「これは、ガーゴイルだろうな」
進んだ先、そこに待ち受けていたのは青銅色の怪物の像だった。通路の左右に合計数十体が飾られているのが見える。
それを見てモモンはナーベにだけ聞こえるように小声で呟いた。
「情報通りですし、間違いないかと。問題は全てがガーゴイルなのか、あるいは本物の像とガーゴイルが混じっているかと思われます。いっそ、離れた場所から魔法で全て破壊しましょうか?」
モモンの推測にナーベが肯定し、同じく小声で返す。
ガーゴイルは像の振りをして相手が油断した所に襲いかかってくる魔物だ。その策の有効性を高めるために、本物の像とガーゴイルを混ぜてくるのが定石だ。しかし物量を優先し、全てがガーゴイルという可能性も存在する。
「いや、あの二人の実力を見たい。ここは罠を覚悟して進むぞ」
「わかりました」
気づかない振りをして進むモモンとナーベ。それにつられたのか、あるいは余裕なのか、平然とした様子で二人についてくるガウリイとレミー。
そしてガーゴイルが並ぶ通路を10メートル程進んだ所で、全てのガーゴイルが四人に一斉に襲いかかってきた。
「はっ!!」
それに対し、ガウリイは即座に反応。剣を抜き、1体を一刀両断。返す刃で更にもう一体を切り裂き倒す。
「うふふっ、魔物なら思う存分きれますね!!」
一方、レミーも逝っちゃってる目でガーゴイルと戦う。こちらは一刀両断とまではいかないが、数撃でガーゴイルを破壊する。
(なるほど、凄いな)
ガウリイの剣技に驚くモモン。彼が驚いた理由はガウリイの剣が普通の剣であったことだ。柄だけは変わった形はしてるが、刀身は鋼鉄製に見えるし特に魔法がかかっているようにも見えない。そんな剣で少し硬度が低いだけの青銅のゴーレムを両断することがどれだけ凄いのかは先程、モモン自身で経験したばかりである。
(でも・・・・・・)
同時に魔王を倒したメンバーの一人としてはガウリイの強さは物足りないものに思えた。強いことは強いが、それでも階層守護者と彼が1対1で戦えば9分9里勝てるだろうと予想する。それに対し、モモンが魔王の強さとして想定においたワールド・エネミーは階層守護者が全員で挑んだとしても確実に負けるレベルである。
(考えられる可能性は幾つかあるな)
自身もガーゴイルと戦いながら推測を巡らせるモモン。
彼の思いついた仮説は3つだった。
一つは魔王が実はそれほど強くないと言う可能性。しかし嘗ての戦争では一体の魔族に対し、数百体のドラゴンが敗れたと言う伝承も残っている程だ。同じ事ができる存在はナザリックの中でもワールドアイテムを併用した8階層のあやつら位である。話が大袈裟に伝わっている可能性も勿論あるが、戦争時魔族とドラゴンの力が拮抗していたならこのような伝承自体、産まれなかっただろう。
少なくとも魔族の強さはドラゴンを大きく上回ると考えるのが自然であり、そのトップである魔王が弱いとは考え辛い。
これについてはデミウルゴスやアルベドも同見解を示し、デミウルゴスに至っては非常に言い辛そうな表情で次のような見解を述べた。
『不敬な言葉であることは重々承知です。しかし、ここまで得られた情報を精査した結果、魔王の実力はたっち・みー様ウルベルト様に匹敵するレベルと想定すべきかと思われます』
アインズ・ウル・ゴウンのメンバーを至高の存在と捕らえ、過大評価しまくっていく、デミウルゴスが
ギルメンの中でも最強と呼べる者達に並ぶと推測したのだ。それ程に油断出来ない、過小評価するのが危険な相手と言うことである。
「はっ」
飛びかかってきたガーゴイルを剣で叩き落とし、魔法を使って破壊する。ガーゴイルは数は多いが、一体一体は弱い。味方が4人おり、全員が強いことでかなり余裕があった。そのため、考え事を続けるモモン。
(次に考えられるのは実力を隠している可能性だけど・・・・・・)
今、ガウリイの見せている実力は本気では無く、手を抜いていると言う推測。これが一番納得いく説であるが、モモンではなく、アインズとしてでもなく、鈴木悟としての直感がこれを否定した。
長年、営業を務めてきた経験から彼は人間観察にはそれなりに自身があった。その彼の感覚がガウリイは嘘や隠し事の上手いタイプでは無いと捕らえているのだ。っと、言うかはっきり言って彼が賢いようには見えない。
(自分の直感を信じ過ぎるのもあれだし、デミウルゴス達が予想したからと言ってそれが正しい保証はない。けど、魔王が弱いわけでも、ガウリイが実力を隠している訳でも無い、その予想が正しいとすると・・・・・・何か切り札があるのか?)
