力を取り戻したばかりの時はテンションがおかしかったので無視してたけど、そういえばドライグが気になる事を言ってたな。
『白いのが近くに居る』だっけ? 何かそんな事をボソッと言ってた気がしたけど、白いのってーとアレだよな……白龍皇の事で間違いないよな。
「本当に居たのかよドライグ? 俺全く気付かなかったぜ?」
『それはお前が調子に乗ってたからだ。
あの時の状況なら無理も無いが、外から俺達を見る白いのの気配は確かに感じたぞ。
仕掛けて来なかったのは解せんかったがな』
「ふーん……?」
見てたねぇ?
確かにあの時は力を完全に取り戻せたって喜びでテンションがおかしな方向にイッちまってたから周りなんて全然気にしてなかったからな。
嘗ては殺し合いをしていた相手なら間違いないんだろう。
『そんな事より、二度とあんな不様な理由で力を奪い取られる事が無いようにしろよな。
今回はあの女のアシストがあったから良かったものの、無かったら今もまだあの餓鬼共に良い様に使われてるんだぞ?』
「解ってるよ。俺も二度とゴメンだぜ」
『それに、あれだけ派手に生かした状態で餓鬼共を破壊したんだ。
次の日に消えていたということは確実に悪魔共に回収され、どうしてそうなったかの理由も黒髪の方の悪魔の餓鬼経由で知られている筈だ。
今は奴等曰く『何も出来ない』らしいが、それも何時までかは分からん』
「それも含めて承知してるぜドライグ。
その為にこうして鍛えてんじゃねーか」
まあ、ドライグは多分戦いたいんだろうが、俺は正直な所その白龍皇ってのにはそんな興味は無い。
向こうから仕掛けてくるならまだしも、自分から探して仕掛ける事はしない……つーか、そこまでする価値があるとは思えない。
それよりも今回のクソ事案を反省して、今度は二度と奴等……それかその他共に封印されるなんて間抜けな沼に嵌まるなんて事が無いようにもっと強くならなきゃな。
俺の目標はあくまで『誰よりも生き続ける』事なのだから。
「にしても、クソ共にやられた傷は消えねぇな。
力が奪われてた状態で受けた傷だから仕方ねーが……」
『戒めとして諦めるんだな』
「へーへー」
更なる進化を。
いくら死に掛けたとしても、誰も干渉できない領域に……。
例えこの星――いや宇宙全てが敵になったとしてもぶちのめせる程の力を。
ドライグ曰く『歴代最強最悪の赤龍帝』なんてお墨付きまで餓鬼の頃に貰ってんだ。
だったらその通り、最低最悪にでも何でもなってやるさ。
そうなれば誰よりも長生き出きるんだからな。
「イッセーくーん!」
「一人で先に行こうとするな!」
「あ、悪い」
只、イリナとゼノヴィアにはまだ言ってない事があるんだよな……はは。
リアス達から取り戻した一誠の異常性の性質は進化だ。
獲た知識、経験、技術の全てを吸収し、一誠自身を物凄い速度で成長させ続けるこの異常性は一誠の持つ向上心をそのまま具体的にしたスキルと云えるだろう。
故に一誠はリアス達にほんの数%程度の微々たるものでも勝手に使われた事にあそこまで激怒した。
自分のアイデンティティに土足で踏み込まれ、あまつさえ本質を一切理解しもせず利用し、自分達の願望を叶えていた。
一誠からすれば堪えられない屈辱で、だからこそ完全に復活を果たした際は執拗に痛め付け、生き地獄を味会わせた。
それこそ他の悪魔達から逆襲されようが、恨まれようが知った事じゃないとばかりに、虫を捻り殺すかの様にリアス達を破壊した。
だが、一誠にとって自分のアイデンティティを勝手に使われたのと同じくらいに怒りと憎悪を覚える理由が一つあった。
「直し方? 知らねーな、殺して火葬したら苦しまねーんじゃねーの?」
『………』
リアス・グレモリーが失われた駒王学園。
グレモリー家が管理として機能していたこの街は現在、管理主が不在のままリアスの幼馴染みのソーナ・シトリーがリアス復帰まで管理を任されている訳だが、あの夜から暫く経って確信したリアス・グレモリー達の完全再起不能という判断のせいで、復帰はほぼ絶望的だ。
