私は365日なのはさんの家政婦のようです   作:蟹ふらん

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4 私は売られた喧嘩は買います、家政婦ですから

『最近のミッドチルダの流行は大事な人へのお弁当!好きなあの人に心のこもったお弁当を渡して心も体もがっちり掴みましょう!』

 

「…ふんっ、下らんな」

 

食堂でTVを見ながら手元の珈琲を啜っていたシグナムはそのニュースを鼻で笑った。物なんかで自身のアピールをするくらいなら玉砕覚悟で自身の気持ち伝えた方が良いだろう、その方が清々しいしとても分かりやすい。

 

「まぁ、私には関係の無いことだったが…」

 

ふと気紛れに食堂のキッチンを見る。普段はキッチンなんて目を留めない、だが今日は何か変であった…ランチを完食した隊員が皆揃いも揃って再び料理を注文しに並んでいたからだ。

 

「俺ドライカレー!」

 

「オムライスとAランチお願いします!」

 

「チャーハン特盛で!」

 

余りの騒ぎに何が原因かと気になって聞き耳を立てると、どうやらコックが変わったらしい。その料理がウマイと言うので皆並んでいるらしい。厨房を良く見てみるとコック達に紛れて燕尾服の男が鍋を奮っていた。

 

「チーフ、Aランチあがりました」

 

「はいよ!なぁ明日も来ないか?専属で来てくれるなら凄いうれしいんだけど」

 

「申し訳ありません、私は高町なのはの家政婦ですからコックにはなれません」

 

「ほほう」

 

「もーっ!そう言うの止めてってば!」

 

彼を見た瞬間、胸が高鳴る。どう言うことなのか落ち着かなくなる。こんなことは今まで一度も…

 

「…イカン、どう言うことだこれは…訓練に戻らなければ…」

 

その問いを自分で見つけられないまま、シグナムは訓練へと戻る。

 

 

 

 

 

 

少し時間が進みなのはの部屋

 

「八神さん、紅茶です」

 

「んぅー、おいしい」

 

「いえ、まだまだです。ですがお褒めの言葉ありがとうございます」

 

「…家政婦さん、私には?」

 

「お客様が先です」

 

八神はやてが家政婦を高町なのはにあてがって一週間がたった。素行も良好、なのはの生活は改善…してはいる。職業柄周りへの気配りも上々。はやてはある決断をしており、試しに家政婦の間藤恵也を食堂へと送った。案の定食堂は繁盛したようで普段並ばない食堂に長蛇の列が出来たと言う。

 

だから、はやては思いきって家政婦に話を持ちかける。

 

「なぁ家政婦さん、良かったらなんやけどこのまま継続してなのはちゃんの家政婦をせーへん?」

 

「え"っ?」

 

なのはが凄い嫌な顔をした、どうやら生活力は戻ったが呑兵衛は直っていないらしい。この人家政婦さん抜けたら絶対豪遊するに決まってる。

 

「それは構いません。それならば一層の事励んでいきたいと思います」

 

「あ、あのー…お酒…」

 

「御主人は今そんなことを言える立場ですか?ん?」

 

「ハイ…」

 

珍しく少しビビっているなのはをさておいてこれで決まった。思わぬ人材の確保にほくそえむはやてである。

 

「そんなら今から魔導師ランクを計りたいから試験受けにいくでー」

 

「試験ですか」

 

「そそっ、簡単な物やから気を張らんでもええよー」

 

はやては知っていた。この家政婦はあのS+のなのはちゃんを二度も制したと匿名のタレコミ(レイジングハート)が言っていたのだ。実のところはやてもついこの間まではジェイルスカリエッティの不思議な力でなのはちゃんが屋上で張り付けにあったのかと思っていた。

 

(なのはちゃん倒せるんやから絶対Aは行っとるやろ!表では家政婦と言って裏では高いランク…

 

「あくまで、家政婦ですから」

 

なんて洒落たこと言う執事なんや!間違いない!)

 

…数時間後

 

「…」

 

「えっ…」

 

「ちょっと疲れましたね、休憩をしたいのですが」

 

試験の結果、間藤恵也の魔導師ランクは 総 合 D ラ ン ク であった。

 

驚愕するはやてであったが隣にいたなのははもっと驚愕していた。口をポカンと開けていて放心状態となっている彼女の心境は心穏やかではないだろう。

 

(Dランクなんだ…Dランクに負けたんだ…へぇ…あっ、ヤバイ泣きそう。おかしいな…私、鋼の精神で通ってるのに涙が出そう…)

 

「御主人、ケーキの用意がありますがどうですか?」

 

「…食べる」

 

 

 

 

 

 

 

