まあ、大方の予想通りといいますか……クライマックスに添える第四のラスボス候補といいますか。
利用され続けた事に憎悪した少年に破壊された者達が居た。
目を潰され、足を砕かれ、腕をちぎられ、喉を破られた。
嗤い、そして憎悪を募らせた男はそれでも止めない。
いくら媚を売ろうとしても、いくら泣き叫ぼうと、いくら命乞いをしても男は決して自分達を許しはせず、永遠とも云うべき苦しみを死ぬまで受ける罰を与えた。
それが力を利用した男との最期の記憶。
壊され、憎悪され、そして壊され続ける永遠の苦しみへの序曲……。
壊された者達の中に一人の少女が居た。
その少女の在りし日の姿は小柄な体型の美少女であり、通っていた学校でも学年問わず人気があった少女だった。
(……)
しかしそれはあくまで表向きの話。
本来の少女の正体は悪魔でもあり、妖怪でもあった。
戦車という駒の特性により力が自慢という事もあった少女は、それまでは仲間達と共に悪魔ながらに善良側ともいえる精神を持ってその日を生きていた。
『新しい仲間よ』
『……』
そう――最近自分達の中で強大な力を持った人間が居るという話があり、運良く自分達の主がその人間……自分達と年の変わらない少年を、既に殺意溢れる形相をさせながらも連れて来るまでは。
『塔城小猫です、先輩の事は知ってま――』
『ふざけるな! 何故俺がテメー等ごときの為に縛られなきゃならねぇんだ! 殺すぞボケが!』
『……。転生させる前までならそれも可能だったわね。けど今のアナタにそれは無理。その証拠に――ほら、小猫』
『がっ!?』
『―――自己紹介の最中ですから落ち着いてください』
最初は恐ろしく強大な神器と力を保持した一個人としてしか認識してなかった。
勝手に転生させられた怒りを爆発させ、主を殴り倒そうとするのも、何れは緩和するだろうと楽観視し、言われた通り大幅という言葉ではまるで足りない程に弱体化していた少年を取り押さえる係りとして、少年と関わる事になっただけだった。
『先輩、部活の時間ですよ?』
『失せろクソガキ、誰がテメー等みてーなクソの集まりなんかに近付くか……!』
『……。またですか、あんまり手間を掛けさせないで欲しいです』
どこまでも憎悪の目を止めない少年を取り押さえては引きずる毎日。
勿論最初は面倒だと思ったし、自分達にこうも簡単に暴言をポンポンと吐く少年を、転生させられたという背景に若干同情はしつつも好ましいとは思わなかった。
『……。この力……そう、なるほど。赤龍帝の他にアナタがあんな力を保持していたのはこれが理由だったのね?』
『て、テメェ等何のつもりだ……それは俺のっ!』
『駒同士の繋がり、主と下僕という繋がり、位の上下関係での繋がり。
一番位としては下の兵士であるアナタの力が主である私や、位として上位に位置する皆に流れている。
偶然とはいえ、これはラッキーね……。この力があればライザー達なんて目じゃないわ』
始まりはほんの小さな偶然と発見だった。
少年の持つ二天龍とは別の……ある意味で少年自身が規格外たらしめる原因の発見。
少年の中に渦巻く貪欲なまでの進化の精神と、その精神を具体的にした謎の力。
その正体と、繋がりを理由に自分達の間で共有するかの如く使い回せてしまった……これが全ての始まりだった。
『素晴らしいわ! あの鬱陶しいライザーを捻り潰せた! ふふ、この簡単に成長できる一誠の力さえあれば、私は誰にも縛られない!』
『ふざけるなっ!! 勝手に、勝手に俺の中に土足で入りやがって……全員皆殺しにしてやるっ!!!』
当然の事ながら、元々憎悪していた少年はこれまでに無い程に怒り狂い、自分達を糾弾した。
曰く少年の持つ力は、少年自身の精神力……心そのものとの事で、自分達が何の苦労もなくただ転生での繋がりという理由だけで使った事が許せなかったらしい。
しかし、自分を取り巻く邪魔物全てをなぎ倒せるに値する少年の力の虜となっていた主は、そんな少年の糾弾をどこ吹く風とばかりに聞き流し、あろうことか少年をあらゆる手を駆使して縛り付けようと動いた。
力で押さえつける。
逃がさないとばかりに監視の目を強くする。
それだけならまだマシだったのかもしれない。
しかし主や少女……そして他の仲間達は既に不可能を力で可能に出来る潜在能力を秘めた少年の力に酔いしれてしまった。
『駄目よイッセー……。アナタは絶対に逃がさない』
『殺す……殺して……やる……!』
酔しれ、取り憑かれ……魅入られてしまった。
だから少年を何としてでも手放したくない。
永遠に自分達で支配し続けたいという欲に飲み込まれるがままに、少年と無理矢理関係を持った主。
悪魔らしく魅了し、堕落させて自分達から逃げられないようにしてやろうという考えからの実行は、少女やもう一人の少女も同じ真似をさせてしまった。
