オッス、俺ゴールド 〜ヤンデレ娘クリスとポケモンの世界で旅をする〜   作:友親 太一

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第三十二話 クリスの悩み

【ウバメの森】

 

 オッス、俺ゴールド。

 

「待てーっ、カモネギ!」

 

「ひのーっ!」

 

「カーモ、カモカモカモ!」

 

 俺達は今、ウバメの森でカモネギを追いかけてる。

 

「そっちだ、イシツブテ! オオタチ!」

 

「イッシッ!」

 

「オオタッチ!」

 

 手持ちポケモンを総動員してな、だってこのカモネギが素早過ぎて俺とクリスだけだと全く歯が立たないんだよ!

 

「バタフリー、上から回り込んで挟み撃ちにしろ!」

 

「フリィィィッ!」

 

 だが全く捕まらないんだ。

 ……ほらまたイシツブテとオオタチの間を抜けてったし。

 

 ちなみに何でカモネギと追いかけっこしてるかと言うと、俺達は森に入ってすぐに炭焼き職人の見習いさんを見つけたんだ。

 ……だが見習いさん曰く、

 

「炭の材料の木を切るカモネギが行方不明になっちゃった! 暗くて広い森を一人じゃ怖くて探せないよ。

 どうしよう、親方に叱られる……」

 

 だそうだ。

 

 正直、「いい歳した男が何を言ってんだ!」って思うが、ガンテツさんに見習いさんを探してくるって約束したから見捨てるわけにもいかない。

 ……非常に面倒だがな。

 

 カモネギは探し始めてすぐに見つかった……が、俺達が近づくと物凄いスピードで逃げ出したんだ。

 無論追いかけて捕まえようとした。

 ……が、カモネギは俺達が近づくと逃げ、また俺達が追いかける、カモネギが逃げる…………ってな感じで今に至る。

 

 何でカモネギが逃げるかは分からんがカモネギが、俺達をおちょくってるのだけは分かる。

 腹が立ってきた俺はポケモン達を出し今は全員でカモネギを追いかけ回してる。

 ……だがこのカモネギの逃げ足の早いこと早いこと。

 

 俺の手持ちで一番素早いマグマラシでも追い付けず、空を飛べるバタフリーでも振り切られ、オオタチの『でんこうせっか』ですらカスリもしない。

 ……カモネギってこんなにも素早いポケモンだっけ?

 

「クリス、そっちにいったぞ!」

 

「……ふへ? えっ、えっ、えぇ?」

 

 棒立ちしててクリスはカモネギに反応できなかった。

 ……カモネギはクリスの横を何事も無く走り抜けてった。

 

「何やってるんだクリスッ!」

 

「ご、ごめんなさいゴールド!」

 

 シルバー君との勝負の後からクリスの様子がおかしい。

 ボーッとしてて心ここに有らずって感じなんだ。

 

「たく。クリス、調子が悪いのか?」

 

「えっ!? そ、そんなことないよ!」

 

 ……やっぱりおかしい、ここは無理はさせない方が良いか。

 

「少し休んでろよ。カモネギは俺とポケモン達で捕まえるから」

 

「だ、大丈…………そうだね、少し休むわ……ありがとう」

 

 クリスはそう言うと近くの木の側に座り込んだ。

 ……クリスが心配だが今はカモネギを捕まえる事に集中しよう。

 

「みんないくぞ!」

 

「ひのっ!」

 

「フッリィィィ!」

 

「オ〜オタチッ!」

 

「イッシッ!」

 

「ベイッ!」

 

「メ〜ノ♪」

 

「トゲッピー!」

 

 尚カモネギを捕まえるのにそれから三時間程掛かった。

 ……すっげぇ疲れたよ。

 

 ★☆★★

 

 あの後、炭焼き職人の親方にお礼として『いあいぎり』の技マシンを貰った俺達はポケモンセンターに帰るために歩いてる。

 既に日は暮れかけてる。

 クリスはアレからずっと何かを考えてるのか俺が話し掛けても生返事しか返してこない。

 

「クリス、クリス……スゥ、クッ! リッ! スッ!」

 

「えっ!? あっ! な、なぁにゴールド?」

 

 やっとちゃんとした返事をしたな。

 

「何、じゃねぇよ。さっきから呼んでたんだよ」

 

「ご、ごめん……本当にごめんなさい」

 

「……クリス、何か悩みがあるのか?」

 

