カーンカーンカーン
雲一つない寒空に響き渡る金属音
艦隊のアイドルが裸足で逃げ出しそうな音だが、決して解体しているわけではない
「これでいいですか?」
「おおサンキュー!これで便利になるわ。」
彼女は明石
わが鎮守府に明石が来た・・・というわけではなく柏崎の嫁さんだ。
では今していたことは何かというと、工廠の拡充だ。
うちは開発、入渠の2種類しかなく、建造は艦娘を無理に増やす必要性がないため未設置。
改修工廠は明石がいないためこれも未設置だったが、新しく改修工廠を追加した。
なぜまた明石が未着任なのに設置したのかというと、呉の明石工房出張所を設置するためだ。
昔から呉の海軍工廠は日本でトップレベル、世界でも2大兵器工場の一角を担うほどの隆盛を極めた。
戦後は民間に払い下げられたが、現在は復活しており、日本一の工廠である。
その呉鎮守府のブレーンであり、柏崎の嫁さんの明石には様々な依頼が舞い込む。
実験兵器や兵装、時たまよくわからない物など、様々なものを作ってたりする。
普通の明石ではできないことも呉の明石ではできる。
しかし、依頼をするには直接交渉が基本だ。
深海側に情報が漏れるのはまずい
そうなると南方や北方の鎮守府や警備府はわざわざ呉に遠征部隊の派遣を行わざる得ない。
遠征部隊の派遣ということは資源管理にも問題が出てくる。
そこでうちの登場だ。
遠征ついでに出張所で依頼を済ませればほんの少しの負担でできる。
これについて賛成だったのだが・・・秋の作戦が中規模に拡大してしまったがためにここまで伸びたのだ。
滑走路や港湾施設の拡充も進んできたので晴れてこの件にも着手できたのだ。
「いやー!ありがたいです!これでさらに仕事がこなせます!」
めでたく出張所の開設が終了し、現在は執務室。
歓談をしているように見えるが、いつもの作業を止めるわけにいかないので、いつも通り手は高速で動いている。
「そいつはよかった。ほんとならもっと早くしたかったんだがな。」
「仕方ないですよ。ところでお仕事中に別のお仕事の話しても大丈夫ですか?」
「ん~?ややこしい?」
「いえ。ちょっとした相談ですかね?」
「じゃあ大丈夫よ。何かあったん?」
明石は執務机の横に海図を広げた。
見たところ、東部オリョール海、バシー島沖、キス島沖の三枚の地図だ。
それぞれには緑で何か所か丸がついている。
「この地図の丸で囲んだところに大きな資源反応があることがわかったんです。」
オリョール海では原油、バシー島ではボーキ、キス島では鉄といった項目だ。
運用コストが安い潜水艦で周回を行うことで、資源の増加につながるという。
「だけど今のところ海底に直接潜って採取しているのが現状でして、効率が悪いんです。」
「それだから海上基地を建設して採掘場を整備したいと?」
「そうです!」
またしても仕事が増えそうな案件だ。
しかし、面白そうだ。
採掘に関するノウハウを持った妖精はうちにしかいない。
その妖精さんは滑走路建設以来、仕事がないため暇を持て余している。
ぴったりの暇つぶしじゃないか。
(ぶっちゃけ暇つぶしを考えるのもこっちとしては一苦労だったりする。)
「了解だ。ぜひ交渉のテーブルに着こう。」
「ほんとですか!?」
「ああ。うちの妖精さんは暇だと何をするかわからんからな。」
「ありがとうございます!」
「じゃあそちらのお願いを聞いたわけだけども・・・こちらもお願いをしてもいいかい?」
こっちの本題へと入る。
「なんでしょう!」
「実はある子の艤装を直してほしいんだけどね。頼めるかな?」
「おまかせください!どの子ですか?」
「吹雪ちゃん!入っていいよ!」
入口から吹雪、電と続いて入ってきたのは
「ほっ北方棲姫!!!?」
「彼女の艤装を直してほしいんだ。」
最初は旅館に入ってすぐにバケツでの修復を試みたが、残念ながら肉体の方の修復は行われたものの、艤装に関しては修復されなかった。
