「はあっ!!!」
アインズ、いや、冒険者モモンは大剣を目の前のバンパイアに向かって振り下ろす。
それに対し、バンパイアは自らの体をコウモリに変化させそれを回避した。しかしそこで敵を逃がすまいとナーベが電撃の魔法を放つ。
「雷撃波(ディグ・ボルト)!!」
それは彼女の十八番である連鎖する龍雷(チェィン・ドラゴン・ライトニング)ではなく、この世界の魔法であった。そう、彼女はこの世界の魔法を習得したのだ。
「いいぞ、ナーベ!!」
そしてそれは彼女だけでは無い。他のナザリックのメンバーもこの世界の魔法を習得していた。
きっかけはセバス・チャンとデミウルゴスである。この世界において人間が魔術を使うために必要な呪文、混沌の言語(カオス・ワーズ)に関する知識といくつかの魔法の呪文をセバスが入手し、デミウルゴスが実験としてそれを詠唱してみた結果、あっさりと魔法は発動したのであった。
そして、その報告を聞いたアインズは直ぐ様自身も魔法を覚えると共に、その情報をナザリックのメンバーに展開した。
この世界の魔法は威力こそ見劣りしないが、使い勝手に関してはユグドラシルの魔法に比べて劣る。呪文詠唱や集中など隙が多いからだ。しかし元々の能力に無い魔法を習得すれば、戦術の幅は間違いなく広がる。それにこの世界の人間の前で使っても怪しまれないと言うメリットもある。何より、魔族に対し有効な対抗手段になる。そのため、アインズの指示の下、皆必死に習得に務めたのだ。
その結果、習得できた魔法の種類や数には個々に差があるものの、一定以上の知力を持つナザリックのメンバーのほぼ全員がこの世界の魔法を使えるようになったのである。
特にデミウルゴスは呪文のわかった魔法のほぼ全てを習得でき、戦闘力では階層守護者最下位の汚名を返上できるかも知れない程の成長をみせたのであった。
「ぐっ」
「氷の槍(アイシクル・ランス)!!」
そして数だけであればデミウルゴスの次に多くの魔法を習得できたのがナーベラル・ガンマである。元々魔法特化のためか既に30を超える魔法を習得できていた。雷で打ち落としたバンパイアに対し、今度は名前の通りの氷の槍を放つ。
「炎の槍(フレア・ランス)!!」
炎の槍で氷の槍を迎撃するバンパイア。両者の魔法はぶつかり合い相殺、互いに消滅する。そこで、今度はモモンが魔法を放った。
「黒妖陣(ブラスト・アッシュ)」
静かな口調と共に放たれた黒いもやのようなものがバンパイアを包み込む。アインズがこの世界で習得した中で最強の威力を誇るその魔法を受けてバンパイアはあっさりと、跡形も無く消滅するのであった。
「多少は手こずったが大したことはなかったな」
「やはり、この世界のアンデッドはアイ・・・・・・モモンさんは元より我らに遠く及ばないようですね」
「ああ、だが人間の中にもレゾやリナのような存在が居るように何事も例外は存在するものだ。くれぐれも気を抜くなよ」
仕事を終え、宿で一息つきながら事後ミーティングをする二人。
そこで部下を窘めながらも実はモモンも内心では物足りなさを感じていた。先ほど倒したバンパイアは、依頼として受けた討伐相手だった。
この世界で習得した魔法の実践訓練も兼ねてと思い受けたのだが、実入りはそこそこ程度、戦闘などは瞬殺ではなかったものの楽しめる程ではなく、冒険者として、あるいは元ゲーマーとして物足りなさを感じていたのだ。
(まったく、こっちは縛りプレイ状態だって言うのに)
内心でぼやくモモン。デミウルゴスの調査結果通り、この世界のアンデッドはあまり強くない。何故ならばアンデッドの大半は元人間で、その強さは元の人間の強さや資質に大きく影響を受けるからだ。つまり元が雑魚ならば、ちょっと強い雑魚にしかならない、アンデッドの種類によっては人間だった頃よりも弱くなる。この理屈ならば、元々強い人間がレイスやバンパイア等のある程度上級のアンデッドに変化すればかなり強いアンデッドになるのだが、それを選ぶものは極めて少ないと言うのが強いアンデッドが居ない理由だった。何故少ないか、それははっきり言って割りに合わないからである。
確かに上級のアンデッドに変われば、人間だった頃よりも強くなるし、高い不死性も得られる。しかしその代わり太陽光など色々な弱点を抱えてしまうし、飲食なども楽しめなくなる。何より、人間の社会で暮らしにくくなると言うのが大きい。
