「家政婦、ちょっと一緒にトレーニングを…」
「お手伝いさーん?ちょっと来てくれへんかー?」
「あー…」
「…行ってこい」
「ありがとうございます。行ってきます。はやてさんどうかしましたか?後私は家政婦です」
「おんなじやんか。あのな?また食堂でコックさんして欲しいんやけど…」
「またですか」
「…」
皆さんお久しぶり、烈火の将で有名なシグナムだ。私はあの情熱的な夜から家政婦に猛烈なアタックを仕掛けているのだが一向に思うように行かない。どうしてだろうか?しかも最近誘う度に若干嫌な顔をされてしまう。本当に何故なのだろうか。
あれからヴィータやテスタロッサと模擬戦をしても私の心は以前より歓びを感じられない、力や魔法の腕はあちらが上だと言うのにだ。
恐らくあのときの…彼の殺気のせいだろう、あれは通常の兵士のそれではなく…幾多の戦場を駆け巡ったベルカの…戦人の眼であった。もう一度あの時の刺激が欲しい…欲しい…
「と言うわけで何とかならないのか高町教導官」
「どうして私に相談するのかな…?」
そう言うわけで家政婦の主人に相談しにきた。あわよくばこっちから家政婦を借り受けて一日中殺し合えれば…!
「と言うわけで家政婦を貸してくれないか」
「それはちょっと無理かな」
「何故だ貴様!事と次第によっては許さないぞ高町ィ!!」
「わっ!わっ!シグナムさん落ち着いて!私はそう言う権限無いの!私が勝手にクビにさせないために雇用主ははやてちゃんってなってるの!だから私の一存で決められないよ!」
そうだったのか、なるほどだから貸せないしクビに出来ないのか。私は掴みかかった高町の襟首を離して平静を保つ。
「…なるほど分かった、主かぁ…貸してくれと言っても無駄だな。理由を聞かれてしまうしそもそもダメ人間の高町を差し置いて私に貸し出すとは思えない」
「本人の前でダメ人間って…と言うか、一回本気で食事に誘ったて見たらどうかな?」
「誘ったさ、しかし軽く流されてしまうんだ」
「すぐにトレーニングルームに連れ込もうとするから悪いんだよ。家政婦さんはそう言う邪心には敏感なんだから…例えばデートと偽って会って速効ラブホテルに連れ込もうとする男性がいたらどうする?」
「打ち首物だな」
「そう言うことなの」
「よし分かった!それじゃあ早速行ってくる!高町!今日は自炊するんだな!」
そう言うと走り出して家政婦に食事の誘いを言ったのだ。結果は高級レストランでの外食と言う手痛い結果になってしまったが二つ返事で了承した。
そしてその日の夜、雰囲気の良いレストランで家政婦を待つ。そして彼のグラスには度数の高いアルコール…酔ったついでに適当なホテルに連れ込んでそこでお付きあい(物理)を決め込んでやる!!
「こんにちは、待ちましたか?」
「いや、全く待っては…?」
「いやー!シグナムの奢りでこんな良いところで飯なんて着いてるなー!」
「えっ?主…?えっ?」
「急やけど私もええかな?」
「は、はいドウゾ…」
「サンキューなシグナム!」
どう言うことだ、何故主はやてがここに?一体これは…!
「すいません、シグナムさんと御食事に行くと告げたら私も行くと駄々を捏ねられてしまいまして…」
「なんでや!そんな迷惑そうな顔しないでお手伝いさーん!私らもう友達やろ?」
「家政婦です」
「は、ははは…喜んで貰えて何より…です…」
「…で?駄目だったの?」
「主がいる中でやれるわけ無いだろ!いい加減にしろ!お陰でスカンピンになってしまったぞ!!」
(…まぁはやてちゃんも家政婦さん壊されると思ったから行ったんだろうけど…)
「高町教導官!何か妙案がないか!?」
「う、うーん…不意打ちで行けば?」
「不意打ちなんて騎士のやることじゃない!私は正面から堂々と死合いをしたいんだ!!」
「そ、そんなことを言われても…」
なのは困った表情を浮かべて腕を組んでいる。御主人である高町なのはならばと思ったが駄目なようだ。やる気を感じられない、私を奴と戦わせようとする意思を感じられない。
「…また来る」
そう言って私は高町の部屋を出る。
□◆□◆□
「最近げんなりとしてるようで…どうしましたか?」
その日の晩、家政婦の間藤恵也は主人であるなのはが元気が無いのを見ると心配になったのか声をかける。するとなのはは気だるそうに語り出すのだ。
「…シグナムさんがね、家政婦さんと試合がしたいようなんだよ。それで年中私のところに来てはどうしようかと相談をしによく来るの…」
「…あぁー…なるほど。しかし私とシグナムさんではスペックにも差があるからマトモな試合にならないでしょう?」
「高ランク魔導師二人を沈めるだけの技量があってよく言うの」
「いやぁー…正面から行ったら相手にもならな…」
否定的な意見を遮るかのようになのはは言葉を重ねる。最初に言っておくがこの時彼女は眠くてあくびを我慢していたのだ。
「私、このままじゃストレスで倒れちゃうよ…」
目に涙を貯めて言った発言をどう受け取ったのか、恵也は表情が険しくなる。
(…あ、あれ?)