故に悪魔達は主をほぼ殺したに等しい元下僕の悪魔に対し、リアス達の受けた治らない傷の治療方法を知りたがった。
しかしあの夜に発覚した赤龍帝の力は余りにも絶大で、尚且つソーナとその下僕達の報告により、力で押さえ付ける事がほぼ不可能と魔王達は判断し、それなら対話でとソーナに一つ任務を与えた。
それが――
「そ、そこを何卒お願いします……! リアス達は今も、意識を失いたくても失えない状態で、言葉も発せないんです……!」
赤龍帝・兵藤一誠からリアス・グレモリー達の治療方法を聞き出す事だ。
それも刺激せずにという……ソーナからしたら今にも胃の中の物を吐き出しそうな恐怖を押し殺した任務だ。
「まあ、そういう風にぶち壊してやったからな。
ザマァねーな……はははは」
「っ!」
駒王学園・生徒会室。
室内のソファにどっかり座り、警戒心バリバリの様子の元悪魔祓いの少女を二人傍らに座らせながら、ソーナ達を前にヘラヘラと嘲笑うは兵藤一誠。
最初はリアス曰く『赤龍帝の籠手所持者の危険な人間だから下僕にした』と聞かされ、幼馴染みでありライバルでもあるリアスが強くなる予感を覚えた――というか、現に一誠を下僕にしてからのリアス達は異常な成長を見せており、人数からして既に不利だったライザー・フェニックスとの婚約破棄を掛けた非公式レーティングゲームにも完全な勝利を手にしたのを見せられた時は、自分の眷属共々頑張ろうと心に誓った筈だった。
しかし全てはあの日の夜に壊れた。
この兵士の少年の『反逆』によって……。
「そ、そこを何とかなりませんか? 教えてくだされば、魔王様達――いえ、以下我ら全ての悪魔達はアナタをはぐれ悪魔して認定しませんし、今後一切干渉をしないことを誓います……ですから――」
「だってよ、面白いなオイ? 俺はぐれ悪魔だってさ」
「確かにおかしいな、イッセーは転生悪魔では無いのに」
「人まで指名手配出来るんだね悪魔って、初耳だわ」
今はこうして普通に見える、ヘラヘラした少年。
しかしあの日の夜ソーナ達は確かに見た――
悪鬼の如き容貌でリアス達を破壊する修羅の姿を。
リアス達の身を肉塊と変わらない姿になるまで、嗤いながら痛め付けた鬼を。
「そ、それは……確かに今の兵藤君は転生悪魔ではありませんでしたね。私が……間違えました」
恐ろしい……関わりたくない……干渉したくない。
すっかり一誠に対して怯えてしまったソーナは、魔王達から受けた任ですら、叶うなら投げ出して逃げたかった。
しかし幼馴染みの為……何より今のリアスはリアスでは無い何かにすら見えてしまう故。
せめてその姿を元に戻してあげたいという気持ちが残っているソーナは、眷属達と共に怯えながらも必死に懇願した。
しかし現実は――一誠の悪魔に対する嫌悪は余りにも強大すぎた。
「嫌だね。
そんなに苦しんでるならとっとと燃やして骨にでもしてやれよ。それこそ慈悲だろ?」
「う……」
ヘラヘラとしていた表情を一変、ソーナの姉であり魔王でもあるセラフォルー・レヴィアタンの扱う氷の力を遥かに凌ぐ石像の様な冷たき表情で切り捨てた一誠に、ソーナは冷や汗が止まらずに只俯いてしまった。
駄目だ……リアスが一体何をしたかは聞き出せないし、解らないが、一誠という少年は悪魔自体を本気で嫌悪している。
何があったからそこまでの憎悪を向けるのか……せめて知っていれば、その事に対してリアスに代わって謝罪でも出来るが……と内心蠢く恐怖を押し殺しながら考えるソーナを見て察したのか、それまで無言で警戒心を露にしていた一誠の傍らに座る二人の悪魔祓いの少女二人が口を開いた。
「無理矢理悪魔に転生させた挙げ句、一誠から力を奪い取って勝手に使っていたともなれば、許せる訳もないだろ」
「挙げ句の果てには、自分の思い通りにならないからって、転生で弱体化したのを良いことに虐待の真似事まですれば尚更よ」
「なっ!?」
