これははたして鎮守府か?   作:バリカツオ

130 / 134
※前回のあらすじ 酒と決断


駿河諸島鎮守府とレイテ沖海戦 序章

「これはどういうことですかな?」

「どうとは・・・・・・。」

「何かねその気の無い返事は!」

 

4人、5人で向かい合って座っている男たち

濃紺の軍服を着た男たちはただひたすら困り果てた顔

対するカーキの軍服たちは怒り心頭で濃紺側をにらみつけている

 

 

 

 

 

陸軍が発令した陸海緊急戦略会議

議題はここ10日間の輸送、哨戒結果についてだ

 

10日で実に300を優に超える船団が日本近海を移動し、その大半の船団に陸軍が同行した

来たる第二次レイテ沖海戦で、南西方面の基地航空隊整備や上陸作戦のためだ

船での移動の頻度が少ないため慣らしのために同行した

 

そこで目にしたのは9割を超える深海棲艦との遭遇率だ

ほぼ戦闘にはならなかったものの、深海棲艦が日本近海をかなりの数が闊歩しているという状態だ

 

 

 

「先の失敗で輸送船がひっ迫しているというのに何かねその危機感は?!」

 

古市大将が顔を真っ赤にして机をたたきながらまくしたてる

中央で相対しているのは須下中将

春にも大将への昇進が決まっている青年だが、ガンガンに言われ頭に来たのだろう

机をたたき返し、言い放った

 

 

 

「それくらい私どもも持っています!大体、あなた方はこういった平時でも会敵するというのを知らなさすぎる!これはいたって普通の遭遇率です!」

「ほう・・・・・・ほうほうほう?」

 

古市大将はわざとらしく納得したようにとぼけ顔で頷く

そして、がらりと顔を変えた

 

「ふざけるな!過去の報告書からここ3年で会敵率が9割もあった時なんてないわ!!」

「ですからそれは現場で判dっ!」

 

思わず須下は口をふさいだ

その瞬間を古市は見逃さなかった

 

「まさか小僧・・・・・・現場の判断で戦闘がなければ会敵なしとしているんじゃあるいな?」

「そんなわけないでしょう?!われわれにやましいところなんて一切ありません!」

 

その声を聞くと、荒げていた声を落ち着けはっきりと言い放った

 

「ならば哨戒を増やせ!警戒を充実しろ!毎晩のように料亭で人事の議論なんかしているんじゃない!」

「それとこれとは」

「大ありじゃ!その場に基地や鎮守府の長を集めているのにどうしてそんなことが言える!」

 

言い訳がましい発言に再び声を荒上げた

それ以上の反論ができず、須下は唇をかみしめた

古市は一つ空いた席に一瞥をくれ、声のトーンを落とした

 

「とにかく、今は海軍さんでやっている人事案の議論。これは一度差し止めて、落ち着いたことが分かったら再開していただこうか?」

「だからそれとこれとは関係ないでしょう!」

「わかった。よーくわかった。」

 

葉巻を口にくわえ、ぷかっとやる

物音一つ立てず、ピリピリとした雰囲気は収まる気配がない

 

「それじゃあわし等はレイテ方面への展開を拒否させてもらう。」

「なっ!それは困る!」

「困る?だったらシーレーンの防衛に全力を注がんかい!」

 

古市は須下の胸ぐらをつかむとつづけた

 

「いいか?海の上で輸送船に乗った将兵に何ができる?何もできんわい!先の大戦で制海権がない状態で輸送船に詰め込まれ突っ込まされた先人はどうなった?!大半が敵と戦うどころかただ行く途中で海の藻屑となる犬死をさせられたんじゃ!先に送り込んだ者たちも後を追う羽目になった!貴様らの組織が嘘で塗り固めた報告をもとに建てた作戦でな!」

 

言い終えると須下を突き飛ばす

椅子と一緒に転げて、半分呆けている

 

「陸軍が悪いところがなかったかと言えばそうは言えない。しかし、現状を鑑みれば海軍さんにゃ最低限わしらを極力安全に目的地まで運ぶという使命はあるだろう?違うかね?」

 

須下は半分自棄になったのか舌打ちをした

 

「わかりましたよ!3、4日待ってください!」

 

行くぞと周りの人を連れ足音荒く退席していった

 

 

 

「3、4日・・・・・・もう少し引っ張れればいいんだが・・・・・・。」

 

ざわざわと解散している人をよそに、ぽつりとつぶやいた

 

 

 

 

 

 

 

 

「吹雪・・・・・・。提督休ませたほうがいいんじゃない?」

「何度も進めたんですが・・・・・・。」

 

川内の耳打ちに吹雪は心配そうに見ながら言った

 

 

ほほがこけ、目にはクマができ、ため息をつきながら書類を捌いていた

べつに仕事のしすぎなわけではない

 

原因は一つ

極秘裏で発令されているあの作戦だ

 

