魔王の精神が壊れましたとさ。
うむ、それは実におめでたいお話だね。やったの俺達だけど。
悪魔なんざとっとと自滅するか潰されでもして滅んでくれて結構だ。やったの俺達だけど。
あんなのに頼ってるのはほんの一部の人間だけであって、その一部ですら居ないなら居ないで関係のない話だからな。やったの俺達だけどな。
「悪魔の総数ってどれくらいだ? 非戦闘員含めて」
「純血悪魔の数な少なくなってるという話だが……どうなのだろう?」
「転生悪魔で数だけは増えてるから、中々予想は出来ないわね」
だがしかしだ……そろそろ消えても良いかもしれないね。一匹残らずな。
セラフォルーの精神を完全に破壊し、再起不能まで追い込んだ一誠達。
しかしながら段々と破壊するだけに留まらせるという行為に限界を感じていた。
「なぁドライグ? 冥界に入るにはどうしたら良いんだ?」
『人間界とは別世界だからな。俺も正式な意味で入る方法は知らん。
次元を無理矢理突き破ってという事なら、強引ながら出来なくもないが、奴が出てくる可能性が大きくてあまり勧められん』
「奴?」
『
故に、一誠、ゼノヴィア、イリナというたった三人の人間は至極真面目に悪魔という種を住まう世界ごとぶち壊してやろうかと、セラフォルー・レヴィアタンを壊してから考えるようになり、今日もズタズタになる修行を経てから、家でのんびりとお茶なんか飲みながらドライグを交えて話し合っている。
そしてその会話の中で出てきたのは、あまり気の進まないといった声でドライグが話した二天龍より上位の存在。
「普段はあらゆる次元の中を遊泳してるだけの存在だが、奴を一度怒らせると面倒なんだ」
「聞いたことはあるな。
「曰く夢幻の龍神」
『そうだ、奴の力はウロボロスドラゴンと同じく強大。
無限という概念を一誠を通じて理解した分、ある意味ウロボロス――いや、オーフィスよりも厄介に感じる』
「そんなにか? ふーむ……」
冥界に渡る為の正規ルートを冥界に入る前に転生悪魔から脱却した一誠だったり、元悪魔祓いのシスターだったりするゼノヴィアとイリナには解らないジレンマ。
かといって無理矢理次元をぶち壊しながら冥界に向かって突き進むにしても、ドライグの言った通り、別に闘う必要性が無い厄介な龍神をおびき寄せてしまう可能性もある。
かと云って悪魔はいい加減うざったい。
はてさてどうしたものかと三人+一匹は悩む訳だが……。
「強くなってから考えよう」
取り敢えず修行して強くなることを優先させる事にした。
結局の所、最後に必要なのは力である……そう結論付けながら。
それから数日後の話である。
「よぉ兵藤。会談の時振りだな」
「堕天使の……」
何時もの様に必死な様子で修行を何処かの山の中でしていた一誠達の元に転移の陣を背に現れた堕天使の男。
名をアザゼルという、互いに会談の時以来の再会に、何時も通り死にかけてぶっ倒れていた一誠は地を這った体勢のまま、友達感覚で話し掛けてきたアザゼルに対して目線だけを向ける。
「サーゼクスの妹が何でお前程の奴を簡単に転生させちまったのか解った気がするぜ。
お前、鍛えるは良いが周囲を警戒しておくべきだぜ?」
「はぁ……」
全身傷だらけ、どう見てもズタボロ。まるで壮絶な殺し合いにやっとこさ勝利しました的な出で立ちの一誠を見たアザゼルが、懐から青い液体の入った小瓶を取りだし、倒れたままの一誠の身に振りかける。
「そうで無くても、速効性の傷薬とかな」
「……」
「堕天使殿よ、一誠に何を……?」
「研究の副産物で得た速効性の傷薬だ、毒じゃねーから安心しろ」
小瓶から流れる液体が光となって一誠の身体を包み込む。
それを見てゼノヴィアが若干警戒した表情をイリナと共に向けるが、アザゼルは苦笑いながら傷薬の類いだと言う。
それは嘘では無いらしく、淡い光が消えると擦り傷だかけの切り傷だらけな一誠の身体は、『古傷』を残して完全に癒える。
「お、痛みが無くなった。すげー」
「リスクとしては量産が難しくてそんなに作れないって所か」
「何故そんな貴重なものを?」
「そらお前、俺個人としては仲良くしてーからだよ」
ヘラヘラと誰かに似た態度で心中が見透かしづらい台詞を宣うアザゼルだったが、ムクリと立ち上がる一誠の裸だった上半身を見て顔をしかめる。
「ん? おかしいな、何故傷が残ってんだ? これ結構効く筈なんだが……」
出血も止まった、打撲跡もちゃんと癒えている。
しかしそれでも一誠の胸元と背中に残る引っ掻いた様な傷と貫かれた様な傷だけが残っている事に気付いたアザゼルが不思議そうに首を傾げている。
「あぁ、これは……まぁ……修行の傷じゃないんで」
「てことは古傷か? だがお前程の奴が傷を……」