「…シグナムさんに伝えて下さいませんか?」
「えっ?何を…?」
「調子悪いとか言われるのは嫌万全の態勢取れたら呼んでくださいね…と」
(あっ、火が付いちゃった…?)
その後、シグナムと連絡を取って見て伝言を伝えると大学に合格した受験生のように喜んでいた。これ私のせい?
『なのは、貴女のせいですよ』
…しーらないっ!
シグナムVS間藤恵也の模擬戦と言う名の果たし合いが決まって数日、その舞台は用意された。
舞台は廃墟と化した10階のビル、ここは実戦を想定する為に管理局が訓練の一環の為に使っている廃ビルであった。シグナムは屋上でレヴァンティンを地に差して相手を待っている。
【シグナム?くれぐれも怪我させないでね?相手は…】
「分かってる。まぁそこで見ていろ。それよりも彼に武器は?」
【一応武装は貸したけど…】
「それでいい。良いな?お互いのどちらかが降参、または倒れない限り止めるな。これは訓練だ、訓練なんだ」
【え、えぇ…】
念話を切ると男は目の前に居た。彼は何時もと同じ燕尾服、腰には刀型のデバイス、手に嵌めているのは殴り易いよう改良された白のグローブ…他にも何か小道具を仕込んでいるだろう。
「この前はご馳走さまでした」
「…いや、それは構わない。人払いも済んでいる…貴様、専用のデバイスは?見たところ支給品しかないが」
「生憎と無いのです」
刀を抜いて正中に構える。シグナムもそれに習うかのようにレヴァンティンを構える。
「…行くぞ」
「はい、来やがれ戦闘狂いが」
シグナムは一歩思いきり踏み込むと家政婦へと一気に距離を詰めレヴァンティンを振るう。その振りは目に留まらないほど速かったが恵也は反応して、攻撃を全て防ぎ鍔競り合う!
「刀を折る気でいたが…なるほど、刀に強化をかけているか…だがそれではガス欠が先にくるだろう?」
「その前にお前掃除すれば解決するんだよ。気を使ってるならさっさと降参しろ、御主人の迷惑だ」
「そうか…しかしこんな楽しいこと止められるか」
「じゃあブチのめして寝かすか」
「子守唄を唄ってくれないか?」
「拳骨で十分だろ」
鍔競っていた刀を離すとサイドステップで瞬時にシグナムの左側面に回り込んでテンプルに拳を放つ!
「クッ!」
シグナムはそれを左腕でガードする。こちらはバリアジャケットを着ていると言うのにも関わらず拳が重い、まるでバリアジャケットを貫通しているかのようである。
「ハァッ!!」
「うぉっ!?」
脚を上げて前蹴りで家政婦から距離を開けた。恵也は防御こそしたが軽く飛ばされてしまいだいぶ距離を離されてしまう。
「…先程防いだ左手がまだ痺れる…それだけの技量を持って魔力が雀の涙とは同情する。もしお前が私と同じくらいであったのならば私を凌駕する魔導師になっていただろう」
「同情するなら倒れろ」
恵也は両手を掲げファイティングポーズを、シグナムはレヴァンティンを構えると…再びぶつかり合った!
「やれー!やっちゃえ恵也ー!!」
「家政婦さん頑張って下さい!押し込めば勝てます!」
「いけいけー!!」
「…」
「あ、あのーなのはさん?どうしてそんな青ざめた顔を…まさか今回仕掛けたのは…」
「黙ってティアナ、黙らないとディバインバスターだよ」
「えぇ…」
上空では一台のヘリが見える、ヘリには六課の主要メンバーが勢揃いで戦いを観戦していた。戦いに驚いている者や応援する者、結果的にこの事態を引き起こしてしまって頭を抱える者と多様だ。勿論シャマルは何時でも治療出来るようにスタンバイしている。
「お手伝いさん随分動きが良いなぁ。なんかやってたり?」
「あっ、はい!魔法が身体強化が得意と言うことで格闘技を少々やっていたと聞いています!家政婦の必須技能だそうです!」
「SPか何か?」
「…あれ?」
キャロは少し引っ掛かった。それだけだろうか?たしか前に彼は話の中で何か言っていたような…
「…あっ!」
そして、去り際に聞いた彼の台詞を思い出す。たしかあれは最初に家政婦間藤恵也と初めて出合ったときだ…!
「フッ!」
右の袖口に仕込んだナイフ型のデバイスを瞬時に取り出すと急所である首筋に振るうがレヴァンティンで弾き飛ばされ、ビルの外に投げ出される。
「そこだ!レヴァンティン!」
シグナムはカートリッジをリロードして渾身の力でレヴァンティンを振るう!