提督が戦闘に参加した数は両手で足りるほどだ

そのどれもが支援作戦や打ち漏らした敵の掃討など作戦に参加した者たちの危険が少ないものだった

 

 

采配、知識共に海軍内では指折りと言われている

 

 

 

が、それは今の提督には枷になっている

 

 

 

作戦指示をした後は後方でただ祈るしかないというもどかしさ

それを十二分に味わうことになったのだ

 

思いつき取り除けるだけの危険は取り払った

万が一のためにゴーヤという護衛もつけた

 

 

それでもまだまだリスクのほうが大きい

 

 

「ヤッホー司令官!書類持ってきたよー。」

 

どんよりとした雰囲気と正反対の黄色の髪に底抜けに明るい声の皐月がニコニコとして入ってきた

 

「おお。お疲れさん。そこに置いておいて・・・・・・。」

 

力なく未決済の箱を指さした

そして、書類をうつろな目で見る作業に戻った

それを見た皐月はムッとした顔をした

ずかずかと歩み寄るが、提督はぼんやりと書類を捌いており気が付いていない

左側から回り込むがまだ気づく様子はない

 

「うりゃぁ!」

「ほぁあああああああああああああ!」

 

皐月は、両手の人差し指を立てると提督の両わき腹を軽く突いた

奇声を上げて立ち上がった

 

「司令官がそんなんでどうすんのさ。その書類ちゃんと見て元気出してね。」

 

言い終えると呆然とした3人を置いてさっさと行ってしまった

 

 

 

 

 

「ねぇ加古。提督の事なんだけど・・・・・・。」

「わぁってるよ。あの雰囲気だと胃潰瘍ができてそうだから1週間くらい休養を・・・・・・。」

「そいつは無理な話さ。」

 

突然の声に驚いた加古と古鷹はぱちぱちと目を見合わせ、声のする方を見る

医務室の隅のカーテンがかかったベット

シャーっと開けたのは望月だった

大きなあくびをして休憩ももう終わりかぁとつぶやく

望月の言葉にムカッとしたのだろう

 

 

「医者の立場として提督に治療の必要があるんだけど?」

「でもすぐには死なないでしょ?」

「そういう問題じゃ・・・・・・!」

 

望月は普段のボヤっとした雰囲気から一転

いくつもの死線を潜り抜けてきた目に変わる

 

「じゃあ軍務に当たる立場として言わせてもらうよ。今は作戦中だ。司令官のあいつが現場を離れるわけにはいかない。・・・・・・今は休ませちゃぁいけない時期なのさ。」

 

万が一死人が出てあいつが一生後悔することになってもいいならなと言われ、加古は反論できなかった

 

あの一件が思い起こされる

 

 

 

軽くため息をつき、古鷹に軽く首を振って衣笠に電話をかけ始めた

 

 

「今は休ませられない。けどそんときゃあたしらが全力で支えればいい。司令官には・・・・・・あの子にはそう教えたからね。」

 

古鷹にふふっと笑って終わったら、いつものように頼むよと言って去ろうとした

 

「ああそうそう。みっちゃんの肩の荷が下りそうな報告書を皐月姉ぇに渡しておいたから多少はよくなるとは思うよ。」

 

ドアのところでそういうと、ほいじゃねといって本当に行ってしまった

 

 

 

 

 

 

 

提督は外をじっと見る

近くの街灯に照らされた暗く灰色の海

ひゅうひゅうと寒そうな風が窓から聞こえるたびに、顔を少しゆがませる

時々、壁掛け時計を見やるが一向に進む気配はない

 

 

遠くでチカっと何かが瞬いた

顔を一瞬緩め、目を凝らす

3~4回規則的な瞬きを見てガクっと頭を垂れ、大きなため息をついて椅子に重々しく腰を下ろした

時計をにらみつけては、時々振り返り海を見る

 

そんなことを繰り返していると部屋の静寂を引き裂くように備え付けの電話がけたたましく鳴り響いた

一瞬びくっと体を震わせ、その電話に飛びついた

 

「もしもし?!」

「てっ提督ですか?阿武隈です!」

 

あまりにも食い気味だったのだろう

電話の主の阿武隈が一瞬どもった

 

 

どうやら出撃していた囮艦隊は、スコールに紛れて戻ろうとしたらしい

しかし、艤装のちょっとしたトラブルが発生したため大事を取って航行速度を落とした

そのため、到着が1時間から2時間ほど遅れるので先に休んでいて欲しいという事が阿武隈から伝えられた

 

 

 

 

 

まんじりともせず、天井を寝転がりながら見る

窓から差し込むわずかな街灯の光が天井の木目をぼんやりと照らしている

眠気があるかないかで言えばある

しかし、眠ろうと目をつぶると浮かぶのはあの3人の事ばかり

ちらりと机のスマホを見やるが、メールが届く気配はない

 

廊下をコツコツコツと警邏の誰かが歩く音がする

無機質な音が徐々に大きくなる

 

 

 

「?」

 