「………。転生悪魔時代にリアス・グレモリー達から受けた傷らしいです」
「何故か色々試しても消えないんですよ」
「消えないだと? 呪いか何か……では無いな。となると怨念の類いか?」
胸元に今でもくっきりと残る傷をしげしげ眺めでアザゼルはブツブツと思案する。
だがこんなみっともない……出来れば永遠の黒歴史にしたくて堪らないと思っている一誠はその傷を隠すかの如くシャツを着る。
肉塊にしてやったものの、思い出すだけで殺意しか沸かないクソみたいな記憶を、覆い隠すかの様に。
「それでアザゼルさん? 一体何のご用ですか?」
「ん、お、おう……」
これ以上は見られたくないといった様子で用件を聞かれるアザゼルは、ちょっと引け腰ながらも気を取り直すと、わざわざこの場所を探してまでやって来たその理由を適当な切り株に腰掛けながらゆっくりと話始めた。
「用件というか、単なる忠告というか……。まぁ特にセラフォルーまでやっちまったお前に言う必要もないのかもしれないが……」
「はぁ」
「なんなんだ?」
「というかそもそも、私達は初めて見るけどアレがアザゼルなんだね」
ちょっと難しそうというよりは、真剣な顔をするアザゼルに首を傾げる一誠の後ろでヒソヒソと初めて対面するアザゼルの姿について話し合ってるイリナとゼノヴィア。
それはアザゼルにも聞こえてたりするが、それよりもまずは一誠に言っておかなければならない事があった。
「リアス・グレモリーの下僕の一人が冥界から消えた」
「……は?」
「なんだと?」
「消えた?」
アザゼルの口から話された冥界での出来事。
ある意味で一誠からすればあり得ない話に思わずポカンとしてしまう。
イリナとゼノヴィアも同様にであり、一誠の力で既に壊された存在の末路を知ってるので余計に嘘臭い話にしか聞こえない。
だがアザゼル目は真実を語るそれであり、放たれる空気もまた真実を語るそれであった。
「詳しくは分からん。だが調べによれば、お前に壊されたリアス・グレモリー達はバラキエルの娘を除いて全員冥界の……所謂病院に居た。
だが調度少し前だ……その病院に居た筈のリアス・グレモリーの下僕の一人が忽然と姿を消し、残っていたのはその病院に勤務していた悪魔の残骸だけだった」
「…………。嘘には見えませんね」
「誰なんだ? リアス・グレモリーの下僕は両足を破壊されたハーフ堕天使を除いて二人だが……」
「ええっと確か、金髪で聖剣を恨んでた男と……もう一人の――」
「そうだ、そのもう一人……猫妖怪の方だ」
「……………………。ほぅ?」
猫妖怪……つまり塔城小猫が消えた。
その話を受けた瞬間、一誠の頭の中にぶち壊してやりたい記憶がフラッシュバックする。
「普通ならありえない。俺も既にコカビエルからお前の力については聞いているし、バラキエルの娘の足の様子を見たから解ってる。
お前に壊された存在は全て例外無く元には戻らない……だからお前に壊された猫妖怪が一人で歩ける訳もない」
「なのに居ない」
「そう、そうだ。しかも病院内の悪魔の残骸を残してな。
……………兵藤、お前何かわかるか?」
「………………」
ジッと見据える様な目を向けるアザゼルに一誠は感情の読めない目をする。
破壊された筈の小猫だけが消えた。何も出来ないように全身を丹念に破壊してやったにも拘わらず居なくなった。
「あの餓鬼を浚うのにメリットを感じるのは居ない―――――いや、居たわ」
「む! 誰だ?」
「思い当たる節があるのイッセーくん?」
「俺もそれは知りたい。敵対組織に拐われただけなら良いが、もしかしたらお前に恨みのある悪魔以外の組織の仕業かもしれんしな」
思い当たる節があると呟いた一誠に三人が迫る。
イリナとゼノヴィアは眠る時に決まって一誠を心配して、アザゼルは一誠を恨み何者かを炙り出す為に。
「……………あの餓鬼の姉」
そんな三人に対して出した一誠の答えは、この前一人で戦った仇討ちと宣っていた黒髪の女だった。
「姉?」
「はい、この前修行中にソイツが来ましてね。妹の仇討ちに来たとかほざいてましたよ」
一誠の答えにアザゼルが目を細める。
するとイリナとゼノヴィアは思い出したかの様にハッとした顔となる。
「まさか、土壇場でスキルを使ってお前から逃げた奴のことか!?」
「うん……ちっ、やっぱとっとと殺すべきだったな」
「マズイわね、未だに行方が掴めないのに」
「あ、あぁ? ちょ、待て……何の話だ?」
舌打ちする一誠に難しく唸るゼノヴィアとイリナの会話に付いていけずに困惑するアザゼルの問いに一誠が代表して話す。
修行中に姉を名乗る猫妖怪から挑まれて殺してやろうとした。しかし土壇場になって一誠の予想外な事が起きて取り逃がしてしまった事を。
