今回はファンタジー世界なのに割と科学的な解釈の多いスレイヤーズ世界と科学の世界から来たアインズ様という共通点(?)を生かしたそれっぽいバトルを書いてみました。その関係で若干のオリジナル設定があります。
「まずはゴーレムか。情報通りだな」
エルフの兵器が眠る遺跡。そこに立ち入ったモモンとナーベに対し、最初の障害として立ちふさがったのは全長3メートル程の黒光りするゴーレム5体であった。
その姿は人型ではあるが非常に大雑把な造りで目や鼻と言ったものもない。よく言えば無骨と言えないことも無いが、モモンは雑だと感じた。
「見た目からするとアイアンゴーレムかスチールゴーレムか?」
ユグドラシルにもゴーレムは存在した。素材やサイズによってかなりの種類が存在し、レベルもさまざま。全体的な傾向として、物理攻撃力と物理防御力が高く、魔法防御力が低いと言う共通点が見られる。
「まずは、小手調べと行こう。ナーベ、お前はまずは控えていろ」
「はっ!!」
1体に対し狙いを定め突撃、大剣を振り下ろす。予想通りに材質は鉄、正確には鋼鉄でスチールゴーレムであったようだった。上位道具作成によって作られた鋼鉄の強度を大きく上回る大剣はゴーレムを切り裂く。しかし十センチ程食い込んだところで刃が止まる。
「むっ」
強度が勝る物質であれば傷をつけることは簡単だ。しかし切断となるとそう単純にはいかない。木のまな板を包丁で切断できないように、厚みや幅のある塊を切断するには、武器の性能に加え、相当なパワーとスピード、それを生かす技量が必要になってくるのだ。
「ぐわっ」
「アインズ様!!」
動きが止まった所をゴーレムに殴り飛ばされるモモン。それを見て、ナーベは思わずモモンでは無くアインズと彼を呼び、駆け寄ろうとする。しかし、モモンはそれを手で制した。
「心配無い。ダメージは皆無だ」
ゴーレムの攻撃はアインズのパッシブスキルである上位物理無効化Ⅲを上回る程のものではなく、衝撃はあれどダメージは一切なかった。そのため叩きつけられても身体に異常はなく、すんなりと立ち上がる。
「さて、どうするかな」
ゴーレムの防御力を実感したモモンはどうやって攻略するかを考える。
シャルティアやセバスと言ったレベル100の前衛タイプなら1撃で倒せるだろうが、彼の装備と力では倒すのには何度も攻撃を加えなければならなそうである。ダメージは受けないのだから何時かは勝てるだろうが、攻撃をする度に殴り飛ばされるのはあまりに不格好であるし、相手の反撃を回避できるよう威力を弱めて攻撃していては、どれだけ時間がかかるか分かったものでは無い。
(幾ら何でも効率悪いよなあ)
やりがいを求めてきたモモンであったが、倒すのに時間がかかるだけの敵と言うのは倒しても爽快感がなく、ただめんどくさいだけである。まだ先もあるため、ここは素直に効率のよさそうな手段で倒すことを決める。
「ナーベ、適当に魔法を試してみよ。まずはこの世界の魔法からだ」
「わかりました」
しかしただ倒すだけでは芸が無い。折角ならば実験を兼ねようと方針を決めたモモンは、魔法が使いやすいように、ナーベと共にゴーレム達から距離を取る。ゴーレムはパワーと耐久力は高いが、金属の塊故、身体が重くスピードは遅いことが多い。間合いを取って上手く立ち回れば反撃を受けず一方的に攻撃を加えることができるのだ。そのセオリーに従い十分に間合いを取り、準備が出来た所で魔法詠唱を行い、魔法を放つナーベ。
「雷撃破(ディグ・ヴォルト) !!」
雷撃が放たれ、スチールゴーレムに直撃する。しかし攻撃に当たったにも関わらず、ゴーレムはまるでダメージを受けたように見えなかった。
「効かないようですね。魔法抵抗も高いのでしょうか?」
