「リナさん、落ち着いてくれ。さっきのアナウンスからして、あれは君の本当のお姉さんではないだろう?私達、と言うか君の記憶から作った偽物なんじゃないか?」
恐慌状態のリナを落ち着かせるための言葉を吐くアインズ。それを聞いてリナも正気を取り戻す。
「はっ、そっ、そうね。けど、問題は強さよ。もし、本物の姉ちゃんと同じ強さならはっきり言って勝ち目は無いわ」
しかしリナが正気は取り戻しても絶望的な状況に変化が訪れた訳ではない。青い表情で語る。
「そこまで強いのか?」
それに対し、リナの姉を知らないアインズは疑問の表情を浮かべた。
「ええ、あたしも姉ちゃんの全力を見たことは無いんだけど、とてつもない強さなのは間違いないわ。下手すりゃゼロスの奴でも適わないかもしれない」
「えー、いったい何者なんですか。リナさんのお姉さん」
ゼロスとはアインズも相対したことがある。リナの口から語られた、想定を遥かに超える強さに驚きと疑念の混じった声を漏らす。
「とにかく、こうなった以上全力で当たるしかないわ。姉ちゃんを模倣した奴……めんどくさいから偽姉って言うわけよ。偽姉はどういう訳か向こうから攻撃を仕掛けては来ないみたいだから、最初の一撃で決める気で、全力でいくわよ」
鏡によって産み出されて移行、偽姉は静止状態であった。その彼女に向けて、リナとアインズは最大級の攻撃を仕掛ける準備をする。
「四界の闇を統べる王 汝の欠片の縁に従い 汝ら全員の力もて 我にさらなる魔力を与えよ 」
「ブレスマジックキャスター、インフィニティウォール、グレーターフルポテンシャル」
互いにバフを使い魔力を最大限に高める。そしてバフをかけ続けるアインズに対し、リナは一足先に攻撃術の詠唱へと移った。
「黄昏よりも暗きもの血の流れよりも赤きもの……」
「トリプレットマジック、ブーステッドマジック」
そしてお互いの最大攻撃を放つタイミングをあわせ、発動させた。
「竜破斬!!」
「終焉の大地!!」
増幅版ドラグ・スレイブとバフで最大に強化した超位魔法が同時に放たれる。まともに食らえば中級魔族クラスで1撃で倒せる威力のコンボ攻撃。しかしそれを偽姉は手に持った剣で同時に切り払ってみせた。
「あれは、あたしが姉ちゃんにあげた魔力剣!! 武器まで複製できるの!?」
「あれを防ぐとか、まじでリナのお姉さん何者なんですか!!」
両者驚きの声をあげる。そして今まで静止していた偽姉が動き出す。剣を振るい、巨大な飛ぶ斬撃を産み出した。向かってくる斬撃を何とか回避する二人。
「うおっ」
斬撃が通り過ぎた後には、床に巨大な亀裂が生まれる。狙い撃ちされないよう二人は動きながら次の手を繰り出した。
「暴爆呪!!」
単発で駄目なら数と数十の火球を放つ。しかし偽姉は、凄い速度で剣を何回も振り、それら全てを切り裂いた。
「朱の新星!!」
そこで間髪入れず、単体相手では超位魔法以外で最高クラスの威力を魔法を放つアインズ。偽姉の注意が暴爆呪 に向いたタイミングを狙うことで、この攻撃はヒット。炎が偽姉を包む。しかしその炎はほとんどダメージを与えることなく消え去った。
「ほ、ほんとに人間なんですか!? リナさんのお姉さんは!!」
あまりの非常識さに叫ぶアインズ。リナは姉ならば十分あり得ることだと答えた。
「人間よ。ただし、神様の力を宿してるけどね。赤竜、スイフィードの力の欠片を宿してんのよ、うちの姉は!!」
「か、神様!? いや、まてよ。赤竜ってことは……」
そこでアインズは切り札を決断する。彼が持つワールドアイテム、モモンガ玉を発動させたのだ。このワールドアイテムはレベル5分の経験値の消耗と引き換えに一時的にレベルを5アップさせ、これによりナザリック最高の切り札、8階層のあやつらを操作可能にする。