「マジか。まさかコカビエルとガブリエルみたいな解析不能の力を使うのか……」
その話にアザゼルはますます難しく唸る。
神器とは違う、種族としての力でもない。ただ何故かその者だけが使える謎の力。
アザゼルがどれだけ解析して研究しようとしても出来ない異能。
その使い手が人間である一誠、ゼノヴィア、イリナに続いてまた現れたという現実に、理解したくても理解できないジレンマを刺激されて項垂れる。
「法則性がわからねぇ。例を考えるにどんな種族でも発現できる可能性があると見るが、一体なんのカラクリで……」
「「「…………」」」
見た目とは裏腹に研究者気質であるアザゼルは知りたくて仕方ないといった様子だが、それを見た三人は何となく黙ってようと知らん顔をする。
いや、別に教えても良いけど、こういうのは自力で解明してからこそ価値が多分あるのだろうし……と。
アザゼルもそのつもりなのか、自分達に聞いても来ず、うんうんと腕を組ながらただ悩んでいる。
「うーん、取り敢えず話を聞いてみるにその線が高そうだが……特徴はわかるのか? その猫妖怪の」
散々頭を抱えたアザゼルだが、取り敢えずこれ以上悩むのは後回しにしようと自分の中で気持ちをリセットさせると、話に出てきた小猫の姉の特徴を一誠に尋ねる。
決して仲間……って訳でもないし、寧ろ目の前の少年に壊されたサーゼクスとセラフォルーの方が友達とも云えるが、今となっては元を辿って考えると一誠側の気持ちに傾いてしまってる。
故にちょっとばかり力にでもなって借りでも作れたらなぁ……なんて思いつつアザゼルは聞いたのだが。
「あーっと……長い黒髪で」
「ふむふむ」
「目は金色で、体型は……まぁ俺は死んでも絶対使わないけど、夜にでも一人でやるネタに使えそうなレベルで出てたり引っ込んでたりで」
「「………」」
本人は意図しないで言ってるのか、後ろからシラーっとした目をしてる二人に気付かずに一誠は黒猫の特徴を挙げていく。
「今時祝い事にしか日本人は着ない様な着物をわざとらしく着崩してましたね。そうそう、痴女っぽいといえば良いのかな?」
「…………………………」
「む、どうした堕天使殿?」
「急に汗が凄いんですけど……」
適当に斜め上を見ながら特徴を言い終えた一誠。
名前も聞いちゃいないというは実に致命的だったが、それだけ聞いたアザゼルの顔色が急激に悪くなり、更に言えば滝の様に冷や汗が吹き出ていた。
「あ、アザゼルで良いぜ二人とも。そうか……そ、それだけじゃ難しいな。猫妖怪妖怪って種族自体結構いるし……」
「む? そうでも無いと聞いたがな私は」
「私も聞いたわね」
アザゼルは今ピンチだった。
それこそ胃がキリキリ痛むし、心なしか全身が冷たくなってく感覚だった。
「と、取り敢えず探すからよ! な、何かあったらまた来るぜ!」
「え、あ……」
ヤバイ、マズイ、ヤバイ。
アザゼルの脳内なそんな言葉に支配されてしまい、しっかり挙動不審となってしまったまま、慌ててそれだけを言うと止める暇もなくとっとと去ってしまった。
「……………。絶対知ってるだろ何か」
「あぁ、一誠が特徴を言い終わる直前辺りにはもうあんな様子だったぞ」
「……。考えられるのは、その女を既に堕天使側に匿ってるという事かしら? どうするイッセーくん?」
追い掛けて聞き出す? と結構物騒なオーラを出しながら聞いてきたイリナに、一誠は『いや……』と首を横に振る。
「良いさ。
あの人にも色々と事情があるんだろうし、どうであれ一応あの人達種族には借りがある。
まあ、あの雌猫がそれでも殺しに来るなら全力で殺し返してやるがな」
分かりやすいほどに胃の痛みを訴える様な顔をしてたアザゼルがどうも不憫に見えたのか、一誠はアザゼルを追い詰める事はしないと宣言した。
その判断に二人も特に異も無く頷くと、修行を取り止めて山を降り始めた。
スキルを覚醒させて、それが厄介だとしてもそれ以上に自分達が更に手の届かない領域に進化すれば良いのだからと……。
「ヴァ、ヴァーリめ。捨て猫を拾ったと言ってたが、大当たりじゃねーか、バカやろっ……!? い、胃がぁぁ~!」
逃げるようにして去ったアザゼルが本当に不憫に見えてしまうのもあって。
だが、小猫が冥界から消えた事に対しての理由。
それだけは大はずれだった。
小猫――いや、白音は決して姉の黒歌の手引きで消えた訳じゃない。
「な、何だ貴様は! たかが猫妖怪の分際で俺達真の魔王を――」
しゃく
「がぁっ!? こ、この化け物ガァッ!!」
しゃく、しゃく
「な、何故だ!? 何故四肢を消し飛ばしたのに再生する!! 一体何なん――」
しゃく!!
