これははたして鎮守府か?   作:バリカツオ

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駿河諸島鎮守府の隠し部屋 その1

ある朝

デスクの上にある未決済の箱には山盛りの書類束

といっても作戦期間中のため、ここに来る艦隊は少な目ではある

補給部の仕事はこの期間は、多少少なめになる

今回は北方のため、輸送作戦でも事前に運び出しが終わっている

 

 

 

時雨は3分の1ほどの書類束を箱からつかみ、目を通していく

いつもと変わらぬほかの鎮守府の輸送任務等の結果と報酬の数字の羅列

異常がないことを確認すると補給部の枠に印を押し、決済済みの箱にさっと入れる

ルーチンワークで、退屈ではあるがこの期間だけは少し違うことがある

 

 

「おっと・・・。」

 

 

先ほどの報告書と違い、ホッチキスで止められた書類束

表紙には農園部必要経費四半期臨時概算要求書とある

作戦期間中にこういった書類が回ってくるのだ

堅苦しく書いてあるが早い話が追加購入のお願いだ

年次の概算要求書は提督だけで決済を行う

 

しかし、追加に関しては全部署の同意を得てからと決まっている

無駄がないかどうかのチェック機能だ

ここ最近は新設の部署が増えたため、ますます増えている

補給部は年次の概算で何とかなるが、新設の部署の場合は上回ってしまうことが多い

多少多めに見積もって入るのだろうが、それでも慣れてなかったり、想定外の出費が出るため必ずといっていいくらい足りなくなる

 

特に、農園部は計画が拡大傾向にある

 

最初は農園のみと思ったのだが、牧場などの併設まで検討に入ってしまったため、予算の計画が相当狂ったのだろう

冊子をめくっていくと今回は牧場関連の物はなかったが、新規の肥料に苗、苗木、そしてスプリンクラーなどの機器の購入などの必要な理由が書かれていた

目を通して特に変なところも見受けられないため、印を押そうと最初のページに戻った

 

そして、そこで違和感に気づいた

 

提督の印がすでに押されているのである

この書類は比較的急ぎではないのと、重要書類に指定していないため誰からでも回していいのだ

だからといって提督の印が押してあること自体は不自然ではない

農園部は鎮守府から少し離れている

おそらくはいつもの休憩場所に行った際、受け取ったのだろう

時雨が感じた違和感は書類の作成日時だ

 

デスクの上の電話を取り、内線で農園部に掛ける

 

 

 

「はい。農園部です。」

「時雨だけどリ級かい?山風に代わってもらえる?」

「あ、わかりました。ちょっと待ってくださいね。」

すぐにクラシックの音楽が流れる

1、2分ほどして音楽が切れ

 

「もしもし・・・?時雨姉ぇどうしたの?」

「山風かい?ちょっと気になることがあったんだけど・・・農園部の臨時概算要求書って提督に渡した?」

「うん。いつもの休憩してるところにいたから帰るときに渡したよ?」

「それって昨日だよね?」

 

時雨が感じた違和感はこれだった

普通、提督に回った書類は時期にもよるが急ぎではない場合2~3日

早くても1日は留め置かれるはずだ

 

提督の仕事がたまたま空いていた

 

これもない話ではないが、今の時期は作戦期間中

補給部の仕事は少なくても、提督の方には作戦終了後の融資の電話がひっきりなしのはず

それに伴って生産部、資源部の決裁書類は倍増しているはずだ

さらには温泉街の店舗再配置の件もあったはず

とてもじゃないが昨日渡して今日もうこっちに来ていることなんてありえないのだ

 

「うん。そうだけど・・・。何かあったの?」

「実は・・・」

時雨は自分が感じた違和感を伝える

「そういえばあたしも提出した報告書がここ最近帰ってくるのが早い気がする・・・。」

「そっか・・・。今日ちょっと探ってみる?」

確か今日は自分と寝る日だったはず

山風に提案してみる

「うん。」

電話を切ると、時雨は農園部の書類に判を押し決済済みに入れた

そして、日付のおかしな書類がないかを一通り見てから仕事を再開した

 

 

 

 

 

マルヒトマルマル

執務室の前には時雨と山風がいた

2人はうなずくとカギをそっと開け飛び込んだ

 

 

 

しかし、部屋の中は暗く誰もいなかった

ひょっとすると感づかれて、急いで隠れたのかもしれない

電気をつけ探し回る

 

が、クローゼットの中や執務机の下

果てはソファーの下まで覗き込んだがいなかった

 