「クッ!!」
恵也は拾った自身の借りた刀型デバイスでそれを受けるが軽く吹き飛ばされて柵に叩き付けられた!デバイスは先の衝撃で只の鉄屑と化していた。
「ハァ…ハァ…」
非殺傷のためか大した外傷はない、だが所々打ち込みを貰っている為にボロボロであった。持ち込んだ武装は最早無い。
「ここまでか家政婦!そうであれば降伏しろ!」
シグナムはそうは言うがシグナム自身も何度も良いのを貰っている為身体中青アザだらけであり、数分前には肋骨を鉤突きで砕かれたのだ。
(だが…だが勝てる…!)
シグナムはこれまでの二回の戦いによって分かったことがある。間藤恵也は魔力を身体強化、触れた物を固く強化出来る。物については一種のバリアジャケットのように周りをコーティングし攻撃、だから箒だろうがベットだろうが武器のように扱える。
しかし今回それは無い。今回戦場に選んだのはビルの屋上、武器に出来る物は一切無いのだ。仮に床をぶち抜いてそれを武器にしようともその隙に切り捨てる、だから彼が今使えるのは自前の体術のみなのだ。シグナムはジリジリと恵也に歩み寄ってレヴァンティンを差し向ける。
「だがこれで詰みだ!これで最後…」
「…上を見ろ」
恵也は空を指す、シグナムはちらと上を見ると…そこには黒い空洞が開いておりタンスや車、ガレキ等が浮いている。その空洞は丁度屋上と同じ大きさでその中ではタンスや車、ガレキが今にも落ちてきそうであった。
(召喚魔法!?まさかあれ全部落とす気か!?)
家政婦はニンマリと笑って口調穏やかに話し出す。
「私にはキャロさんのような高度な召喚は出来ません出来ても精々物を出し入れする程度…でもこんなのでも逆さに振るって落とすくらいは出来ます。もうじき洗濯物が乾く時間なので失礼しますね」
そう言うと恵也は柵を乗り越えて10階から飛び降り…瞬間、宙に浮いていたタンスや車等は真っ逆さまに雨のように落ちていった!
「うぉっ!?逃げるか!逃げるのか!おのれ!おのれ家政婦ゥウウウウウウウウウウウウウウ!!だが私は魔導師!このくらい簡単に凌ぐ!」
雨のように落ちてくる物を一掃する力は今のシグナムにはない、シグナムも恵也に習うように柵を飛び越えて飛ぶ。だがシグナムは飛べるため落ちたりはしない。故にそのまま真横に飛ぶ…
そのシグナムを、真下で待っていた恵也は掴んだ。
「…何っ!?」
「飛び降りたと思ったか?思ったろ馬鹿が、降りるフリして真下でぶら下がって待ってたんだよ。空から降ってくるゴミを一掃するかと思ったがお前ボロボロだもんな、余裕ないもんな」
足から掴んだ恵也はそのまま魔力で飛んでいるシグナムの背中に引っ付いて首に腕を廻して締めた。
「グゥ…かはっ…!」
「そのまま落ちてろ…!」
遊びは無い。反撃を貰う前にと恵也は残りの魔力を身体の強化に回し、シグナムを落としに掛かる。
(い、意識が…!上の召喚魔法はフェイク…本命は…これか…!)
もがけばもがくほど絞まっていくシグナムがその後覚えているのは、下に落ちてくるような景色だけであった。
□◆□◆□
「…知らない天井だ」
「むしろ知ってる天井の方が少ないだろ」
次に起きた時、そこはシャマル先生が運営している医務室であった。そしてその横のベットには片足を釣り上げている家政婦の間藤恵也が居た。彼はこちらを向いて不機嫌そうな顔をしていた。
「…ゴホンッ。あの後二人とも落ちてしまいまして…貴女は眠り、私はガス欠になり…勝負はドローです」
「そうか…」
「はぁ、怪我自体はすぐ治るものらしいので安静にと言うことです」
「そうか…これでまたお前と殺し会えるんだな」
「そうですね…んっ?」
意図してない発言に恵也は少し驚く。
「私は分かったんだ。お前との死合いは楽しいし生きている実感を感じた…」
「待て、待ってシグナムさん」
「そう、これは恋愛感情に似たような物だ。いやこれは凌駕する感情だ」
「愛を凌駕するってなに?なんなの?オイゴラ何してる止めろ。松葉杖を持ってるんだ」
「男と言うのは女の純粋な愛に弱いものだろ?私は自分に正直になると決めた。家政婦よ、私の愛を受けとるんだ」
「皆さん全身怪我まみれのトチ狂った女が松葉杖を持って襲ってきたら恐怖を覚えませんか?少なくとも俺は怖い」
「行くぞ家政婦!」
「爽やかな笑顔で来るなバカ女!」
その後止めに来たシャマルやその他六課フォーワード勢によって取り抑えられたのは言うまでもない。