「高い高ーいですよー」
「キャー!!」
「次俺っ!俺だよっ!」
「いや!僕の番だねッッッ!!」
ミッドの町に買い物していた帰りに歩く異物、買い物なのに執事が正装でマイバック片手に買い物していると密かに噂されていた家政婦間藤恵也は子供たちに捕まり遊び相手になっていた。最初は数人の筈だったが次第に数が増えて今では十数人となっていた。
「はーい、終わりですよー」
「「えーー!」」
そろそろ帰宅する頃合いと見て高く掲げていた少女を降ろし、帰る旨を周囲の子供に話すと他方からブーイングの嵐だ。
「えー…じゃあこれでラスト、誰が高く上げられたいですか?」
「俺!俺!」
「僕が並んでたんだぞ!僕だっ!」
「私よー!」
「オイコラ家政婦何遊んでんだ」
「はい、それじゃそこの子ですね。高いたかー…」
適当な子供を選んで両脇をしっかりと掴むと一気に高く掲げる。
しかし子供は喜ばず青くなったり赤くなったりと顔を変化させていた。あれ?何か怒ってる?その子は赤毛で茶色の制服見たいな格好を…あれ?これ管理局の制服?しかも何か見たことある顔を…
「こ、この…この…」
──ヤバイ、ヴィータさんを高い高いしてしまった。
「馬鹿野郎がぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「ヴィータさーん、ヴィータさーん?」
「うっせぇ!!付いてくるな!目障りだ!消えろ!」
後日、あの後憤慨したまま帰っていったヴィータに謝ろうと局の廊下で捕まえて謝ろうとする…がっ、駄目。暖簾に腕押しと言うように全く話を聞いてくれない。
「そんなこと言わずにちょっとお話を…」
「話すことなんてねぇよ!!」
「いやありますよ。昨日私貴女の事を間違えて子供見たいに抱っこしたことを…」
「それ以上言ってみろ!殺すぞ!!」
取りつく島がないとはこの事か、昨日からヴィータの機嫌が悪く話すら聞いて貰えない状況であった。
「バーカ!」
フンだ!と捨て台詞を吐いてヴィータは去ってしまう。恵也はそれを見送ると苦虫を潰したような顔つきで頭を抱える。
(やべぇよ…やべぇよ…ヴィータさんの自尊心傷つけちったよ…)
「恵也?どうしたの?」
背後から声をかけられて振り向くとそこにはスバルとティアナの二人が居た。二人ともどうしたのだと言わんばかりの表情であった。
「あ、あぁ…実はな…」
「それは恵也が悪い」
「うわぁぁぁ…やっぱりなぁ…」
場所を替えて急騰室で話をし、事の一部始終を話すときっぱりとそう言われる。
「どうすんだよぉ…話すら聞いて貰えねぇしそもそもヴィータさんとは接点無いから会おうにも…」
「…と言うか家政婦さん、どうしてそんなにヴィータ副隊長仲良くないんですか?」
「そうだな…あれは…」
【家政婦回想中】
高町なのはの家政婦を初めて少し月日が流れた頃、確かヘルプで食堂の厨房で働いていた頃だった。
「特製チャーハン二つ!フォワード勢の良く喰う方のオーダーだから特盛で!」
厨房は戦場であった。何十人と止まない長蛇の列、発狂し出す従業員、それを嘲笑うかのように追加されていくオーダー…その日は些細な事にかまけている暇などは無かった。
「家政婦ー、ラーメンくれー」
そこにオーダー待ちテーブルにヒョコっと顔を出しているヴィータ副隊長の姿があった。その姿を見て俺はお子様ランチ(リインフォース専用)を出してしまった。
「…お、おい…これはなんの冗談だ…?」
その頃のヴィータさんの怒っているんだが悲しんでいるんだか分からないあの何とも言えない顔が忘れられない…
「アウトね」
「ぐわぁぁぁ……」
今までの丁寧口調ではなく砕けた口調で話していることから恐らく本心でヤバイと感じてるのかティアナの前でも素の反応で返す。
「取り合えず謝り行く?」
「いや、それじゃあまた来るなと門前払いされるだけでしょ?私達がフォローしてなんとか…」