最後に考えられるのは反則レベルの切り札があると言う可能性。
例えばワールド・アイテムのようなもの、ユグドラシルではワールド・アイテムは基本的にワールド・エネミーに対しては効かないように設定されていたが、仮に通用していたとしたら組み合わせ次第で3人での攻略も不可能ではなかったであろう。リナ達のパーティーがワールド・アイテムに匹敵するアイテムを持っているのだとすれば、魔王を倒したのも頷ける。
それから制限や代償のあるスキルのようなものが使える可能性も考えられる。ユグドラシルにもそう言ったものは多数存在した。一つを例にあげれば課金拳。これは課金をすればするほど能力をアップさせられる特殊なスキルとそれを使える職業と言う狂った運営を象徴するようなスキルである。しかし、それ故に効果は絶大。それを使って少人数でワールド・エネミーを撃破したプレイヤーも存在する。ちなみにその時に使われた課金額は廃課金と呼ばれるプレーヤー達ですら目眩を覚える程のものであり、多用はできないものであった。
(少なくとも当分は警戒は解けないな)
最低でも謎が解けるまでは、絶対にリナやガウリイと敵対することは避けようと改めて誓う。
そして考えがまとまったことで目の前に戦闘に意識を集中しようとするが、戦いの最中に考え事をしていた代償はそのタイミングで支払われた。
「むっ」
ガーゴイルの爪によって、モモンの着ている鎧に傷がつけられたのだ。幸い内部にまでは届かなかったものの、傷をつけられた部分は装甲が半分位えぐられている。慌てて距離を取り、牽制に刃をふるう。その攻撃はかわされてしまうが、少し間をおくことには成功する。
「モモンさ・・・・・・ん!!」
「心配無い。体にまでは届いていない」
叫ぶナーベを制止し、改めてガーゴイルを観察すると他のゴーレムと少し色が違う。更に、爪の色ははっきりと異なっていた。
「なるほど、特別製が混ざっていると言う訳か」
単純に数で押すと見せかけて、実は罠も混じっていたらしい。他の低レベルのガーゴイルで相手を油断させておいて、本命を混ぜておき、それで相手を仕留めようとするとはなかなかに嫌らしい策略である。
「この鎧に傷をつけるとなると油断は出来んな」
仮に鎧を突破し、攻撃を受けたとしても一撃、二撃で即死するようなダメージを受けることは無いと思うが、上位物理無効無効化Ⅲを突破され、軽傷位は負わされる位の可能性は十分あり得る。そう考え、気を引き締めるモモン。
そして、そこで再び飛びかかってくる特別製ガーゴイル。それに対し、モモンは大剣を振るうのではなく、それを盾にして更に身体から離した状態にして、相手の胴体に叩きつける。
「こういったやり方はバントとか言ったかな?」
先程相手に攻撃をかわされたことから、斬撃や単発魔法ですばしっこい特別ガーゴイルを捕らえるのは難しいと判断したモモンはコースに障害物を置くこと相手の動きを阻害したのだ。
そして呪文を放つ。
「振動弾(ダム・ブラス)」
放たれた小さい赤い光の球が停止したガーゴイルに直撃。振動により粉砕する。
「スピードと攻撃力は中々だったが、耐久はたいしたことがなかったようだな」
剣と魔法を組み合わせたコンボ攻撃。瞬時に作戦を練り、成功させることで、敵を難なく撃破。その辺りは流石の熟練プレーヤーであった。
そしてその頃には大半のガーゴイルが倒されており、それから程なくして4人の手によってガーゴイルは全滅するのであった。
「どうやら、ここがゴールか」
ガーゴイルを倒した後、更に奥へと進んだ一行は宝物庫と思われる場所に辿り着く。色々なマジック・アイテムが置かれている。
「魔力剣、魔力剣はどこ!?」
「お、おい、待てよ」
お目当ての魔力剣を探し、走って行ってしまうレミーとそれを追いかけるガウリイ。それを見送り、モモンも初志貫徹とまずは、自動兵器とやらを探すことにする。
そしてそれと関連すると思われるものは直ぐに見つかった。それはとげの生えた数十メートルサイズの巨大な卵とその前に建てられた石碑で、関連するとわかったのはその石碑に書かれた内容である。
「自動兵器、ルーンガストか」
モモンはこの世界の文字が読めないが、彼の指には自動翻訳の効果のつけられた指輪がはめられている。そのため、その石碑に書かれた文字を読むのに支障はなかった。内容を読むすすめると、ルーンガストは耐魔族用にあらゆる呪文の効かない兵器としてエルフ達によって作り上げたらしい。しかしあらゆる魔法を効かなくした結果、制御も受け付けなくなった。