そしてもう一つ大きなおまけ効果があり、攻撃の全てに対竜特化属性を追加するのだ。そしてこの効果が神魔の竜にも適用されるのは既に検証済みであった。
「リナさん、こいつと一緒に少しだけ時間を稼いでください!!」
アインズは第10位階死者召喚を使い、70レベルのアンデッドである破滅の王を召喚。超位魔法発動の時間を稼ぐために、偽姉にけしかける。アインズのやろうとしている事を理解したリナは、その背後から魔法を放って援護する。通常であれば、このコンビでも時間を稼ぐには難しい相手であるが、偽姉は動き出した後も鏡から離れないのでそれを利用すれることで十数秒の時間を稼ぐ。
「喰らえ!!!失墜する天空!!!」
ワールドアイテムで強化した状態の超位魔法。8階層のあやつらを除けばアインズ最強、最大の攻撃手段が放たれる。その一撃はダンジョンの屋根を消滅させ、偽姉に降り注いだ。
「こ、これなら……」
そこでワールドアイテム1回分の効果が切れる。再度使用するなら再び、5レベル分の経験値を使う必要があった。できればこれで倒せていて欲しいと願うアインズ。リナも固唾を飲んで見守る。
しかし現実は非常であった。
「う、嘘だろ」
偽姉は健在、それどころか無傷であった。その光景を見て、先程の朱の神星の時には驚かなかったリナも目を見開く。
「あり得ないわ。今の攻撃なら幾ら姉ちゃんと言えど、流石にもダメージは受ける筈」
ワールドアイテム強化時にはアインズの魔法はその全てが、アストラルド・サイドにも干渉できる力を持つ。そもそもがルナには肉体があるのでそうでなくても威力さえ十分であれば、ダメージが通る。今のアインズの一撃は未完成版の重破斬を上回る程の威力があった、それを食らって、無傷というのは、如何にルナが赤竜の騎士と言えど不自然なことであった。
そして困惑する彼等に再度、偽姉が攻撃を放つ。対象はアインズ、攻撃を受けてしまい、絶叫をあげる。
「ぐぅおお!!!!!!」
光の柱が天から降り注ぐ魔法。バフにより、防御も強化していたアインズあったが、苦手属性なこともあり、一気に体力を削られる。痛みに対し、感情抑制のスキルが発動。同時に、あることに気付くアインズ。
「そんな、姉ちゃんは魔術は使えない筈」
「あれは魔術じゃありません。私の世界の魔法です」
驚くリナにアインズは気付いたことを説明する。
「えっ!?」
「あの時、侵入者の記憶を基に、リナのお姉さんの偽物を作ったと言った。しかしそれではリナさんだけに反応したことになる」
「ま、まさか、アインズの記憶も参照した!?」
アインズの言いたいことを察するリナ。アインズは表情のわからぬ骸骨の顔で、しかし絶望を感じながら頷いた。
「あれは、私の世界の最強の怪物、ワールド・エネミーの力を付加されている……」
ワールド・エネミーはユグドラシルのゲームのおけるエンドコンテンツ・モンスターだ。そのため、ワールドアイテムがあれば簡単に倒せるということがないように、ワールドアイテムに対する完全耐性を備えている。そして加えられているのは先程使われた魔法からして、アインズにとって最も相性の悪いワールド・エネミーである、セフィラーの十天使の力だろう。
(ぜ、絶望的だ)
ルナ・インバースの時点で勝ち目はほぼ0なのに、そこにワールド・エネミーの力まで加えられては勝ち目は完全に0だ、そう考えアインズは絶望しかける。しかし、そこでリナは一つの勝機を見出していた。
「とんでもないわね。でも、一つだけ私達が勝てる可能性があるわ」
「えっ!! 本当ですか!? リナさん!!」