「助けてくれるのか?」
「当然でしょ!?だって恵也は仲間だもん!そうだよね!ティア!!」
「うーん…相方が世話になってるし一応ね?」
「スバル、この人ってあれか?ツンデレって奴か?」
「そうだよ!」
「何言ってるのよアンタらは!!」
ぎゃーぎゃーと暫く騒いだ後、真面目な話を切り出す。
「…実際問題どうしたら良い?」
「やっぱり今すぐに謝りに行った方が良いよ。謝るのは早い方が良いしね」
「少し間を置いてから謝るって手もあるわよ?そのくらい経てば副隊長も頭が冷えるでしょうしね」
「プレゼントとかどうよ、確か使ってない金あるからそれでなんとかならないか?」
「それ良いわね」
「でも副隊長って何貰って嬉しいんだろう…」
「うーん…」
一方のヴィータははやての執務室に居た。
「…なぁはやて」
「ん、なんやヴィータ?相談か?」
「…私よ、子供みたく見えるか?」
「見えるで」
「…じゃあやっぱり私がわりぃんかなぁ…こんなナリして子供の大群に紛れてたらそりゃ間違えもするよなぁ…」
「…なんや?」
「あのな…かくかくしかじか…」
「そりゃお手伝いさんも悪いけどヴィータも悪い、大人ならそのくらい許したれや」
「やっぱそうだよなぁ…やっぱあそこで意地張らなきゃ良かったな」
そう言われたヴィータはばつが悪そうな顔をして頭をポリポリとかき始めた。
「そりゃあヴィータ、ヴィータが局員の服着ても世間様から見たら可愛い子供のコスプレに見えなくもないし、そんなのが子供に紛れたら私だってやるかもしれへんよ?」
「…」
「ヴィータは精神的にも大人なんやから分かっとるよね?」
「…おう、分かってる。そんじゃ行ってくる」
ヴィータはそう言って部屋を出る。向かうところは勿論家政婦が良く行くであろう部屋高町なのはの自室。話によると彼はなのはと同室なのだと言う。
「…失礼すんぞー。なのは、家政婦居るかー?」
パッと見て目的の家政婦は居なかったが家主のなのははそこにいた、今日は休みか。ヴィータはそう思いながら部屋に上がり込む。
「あっ、ヴィータちゃん。家政婦さんなら出掛けてるよ」
「もうすっかり家政婦便りだな、部屋が綺麗すぎる」
「…それって普段一人だとどうしようもないって意味かな?」
「そう言ってるんだよ。茶は…良いや。家政婦帰ってくるまで待たせて貰うわ」
そう言うとヴィータはすぐそこの椅子に座る。
「聞いたよ、家政婦さんに子供に間違われたんだって?」
「誰から聞いた」
「家政婦さん本人から、凄い落ち込みようだったからちょっと心配だったよ」
「あー…」
「ヴィータちゃんどんな手を使ったの?私家政婦さんのあんなあたふたした姿見たことないなぁ!弱味として欲しいから教えて!?」
「屈折した性格してんなオメー」
環境は人並みに戻ったか時折来るゲス発言は治らない…いや、外の人間には何時もの真面目ななのはなのだが身内にはたまーにこう言う風な口をする。
「…でも人間、少しくらい欠点があった方がモテるのかねぇ」
「つまりわたしはモテモテに!?」
「しまったこいつの前でそれはNGだった」
「…さて、冗談はさておいて…ここに来たってことは家政婦さんと?」
「ケリつけに来たんだよ。家政婦は何処に?」
「ヴィータさんに謝りに行くーって行ったきり帰ってこないよ?」
「アイツあの時から随分経つけど戻ってねーのか」
「その様子だと一回門前払いかー」
「…ん?」
何かの視線を感じ取ってヴィータは先程出てきた入り口を見る。そこには三人分の目線がそこにあった。
「……なぁあれ」
「黙って見てない?」
「えぇ…」
(ヴィータ副隊長が居るよ恵也!早速作戦を始めよう!!)
(おいスバルマジで上手く行くのか?ちょっと俺心配になってきたんだが…)
(大丈夫!そのときはティアが援護してくれるよ!何たって私のパートナーなんだから!)
(…帰りたい)
(オイパートナー死んだ魚の目してんぞ)
(いくよー!)