「あれ・・・?やっぱり違ったのかな?」

時雨は首を傾げ、扉の開閉履歴を見始めた

「おーいまだ起きてんのかぁ?黙っててやるからいっし・・・ってあら?」

扉をいじっている隣の扉から加古が寝間着姿で入って来た

「あれ?提督は?」

室内の二人を交互に見ながら不思議そうな顔をしている

「えっとね・・・。」

時雨の手が離せないため、代わりに山風が説明する

 

 

 

「ははーん・・・。提督も考えたねぇ。」

「?どういう事・・・?」

加古は顎に手をやりながら、提督の椅子に腰を下ろした

「多分、人によって送る書類を分けてんだ。」

 

古参の部類に入る川内、龍驤、加古

そこに勘のいい古鷹、時雨を足したメンツには決済が済んでいてもわざと送らず、留め置き、それ以外の部署にはすぐに出しているのだろう

 

「うーん・・・・・・。21時退室かぁ。」

「なぁ時雨。提督から来てた書類の中にあったのでおかしいのは山風のやつ一枚だけだったろ?」

「そうだね。それ以外は特に変な日付はなかったんだけどよくわかったね?」

「そりゃあね。あたしだって代理の仕事を少しの期間だったけど仕込まれたからわかるんだよ。山風の書類の次に来てたのって採掘量予定表だった気がするんだよねぇ。」

加古がそういうと時雨はびっくりしたようにその通りだよといっていた

「仕分けるときに順番があってね。うっかり提督も吹雪も見逃しちゃったんだろうねぇ。しかもこの机の上にいつもあるはずの仕事の残りもないから黒は確定だねぇ。」

確かに執務机の上には何も書類がなく、吹雪の机もきれいさっぱり何もない

 

 

 

加古はそういいながら隠し扉(元)に近づきノブを回す

当然、ガチャガチャとカギがかかって回らない

「うーん。これさえ何とかなればなぁ。」

いっそぶち破っちゃおうかと小声で恐ろしいことを言った

 

「こんな手もあるよ。」

 

流石にぶち破るのはまずいと思ったのだろう

時雨がすっとポケットからハンカチを取り出すとくしゃくしゃに丸めて地面に落とした

「あ・・・。提督のパンツ落としちゃった。」

 

 

 

「・・・・・・あれ?」

「「?」」

1分ほどの沈黙を破ったのは時雨自身だった

「望月が来ると思ったんだけど・・・。」

「ああ、望月なら艤装の定期検査で大本営に行ってたはずだよー。」

加古が提督の椅子に座りながら膝の上に山風を乗せてくるくる回っていた

「本当かい!?・・・どうしよう。当てが外れちゃった・・・。」

「しょうがないからやっぱぶち破るしか・・・。」

「君たちどうしたんだい?」

加古が扉を破ろうと構えたところで、懐中電灯を持った皐月がいぶかしげな表情をして入って来た

時刻はマルヒトゴーマル

入室してからすでに小一時間が立とうとしていた

 

 

 

「なるほどね。言われてみれば僕のところの書類は帰ってくるの早いね。」

 

加古にした説明を再度皐月に説明すると納得してくれた

皐月は着任して日が浅いため、書類の決裁の通常のペースを知らないそのため、ばれなかったのだろう

ましてや、皐月の部署は温泉街の再配置で忙しいところ

日付の違和感を抱く暇なんてない

 

「そういう事ならまっかせてよ!」

胸を張って、ポケットから何かを取り出した

皐月は今日の見回りのため、マスターキーでも持っているものだとその場のみんなが思った

廊下側の出入り口に着くと皐月はごそごそと何かをやっていた

「え?マスターキーじゃないの?」

「ここは司令官の自室だからそういうのはないよ。だから・・・。」

 

 

先ほど取り出したものとは、2つのヘアピン

1つを少し突っ込み曲げ、反対にして鍵穴に入れる

奥まで入り、回そうとすると引っかかることを確認するともう1つは先端の方だけを曲げた

そして、先端の曲がった方をちょちょいとすると

 

 

「ほら!空いたよ!」

「「「・・・・・・。」」」

 

のちに聞いた所、望月のピッキングは皐月から教えてもらったものという事を3人は知る・・・というより知るまでもなく気付いた




構想がまとまって打ち出してみたら想定外に長くなったので2つに分けることにしました(´・ω・`)
次の話も8割方できてますので早めの更新になる予定です


由良改二はおおむね想像した通りの改装でしたね
・・・甲標的はちょっと想定外でしたが阿武隈の代わりも務められるのでイベント参加はほぼ確実ですね! 火力低いのが気にはなりますけど・・・
うちの由良さんは・・・改造後、阿武隈の代わりに北方で輸送してます
ニコニコの方では閣これ祭に参加してます
名義は同じですのでもしよければ見てくださると幸いです
・・・ツイッターよりひどい事話してますけどね

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