物理防御と魔法抵抗、両方が強いとなれば非常に厄介だ。しかし、アインズは少し思案し、彼女の考えを否定する。
「いや、恐らくは違うだろう。今度は炎系の魔法を試してみよ」
「はい!……火炎球(ファイアー・ボール)!!」
モモンの指示に答え別の魔法を使うナーベ。放たれた火球が直撃、鉄の融点を超える炎はスチールゴーレムを溶かし、その身体を半壊させた。その光景を見てモモンは自らの予想が当たったことに満足げに頷いた。
「やはりな。どうやら魔法抵抗が強いのではなく、電撃に強いようだ」
「えっ、しかし金属製のゴーレムは電撃が弱点なのでは!?」
アインズの言葉に驚くナーベ。金属と言うのは電気をよく通す。そのため、金属製のモンスターは雷属性が弱点に設定されていることが多く、ユグドラシルでもそう言ったパターンが多かった。ナーベの発言はその知識に沿ったものであり、的外れの予測ではなかったが、今回の場合は当てはまらない。
「精密なゴーレムであればな。ロボットのように内部に回路のようなものがあったり、細かいパーツが組み合わさっているようなものであれば、確かに電撃は弱点となる。しかし目の前のようにシンプルな造りであれば、電撃はただ透過してしまうのだ」
細い金属に過剰な電気が流れれば熱によって変形させ、回路などの重要パーツを破壊する。そう言った理屈から、機械は電気に弱いというイメージがある訳であるが、対象が純粋の金属の塊であれば寧ろ電気に対しては強いのだ。電気をよく通すと言うのは抵抗が低いと言うこと、つまり電気を素通りさせてしまい、破壊を引き起こさないのだ。勿論、その電気が桁外れに強ければ別であるが。
変な所が凝り過ぎているユグドラシルでは、こう言った理屈が数値として反映されていたようで、金属性のモンスターに対し、弱点だと思って電撃系の魔法を仕掛けたが効果が薄いと言うケースにアインズは遭遇したことがある。そう言った時、インテリなギルメンから色々と教えてもらい、その教えられた理屈をそのまま語って見せるモモン。
「なるほど、そのような……。至高の知恵をお教えいただきありがとうございます」
「うむ、それでは残りのゴーレムを手分けして片づけるとしよう。お前は他属性の魔法やユグドラシルの魔法、出来る限り多く試し、後で結果を報告せよ」
「はっ!!」
そう指示をだし、二手に別れる。
そしてモモンは一体のゴーレムに狙いを定めた。使うのはユグドラシルの魔法。使用可能な魔法として選んだ5つの魔法の一つである。
「破裂(エクスプロード)!!」
第8位階の爆裂の魔法。シンプル故に使い勝手のいい魔法として選択したその魔法は一撃でゴーレムを文字通り粉砕する。
「ふむ、このレベルの魔法ならば、一撃で倒せるか」
2体はナーベが倒すだろうからモモンのノルマは後、1体となる。
(他に選んだのは緊急時の脱出用の魔法と、広範囲攻撃魔法、召喚魔法、後は切り札のつもりで選んだ現断(リアリティ・スラッシュ)か。使える魔法が無いなあ……)
脱出魔法を今、使っても仕方が無いし、広範囲攻撃や召喚魔法を使うには場所が狭い。切り札は一応温存しておきたい。
同じ魔法を何度も使うのも芸が無いので、この世界で覚えた魔法で攻撃してみることにするモモン。
「氷の矢(フリーズ・アロー)!!」
十数本の氷の矢が放たれる。それをうけ、凍結するゴーレム。そこで更に呪文を唱えるモモン。
「烈閃槍(エルメキア・ランス)」
精神を攻撃する光の槍が直撃。しかし生命体では無いゴーレムには何の痛痒も与えなかった。
「ふむ、駄目元で使ってみたがやはり効かないか」
次は何を試すか、そう考えた時、ふと昔、ギルメンに教えられたことを再び思い出す。