『痛かったです……でも、先輩とが初めてだったから気持ちよかったです』
『………』
殺しても殺し足りない。
そんな目をした少年を縛り付け、そのまま思うがままに支配しようとした少女。
『でも、部長が最初で副部長が二番目で私が最後なんて何か納得できない』
最初は乱暴で粗暴な言動ばかりで辟易していたそんな少女は、少年の中にある力の存在が発覚する少し前から認識が変わっていた。
その認識の変化が、少女を密かに変え、結局今日まで主や仲間達に気付かれる事は無かったが、少年を一番に独占したいという欲を持たせる事になった。
『先輩は私がちゃんと見てますから、部長達は何時も通りにしててください』
『? あらそう、ならお願いするけど。少し小猫も変わったわね? イッセーと一緒が良いなんて』
『下手に一人にしたら逃げられちゃいますから……』
『それもそうね』
少年を取り込む為に主やもう一人の少女に身体を使わせる真似を事前に、然り気無く回避させ、極力二人きりになれるように工作した。
そして、二人きりになれば……。
『せんぱい……せんぱい……っ!』
『くそ、ガキィ! 殺してやる……殺してやる……!』
時間の許す限り少年と居続けた。
どんなに呪詛の言葉を吐かれてしまおうとも、どんなに拒絶されようとも……。
『はぁ……はぁ……早く認めてください。
そうなったら少なくとも私は先輩が好きになれますから……』
少年と無理にでも繋がろうとした。
『死んでしまえ……テメー等……なんて……!』
時には思う通りになれずに少年を力付くで黙らせてしまった事もあった。
けれど、口では好きになってあげられると上から物を言うような態度であった少女だったが、実際の所少女は少年の力――いや、既に少年自身に魅入られていた。
『私の腕を噛んでもちぎれませんよ先輩……あぁ、でも先輩に噛まれるなんて私が初めてですね? ふふふ……♪』
このままずっとこんな日が続くのか。
いや、続いて欲しいと少女は願った。
けれど――
『テメーには散々世話になったなぁ……げげげ……殺すだけじゃ足りねぇ程になぁ……!』
『ひっ!?』
待っていたのは、少年の完全復活と報復だった。
『げげ……! げげげげげげげ!!!』
全てを破壊する圧倒的な力という全盛期の全てを取り戻した少年の心に少女の想いは一切通用せず、丹念に破壊された。
それは仲間達も同じであった事なのだが、最早少女にはそんな事なぞ関係がなかった。
「だ、駄目です。この秘薬でもやはりリアス様達の傷は……」
「くっ、赤龍帝め……! リアス様達から始まり、サーゼクス様やセラフォルー様達まで……!」
(……………)
壊されてしまったのだから。
(せんぱい……)
癒えない苦痛、癒えない傷、癒えない全て。
最早美少女と持て囃されていたかつての面影の全てが消え失せ、塔城小猫は冥界の病院で永遠に屍の如く生かされ続けている。
運良く聴力を破壊されずに済んだのが果たして幸運なのか悲運なのか。
この場所に機械に繋がれて寝かされてからの小猫は、全身を覆うギプスの中でただ思っていた。
(怖がったら……そりゃあ怒りますよね……?)
破壊された頃よりも更に、もはや呪いというべきレベルでの少年への情念を。
(怖がってたら先輩を愛してるなんて言えませんよね?)
根底からその考えが間違ってるなんて誰も指摘しない。
何故なら既に小猫は壊されてしまって会話すら出来ないから。
主のリアスや騎士の木場祐斗は完全に折れてしまったのか、時折近くから恐怖と苦痛の呻き声が聞こえ、姫島朱乃は堕天使に連れていかれてしまったらしいが……最早もうどうでも良かった。
(せんぱい……せんぱい……せんぱい)
小猫の中にあるのは、破壊されても尚残る少年……一誠への執念とも云うべき強烈な想い。
最後にこの目で見た時は、教会の使い二名と仲良さげにしてて嫉妬したものだが、それも最早どうでも良い。
(そんな二人より私の方が先に先輩としたんだ……)
いくら後から来た二人とどんな関係になろうが、小猫は壊された肉体となってる現在でも尚、諦めることはしなかった。
「……に、が……さ、な……い……い……っせ……せん……ぱ………い」
いくら憎悪されても構わない……それほどの理由はこちらに全部あるんだから。
いくら嫌ってくれても構わない……恐怖して逃げ出そうとしたのは自分なんだから。
いくら拒絶させても構わない……そう、それでも逃がさないのだから。
(先輩の力……あは……♪ 部長達は消えたみたいですけど、実はまだあるんです……私の中には)
一誠と物理的な意味で最も多く共に居た影響は、一誠自身の予測を越えた意味で小猫に残っていた。
全体的に約数パーセントしか使役できなかったが、破壊されてこの場所に置かれてからの時間はたっぷりとあった。
(成長……ごめんなさい先輩。私、間違ってました……これは成長じゃなくて進化ですもんね?)
