半分ギャグ、半分シリアスだと思って読んでください。
セイルーンに現れた悪魔(前編)
「なるほど、これはかなり厄介ですね。シャルティア、あなたはどうですか?」
「嫌な感じでありんす。力が上手く振るえやせん」
デミウルゴスの問いに対し、不快そうな表情で答えるシャルティア。
デミウルゴスとシャルティア、二人は今、セイルーン王国の首都を訪れていた。二人がこの街を訪れたのにはある目的がある。それはセバスチャンから、この街の有る特色を聞いたからだ。
その特色とは街全体に巨大な結界が張られて居ることである。そしてその結界は白魔法など聖に属する力を増幅し、反対に闇や魔の力を抑圧する効力を持っていた。その性質はナザリックにとっては相性最悪で、鬼門の地と呼べる。実際、プレアデスの何人かはその影響を受けているとのことだった。
「あなたが影響を受けるということは同じ不死者(アンデッド)であるアインズ様も影響を受ける可能性が高いですね。具体的にどの程度力が落ちているかわかりますか?」
「そうでありんすね。レベルにして80といったところでしょうか?」
「なるほど。私と同じ位ですね。私の場合は恐らく使う魔法も影響を受けるでしょうが・・・・・・」
セイルーンの結界は人間の魔道士にも影響する。黒魔法の威力が低下し、一部については発動自体が出来なくなるのだ。
つまり、種族が”魔”に属し、かつ闇属性や死属性と言った魔法を使うものは二重のデメリットを受けることになるのだ。ナザリックでこの条件に該当する存在としては、アインズとデミウルゴスがあげられる。
デミウルゴスがシャルティアは連れてきたのは、元々一緒に行動していたことも理由であるが、不死者が影響を受けるのかを確認することが一番の目的であった。主であるアインズにとってこの街がどれほど危険であるか確かめる必要があると考えたのだ。
「これほど弱体化するとは、まずいですね」
正確な判断は色々と検証してからでないと解らないが、今の自分の総合的戦闘力はレベル70程度にまで落ちているとデミウルゴスは推測する。
それはこの世界の人間の強者と同程度。大国になればまず間違い無く、一人は存在するレベルの強さである。
(この国と国交を持つことになったとしても、アインズ様がこの街を訪れる事態はお止めした方がよさそうですね)
人間側が暗殺をしかけて来た場合、1対1の状況に持ち込まれればアインズが確実に勝てる保証は無い。勿論、自分達が彼を守るつもりではあるが、分断のリスクも考慮しなくてはならないとデミウルゴスは考える。
(あの偉大なるお方であれば、例え弱体化しようと簡単に討ち取られるなどあり得ない・・・・・・。そう思いはしますが、万が一がある。相手側に対象を転移させる技術でもあれば、それだけでまずいことになる。リスクを下げるためにも情報を集める必要がありますね)
結界の詳細な効果、結界内で使用不能になる魔法、結界の効果を防ぐ方法は無いか、結界の影響を受けにくい種族は何か、この世界にどんな技術があるのか、早急に知るべきことはいくらでもあった。
どれほどの知恵者であっても情報が無い状態ではその力を発揮することは難しい。なんせ可能性だけならば無限の選択肢があるのだ。あり得る可能性とそうで無いものを選別せず、無限に近い選択肢の中から、正解を選ぶこと等、どれほどの知恵があっても不可能である。
考えれば考える程デミウルゴスはこの世界における自分の無知に恐怖する。
(思えばあの方はこの世界に来た直後より、情報を集めようとしていた)
デミウルゴスは天才的な頭脳の持ち主だ。しかしそれはそう設定されたからである。自我を持った直後の彼は、ユグドラシルという閉ざされた世界での知識しか持っていない、いわば世間知らずの頭でっかちのような状態であった。それ故に情報の重要性を真の意味で理解できてはいなかったのだ。
一方のアインズは一人の人間として30年近くを生きてきていたのでその重要性を肌で知っていた。それ故に情報を集めることを第一優先とした。それだけの違いなのだが、彼はその差を拡大解釈する。
(やはり私などあのお方の足下にも及ばないですね)
こうして、勘違いを深めるデミウルゴス。
しかし反省ばかりはしていられない。今、やるべきことは調査で有ると、方針の決まったデミウルゴスは自身の目的をシャルティアに伝え、一度別行動を取ることにするのだった。
「そういう訳ですので、私はこれから色々と調査をします。あなたはセバスやプレアデスの構えた拠点で待っていてもらっても構いませんし、街を見てもらっても大丈夫です。ただし、アインズ様の指示通り、自衛以外で人間に危害を加えることは禁止するよう注意してください」
「わかったでありんす。デミウルゴスもアインズ様の身を守るために、頑張ってきて欲しいでありんす」
デミウルゴスから一通りの説明を聞いたシャルティア。彼の話にはよく理解できない部分もあったが、アインズの身を守るために必要なことだと言うことは彼女にも理解できた。彼の身の安全はナザリックの全員にとって共通した最重要事項である。異論など当然ある筈もなく、また自分が役立てる場面もなさそうなので、快くデミウルゴスを送り出す。
そうして一人残された彼女はこれから自分がどうすべきかを考え始めた。
「セバスの所へ行ってもいいでありんすが・・・・・・」
選択肢の一つとして示されたようにセバスチャン達の構えた拠点に行っても良いが、そこでやることがない。ただ待っているのも暇で有る。
