。

ったく、どこまでも悪魔ってのは悪魔だな」

 

「心配しなくても、既に周囲に出来るだけの被害が及ばない障壁を潜ませていた私の眷属達によって展開されている。

つまり、この場所でのみ……私はキミを殺すために本気を出せる」

 

 

 溢れる魔力が形を変え、魔王の頭上に分身の様に出現する。

 どうやら本気らしい。なるほど、なるほど……くく。

 

 

 

 

―我、目覚めるは覇の理を神より奪いし二天龍なり―

 

    ―無限を超越し、夢幻を破壊せん―

 

―我、全てを喰らい、全てを糧とし永遠の進化を遂げる無神臓と化し汝を滅ぼさん―

 

 

 じゃあ、もう殺るっきゃあありませんね。

 

 

「っ……何だ、それは?」

 

『何でも良いだろ? くく、あぁ……でも言っておくか。

俺は一誠でもドライグでも無い、俺は貴様を破壊する者。

兵藤一誠の異常性と精神と、赤い龍の力と精神を一つにした結果生まれた、歴代赤龍帝の誰もが至った事のない、俺達だけの結果とでも思って……くたばれ』

 

 

 もう、悪魔はうんざりだ。

 

 

 

 

「早く戻るぞイリナ。一誠を一人にするのは心配だ」

 

 

 教会を追い出され、異常者な私を喜んで送り出してくれた家族とも縁が切れ、ゼノヴィアと共に力を取り戻したイッセーくんと仲良く楽しい生活を送る事になってから早いものだと思う。

 

 

「前から思ってたけど、何でゼノヴィアってそんなにイッセーくんに過保護なの?」

 

 

 サッパリしてる性格だと思っていたゼノヴィアが意外なまでに過保護で、四六時中イッセーくんに世話を焼こうとしてるのを見せられてる身だけど、不思議なことに何故か私はゼノヴィアに腹が立つことは無く、寧ろ一緒になってイッセーくんをお世話してる。

 

 どうも私とゼノヴィアは力を取り戻す前の、悪魔に好き勝手されていた時のイッセーくんが頭から離れられず、その身に受けた傷跡を見てると余計に心配というか、何とかして癒してあげられないかと思ってしまう。

 この時もイッセーくんに言われて渋々私とゼノヴィアの二人で夕飯の買い出しから急いで戻ってる訳で……。

 

 

「いた! おいイッセー!」

 

「……? 悪魔の気配……?」

 

 

 ちょっと寂れた広場で無事な様子で身体を鍛えているイッセーくんの姿を見るなり、ゼノヴィアは我先にとばかりにスキルで高速移動なんてしてまでイッセーくんへと走ると、私達に倣って我流の剣術の修行中だったイッセーくんの身体をベタベタ怪我は無いかと探ってるのが見える。

 

 

「変な奴に声を掛けられたとかは無いな? お菓子を上げるから付いていくとかしてないな?」

 

「してないというか……俺はガキか」

 

「ねぇイッセーくん。もしかして悪魔が居なかった?」

 

「なに!? ………む、言われてみれば悪魔の……それも強い力の気配が残ってるが」

 

「いや別に? イリナとゼノヴィアの気のせいじゃねーの? 俺一人で普通にやってたし」

 

 

 お姉さんぶりたいのか、悪魔の気配すらそっちのけで気づいてないゼノヴィアも今気付いたみたいだけど、イッセーくんは会ってないと言っている。

 ………………。何か表情的に怪しいけど、イッセーくんが無事な以上、奴等の事なんて気にしても仕方ないので私もこれ以上の追求はしなかった。

 

 

「帰るぞイッセー

今日はハンバーグだ」

 

「料理本を読んでお勉強をしたから失敗はしないわ!」

 

「…………。切に願うよ」

 

 

 そんな事より家に帰ってご飯。

 私とゼノヴィアはイッセーくんの手を引っ張りながら家に帰る。

 うん―――

 

 

「………………………」

 

「…………………………」

 

「……………」

 

「………………」

 

 

 近くにあった腰ぐらいの高さの植木の影にあった数匹のミンチになってる悪魔っぽい何かはゼノヴィア共々知らないフリよ。どうでも良いし。

 

 

 

 

 イッセーの事が心配だ。

 力を取り戻したイッセーの強さを疑ってる訳じゃないが、悪魔から受けた傷の深さは本人のヘラヘラした態度で誤魔化されてるが、実はとてつも無く甚大であり、報復を終えた今でも根深く残っている事を私もイリナも知っているのだ。

 

 

「チッ、傷は消えないか」

 

「すまん、教会からかっぱらった聖薬でもこれが精一杯だ」

 

 

 例えばイッセーの身体に残る無数の傷は悪魔達により付けられたものであり、残留思念とでも云うべきか……何をしても消せなかった。

 イッセー本人は『まあ良いや』なスタンスなのだが、それは意識がある時だからこんな態度であり……。

 

 

「……く……ぐぅ……あ……」

 

 

 眠ってる時は毎日悪夢に魘されている。

 力を奪われ、尊厳を踏みにじられていた頃の記憶が悪夢として……。

 

 

「ゼノヴィア」

 

「わかってる……」

 

 

 『頼むから別々になってくれ』と深刻な顔で言われて渋々別々に寝ていた私とイリナは、押し入れから聞こえるイッセーの苦しそうな声に黙って頷き合うと、押し入れの扉を開け、苦しそうな顔で魘されているイッセーを抱き上げ、元々はイッセーが寝ていたベッドに寝かせると、冷やしたタオルで汗を拭く。

 

 