一度繋がりが切れて限り無く0に近いレベルまで一誠の力は消えた。
しかし僅か、ほんの僅か……0.000001%がもし小猫の中に残っていたとしたら? そして、外界からほぼシャットアウトされた場所でひたすらその力を大事に大事に育てたとしたら?
「………………………………。あは♪」
進化の種は――芽吹いてしまう。
「っ!? 塔城様!?」
「…………」
時は来た。
僅かに残された一誠の力が、一誠自身が全盛期に戻った事への酔いで見逃してしまった事で小猫により別系統として育て、そして完全に芽吹いてしまったという、一誠本人ですら予測もしてない最悪の形となって。
「と、塔城様……!」
「い、一体どうして……! 主治医を呼べ!」
「…………」
棺の様なギプスから貫く様に這い出る小さな腕。
それに呼応するかの様に医療機器が異常を知らせると同時に、破壊された筈の小猫はゆっくりと身体を起こした。
異常を知らせる音を聞き付けた医者悪魔達は、ボーッとした視線を虚に向ける小猫の姿を目にするや否や、花火が上がったかの様に大騒ぎする訳だが……。
「………」
正面を見ていた小猫の金色の瞳が、脈を計ろうと腕に触れた医者の悪魔に向けられた瞬間……それは起きた。
――しゃく
「え……?」
何が起きたのか? 本人は分からなかった。
まるでりんごをかじるような音が耳元で聞こえた……それは確かだったのだが、次の瞬間医者悪魔の首からシャワーの様な勢いで血が吹き出したのだけは、何故だか分からなかった。
「なっ!?」
「………」
小猫のベッドにもたれ掛かるように伏せ、そのまま事切れる医者悪魔の血で純白のベッドが真っ赤に染まる。
その悪魔をただ感情の見えない瞳で見下ろす小猫だったが、自分の様子を調べにやって来たのか、病室の入り口で驚愕と歪んだ表情をしている他の悪魔達に視線を移し――
「………………お腹が減った。だから……しゃくしゃくさせてください」
歪んだ笑みを浮かべ……恐怖の悲鳴を上げさせる暇もなく悪魔達へと襲い掛かった。
「な、なにをす――べ!?」
「や、やめ――がばっ!?」
「だ、誰か――がや!?」
塔城小猫は、破壊された肉体をも復活させられる程の進化を遂げ、繭を破り捨てた。
「……………。部長、祐斗先輩。どうやらお二人はダメみたいですね。
……先輩の力を完全に無くした……だから進化出来ずに破壊された傷を戻せなかった。
恐らく副部長も同じでしょうけど、それももうどうでも良い。
私は先輩から貰った証を独り占め出来るんですから………ふふふ」
結論から言おう。
塔城小猫は狂ってしまっている。
自分を匿った病院にいた悪魔達を喰らう事で力を更に蓄え、燃料の切れた身体を更に復活させる事で。
そして、自分の他に誰も復活できないかつての仲間にそれだけ言い、助ける事はしなかった。
「後は任せてください。一誠先輩の憎悪も怒りも恨みも罵倒も何もかも……私だけが代わりに引き継ぎますから」
血塗れとなった身体を一瞬で元に戻した小猫は、ギプスに巻かれたかつての仲間に笑顔でそう告げると……。
「あは、先輩……顔を見せたらサンドバッグにしてくれますか? それとも手足をひきちぎりますか? 私はどっちでも良い。
だって、先輩に酷いことをしたのは私ですから……ふふ、ふふふ……あはははは♪」
『その手にある戦車の駒』をリアスだったものの傍に置き、病室から――いや、冥界から姿を消した。
「あぁ、そういえば黒歌姉様がお見舞いに来てくれたんだっけ? 先にお礼を言わないとダメかな?」
―僅かな取りこぼしにより復活した狂い猫―
塔城小猫(真名・白音)
種族・猫妖怪。
30%
また壊されても良い、何をされても良い……。
でも死んでも一誠に憑き纏うという、歪みつつも無敵ともいえる精神を確立した暴食の悪魔を越えし
全てが揃う刻……近し。
補足
別に某しゃくしゃくしてるぜぇ! の悪魔になった訳じゃあない。
ただ、覚醒させちゃったスキルの一つがそれに近いというか……。
言うなれば、全能力を食って使えるスキルというか。
正喰者みたいなもんですわ。
で、この世界の一誠が持ち得ないマイナスすら持つというね。
しかもやばいのが、一誠の破壊の技術ですら逃げて無力化するレベル。
よし………敢えて言おう。小猫たんラスボスだぞ、宴にしようぜ!