(そう言えば……ちょっと試してみるか)
「炎の矢(フレア・アロー)」
炎の矢を放ち、凍結したゴーレムを自らの手で一度自由にする。
そしてそこで再度炎の矢を放った。
「炎の矢(フレア・アロー)」
全身が熱せられるスチールゴーレム。しかし火炎球(ファイアー・ボール)よりも弱い炎である炎の矢(フレア・アロー)を溶かすまでには至らない。
そして炎が消えたタイミングで再び氷の矢を放つ。
「氷の矢(フリーズ・アロー)!!」
氷の矢を受けるゴーレムしかし熱せられ熱くなった肉体は凍らない。変わりに熱膨張と冷却による急激な体積変化により、ひび割れる。
「なるほど、これが死獣天朱雀 さんの言っていたことか」
ゲームでは流石に再現されていなかったが、リアルならばこういったことが起こると大学教授であったギルメンより教えられていた現象を目にするモモン。
理科の実験でしか見ないようなその現象に面白いものを見たと満足する。
「それではそろそろとどめをささせてもらおう」
満足したモモンは最後に破裂(エクスプロード)を使い、ゴーレムを消し飛ばす。そのタイミングでナーベも決着をつけたようで、二人は更に奥へと歩をすすめるのであった。
「分かれ道か。さてどちらが正しい道かな」
進んだ先にあったのは分かれ道。Yの字を逆にしたような分岐で、モモン達は文字の上部分の二股に別れた片方から進んできた状態である。
そしてどちらに進むか迷うモモンの耳に足音が聞こえてきた。音は二股のもう片方から、そしてこちらに近づいてくる音である。
「こちらの道からか。ナーベ、警戒せよ。だが無暗に攻撃はするな。相手が人間や他の知能を持つ生物であった場合、まずは話をする。よいな?」
「了解しました。モモンさん」
ナーベに警告すると、緊張し音の聞こえてくる方をじっと注視するモモン。
暗闇の中から近づいてくる存在。どうやら相手はこちら同様に二人らしかった。
そして近づいて来たことでその姿が見えてくる。驚いたことにその内の片方は見覚えのある相手であった。
金髪で青いプレートメイルを纏った男。レゾとの戦いの時にリナの仲間の一人として遭遇した男、ガウリイである。
(まさかこんなところで遭遇するとはな。だが、今は正体を隠しているし、知らないふりをするか)
初対面を装うことを決めるモモン。しかしそのプランはいきなり崩壊した。
「あれ、あんた骸骨さんだろ。こんなとこであうなんて奇遇だな」
「ぶっ」
「が、骸骨さん。何と言う無礼な呼び方を……」
いきなり正体ばれして思わず吹き出すモモン。主に対する馴れ馴れしい呼び方に怒りながらも直前に忠告されたばかりと言うことで何とか堪えるナーベ。
「骸骨さん?ガウリイさん、知り合いですか?」
一方、ガウリイの言葉に対し、彼の隣に居た紫色で長い髪をまとめた少女が疑問の表情で尋ねる。こちらはモモンにもナーベにも見覚えの無い相手だった。自分の正体をなるべく知られたくないモモンはガウリイに口止めをしようと彼の耳元に顔を近づけ、小声でささやく。
「すまないが、私の正体は知り合いの冒険者だとでも言ってくれないか。アンデッドであることは隠したい。名前もモモンと名乗っている」
「んっ、あっ、そうなのか? んー、わかった。えっと、モ、モモンガ?」
「!? モモンだ」
予想外なタイミングで飛び出した本名に、まさか自分の正体がユグドラシルのことまでバレてるのか、それとも偶然かと動揺しつつ、精神鎮静の助けもあり、何とか冷静さを保つモモン。再度名前を告げ、その名で呼ぶよう示唆する。
「えーとだな、こいつは昔ちょっと知り合った仲間でモモンって言うんだ。骸骨さんてのは、えーと、あだ名みたいなものだな」