「ドライグ……お前から問い掛けてもダメなのか?」

 

『……。寝ているときは完全に意識間の繋がりが切れるからな。問い掛けても俺の声はイッセーには聞こえない』

 

「やっぱりアイツ等にされた事が余程ショックだったんだね……」

 

 

 厄介な事に、悪夢に魘されている時のイッセーは起こそうとしても起きることが無い。

 自分の中に残る悪夢に閉じ込められてしまっているのか……それは解らないが、受けた仕打ちがイッセー自身を苦しめ、イリナ好意に対しても背を向ける傾向にある。

 

 

「やるぞイリナ」

 

「うん」

 

 

 そんなイッセーに対して私達が出来る事は、魘されているイッセーに寄り添ってやる事だけだ。

 所謂川の字で眠るという奴か、私とイリナでイッセーを挟む様にして横になり、そのままイッセーを抱き締める。

 本格的な日本の夏が近付いてるので熱くて汗ばむので若干恥ずかしくもなるので、教会から盗んだ結界技術の応用をイリナと編み出した特殊防壁で結界内の気温を肌寒さを感じるレベルまで下げれば、寧ろ人肌湯たんぽとやらになるので心配はない。

 

 

「すー……すー……」

 

「落ち着いたか……」

 

「みたいね……もっと早くイッセーくんと再会出来てたらとこれ程までに悔やむ事はないわ」

 

「まったくだな」

 

 

 イリナの悔やむような声に私も同意する。

 最初はイリナの話でしかイッセーを知らなかったが、今では大事な仲間だ。

 いや……確かに仲間以上の感情は持ち合わせている事は否定できないが、イリナに悪いしな……。

 

 

「ねぇゼノヴィア……アナタ、イッセーくんの事好き?」

 

 

 だからこそ、穏やかに眠るイッセーを抱き締めながらされたイリナからの質問に私は返答に困る。

 好きかと問われたそりゃあ好きだし、最近ちょっと意識すらし始めてるのも否定できない。

 けれどイリナの手前そんな事は言えず、私はあくまで友達で通すつもりだったんだ。

 

 なのに……。

 

 

「別に私だってイッセーくんの恋人って訳じゃないし、ゼノヴィアがそう思うなら私は何も言わないわよ? 寧ろこれから三人でやっていくなら上手いこと……こう、半々でみたいな?」

 

「………………。む」

 

 

 こんな事を言われたら嬉しくなってしまうじゃないか。

 

 

「イッセーくんは胸が好き……さぁどう動くゼノヴィア? 先攻はアナタに譲るわよ?」

 

「……………」

 

 

 ニヤッと暗くてもわかるイリナの笑った顔に私は……乗った。

 着ていた上着を脱ぎ、そのままイッセーの顔辺りに押し付けるように抱き締め――

 

 

「んが?」

 

「「あ」」

 

 

 様とした所でイッセーが起きてしまい、上半身が裸な私はそのまま固まってしまった。

 

 

「え、あれ……押し入れじゃない……?」

 

「「……」」

 

 

 だがどうやら寝惚けているらしく、真隣で息を殺してフリーズした私達に気付かず、のそのそと身体を起こそうとしたので……。

 

 

「イッセー……!」

 

「むががっ!?」

 

 

 何か取り敢えず寝惚けてるイッセーにそのまま抱き着いてみた。

 ちゃっかりイリナもイッセーの身体に絡み付いて動きを抑えている。

 

 

「な、何だ前が見えねぇしく、苦し――――ぐぇ」

 

 

 その結果窒息させてしまったらしく、再び眠ってしまったイッセーに申し訳無い気持ちになりながらも隣で横になった私は、同じく上が何も無いイリナと一緒になって左右からイッセーの顔辺りに胸を押し付けるようにしながら抱き締める。

 

 

「これでよしと……」

 

「ちょっと恥ずかしいな……。だがイッセーの為だ」

 

 

 さらけ出してしまってるので恥ずかしいものの、抱き締めている時は何時だって心に抱く堪らないこの気持ちがあるせいか、途中で止めようとは思わなかった。

 

 

「ちゅうちゅう……」

 

「ひぁ!? ちょ、な……い、いっせぇ……! わ、私のなんて吸っても出な……あっ……!」

 

「んー……んむ」

 

「やっ……!? こ、今度は私に……ぃ!?」

 

 

 寧ろ何だろうか……安心できるというべきなのか。

 ちょっとした想定外な事で驚き、全身に伝わる痺れるような何かに身体の力が抜けて変な声が出てしまうが、嫌な気持ちには私もイリナも決してなかった。

 

 

「んぁ……朝……か、あぁ!?」

 

「あ……ぅ……いっせぇ……」

 

「い、いっせーくぅん……あは♪」

 

「な、何だこりゃあ!? まっさらおっぱいにエロエロな雰囲気の二人って……俺何かしちまったのか!?」

 

 

 色々と想定外で……しかし心に抱いた気持ちがより増大化して心地好い気持ちになれた。

 ちょっとお風呂に入って下着を変えなければならない事態になろうともな。

 

 

終わり




補足
上層部の一部は自業自得と悟っており、寧ろ崩壊すら受け入れるという者も居ます。
まあ、他はほぼ『殺られる前に殺ってしまえ』的意見ですが。


その2
植木の影に放置された何かは……まあ、生きては居ますよ生きては。


その3
受けた心の傷は割りと甚大であり、魘され続ける程度には残ってます。

それを見てお二人は……そうだ、彼の好きなおっぱいで癒そうと考え、決行した結果……ピクピクしてしまうレベルにちゅーちゅーされてしまった的な。

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