(話を聞けよ)
部屋を大きく開けて二人が入って来る。スバルと恵也だ。
「うぉっほっほっほ…恵也くぅん、チミにはしつぼーしたよ。まさかこのような大失態を犯してしまうなんてねぇ」
「許してください…何卒…何卒…!」
なのはは何が始まるのかとうきうきして眺める一方、ヴィータはとても嫌な予感をさせながら傍観していた。関わりたくないが関わらざるを得ない状況じゃない限りスルーしたい心境であった。
「本来なら出来る筈なんだよ恵也くぅん…本当にすまないと言う気持ちで………胸が一杯なら……っ!!」
「土下座ですか…?」
「あるだろう?立派な土下座が………本当にすまないという気持ちで一杯なら何処ででも土下座が出来る…っ!」
そして今度は熱気が籠った鉄板をティアナが運んできた、付き合わされているのかその顔は分かりやすくとても疲れきっていた。
「お持ちしまシター」
「こらティア!ちょっと棒過ぎない!?もっと気合い入れてよー!…ごほんっ、肉焦がし骨を焼く……鉄板の上でも……っ!!」
「分かりました…っ!!男…家政婦…恵也…行きます…っ!」
「止めんかバカタレどもが」
鉄板にダイブしようとした恵也を展開したグラーフアイゼンで叩く。
「止めないで下さい!俺は反省の意を示さないと…!」
「嫌、こんな曲芸紛いなことで示されても…」
「そうだよ!ヴィータちゃん止めないでよ!」
「なのは、テメーはビール片手にこれを肴にしようとするな」
「昔これやって父さんに叱られたなー。これやるとたいていの事は許してくれるけど」
「それお前のオツムを心配されてんだよ理解しろ」
「…」
「ティアナ、お前は頑張った」
「…普通に慰めないで下さい!なんか話してたらいつの間にか「じゃあ取って置きのアレで行くよ!ティアナ」って本編見たいな口調で言うもんだからそれに頷いたらあれよあれよと話進んでこうなったんですよー!!」
「…スバルとティアナは訓練場を走ってこい」
「そんな!でも…」
「私が暴れないうちな早く行け」
「「ハイッ!!」」
二人はそのまま逃げるように走り出す、そしてヴィータは恵也と向き合う。
「あー…なんだ、随分追い込んじまったみたいだな」
「……まぁ、自分でもアホな事をしたなとは思いますよ。まだ未熟ということで許して下さい」
「いや、人間欠点がある方が味があるぞ…悪かったな家政婦。あの時同じ立場なら私でも普通にやるわ。反省するよ…心が狭い事をな」
「…此方こそ、もう少し私がしっかりしてればヴィータさんを不快な目に会わせずに済みました」
「じゃあお互い様だな」
「そうですね」
「…へへっ」
どんなに話しづらくとも、どんなに相手が自分の話を聞いてくれなくとも…きっかけがあればこのように互いに分かり会える。その事を二人は学んだと思う。
「…いい話だなぁー!」
…そしてそれを見ながらビールを煽っている女。旗から見ると混沌としていた…雰囲気ぶち壊しである。
「…ご主人様」
「何ぃ?」
「…今何時と?」
「お昼時だよー?」
「…お酒は、夜にして下さいとあれほど、あれほど言いましたよねわたしは…あと雰囲気ぶち壊しです」
「…あー……」
「…ヴィータさん、少し遊びに行きませんか?」
「そう言うことなら大歓迎だ。安心しろなのは、今日はトコトンこいつに付き合ってやっからよ…自由にしてくれ」
そう言うと彼らは部屋を後にした。
「…あ、あれ?今私フルボッコを覚悟してたんだけど…」
安心も束の間、その後追加の酒を取ろうと冷蔵庫を見ると…中が空になっていたのだ。
(あ、あれ?さっきまであんなに…まてまて。無いならお金で買えば…)
そして財布を探すが…見つからない。
(ま、待って!確かにテーブルの上に!な、ならば通帳!銀行で…)
通帳、まさかの失踪であった。
「や、やば…一文無し…嘘…?このまま?はやてちゃんに相談…」
そしてはやてからの念話がなのはに届く。
(ヴィータからの伝言やでー。全部返してほしかったら家政婦さんに謝ってなー…流石に今回は許さへんで)
「家政婦さーん!?ちょっと本気すぎない!?」
『なのは…今度は貴女が同じことをしてみたら?』
「う、うわーん!!ごめんなさーい!!!」
…その後、家政婦が帰ってくるまで三日かかったと言う。