リナの言葉に驚くアインズ、そしてリナはある方向に視線をやる。
「姉ちゃんの偽物、さっきからずっと鏡の前から離れない。そしてあれほどの存在を具現化するエネルギーどこから得ていると思う?」
「そうか!!」
リナの言いたいことを察するアインズ。ここはゲームと違い現実だ。数値をいじるだけでエネルギーは湧いてこない。高位魔族に匹敵する程の力を持つ存在を実体化させ続けるには、どこかからエネルギーを供給する必要がある。
「多分、あの鏡を使って世界そのものからエネルギーを吸い上げてるのよ。世界の持つエネルギーは神魔さえも超えるわ。だから……」
「あの鏡を破壊すれば消えるかもしれない。そういうことですね」
「ええ。けど、あたし達二人だけでそれを実行するのは、正直きついわ」
予測が当たっているなら、弱点である鏡を全力で守ってくる筈。今でさえ、距離を置き、攻撃も散発的にしか来ないから何とか戦えているのだ。より激しくなるであろう攻撃をかいくぐって鏡を破壊するのは至難どころでは無い。
「アインズ、気を付けて!!」
方策のまとまらないうちに偽姉が再度動く。それは先程と天から降り注ぐ光の柱を出した時の動きと同じだった。
(やばい。今の状態で食らったら死ぬ!!)
一撃目のダメージが残っている状態で次に同じ攻撃を受けたら死亡しかねない。それで耐えきれるかどうか分からないが、防御魔法を展開できるよう備える。
「来るわ!!!」
リナが警告を発する。その時、横方向から攻撃が放たれた。
「ソドムの火と硫黄!!」
「清浄投擲槍!!」
2者による攻撃。しかしそれは偽姉を一瞬、停滞させるも完全に動きを止めることはできなかった。
一瞬遅れて偽姉はスキルを放つ。
「アインズ様!!」
偽姉が放ったスキルを飛び込んだアルベドが防ぐ。彼女が庇ったのはアインズだけだが、近くに居たリナもついでに庇われる形になる。
「ぐうぅぅぅ!!」
防御スキルを展開したアルベドだが、流石はワールド・エネミーのスキル。かなりのダメージを受けるアルベド。
「アルベド!!」
即座に回復アイテムを使うアインズ。アルベドはアンデッドであるアインズと違って、アストラルサイドに干渉するタイプの攻撃でなければ、アイテムで瞬時に回復が可能だ。全快するアルベド。
「アインズ様、申し訳ありません」
デミウルゴスが駆け寄ってくる。その表情は即座に自害しかねない程に蒼白だ。ダンジョン内で、主とはぐれた上、その対象が危機に晒される所を間近で目撃したのだから、彼の性格からすれば当然の反応だった。
「話は後だ。それよりもあいつを倒すぞ。人間の姿だが、あれは私達の記憶から再現された。ワールド・エネミーと同等の存在だ。まともにやっても勝てん」
「「「ワールド・エネミー!!」」」
その言葉にNPC達が重なる。彼等の脳内では、「強過ぎだろ!!」とか「これで負けるの何度目だよ!!」とか「クソ運営!!ゲームバランス考えろ!!」と叫ぶ彼等の創造主たちの言葉が蘇る。彼等が至高と呼ぶ存在達ですら、何度も戦略的撤退(普通に全滅した、NPC達の脳内ではこのように変換されている)を強いられる程の敵との遭遇に、強い警戒が走る。
「だが、勝機はある。よいか、よく聞くのだ」
そしてアインズは簡単に作戦を告げる。こうして戦いは次の局面へと移行した。
偽姉:リナの姉であるルナ・インバースの戦闘力をスペック的には完全再現している上、ワールド・エネミーの耐性と一部スキルを付与されている。ユグドラシル内のほぼ全ての絡めてにをメタったナザリックに対しては天敵とも呼べる位にやばい存在。
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