烈火の将シグナムは訓練が終えてもまだ落ち着かなかった。訓練後にシャマルの診療を受けても異常は見当たらなかった。今のシグナムの頭にはこの胸の高鳴りの答えが知りたい、それだけであった。

 

自身の部屋へと帰る途中、何故かがっかりしている主であるはやてを見つける。せっかくだ、模擬戦の相手の相談でもしよう。

 

「主はやて、模擬戦の相手を探しているのですが…」

 

「…あぁ、シグナムも好きやねぇ…せやなぁ…早いところ向かわせるからその人と話し合ってな」

 

「わかりました、それでは…」

 

「…はぁ、金の卵見つけたと思ってたのに…」

 

何かブツブツ物思いにふけているはやてが気になるが、今は自分のこの気持ちにケリをつけるのに忙しいシグナムは帰路を歩った。

 

部屋に帰って制服にシワが出るのを気にせずベットに寝転がる。明日は確か新入りの訓練メニューについて高町と話し合いをするために少早く寝なければならない早く風呂に入って寝て…

 

(寝て…いつもどうりの事をしよう。私は主はやての事だけを考えていればいい。自身の事なんて次に考えればそれで…)

 

その思考を遮るかの用にノック音が聞こえる時間は深夜11時を回っていた。一体誰だろうと扉を開ける…

 

【家政婦視点】

 

「…」

 

家政婦の恵也はシグナムの部屋の前に居た。何故いるのか?それは主人であるなのはが「ごめーん!ちょっと明日の事でシグナムさんに六時くらいにトレーニングルームに集合してって言って!お願い!」なんて頼んだからだ。しかしロクに知らない人に伝言頼むとは…

 

(相手のことは全く知らないが…まぁ、なんとかなるでしょ)

 

扉が開く。応対してくれた人は綺麗で凛々しい顔つきをしており、長く一つに纏まった桃色の髪の毛が目に留まる。

 

(…綺麗な人だな)

 

「…っ!貴様は…っ!」

 

(あれ?歓迎されてない?)

 

「明日の事(訓練)でお話があって参りました」

 

「何!?明日のことだと!?(模擬戦)速いな!貴様がその相手か!」

 

「えっ、はい。そうです」

 

なんか凄いオーバーリアクションされているが話は通っているだろうか?伝言したら帰った方が良さそうだ。

 

【シグナム視点】

 

一体どう言うことなのだろうか、主の仕事速すぎでは無いだろうか。確かに早急にとは言っていたが別れて直ぐにとは恐れ入った。

 

「…だが、貴様では相手にもならないだろう家政婦。貴様にはその役割は果たせない、役者不足だ。」

 

「何を言いますか。家政婦たるものこのくらい出来なくてどうしますか。私は指示されたことは信念を持って取り組むつもりです」

 

模擬戦に命をかけるとは…最近の家政婦は凄いな。

 

「ふむ…では…ここでは駄目だ。被害が出る…明日相手をしよう」

 

「明日なんて随分遅いですね。今しましょう」

 

「なっ…!貴様考えて話しているのか!」

 

「そんな大袈裟な。スムーズにやれば終わりますよ」

 

スムーズ!?まさかコイツこの場でおっ始めるつもりか!模擬戦闘とは言えど戦いだぞ!まさか…まさか…これは模擬戦戦ではない?本番のつもりで戦えと?…確かに、闘いの場所を選ぶなんて普通に考えて無いかもしれない…それ込みの模擬戦か…っ!

 

「…どうしました?では早速…」

 

仕掛ける?あちらはもうやる気だ…ならば腹は決まったッ!!

 

【家政婦視点】

 

発言する度にショックを受けたような顔をするシグナムを見る度に少し寒気がする。何だろう、話が食い違っている気がする。しかしこちらは話し合いをしに来たのではない、伝言を伝えに来ただけだ。

 

「どうしました?では早速なんですが…」

 

そこまで言いかけた時、身体中に悪寒が走って一歩後ろに下がる。すると自身が居た所に彼女のデバイス…レヴァンティンが通った。後ろに下がらなければ首を斬られていたのでだろう。

 

「…貴様、避けたな?なるほど…私の中の疑惑が確信に変わった」

 

「あ、あのー…一体何を」

 

「この胸の高鳴り、そして突然の来訪…貴様は主はやてが寄越した魔導師だな?ふふっ…その身のこなしでただの家政婦?笑わせるな」

 

「いや、私は高町なのはさんの家政婦です」

 

「嘘を付くな、私には分かってる。分かっているとも…大方高町を洗脳して六課を内部破壊しようとしているのであろう?なるほど、スカリエッティの仕業か」

 

「はっ?いや貴女は何を…」

 

「問答無用だ。そうだ…この胸の高鳴りは武者震いであったか。そうかそうか…なるほど」

 

