「くくっ、この私に対し”死ね”とは随分と面白いことを言うではないか」
魔族の言葉に対し、とてもおかしいことを聞いたと言うように、笑い声を漏らす。一切の焦りを感じさせない威厳のある声を紡ぐ。その貫禄ある姿は正に魔王と呼ぶに相応しく、その得体の知れない威圧感はヴィゼアさえも怯ませ、その動きを制止させた。
そしてアインズはゆったりとした動作で懐に手をやる。
「ならば見せてやろうではないか。不死者の王、死の支配者たる私の力を」
(何て、かっこつけてみたけど、これが通じなかったら後はもう逃げるしか手がないんだよな)
アイテムを取り出すアインズ。それを見て慌ててレッサーデーモンに攻撃の指示をやるヴィゼア。しかしその指示は既に遅かった。彼が取り出したアイテム、それは魔封じの水晶と呼ばれるものであった。
「最高位天使よ、我に従え!!」
その宣言と共に水晶よりモンスターが召喚される。召喚されたのは正真正銘の最高位天使。三対六枚の翼を持った熾天使(セラフィム)ラファエルであった。これはユグドラシルでも最上級に近く、第10位階の聖属性の魔法を使うことができるモンスターである。
「ば、馬鹿な、結界に囲まれたこの地で神族を召喚だと!?」
(おっ、動揺してる。これはいけるか!? それにしても、結界に囲まれた地? ちょっと気になるな)
魔族の動揺に調子付き、同時に貴重な情報を聞き逃さない、そして表情上は、冷徹にして強大な支配者として演じてみせるアインズ。
「熾天使よ。我が敵を殲滅せよ」
「オオオオオゥゥゥゥゥ!!!」
甲高い響きと共に天より光の柱が降り注ぐ。それは二人を取り囲んでいたレッサー・デーモン達に降り注ぎ、瞬く間に殲滅していく。
「くっ!!」
突如強敵が出現し、自分の手駒が消されてしまったことに対し、天使を狙わず召喚者であるアインズをしとめようとするヴィゼア。触手を伸ばし攻撃をしかける。しかしそれは障壁によって阻まれた。ナーベラルが展開した魔法の盾である。
「防御魔法は有効なようだな。よくやったぞナーベラル」
自身を守ったことと有効な情報を得たこと、二重の功績に対し賞賛するアインズ。
そして彼はこの戦いに決着をつけるため、天使に向かい再度の命令を下した。
「ラファエル、止めを刺せ!!」
「オオオオオゥゥゥゥゥ!!!」
レッサー・デーモンを倒した光の柱、それを集約したように巨大な光がヴィゼアを貫く。その光はこの世界の高位の魔族の力を借りた魔法にも匹敵する威力を持ち、魔族の存在を跡形も無く焼き尽くしたのだった。
「ふぅ」
敵を倒し、危機を脱したことに文字通り一息つくアインズ。
「アインズ様、不死者でありながら、その天敵たる神の僕すら魅了してしまうとは。流石は至高の四十一人の中でも頂点に立たれる御方です」
そんな彼に何時も通り、いや何時も以上の賞賛を贈るナーベラル。アインズからして見ればラファエルは有料ガチャで本当に欲しいものが出ずに狙いを外してゲットしたものでしかなかったので、それを賞賛されるのはどうにも恥ずかしかった。そこで誤魔化すように言う。
「大したことではない。天使など私にとっては道具に過ぎぬのだからな。私が真に頼りする本当の宝はお前達NPCなのだ」
「あ、アインズ様、勿体無いお言葉です」
アインズに自分達が宝だと言われて、MAX状態だった忠誠心が天元突破する。話題の変え方を間違えたことに気づき、再度話題を逸らす。
「それよりも急ぎ、ナザリックに戻るぞ。人間も警戒が必要だが、魔族はそれ以上に厄介である可能性が高い。一刻も早い対策が必要だ」
魔族に対する対抗策を探すと宣言するアインズ。それ以外にも彼の頭には考えがあるな。
(この世界はやはりゲームとは違う。検証の必要があるな)
ナーベラルの負傷した時の様子でこの世界はゲームとは差異があることを確信したアインズ。レゾにやられたデスナイトにしてもゲームであればどんな攻撃でもHP1は残り生き残る筈なので光球一発では倒されない筈なのである。まあ、能力が全く発動しなかったのか、あるいは爆発で体を吹っ飛ばされた後、炎の熱でとどめがさされると言う形で攻撃が2回以上とカウントされたのかは現状では判別できなかったが。
その一方で、レベル60以下の攻撃を無効化という能力がレベルと言う概念の存在しないこの世界で機能するなど、有利な形に変化している部分もある。
「よし、それではアイテムを使用するぞ」
「はっ!!」
帰還アイテムを使用し、ナザリックへと戻る二人。
そして戻ると直ぐにアインズはすぐさま階層守護者達を集め、調査のために出ているものには通信をつなぐことで会議に参加できるようにした。