 こんなにも大人しいクリスは始めてだ。

 恐らくだがシルバー君とのバトルで何か感じたんだろう。

 でなけりゃ暴走モード入ったクリスが暴れなかった理由が付かない。

 ……あの時はバトルが終わったと同時に俺は自分のポケモン達と一緒にクリスを取り押さえるつもりだったが肩透かし食らったな。

 

「……ねぇゴールド……シルバーの事、どう思う?」

 

 やっぱりシルバー君の事を考えてたんだ。

 

「ん、シルバー君の事? そうだなぁ…………ちょっとヤンチャでワンバク過ぎるところがあるけど元気があって良い子だと思うな」

 

 少しグレた所もあるが自分の目標をしっかり持ってるし、あの向上心の高さは俺も見習いたいものだ。

 

「……いい子……? でもでも……シルバーはポケモンを道具みたいに扱うのよ?」

 

「んー……確かに言動はそんな感じだな」

 

「言動……は?」

 

 クリスは首を傾げる。

 まぁクリスには少し難しい話になるかな。

 

「ほら、もしも本当にシルバー君がポケモン達を手荒に扱ったらポケモン達はどうすると思う?」

 

「どうする……って、それはシルバーの言う事聞かなかったり逆らったりするんじゃないの?」

 

 なんだ、クリスも分かってるじゃないか。

 

「ならもう一つ聞こう。クリス、今日の勝負でシルバー君のポケモン達はシルバー君に逆らったり、言う事聞かなかったりした事はあったかな?」

 

「……なかったわ」

 

 正解だ、クリス良く出来ました満点花丸。

 

「……シルバー君はね、口こそ悪いけど本当は良い子なんだ。ただ不器用だからキツイこと言ったり、時には悪い事もしちゃうけど本当は優しい子なんだよ。

 それをシルバー君のポケモン達は分かってるからシルバー君の事を慕ってるんだよ」

 

 あの年頃の子は反抗期だからね、言葉が悪くなったり時には人に酷いことをする時もある。

 ……でもそれは誰だって一度は通る道なんだ。

 

 それはクリスも同じだ。

 こいつの場合は色々特殊だが、本当のコイツは優しくて甘えん坊な極普通の十歳の女の子だ。

 ……まぁやる事は色々ぶっ飛んでるけど。

 

「なぁクリス……人にはな、色んな『自分』があるんだ」

 

「色んな……『自分』?」

 

「例えば俺なら、怒ってる『俺』、楽しんでる『俺』、悲しんでる『俺』……こんな感じに色んな『俺』が居るんだ。

 だからな、人を知る為には色んな面を見ないといけないんだ」

 

「色んな……面?」

 

「そう、色んな面。……シルバー君は言葉では酷いこと言うしポケモンを道具みたいに扱ってるように見える。

 でもそれは表面だけなんだよ。本当の彼は多分優しい子、だから彼のポケモン達はあんなにもシルバー君の事を信頼してるんだよ」

 

 まぁ根っからの悪党も偶に居るけどな……それは今クリスに言うことではないか。

 

「……そうな、のかな……シルバーは……本当はいい奴……なのかな?」

 

「……少なくとも俺はシルバー君が良い子だと思ってるよ」

 

 クリスは下を向き必死に俺が言った事を考えてる。

 ……悩めよクリス、考えろよクリス。

 その経験がお前を成長させるんだ。

 ……また答えが分からなくなったら俺がヒントをあげる、だから答えは自分で出せ。

 俺はお前の側に居る、必ず見守ってるから。

 だから迷ったって良い、間違えても良い……必ずお前自身の答えを見つけるんだぞ?

 

 ……ありがとうシルバー君、君のおかげでクリスはまた一歩大人に近づけそうだよ。

 

「……色んな『アタシ』? ……色んな『シルバー』? …………」

 

 ……頑張れよクリス、俺はいつでもお前の味方だからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★☆★☆

 

 ……アタシは間違っていたの?

 ゴールドが言ったようにシルバーは本当は悪いやつじゃないの?

 ……ならアタシが今まで潰してきた害虫は?

 

 ……わからない、わからないよゴールド。

 だって害虫は駆除しないといけないものだもん!

 でもアタシが潰してきた害虫は本当は害虫じゃなかったの?

 ……ねぇゴールド、ゴールドのいうとおりならアタシは本当は悪い子になるの?

 

 ……わからないよ、わからないよ、わからないよ、わからないよ………………わからないよ……ゴールド……

 


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