IS〈インフィニット・ストラトス〉少女の目に映るもの   作:煌酒ロード

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決闘。蒼の雫

「ねえ・・・一夏君」

 

一夏君に訓練を頼まれてから一週間。

最初こそ戸惑っていたものの、慣れてしまえばなんでもないとでもいうように一夏君はISを乗りこなせるようになった。無様な負けは無いと思うが、それでもセシリアさんに勝てるとは思えないレベルに留まってしまったのが不安ではあるが。

そもそも代表候補生に一週間程度の訓練で追いつこうという前提が無理な話であり、さらに言えばイギリス第三世代型「ブルー・ティアーズ」はBT兵器搭載型だ。

BT兵器――正式名称はブルー・ティアーズ。この兵器を搭載しているから機体の名前も「ブルー・ティアーズ」となっている。

このブルー・ティアーズは所謂遠隔操作砲塔。ビットとして空中に射出し、それを操縦者が操り、相手を狙撃する。これによってブルー・ティアーズは全方位射撃(オールレンジシューティング)を可能としている。

この兵器を開発、所有しているのは現在イギリスのみ。当然そんな兵器の対策プログラムなんかあるわけが無い。さらに厄介なのはセシリアさん自身の狙撃能力。データで見た命中率は89%。かなりの率だ。そこにブルー・ティアーズの全方位射撃。厄介の一言しかない。

それでも付け入る隙はある。ビットを操作している間はセシリアさんはビット射撃に集中せねばならず、自分自身が動けないこれは致命的な弱点だ。そこを付けば一夏君でも勝てなくは無い

無いんだけど・・・

 

「ねえ一夏君・・・」

 

「・・・なんだよ忌悪」

 

「質問があるんだけどいいかな?」

 

「聞かなくてもわかるし多分考えてることも一緒だと思うけどいいぞ」

 

「「なんで君(俺)のISが届いてないのかな(来てないんだよ)!?」」

 

そう。一夏君が乗るISはまだ届いていない。

 

「これはアレかな、打鉄で特攻してこいって事じゃないのかな?」

 

「俺に死ねと!?勝てるわけないだろ!?」

 

「やってみなきゃわかんないよ?案外行けるかもしれない」

 

「そうか、だったら・・・」

 

「まって、冗談だから。本当に行こうとしないで、無理だから」

 

何故か本気で生身で行こうとする一夏君を抑えていると、

 

「お、織斑君織斑君!」

 

そう叫びながら飛び込んできた。

 

「ちょっ・・・山田先生落ち着いて落ち着いて、はい深呼吸」

 

「はっ、はい。スーハ〜スーハ〜」

 

「はいそこで息止めて」

 

「〜〜〜〜〜〜!」

 

なぜか一夏君は山田先生に息を止めさせていた。しかも先生やってるし、一夏君・・・

 

「君はやっぱりサディストだったんだね・・・」

 

「いやいや勝手に人の性癖つけないでくれるか!?」

 

私はジト目で一夏君を見る。それに慌てて弁明するが、現に山田先生を虐めている今その言い訳は苦しいぞ一夏君。

 

「教師で遊ぶな馬鹿者」

 

ズドンっという破砕音と共に振り下ろされる出席簿。そして蹲る一夏君。その後には案の定仁王立ちの織斑先生。というかそれ出席簿ですよね?明らかに破砕音したんですがそれ明らかに出席簿から、というか人の頭からはさせちゃいけない音ですよね!?

 

「そ、それよりも山田先生。なにか急いでいたのでは?」

 

「そ、そうでした!」

 

蹲る一夏君を心配そうに見ている山田先生に声をかける。おそらくこのままでは話が進まないだろうし。

 

「遂に来ました!織斑君の専用機が!」

 

そう言って山田先生が指さす方向を見る。そこにはコンテナが置いてあり、中には〝白〟がいた。

 

「これが・・・俺の・・・」

 

「はい!その名を『白式(びゃくしき)』です!」

 

そう言っている間にも一夏君は白式に触れる。そしてその身に〝白〟を纏う。

 

「織斑、よく聞け。もう既にオルコットはアリーナで待機している。本来ならここから初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)を行うのだが時間が無い。戦いながらしろ」

 

「わかった」

 

そう力強く頷く一夏君。そしてこっちに向き直って、

 

「行ってくる!」

 

そう言うとアリーナへ飛び出して行った。

 

私はモニターに意識を向ける。そこには青と白が対峙していた。

 

 

一夏side

 

「逃げずに来たことだけは、褒めて差し上げますわ」

 

「ハハッ、そりゃどうも」

 

「しかしこれが最終通達ですわ」

 

その言葉と同時に俺の機体にアラートが響く。ロックされた事を示すウィンドウが視界の端に上がる。

 

「今なら、泣いて謝れば許して差し上げましてよ?」

 

「悪いがそれは出来ない。この機体を作ってくれた人たちに申し訳が立たないし世界最強の姉に泥をぶっかけるような真似もできない。それになにより・・・」

 