「皆、よく集まってくれた。まずは私が得た情報をお前達に共有してもらおう」
そう言って、まずは最初に自らが調査で得た情報を伝えるアインズ。話を聞き終えた守護者達は彼が襲われたことを知って憤慨を露にした。
「アインズ様を襲うなんて。私がその場に居れば」
『しかし流石はアインズ様。異世界の魔族も至高の御方には適わないと言うことでありんすね』
「シカモアインズ様ハ……御力ヲ制限サレタ状態デ危機ヲノリコエラレタ」
「流石は至高の御方ですね!!」
「凄いです!!」
憤慨は途中から賞賛に変わる。それに対し、慢心を勇めようとするアインズ。
「まて、確かに勝ちはしたが、奴が魔族の中でどの程度の位置なのかはわからん。より強い魔族が居るかもしれん。何より奴等に対し通じる攻撃が限定されていて、しかも条件がわからんのがまずい。天使の攻撃は通じたがそれが聖属性だからなのか、第10位階の魔法だからなのか、あるいは他の理由なのか。奴等の弱点を早急に調べる必要がある」
「流石ハアインズ様、武人建御雷様が仰ッテイタ、勝ッテ兜ノ尾ヲ締メヨ」
「えっ、どういう意味ですか?」
『勝ったとしても油断せず、更に用心するようにという意味だね。つまりアインズ様は強大な力を持ちながら、それに慢心せず更なる高みへと立とうとしておられる』
「正に至高の中至高ですわ」
『本当に素晴らしいでありんす』
「う、うむ」
直ぐに賞賛の方向に向かってしまう守護者達にじと汗になりながら、話の方向を戻そうとする。
「それで、セバスにデミウルゴスよ。お前達の調査によって判明したことこと、小さなことでもよい。報告せよ」
『はっ、それでは報告させていただきます』
アインズの命令に対し、セバスが通信で答える。彼は今、セイルーンと言う名の国でナーベラル以外のプレアデスのメンバーと共に人間達に対し、調査を行っていた。
『私共が滞在しておりますセイルーンと言う国は国家の規模としてはこの世界の中で大国に当たり、その首都は白魔術都市として知られておるようです』
「白魔術都市……この世界の魔法か。どのようなものだ?」
この世界の魔法体系かユグドラシルのものと異なること位はアインズも理解していた。しかし具体的な情報については無知と言っていい。それ故に従者の言葉には強く興味をひかれた。
『はい。この世界の魔法は大別して3つ、精霊魔術、白魔術、黒魔術の3種です。精霊魔術はその名の通り精霊と呼ばれる存在の力を借りたもので、風・火・水・土の属性を扱い、加えて雷が風属性に含まれます。白魔術は防御や癒し、神聖属性の魔術です』
「ほう、いい情報だ。魔道士で無いお前には困難な類であっただろう。よく調べてくれた」
魔法やアイテムに関する知識は特に重要性が高い。どのような属性があるかだけでも値千金な情報だ。価値ある成果を得た従者に対し、アインズを賞賛の言葉を投げかける。
『いえ、この程度であれば情報の入手は一般人でも可能な範囲でしたので』
「なるほど。この世界では魔術はかなりポピュラーなものだと言うことか。それで最後の黒魔術はどんなものだ?私の使うものと似た系統か?」
アインズの魔法は闇属性だったり、死霊を操るものが多い。黒魔術と言う名前からイメージするとそれに似たものかと考える。しかし返ってきた答えは異なった。
『はい。それが黒魔術は魔族と呼ばれる存在の力を借りたもののようです』
「!!」
返ってきた答えにアインズに緊張が走る。魔族、それは今、アインズが最も情報を得たいと思っている事柄である。
「魔族についての情報はあるか?」
『申し訳ありません。未だほとんど調べられていない状態です。ただ条件を満たした魔法か魔力の宿った武器でしか傷つかないと言うことは掴んでおります』
「条件を満たした魔法か。その点については今後も詳しく調査を頼む。それと魔力を得た武器ならば攻撃が通じるとなれば、伝説級や神話級の武器ならば通じるやもしれん。よくやったぞ」
魔族に対する対抗手段のヒントを得たことに対し、大きな賞賛を送るアインズ。その言葉にセバスは僅かに嬉しそうな表情を浮かべた。
『ありがとうございます。それと調査対象である人間の実力についてですが、戦士、魔道士共に完全にピンきりなようです。一般の兵士ならばレベル10~20、まれに30が混じる程度ですが、冒険者や上位の騎士などにはレベル60以上の実力者も存在するようです。ですが実力者の数や上限については未だ調査中の段階になります』
「そうか、そちらも引き続き調査してくれ。ただし、魔法に関することが最優先だ。現状では魔族が最も敵対する確率が高い相手だからな。おまけにこちらの攻撃が効き辛いとなれば、一刻も早く対抗策の構築を優先する必要がある」