この世界には、魔族と言う共通の天敵が居るためか、他種族への迫害等はさほど強くない。それでも完全に無い訳でないし、特にアンデッドは一般的には邪悪な種族として見られる。それにそうでなくとも、単純に人材として使い辛いのだ。人間以上の寿命も持つ種族に下手に相応の立場を与えてしまうと妙に強固な派閥ができてしまったりする。子供の頃に怖かった大人や新人の頃に世話になった先輩社員にはなんとなく頭が上がらなくなってしまうあれである。つまり権力構造が歪になってしまう恐れがあるのだ。それでは一般の市政のなかではどうかと言うともっと悪い。文明が十分に発達していないこの世界において、夜は寝るものである。昼間に働けない存在に与えられる仕事などほとんど無く、はっきり言って使えない人材なのだ。
それでも世界で最高の力が手に入るとかであれば、アンデッドになることを選ぶものも居るかもしれない。しかし純粋な人間として最高クラスの力を持つものがアンデッド化しても人間の限界は超えられるかもしれないが、トップクラスのドラゴンには適わないし、魔族と比べれば良くて中級下位程度と言う中途半端なものにしかならない。
いやいや大切なのは強さだけじゃない、不老不死は人間の永遠の夢だろう。そんなことを言う人も居るかもしれない。しかしこの点においても残念ながら割に合わないのである。この世界の魔道は極めれば寿命を引き延ばすことができる。赤法師レゾのように曾孫、あるいはもう一世代離れた子孫が居る年齢でありながら外見20代前半の若さを保っていた事例もある。流石に永遠の命などは無理だろうが、あまり長く生き過ぎると生きるのに飽きてしまい、痴呆などのリスクが出てくる。実際、長寿種族のエルフでは若ボケが社会問題になっている位だ。
そんな訳で、この世界のアンデッドと言うのは楽をして力が欲しいと言う根性無しや損得計算の出来ないアホ、後は低級アンデッドがほとんどであり、強いアンデッドと言うのは滅多にいないのであった。
(うーん。もっと歯ごたえのある相手か、面白いダンジョンとかないかな。かといって魔族やドラゴンと敵対したくは無いけど)
命の危険性の高い相手とは戦いたくないが、歯ごたえは欲しい。なんとも我が儘な考えを抱くモモン。とは言え、アインズならばともかくモモンとして見るのならそれは不可能と言う訳でも無い。
上位道具作成で作った鎧を纏った状態での強さはこの世界の平均的なレベルの剣士と同等の接近戦能力とレベル100の魔法職相当の防御・耐久力、ユグドラシルの魔法5つ、そしてこの世界で覚えた魔法を使える状態である。総合的な強さはユグドラシルのレベルにすれば60~70の間位、この世界でみれば人間の冒険者の一流と超一流の境位の強さだ。ちょうどいい相手と言うのも探せば居なくは無いだろう。
(けど、この世界冒険者ギルドみたいのは無いしなあ)
しかしそう言った存在が多いとは言えない。魔族やドラゴン、エルフは遊びで手をだせる相手では無いし、人間の実力者は権力者と結びついている場合も多い。アンデッドは先ほど言った通り、知能の低い怪物は目立って直ぐに狩られる。
そういう訳で仲介業が貧弱なこの世界で手頃な強敵を選んで戦うと言うのはなかなかに難しいのである。
「やっぱり諦めるしかないか」
近くに居るナーベにも聞こえない位の小さな声でぼそっと呟く。するとそこで、ナーベが珍しい言葉を口にした。
「ところでモモンさん。先ほど少々気になる話を耳にしたのですが」
「むっ、先ほどと言うと私とお前が別行動を取った時か?」
基本的にモモンとナーベは一緒に行動を取っているが、一時離れた時があった。それはバンパイア退治の報酬を受け取りに行った時だ。
報酬を受け渡す方と言うのは自分達の方が上の立場と勘違いして、横柄な態度を取ることが往々にして見られる。その態度の酷さによってはナーベが何かしでかすかもしれないと思い、彼女を少しの間だけ酒場で一人待たせたのだ。
自分の知らない情報を彼女が知るタイミングがあったとすればその時しかないと予測し問いかけ、返ってきた反応は肯定だった。
「はい。酒場で一人座っていた所、横の席に座った糞虫達が話していました。糞虫達の話によるとこの近くにエルフが開発した侵攻用の自動兵器が封印された遺跡があるとのことです。糞虫の冒険者達が一攫千金を狙って、何人もその遺跡に侵入を試みたものの、中にはゴーレムやガーゴイルと言った番人がおり最深部にまで辿り着いたものはいないのだとか」
「ほう、それはなかなか興味深い話だな」
渡りに船と言うか、今、まさに望んでいた歯応えのある冒険である。それも未踏破の遺跡となれば、より一層興味をそそる話であった。