目の前の女性は鎧型のバリアジャケットに身を包み、その得物のデバイスレヴァンティンを構える。

 

「貴様が言ったことだ。本気で斬りつける…ッ!烈火の将シグナムッ!!参るッ!!」

 

袈裟に斬りつけるが避ける、返す刀も避ける。振りは速く明らかな殺意を持って挑んでいる。

 

「ちょっ、やめ…」

 

「ハァッ!!」

 

一気に距離を詰めて燕尾服の胸ぐらを掴むと部屋に引きずり込まれて家財に目掛けて投げ込む。家政婦は人形を投げるかの用に家財に突っ込む。その衝撃でタンスとかは壊れてしまったが致し方ない。

 

「…ふぅっ、少々やり過ぎたか…それにしても呆気ない。やはり気のせい…」

 

シグナムが残心していると瓦礫と化した家財から何かが飛び上がって襲い掛かる!

 

「ハッ!」

 

「寝てろォ!」

 

突然の家政婦の蹴りをデバイスで受ける、その威力は凄まじく思わず後退りをした!

 

「な…ッ!」

 

後退は許さないと言わんばかりに今度は恵也詰め寄りレヴァンティンの手元の柄を持って…腹部に重い一撃を放った!

 

「カハッ!貴様…ッ!!」

 

「この野郎光り物向けやがって…良いだろ、乗ってやるよ…ブチ壊されても文句垂れるなよ」

 

もう一撃、鳩尾にボディーブローを貰って突き放される。バリアジャケットを着ているのに全く効果がないのか苦悶の表情を浮かべるシグナム。だがしかし彼女の口元はニヤついていた。

 

「そうだ…もっと来い!私を楽しませろ!私に奉仕しろ!」

 

それを見て恵也は懐から皮の手袋を嵌める。手袋には金属の装飾があり手袋と言うよりかはナックルに近い形状。人を殴るだけの為に作られた一品だと分かる。更に近くに落ちていた箒を取る…それを中段に構え戦闘体勢に入る。

 

「…この手袋はお前みたいなのを"掃除"するのに使う物だ…良いだろう、特別待遇だオラァ!!」

 

「うおおおおォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

…その闘いは、朝まで続いたと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ニュースです。今日の夜中から朝方まで管理局機動六課でシグナム氏が襲撃にあったと言う報道がありました。

 

調べによりますとシグナム氏の部屋は滅茶苦茶になっており、氏は犯人を自室に閉じ込めて争ったのだと思われます。

 

シグナム氏曰く「自室だからと思って油断した。まさか襲撃されるとは思わなかった…犯人?恐らくスカリエッティだろう…科学者とは思えない武人のような身のこなし、見るもの全てを武器と認識して闘う気構え…恐らく高町なのはの襲撃とも関与しているだろう。決して自分からけしかけたとかそう言うのは断じて無い」と話しており、関係者は「管理局に潜んでるんじゃね?」「加勢しようと中に入ろうとしたら邪魔するなと言って蹴られた」「犯罪者が容易に局内に入れる…これは薄汚いスパイが居ますねぇ…」等との情報が入って来ております』

 

「…ちょっと博士ぇ?スパイって話が来てますけど…ドゥーエ姉様に被害行くことは止めてくださりません?」

 

「…ちょっと待ってほしい、私は知らない。と言うかその時間は寝ていたぞ。これは管理局の情報操作だ」

 

「でも博士は何をするか分からないところがありますし…」

 

「人を何だと思っているんだ!チンクもそこで頷かないで欲しい!!」




騒動の最中のなのはさん

「ふんふふふーん♪さーて漫画読んですーごそ♪」

『なのは…貴女伝言なら念話でどうにでもなるでしょう?』

「レイジングハート最近生意気すぎない?マスター呼びは?」

『ダメ人間にマスター呼びはちょっと…戦闘中なら呼びますが…私生活はちょっと…』

「むぅー…まぁ良いの。伝言だっけ?私思うの、やっぱり家政婦さんにも他の人達と触れ合ってほしいなぁーって」

『ブーメランですよそれ』

「…さて、そろそろお話してるかな?どれどれ」

『そして念話で様子を見るんですね、覗きはいけませんよなのは』

「いーじゃんちょっとくらい…ん?」

【念話内容】

ふはははは!そうだ!私を楽しませろ!私に生きる実感をくれッ!!ゴフッ!まだまだッ!!肋骨が折れたくらいでこの時間を止める気は無いぞ!!何!?ベットを持ち上げて盾に!?近づいて潰す気か!たたっ斬ってやろう!ハァァァァァッ!!

「…」

『…』

「もう寝るね、おやすみレイジングハート」

『あっ、コラ当事者逃げる気ですね』

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