『かしこまりました』
再度敬礼をするセバス。彼が得た情報に他に特に重要なものはなかったため、報告を終了させ、ついでデミウルゴスに尋ねることにした。
「デミウルゴスよ。お前の方の調査状況はどうだ?」
『はい。知能を持った生命体ですが、かなりの数が存在することが判明しました。全てを説明しますと時間がかかります故、特に力のある種族に重点を絞って説明したいと思うのですが、よろしいでしょうか?』
「うむ、許す」
『ありがとうございます。それでは資料も送らせていただきます。』
主の承諾を得て、言葉だけでなく映像を送ってくるデミウルゴス。その送られてきた映像には三つの種族について書かれていた。
そしてデミウルゴスはその3種族について語る前に、それ以外、雑多と見なした存在について簡単な説明をする。
『まずこの世界には吸血鬼やリッチと言った不死者が存在しますが、ほとんどが知能も持たぬ低級、高位のものも我々から見れば取るに足らないレベルでしかありません。他の多くの種族も同じです』
「なるほど。それらについては敵対するとしても脅威ではなく、友好的な関係を結ぶ益も少ないと言う事だな」
デミウルゴスの話を聞き見解を述べるアインズ。それに頷くデミウルゴス。主と意見が一致したことで軽い笑みを浮かべる。しかしこれからの話については楽観視できない部分であるとばかりに表情を引き締めて、口調を少し硬くして説明を再開した。
『その通りです。しかしエルフ、ドラゴン、そしてアインズ様が交戦なされた魔族。この3種族に関しては警戒が必要かと思われます』
「ふむ、魔族について私やセバスが入手した以外の情報はあるか?」
魔族が警戒対象なのは既に分かっている事実。具体的な情報を求めるが、それに対し、デミウルゴスは申し訳なさそうに首を横に振って答えた。
『残念ながら。ですが魔族は精神生命体、極めて密度の濃いゴーストのような存在であると言う噂だけは耳にしました。信憑性の確認は取れていないのですが』
「ふむ、そうか。セバス同様、今後の最重要課題として調べてくれ。それでエルフとドラゴン、この2種族も要警戒なのだったな」
『はい。この世界のエルフは肉体的には弱いものの、魔法の扱いに長けているそうです。また人間には作れない高度な魔法具を作れるという話も耳にしました』
「ほう。確か魔族には魔法の武器が有効なのだったな。我々の元居た世界の武器が通じない場合は彼等と有効関係を結ぶことも考えた方がいいか」
対魔族対策としてエルフと同盟を組むことを考えるアインズ。マーレとアウラというエルフが守護者に含まれていることもあって、守護者達にも不満は無いようだった。
最も同じエルフとて、至高の41人によって生み出された二人の方が格上と言うのが彼等の認識ではあるが。
「それでドラゴンはどうなのだ?」
『はい。魔族を除けばこの世界で最強の種族の候補です。強靭な肉体と高い知能、そして強い魔力を持っているものが多く、またドラゴンの中でも種族が複数存在し、中位レベルのドラゴンである青竜(ブルードラゴン)でユグドラシルのレベルで55程度、トップ3である魔王竜(ディモスドラゴン)、黄金竜(ゴールデン・ドラゴン)、黒竜(ブラックドラゴン)がそれぞれレベル80、レベル70、おなじく70と言ったところかと。ただ、黄金竜と黒竜は個体差が大きく、特に嘗てこの世界であった大きな戦争を乗り切った古参の竜は若手とは隔絶した実力を有しているとの情報もありますので、更なる調査が必要かと思われます』
「なるほど、そちらも引き続き調査を頼む。くれぐれも敵対はさけてくれ」
敵対は避けられ無そうな魔族だけでも厄介そうなのにレベル70~80の強さの奴がごろごろいそうな竜族を同時に敵にまわすとなると正直ぞっとする、そう考えたアインズは念入りに釘をさす。
その意図が本当に通じたのかどうかは分からないが、デミウルゴスは丁寧な礼を取り了解を意を示した。
『かしこまりました。他にお伝えすることはありませんので報告は以上になります』
「そうか。それでは調査担当のものは引き続き調査を、警護担当のものは今までよりもより一層に気を引き締めナザリックを警護せよ。それではこれで解散とする!!」
「「「「はっ」」」」
守護者達が号令を開始、会議が終了する。
そしてそれから2週間の時が流れ、アインズは再び戦場へと赴くことになるのであった。
ちなみにアインズ様が欲しかったのは厨二病患者が好きな神話存在で恐らくは上位にくる堕天使様(ユグドラシルに居るのかどうか知らないが)
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