「エルフの開発した兵器となれば、それなりに強力でしょう。魔族と戦いになった場合、鉄砲玉程度には使えるのでは無いかと思い、お耳に入れておいた方がよいと判断しました」
「うむ、そうだな」
ナーベの言葉に感心して頷くモモン。ゲームの世界において強敵と戦う際に重要なのは死に戻りを覚悟してもまずは一度ぶつかり相手の手札を把握することだった。しかしこの世界で死亡した場合、ゲームの世界のように復活ができる保証は無い。少なくとも盗賊などを対象にした人体実験では蘇生魔法もアイテムも作用しなかった。ここで都合良く、自分やNPC達だけ蘇生が可能である保証はない。それ故に威力偵察に使い捨てられる戦力と言うのはかなり欲しい所であった。
ここまでであれば是非とも遺跡を探索したいところであったが、その前に一つ確かめて置かなければならないことがある。
「遺跡内部の情報がある程度知られていると言うことは、最深部にまで辿り着いたものは居なくても帰還したものは居ると言うことだな?」
「はい。無様にも逃げ帰ってきたとの話でした」
「なるほど」
仮にその遺跡に想定を超える驚異があったとしても、いざとなれば魔法を使って脱出すればいい。魔法を封印するようなエリアが存在、そういう可能性もあるが、普通に帰還したものが居るのだから、そう言ったエリアを見つけた段階で引き返し、戦力を整え直して挑むようにすれば危険は許容範囲内に抑えられる。そうリスクとメリットを天秤にかけ、判断するモモン。
「よくやった。自力でそれだけの情報を集めるとはな」
待ち望んでいた楽しそうな冒険に心を躍らせると共に、ナザリックメンバー以外とのコミュ力最低だったナーベが単独でそれだけの情報を集めたこと、その成長に感動するモモン。彼女に対し、心からの賞賛をした。
しかし、そこで予想外の答えが返ってくる
「はい。糞虫の一人が愚かにも私を口説いて来たので軽くしばいてやりました所、素直に話してくれました」
「そ、そうか。殺したりはしていないのだな」
「はい。勿論です」
(ま、まあ、よく考えたらナーベのような美しい女を一人、酒場に残しておいた俺にも失態があるし殺してないなら許容範囲内かな)
先程の感動がワンランクダウンする感覚を味わいながらも総合的に見て十分に賞賛できる範囲だと判断し、この件に関しては叱責はしないことにした。
しかしそれとは別に一つ見過ごせない言葉があったため、そちらに関しては警告を発する。
「お前は素晴らしい情報を得た。その点について私は非常に喜んでいる。しかし先ほど、退却した冒険者達を無様と言ったな。その考えは捨てよ。私達、ギルメン達も初めて挑むダンジョン等では幾度も撤退を選択した。冒険者にとって生還は何よりも優先すべきことだ。寧ろ、その冒険者達は英断をしたと褒めるべきだろう」
「も、申し訳ありません」
モモンの言葉に顔をこれ以上無い位に青くし、平伏するナーベ。無理も無い。自分の放った言葉が彼女が、そしてナザリックの全員が最も崇拝する至高の四十一人を侮蔑する言葉だと突きつけられてしまったのだから。あまりの不敬に今すぐにでも自害しそうにな程に落ち込むナーベ。それに対し、モモンは優しい言葉をかけた。
「気にすることは無い。私達とて初期の頃はそれこそが冒険者らしい姿だと勘違いし、蛮勇に走ったこともある。そして失敗の末にそれが愚かな行動だと学んだのだからな。誰もが一度は犯す過ちと言えよう。お前も同じ間違いを繰り返さねばよいのだ」
ナーベに対し、優しく語りかけながらモモン、いやモモンガは昔を思い出す。
ピンチを自覚しながらも、後少し先に進もうと撤退のチャンスを逃した結果、予想外の敵や罠に遭遇し、全滅。デスペナを食らい、レベルを喪失したり、レアアイテムをロストする。そんな過ちを何度も繰り返し、慎重に進むことを覚えた苦い過去。思い出しただけで涙したくなる過去であった。
そしてそんな彼の気持ちなど知るよしもないナーベは許されたことに号泣し、再度頭を下げた。
「はっ、寛大なるお言葉ありがとうございます。二度とあのような言葉を吐きません!!」
「う、うむ」
大仰なリアクションに多少引きながら頷くモモン。こうして二人はエルフの兵器が封印された遺跡を攻略することを決めるのだった。
エルフの遺跡に眠っている兵器は候補として2体考えています。
それぞれ原作にでてきたものと、劇場版にでてきたものです。
後、強いアンデッドが居ない理由は独自解釈です。スレイヤーズの世界感や設定を踏まえて、それっぽく考えてみました。
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