奇跡的なことに彼にしては上出来な誤魔化しがガウリイの口から飛び出す。
「そうなんですか。でも、骸骨さんってちょっと変わったあだ名ですね」
「その時、たまたま骸骨の形をしたアイテムを持っていましてね。特徴的なアイテムでしたので、それが印象に残っていたのでしょう。ところで、あなたは?」
そこで少し疑問を解消できない彼女に対し、モモンがフォローすることで、何とか言いくるめることに成功する。
そして話を変えるために名前を尋ねたモモンに対し、少女は自分の自己紹介を始めた。
「あっ、すいません。初対面の方に失礼しました。私レミーって言います。ガウリイさんとはこの洞窟で偶然であったばかりです。ところで、モモンさんもこの洞窟の宝が目当てなんですか?」
「ええっ、エルフの残した自律兵器見てみたいと思いましてね。しかしそうするとあなたも?」
お互い宝目当ての冒険者となればお互い競争相手となる。場合によっては交戦も覚悟しなければならないと考える。しかし、レミーの興味は自律兵器ではなかった。
「いえ、私が欲しいのは魔力剣です。あらゆるものを切り裂くと言う最強の実体剣。あー、まさに私の理想。早くみたい、そして切りたい、切り刻みたい。うふふふふ」
逝っちゃった目で物騒な言葉を紡ぐ少女。その姿にモモンは少しひくが、それ以上に彼女の言葉に興味を引き付けられる。
「魔力剣。私の聞いた話と違うようですが、この遺跡にはそのようなものもあるのですか?」
「ええ。この遺跡にはエルフの残した遺産が複数、保管されています。モモンさんの言う自律兵器もその一つなのでしょう。お互いの欲しいものが被らなくて良かったですね」
「……そうですね」
正直に言えば魔力剣もかなり欲しい。しかし魔王を倒したと言われるリナの仲間であるガウリイと敵対することはできる限り回避したい。少し迷うものの、ここは引くべきかと考えたことであることに気づく。それはレミーの目的は聞いたがガウリイの目的は聞いていないと言うことである。
「そう言えばガウリイさんはレミーさんとはここで出会ったと言うことですが、あなたは何故この遺跡に?」
「ああ、実はリナの奴とはぐれちまってな。んであちこち探し回っている時に偶然、この遺跡を見つけてな。こういう宝がありそうな場所はあいつが興味を示すんじゃないかと思って、ちょっと入ってみたんだ」
「なるほど。っと、言う事はあなた自身はあくまでリナさんで宝には特に興味無いと」
「ああ。まあ、貰えるならせっかくだし貰うけどな」
ガウリイの回答に嘘があるようには見えなかった。これならば、宝の分け前で彼と揉めることはなそうである。最低限の分け前さえ、それで角は立たないであろうと安心する。
するとそこでガウリイの方がモモンに対し、提案をしてきた。
「ところで、知らない仲でもないしさ。折角なら一緒に行かないか。競争する理由もないんだろう?」
「……そうですね。折角ですので、そうしましょうか」
少し迷った後、提案に乗るモモン。同行することで、レミーにユグドラシルの魔法を見られるリスクはあるが、ガウリイの実力の一部だけでも見られるチャンスであると判断したためであった。こうして2人のパーティーは4人のパーティーへと変わり、彼等は更に奥へと進んだ。
前中後編の3話構成と予告していましたが、起承転結で4話構成に変更します。
実はガウリイとレニーは今回は出すつもりが無く、別のエピソードで出すつもりだったのですが、その展開が今回と結構被る部分が多いことに気づいたので、一つにまとめ、その関係で話が長くなったため、4話構成に変更しました。
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