『……!?』
話そうとしなかった一誠に代わって、無表情で暴露された話にリアスをよく知っていたつもりだったソーナは驚愕の表情で固まってしまった。
「ぎゃ、虐待……ですって……!?」
しかしそれでも信じられずに思わず、鼻を鳴らしながら目線を少し上に向けてる一誠を見つめる。
すると一誠は無表情からかったるそうな表情へと変えると、リアスから受けていたこれまでの事を大まかに語りだした。
「最初は一人で修行をしていて死にかけるレベルの重症を負って弱っていた所を、『危険だからその力を管理させて貰うわ』なんてほざいて俺を転生させた。
それのせいで本来の1%以下の力も引き出せない状態がずっと続いた状態で監視下に置かれた」
「そ、そんな!」
忌々しそうにすら見える様子で話す、自分の知らなかった一面のリアスを知り、ショックを受けるソーナだが、それで終わることはなかった。
「それから暫くしてからか……あのクソ悪魔に婚約話が舞い込んで来た。
で、奴は『自分一人を愛する人しか結婚しない』なんて薄ら寒い台詞をほざいて、その婚約者とやらとレーティングゲームをして白黒付ける事になり、従う気がなかった俺を無理矢理付き合わせた」
「………」
「その時偶発的にあのクソ共は、奴隷にした俺の力の一部を行使出来る事を発見した。
理由は恐らく、似非とは云え、主と下僕という繋がりが出来たからだと思うが、それを発見したクソ共は階級が一番低い俺の力を勝手に使い始め……結果、アンタ等もご存じの通り婚約破棄に成功した」
「じ、じゃあリアス達がある時から急激に強くなったのは……」
「ご名答。
俺の持つ力の一部を無理矢理奪ってクソ共の間で使い回してたからだ」
吐き捨てる様に嫌悪にまみれた顔で語られる、リアスの急激な成長の理由に先程以上にショックを受けたソーナ。
それは傍らで聞いていたゼノヴィアとイリナも予め知っていたとはいえ、同じく嫌悪にまみれた表情を浮かべる辺り相当なものだった。
だがこれで終わりじゃなかった。
一誠は墓場まで持っていくつもりだったが、これに加えて最も許せないもう一つの理由があった。
「そこからだね、奴等は俺の力を使いたがり、俺をますます縛り付けたがる様になったよ。
勿論俺はクソ食らえと言ったが、奴等は聞き分けのねぇ俺を痛め付けて言うことを聞かせようと躍起になった。
その挙げ句の果てにだ――」
それは情けなさ故になのか、それまでの嫌悪から自嘲染みた顔で笑った一誠は、イリナとゼノヴィアにも話すつもりは無かったもう一つの真実を――
「つまらねぇ色仕掛けのつもりか、俺を無理矢理犯しやがった」
最も憎悪に値する理由を暴露した。
「「「……………………え?」」」
一瞬何を言われたのか……今初めて聞かされた真実にソーナはおろか、イリナとゼノヴィアも声がそれしか出なかった。
「『アナタは死ぬまで私のモノよ』………ククク、くくくっ! クックックックッ! あっはははははは!!! 笑える話だろぉぉぉ!? アーッハハハハハハハハハ!!!!」
「イ、イッセー……くん……」
「そ、そんな事まで……されてたのか……お前は……!」
「…………」
暴露してから急に狂ったかの様に笑い始めた一誠に、ソーナは別の意味で顔を真っ青にしなながらガチガチと歯を震わせた。
あのリアスが……慈愛のグレモリーと呼ばれるに値するリアスが……。
力の為に尊厳を無視して目の前の少年を無理矢理――
「笑えよ、間抜けに転生させられた挙げ句力を奪われて、挙げ句無理矢理ヤらされたクソバカな俺をよぉぉぉ!? ギャハハハハハ!!!」
「イッセーくん!」
「誰もお前を笑いやしない! だから落ち着け!」
それほどまでにリアスは変わってしまったのか。
ソーナとしても最も禁忌とする真似をした幼馴染みに、どちらが本当のリアスだったのか分からなくなり、過呼吸にまでなる。
「はぁ……はぁ……ひぃ!」
「か、会長!!」
判らない、分からない、解らない、ワカラナイ……!