「う、腕がぁぁぁぁっ!!!?」
姉の黒歌もまた覚醒した様に、一誠の僅かな取り零しにより白音もまた……。
「先代魔王の血族者って話だから来たのに……あんまり美味しくない力ですね」
悪魔を越えた
「ふむ、取り敢えず旧魔王派だか何だって悪魔の力を全部食べたけど、やっぱり足りない」
そこに白音は居た……多数の悪魔だったモノの残骸で築かれた屍の山の頂点に。
「先輩の力の方が安心する。いくら有象無象を食べても足りない」
自分が喰らった旧魔王派の悪魔の屍を、興味の失せた玩具の様な目で見据えた白音は、まだ足りないとその場から去ろうとした。
その存在を喰らう事で自分の力にすることの出来る
そして誤算により僅かに残り、そして自分で育てた一誠スキルの30%である
この三つが歪に白音を急激に進化させており、既に今の白音の力は魔王と同等の力を持つ悪魔をたった一人で全滅させられる程までになっていた。
「先輩の憎悪……それを悪魔の独り占めなんてやだ」
旧魔王派なる存在を全滅させた理由もまた、一誠の憎悪すら欲しいという狂った理由。
憎悪すら愛に変換にする強烈なエゴ。
癒し系美少女の面影は既にない。
「あれ?」
そんな白音は次は何処に行こうかとぼんやり考えながら旧魔王派のアジトから出ようとしたのだが、城とも言うべき広大なアジトの隅っこ自分を見て怯えている気配を察知して足を止め、目を凝らしてみる。
「あ、ああっ……アナタ……だ、旦那様が……!」
そこに居たのは、かつて自分と同じ学校に通っていて生徒会長と呼ばれた悪魔。
「あれ、シトリー先輩?」
拐われた悪魔……ソーナ・シトリーが、屍の山を見つめながら絶望の表情を浮かべて震えていた。
いや、よく見るとその下僕達も同じく屍を見つめて震えている。
「へぇ、この方々に何かされたんですか? ていうか、何で裸? あぁ、色々されたんですか?」
「ひっ!?」
「怯えないでくださいよ……ほら、もうアナタ達に乱暴する奴等は死んだんですから」
くつくつと嗤う白音にソーナ達は悲鳴をあげる。
「ではお達者で……あはははは!!」
だが白音はソーナ達に何をするでも無く、狂った様に嗤いながら去ってしまった。
残ったのは心身共にボロボロのソーナ達だけ……。白音は既にどうでも良かったのだ。
終わり。
オマケ。ちょっとしたジェラシー
山を降りてる最中、イリナとゼノヴィアはふとアザゼルに言ってた一誠の言葉を思い出す。
「お前を襲った猫妖怪とやらは良いスタイルでもしてたのか?」
「え?」
「いやほら、夜のゴニョゴニョ……って」
「?? あー……はいはい、まあ確かに見た目だけは良かったんだじゃねーの? と思ってさ」
「ほう」
「ふーん?」
「まあ、死んでも嫌だけどな。猫は好きだが猫妖怪なんざクソ喰らえだぜ」
と、吐き捨てる様に言う一誠だが、体型だけは認めてる的な発現にしか聞こえず、何となく二人は納得できなかったとか。
終わり
補足
ガチガチにヤバイ領域爆進中白音たん。
ある意味一誠レベルの進化方法を使ってるので尚質が悪いぜ