アインズの役に立つため、自分でも独自に情報を集めようかとも考えるが、彼女は自分があまり頭が良くないと言う自覚があった。自分一人では重要な情報とそうでない情報を正しく見極められると言う自信が無い。どうしようかと悩む彼女はしかしそこで一つのひらめきを思いつく。
「そういえば、この街は珍しいアイテムが売られていると言う話でありんしたね」
セイルーンは魔法が盛んな都市だ。当然、それに関わるアイテムも多く流通している。
彼女達からすればこの世界のアイテムは異世界のアイテム、現状ではどれ一つとっても貴重品であるし、中には役に立つものもあるかもしれない。そう言ったものを見つけてお土産として持ち帰れば喜ばれるだろうと彼女は考えたのだ。そして幸いなことに金はある。活動用の資金としてこの世界でデミウルゴスが入手したものの一部を受け取っていたのだ。
「そうと決まれば行くでありんす」
目的の決まったシャルティアはマジックアイテムを売っている店を探し始める。しかしここで問題が起きた。彼女の目にとまるのは生活雑貨や食料品などを売る一般的な店ばかりで、マジックアイテムを売る店が見つからないのだ。
実はそう言った専門的な品物はちょっと裏街道と言うか、目立たない場所にある店で売られていることがが多かった。勿論、違法の店では無いので、そこまで複雑な場所にある訳ではないのだが、土地勘もなく、店を探す際のポイントも知らない彼女はなかなかその場所を見つけられなかったのだ。
「仕方ない、誰かに聞くでありんす」
数十分程、店を探し、自力での捜索を諦めた彼女はちょうどその時、人気の無い少し裏道の方に入り込んでいた。そしてそこで冒険者ぽい格好をした男を見つける。その男はがっしりとした体格だが、マジックアイテムぽいものも持っており、魔法と剣の両方を使うタイプの戦士のようであった。
その風貌から如何にも知っていそうだと目星はつけ、タイミングが良いと男に問いかける。
「そこの男、マジックアイテムを売ってる店を教えるでありんす」
「あーん、いきなりなんだよ。おい、嬢ちゃん、人に物を訪ねる時はもっと、礼儀を払うもんだぜ。まっ、そんな変な服着てる奴に常識を求める方が間違っているかもしんねえがな」
(なっ、変な服!!?)
横柄なシャルティアの言葉に対し、不快感を感じた男は嫌みな言葉を返す。
それはシャルティアの逆鱗に触れる言葉だった。彼女の服はその創造主であるペロロンチーノによって与えられたものである。そのデザインを馬鹿にするなど彼女にとって最大限に近い侮辱であった。通常であれば、この時点で男は彼女に惨殺されていただろう。
しかし、主の命により人間に危害を加えることを禁止されていた彼女は必死にその怒りを抑え、常識的な行動を取ることにした。
「ふん!!」
愛用の武器で有るスポイトランスを振るうシャルティア。強烈なスイングが叩きつけられ、男はピンボールのような勢いで弾き飛ばされ、そのまま壁に叩きつけられた。
「うげっ」
この世界では挨拶代わりに殺さない程度の攻撃魔法を叩きこんだり、死なない程度の攻撃を加えるような種類の人間が存在する。この世界に来てから、シャルティアは偶然にもそういう人間と連続して遭遇していた。その結果、失礼な言動を取るような相手に対し、武器をスイングして吹っ飛ばす程度なら、十分常識的な行動であると少々間違った常識を得ていた。
「て、てめえ、なにしやがる」
こう言ったすれ違いによって弾き飛ばされた男。しかしなかなかに頑丈であったらしく、文句を言いながらも立ち上がってきた。それを見て、シャルティアは再度槍を構えて睨み付ける。
「ちょっと手加減しすぎたみたいでありんすね」
それを見て男はびくっと震えた。
どうやら実力の差が理解できたようである。立場的にはどちらかと言えば男が被害者であるが、この状況でそんなものを主張してもどうにもならない。
争っても痛い目を見るだけとあると、彼は態度を平伏に変えた。
「まっ、待った。マジックアイテムの手に入る店だったな。教えるから勘弁してくれ。なんなら、良い情報もつける」
「良い情報? 内容次第でありんすね」
服従の意思を示した男に少し溜飲をさげ、そしてその言葉に興味を覚えたシャルティアは一旦、攻撃を止める。それを見てほっとした様子の男は彼女の気が変わる前にと情報について話し始めた。
「あ、ああ。あんた位に腕の立つ奴なら、いい儲け話になるはずだ。実はな、最近、冒険者や兵士、とにかく戦う職業の奴らばかりを狙った辻斬りが街の外れに出没してるらしい。辻斬りと言っても命までは取られねえ。代わりに武器を奪われる。その男が奪った中には魔力剣なんかも含まれてるって話だ」
「ふむ、つまりその男を返り討ちにすれば、溜め込んだ武器が手に入ると言う訳でありんすね」
「ああそうだ。中にはかなりの業物も含まれているって話だぜ」
こうして語られた男の話は、シャルティアにとって興味をかなりひくものだった。この世界の魔力剣であれば、魔族にも通じると言う話を聞いている。それは今、アインズが最も求める品で有り、持ち帰れば喜ばれることになるのは間違いない。
「いいでしょう。それについて詳しく教えれば、先ほどの言葉は水に流してやるでありんす」
男の話にアインズに褒められる未来を夢想したシャルティアは、彼女にしては寛大に男を許すことにした。
そして更に詳しい話を聞く。
その日の夜、彼女はスポイトランスのみを装備し、教えられた場所で街中を歩き回り、謎の辻斬りが食らいつくのを待つのだった。
現在連載中の作品の方がスランプなので、気分転換にこちらの続きを書いてみました。
後編は今週中に投稿したいと思っています。
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