彼女がなぜここにいるのかということなどの事情を話すと、何とか落ち着いてくれた。
「・・・・はぁ・・・。いろいろぶっ飛んでますね。」
「俺も聞いたときはぶっ飛びすぎてると思ったよ。」
「これタカ派に漏れたらまずくないですか?」
「だから柏崎にも言ってない。」
決して信用していないわけではないが、あちらの環境もわからず情報を持たせることはできない。
信用することとすべての情報を共有することは必ずしも結びつくとは限らないのだ。
「提督にもですか。・・・そうですよね言えませんよね。」
「だからここだけにしてほしいんだけどできるかい?」
「わかりました!大丈夫です!」
思いのほか素直すぎてびっくりした。
ふつうここは「いやしかし」や「でも・・・」の一言から始まると思った。
そのために交渉材料とかもそろえたりしていたのだが・・・
「おっおう・・・。それは・・・助かる。」
「一度いじってみたかったんですよ!深海棲艦の艤装を!」
あっ・・・これ科学者や探究者によくあるマッドサイドの顔や!
ほっぽちゃんめっちゃおびえちゃってるし・・・・。
「・・・・・コワイ」
「大丈夫なのです!・・・・・・・・多分。」
ほらぁ・・・電君もドン引きしてるよ。
「司令官大丈夫なんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・多分?」
依頼をした俺でも正直言って引く。
カーンカーンカーン
「できました!出張所第一号の案件無事終了です!」
その日のうちに片付いたらしく、執務室にほっぽちゃんと明石が戻ってきた。
「興味深いこともわかりましたよ!」
「・・・デンチャン・・・ネムイ」
「私たちはこれで失礼しますなのです!」
イナズマたちは先に旅館へと退散していった。
「艤装の中身が艦娘と酷似してました。コア部分・・・いわゆる霊的なところをつかさどる部分ですね。そこが残っていましたので何とか元に戻すことができました。」
「ほーん・・・。理系の頭じゃないから詳しく説明をと言いたいけど・・・できる?。」
「すみませんうまく説明できそうにないです・・・。」
「だよね・・・。」
「今度わかりやすい本を送っておきます。」
簡単な改造だと、登録者に対して砲撃ができないように設定したらしい。
例として大湊の人たちやここのメンバー、呉のメンツもちゃっかり登録したらしい。
これはほっぽちゃんの了承をとったとのこと。
その他図面等を書き起こし、新しい装備開発や運用法の糧にするとのこと。
「その図面はここの金庫にしっかりしまってくれよ?」
「もちろんです!後は・・・。」
ドサッと机の上に置いた書類束
上には戦闘履歴と書かれている。
「目に生気がなかったという点においての報告書です。読んでおいていただけると助かります。」
戦闘履歴からは、艦娘側の攻撃は特段特殊ではなかったこと。
深海側との仲間と通信ができなかったことがわかった。
また、逃げる際に何故かいつものスピードより少し遅くなっていたため、振り切るのが遅れ、結果被弾。
駿河諸島近くの海に不時着したとの情報だった。
「今日はありがとさん。」
書類束を閉じてソファーで吹雪が入れたお茶を飲んでいる明石に言った。
「いえいえ!ところで執務室のいじりたいところなんかあります?」
「明石君もたいがい仕事人間だね。」
「耳本さんにだけは言われたくないです。」
「じゃああの入り口のデータ改ざんの方法とか・・・」
「私はまだ海の底に行きたくないです!」
顔色が変わり、手をぶんぶんとふる。
「あっじゃあこんなのどうですか?」
「それくらいなら大丈夫です!」
「よく思いついたな!」
「いやぁ・・・司令官よく話してたじゃないですか。」
「じゃあ夜に改造しておきますね!」
「「お願いします。」」
育てたい娘が多すぎで大渋滞中・・・。
演習回数増えないかな・・・