その間抜けな失敗に計画は放棄されたが、そこで別のエルフが改良案を思いつく。それは一点だけ魔力を受け付ける部分をつくることである。更にそこに受信装置を取り付け、送信用の腕輪をはめることによって命令出来るようにしたのだと書かれている。
「なるほど、これがその腕輪か」
腕輪については挿絵が書かれており、それとそっくりな形状の腕輪が近くに置かれていた。念のため鑑定の魔法をかけてみると、間違い無く制御装置であることがわかる。
「これをつければ良いのだな」
その腕輪をはめ、封印解除の呪文を唱えることで、ルーンガストは制御下に置かれると書かれている。そこでその指示に従い、呪文を唱えるモモン。すると卵が割れていく。
「お、おおー!!」
その光景に興奮する。
そしてエルフの作った魔道兵器。魔獣、ルーンガストが復活した。
その容姿は亀の甲羅のように見えた。本物の亀のようにそこから手足がはえてくる。ただし、実際の亀とはちがい、その足は蜘蛛のような形状で計8本あった。
「ぎゃう」
そして手足に続き、頭部が出てくるかと思ったが、なかなかでてこない。代わりに何かがひっかかっているような摩擦音に近い音が聞こえてくる。
「んっ、何だこの音は?」
そしてその音が数秒続いた後、バキッっと言う大きな音が響き渡った。
「バキッ?」
聞こえたのは何かが折れる時のような嫌な音。
そして同時にルーンガストの頭が現れる。その顔面は少々間抜けな感じに見え、頭部には折れた角のような物が見えた。
同時にその折れた先が甲羅の中から転げ落ちてくる。状況から考えて、頭部を出すときに角がつっかえて折れたのだろう。状況としては長らく動かしておらず摺動部が堅くなっていた機械とかを無理矢理動かした時に起きたりする事故によく似ている。
「何かいやな予感が・・・・・・」
「ぎゃう」
そしてルーンガストはモモンに向かって突進してきた。
「うぉい!?」
慌てて腕輪で制御しようとするモモン。しかし、ルーンガストはその命令を全く受け付けなかった。
「くそっ!! やっぱり、さっきの角が受信装置かよ!!!」
叫ぶモモン。ルーンガストを制御するための唯一の手段。それがたった今、失われたのであった。
暴走するルーンガスト。周りのマジックアイテムを踏みつぶし、壁や床を破壊しながら、モモンに向かって突っ込んでくる。
「至高の御方に牙を向けるとは!! 散りなさい糞虫!! いや、屑鉄!!」
その状況を理解したナーベが、モモンをかばうようにたち、彼女が使える中で最高位の魔法である第8位階の魔法を放つ。
「なっ!?」
「むっ!?」
しかしその一撃はルーンガストの装甲によって無効化された。石碑に書かれた呪文無効の装甲。それはユグドラシルの魔法にも有効であったのだ。
そしてお返しと言わんばかりにレーザーのような攻撃がナーベに向かって発射する。
「がっ・・・・・・」
直撃を受けてしまうナーベ。曲がりなりにも耐魔族用兵器である。その威力はかなりのもののようで、魔法特化でレベルに比べても防御力の低い彼女は大ダメージを受け、意識を刈り取られてしまう。
「ナーベ!!」
それを見たモモンは大剣を投げ捨てると、彼女を抱きかかえ、左肩に乗せると、即座に逃走を選択。
しかし完全な撤退では無く、逃げながら反撃を試みる。
「現断(リアリティ・スラッシュ)!!」
今の状態で使える最強の魔法を試す。しかし無常にもその一撃すら、ルーンガストは無効化してみせた。
「ぐっ」
モモンでは勝てない。そう結論づけた彼は完全撤退を選択、走って距離をとりながらナザリックに帰還をするための魔法を使おうとする。しかしその時、彼の目の前に先程分かれたレミーの姿が目に入った。
(くそっ、タイミングが悪い!!)
ここで帰還魔法を使っては、ルーンガストを彼女とガウリイに押しつけることになり、MPK(モンスター・プレイヤー・キラー)扱いされてしまう。それは自分やナザリックの評判を大きく落とすことにつながり兼ねない。
「レミーさん、逃げてください。実は今・・・・・・」
仕方無しに状況を伝えようとするモモン。しかし慌てていた彼は気づかなかった。彼女の手に紫色の光を放つ抜き身の剣が握られていることを、そして先程までの逝っちゃってる状態と比較しても、彼女の目が正気でないことを。
次の瞬間、彼は彼女によって、二つに切り裂かれていた。
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