パニック陥り、過呼吸となったソーナに眷属達が一斉に駆け寄る中、イリナとゼノヴィアに左右から抱き締められながら狂った様に笑っていた一誠は立ち上がると……。
「だから俺はテメー等を嫌悪し続ける。
だから俺はテメー等を助けない。
肉塊のまま寿命が尽きるまで生きて死ね! あのクソ共にそう伝えとけ……クソボケ!!」
あの日の夜見た時と同じ、鬼を思わせる角を額に伸ばし、反転した瞳で悪魔達を睨みながらハッキリと拒絶した一誠は、生徒会室の扉を粉砕しながら退出していった。
一誠に与えた悪魔からの業は余りにも深すぎた……。
それ故にリアス達は報いを受けた……その現実にソーナは目の前を真っ暗にして意識を手放すのだった。
自分は既に汚れている。
そう暴露した一誠と共に学園から出て帰るイリナとゼノヴィアは、落ち着いた一誠からソーナ達に向けていたのとは全く真逆の、優しくも痛々しさを感じる笑みを浮かべてながら言った。
「……。わかったろ? 俺はクソ悪魔にやられちまった薄汚い人間だ。
だから、全部が綺麗なイリナもゼノヴィアも俺に拘るのは止めるんだ」
俺を頼むから好きにならないでくれと。
自分はもう人には戻れたが穢れてしまった。
トモダチで居てくれるのは嬉しいけど、好きになられても良いことなんて無い。
そう、自分を情けなく思いながら、然り気無く二人から距離を離そうとした一誠。
けど一誠は甘かった。
確かにイリナとは久々の再会で、ゼノヴィアに至っては知り合ってそんなに時間は経ってないのかもしれない。
しかし二人が一誠に対する感情は思っていた以上に大きいものだった。
「ふざけるなよイッセー、確かに驚きはしたがそれでお前を汚れた奴だなんて思う訳がない」
「そうよ、あんまり見くびらないでよ。
安っぽいかもしれないけど、私達はそれでもイッセーくんと一緒だよ!」
「……!」
アホらしいとばかりに距離を離した一誠に詰めより、何時もの様に接するイリナとゼノヴィアに一誠は目を見開く。
本来の一誠の性格を一身に受けてきた二人は、一誠の本質をほぼ理解している。
誰よりも強くなって、誰よりも生き続ける目標を持ちながら、両親に捨てられた影響で寂しがり屋である事を二人は見抜いていた。
故にいくら悪魔達に無理矢理身体を犯されたとしても、そんなのは関係なかった。
「まったく、もっと早く言えば良かったのに……」
「いや……引かないのかよ?」
「何が? まあ、確かに一発ぐらいぶっ飛ばしておけば良かったとちょっと後悔してるけど、一誠くんを穢らわしいとは思わないわ」
一度でも認めた相手には誠実になる。
それが一誠の本来の性格であり、再会と出会いからまだまだ日は浅いけど、そんな一誠の優しさをほぼ独占状態で貰ってきた二人は
「お前等、何でそんな優しいの……俺泣くぞ?」
ちょっと泣きそうになった……いや、既に涙声だった。
「ほら泣くなら帰ってから思う存分泣け」
「何なら私達が胸を貸してあげる。だから……ね?」
「お、おう……」
悪魔から奪われたものは多かった。
しかしその代わりに獲たものは喪ったモノよりも遥かに大きかった。
一誠は初めて抱く暖かいものを心に感じながら、二人の少女と共に歩みだす。
「………。イリナ、ゼノヴィア――ありがとう」
本当の自由と共に……。
因みにこの後メチャメチャ――
三人で強くなるために修行しまくったり、変わらず二人の胸にサンドされながら寝たりしたけど、変な事は決して起こらなかったとだけ言っておく。
終わり
補足
一誠の憎悪の理由は力だけでは無く、マジな意味でヤられたというのもあって、お二人のご好意をのらりくらりで逃げようとしてました。
まあ、ある程度緩和されましたけど。
ちなみに、皆ぶち壊されたので、ご懐妊なんてありえませんのでご安心を。
その2
てな事実を知ったせいで、余計二人から過保護にされる一誠くん。
寝ている時にちゅーちゅーさせてあげるのも躊躇わねーぜ!!(どこをとは言わない)
ゼノヴィア・ルイゼンバーンについてですが。
この流れで進むと……ほら、再会したらしたでやばそうなんで色々と。
クァルタ姓になるかならないかと言われたら、横に居る化け物さんがヤバすぎてヤバイというか、イリナさんもヤバイので、ぶっちゃけ近寄れなくなる可能性があるので再会すら不可能かもしれない。
ですので、既に幼少から一応与えられた姓という設定です。