「なにより?」

 

そこまで言って俺は口元が緩む。

 

俺も単純だ。

 

それでも

 

「俺にも勝ち目があると思って特訓をつけてくれた、忌悪に申し訳が立たねえからな!」

 

そう言い切る。アイツが君にも勝ち目があると言って特訓をつけてくれたんだ。たとえ負けたとしても無様な負け方だけは出来ねえ。

 

「そうですか・・・、それではお別れですわね!」

 

その言葉と同時にセシリアがレーザーライフル、『スターライトMk III』を放つ。それを俺は頭を動かすのみで避ける。

 

「躱した!?」

 

焦ってる焦ってる。射撃には絶対の自信があるらしいからな。躱されたのが信じられないんだと思う。

 

「どうした?これで終わりなんてことはないよな?」

 

「フッ、初撃を躱したからといってこの私を舐めないでくださるかしら。お行きなさい!『ブルー・ティアーズ』!」

 

来た!四方向からのビット攻撃!これも事前に忌悪から教えられて知っていた。初撃に頭を狙うのも、だ。頭に来るとわかっているのなら避けるのも簡単だ。要するに撃つタイミングだけわかれば頭を射線から外せばいいだけなんだから。

飛んでくるレーザーを躱しながら壁を背にして地面スレスレを飛ぶ。こうすることでビットを警戒する範囲は半分で良くなる。

セシリアのブルー・ティアーズの怖さは、ビットによる正確な全方位射撃(オールレンジ・シューティング)。ならその範囲をこちらから削ってやればいい。

 

「ちょこまかと逃げ回りますわね!」

 

「怖いんでね!」

 

本音だ。現在白式は初期設定中。第一形態移行(ファーストシフト)すらしていない全くの初期状態だ。更に先程武装も確認したが、まさかの『雪片弐型(ゆきひらにのかた)』一本のみという近接特化(ブレオン)だ。どうにか隙を見て潜り込むしかない。

 

 

忌悪side

 

頑張ってるな一夏君。どうやら私の言ったことを元に戦術を組み立て、今はどうにかして近距離に持ち込もうとしてる。そういった所だと思う。

 

「ほえー、代表候補性と互角に戦えてますよ。すごいですね織斑君」

 

「織斑が凄いと言うよりは織斑に特訓をつけた者の手柄だろうな。織斑一人で戦っていれば初撃で墜ちていただろう」

 

そう言って織斑先生がこちらを見る。目が笑ってないので怖いんですが。

 

「そ、それでも一夏君の技量もありますよ。教えたことは全て出来ていますし」

 

「まあここからが見ものだ。ブレオンでスナイパーを墜すと言うのは簡単ではない」

 

そう言ってモニターに向き直る織斑先生。

モニターにはビットに追い立てられ、上空でビットに翻弄される一夏君が映っていた。

 

 

一夏side

 

(しまった・・・。上空に上がってしまった・・・)

 

足元に飛んできたレーザーを避けるために少し上に上がったのがまずかった。そこを執拗に追い立てられ上空に上がってしまった。

それが災いとなって俺は今ビットによる集中砲火を食らっていた。

 

「ここまで耐えたこと褒めて差し上げますわ。それでもここでフィナーレですわ!」

 

「終わってたまるかよ!」

 

そう吐き捨ててビットのレーザーを避ける。そして、

 

「そこだ!」

 

俺の背中側から飛んでくるレーザーを躱し背後のビット一機を切り捨てる。

 

「なっ!?」

 

それに動揺したオルコットさんの隙をついて自分の左右のビットを墜す。

 

「コイツでラスト!」

 

そして俺の真下に浮いていたビットを切り捨て、四機あったビットを全て墜す。

 

「そんな!?ブルー・ティアーズを全機墜すなんて!?」

 

「クセさえわかってしまえば墜すのも難しくないな。さーて、どっちがフィナーレだろうな」

 

「クセですって・・・」

 

「お前ビットで射撃する時自然と相手の反応が一番鈍い所を狙うだろ。逆に言えば()()()()()()()()んだ。それさえ理解してしまえば行けるさ」

 

そう言うと同時に瞬時加速(イグニッションブースト)を使って肉薄する。

 

「イグニッションブースト!?」

 

「当たれ!」

 

一瞬で距離を詰め雪片を振るう。しかし、

 

「かかりましたわね」

 

直後俺は爆発で吹き飛ばされ、姿勢を立て直し顔をあげた時には、目の前に迫ったミサイルを食らっていた。

 

 

忌悪side

 

六機のブルー・ティアーズ。これだけは予想外だった。しかも外さないようにほぼゼロ距離で撃ってきた。

私は苦い顔をしているが対照的に織斑先生はホッとしたような顔で、

 

「機体に救われたな、馬鹿者め」

 

その言葉にモニターに目を戻すと、そこには先程よりも輝く『白』が飛んでいた。




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