コツンと一番大きくなったところで、音が止まった

不思議に思っていると、3回ノックの音が響いた

 

 

「はい?」

「お邪魔するぜ!」

 

開けて入ってきたのは深雪だった

 

「突然どうした?何かあったのか?」

「うんにゃ?なんもないぜ?」

 

電気を付けて扉を閉めた際に、警邏の腕章が付いていない事に気が付いた

思えば、今日の夜間警邏は磯風だった

 

「あたしが警邏じゃないってすぐに判断ができないくらい弱ってるねぇ。」

 

困ったような

呆れたような

 

そんな笑いを浮かべて目の前に立った

すぅと息を吸い込んだ

 

「耳本起立!」

「はい!」

 

びくっと体を震わせ、ベットから転げ落ちるように立ち上がるとピシッと敬礼した

 

「って・・・・・・条件反射で・・・・・・。」

「その反応ができるならまだいけるね。」

 

提督がへにゃっと緊張を解くとコロコロと深雪が笑った

 

 

「いいかい?今は司令官がしっかりするときなんだ。司令官がうつうつとしてるとその雰囲気が全体に蔓延して悪い流れを引き寄せちまう。わかるだろう?」

「・・・・・・。」

「こういう事がありそうだったから大将も元帥も、あたしやもっちーもあそこ(作戦参謀)にはやりたくなかったんだ。」

 

深雪はぐりぐりと提督の頭を撫でまわす

 

「結果論だけど行かなくなってほっとした。・・・・・・でも何のめぐりあわせかこうやって秘密裏とはいえ危険な作戦をとることになった。」

 

ぐしゃぐしゃになった提督の顔を両手でぱちんと痛くない程度にたたいて固定し、顔をぐいと近づけた

 

「あたしが付いてる。もっちーも、吹雪もみんなそばにいる!みんなで支えている。それでも不安か?」

 

2,3度瞬きし、くすっと笑った

 

「大丈夫そうだな!よっしじゃあ寝るぞ?最近ゆっくりと寝てないだろ?」

「そうだな。今日はぐっすり寝れそうだ。あの子たちを送り出す頻度も減ることだし・・・・・・。」

「ちょうどル級たちも戻ったみたいだぜ。」

 

机の上にあるスマホが付いており、遠目に阿武隈と見えた

提督は安心した表情を浮かべ、おやすみといってベットに戻る

 

 

 

 

「ところで。添い寝をすると安眠効果が上がるという話があるのは知ってる?」

「え?」

 

振り向いたときには、深雪の格好は寝間着だった

 

「カモーン吹雪!」

「しっ失礼します!」

 

同じく寝間着姿の吹雪が枕を2つ持って入ってきた

 

「まぁ・・・・・・うん・・・・・・。いいか。」

 

半分あきらめたように苦笑をし、3人でベットに入った

 

 

 

 

 

報告書

 

例の鎮守府は政治的利用価値が高く、トップには聡明な提督がいる模様

戦後アメリカとの間に起きる競争には日本海軍組織より彼らとのコネクションを作ることこそが重要と考える

そのためにも、件の会談を日程調整し来月中に行うことが彼らにとって助けになると思われる

また、近々接触、交渉を行うことを検討されたし

詳細は添付ファイルを参照すること

 

「これで良しっと。」

 

にぃっと微笑みながらパソコンをたたき終えた

 

「楽しみだなぁ。・・・・・・っとと。」

「誰かいるのか?」

 

懐中電灯をあちこちにあてながら入ってきたのは磯風だった

 

「気のせいか・・・・・・?川内さんから1,2か月ほど前からスパイが忍び込んでいる恐れがあると聞いているが・・・・・・。まさか・・・・・・な?」

 

一通り見て回り、異常が見受けられないのを確認して出て行った

 

 

 

 

 

 

後日、輸送船団を兼ねた警戒部隊が配置されたことにより囮艦隊の出撃頻度は緩やかに減少していった

審議の中断期間は6日

想定よりは稼げたが、この足りない一日に泣くことになるかどうか

じりじりと減る日々に、提督は顔や態度に出さないようにした

 

 

そして節分もバレンタインもそっちのけでカレンダーに印を付けながら待つ日々

 

タイムリミットの16日が迫っていた




ついにレイテ沖海戦突入!(もうすぐ冬イベとか言わない!)

今日は吹雪ちゃんの進水日!
明日はこの小説を投稿し始めて2周年!(よく続いてるなぁと自分で思ってます)
そしてアーケード版の方でちまちまとやっていたレベリングが終わり、本日無事アーケードの吹雪ともケッコンをすることができました(*´ω`*)
いやぁ改めて動くケッコンのシーンを見るとすごいです・・・!
(実はアーケードが壊滅的に苦手で2-1以降行けず演習のみで上げた人)

さて、近況の方ですが明日おそらく巻雲改二!
練度は80まで上げてあるから大丈夫(なはず)
ながもんタッチ(仮)や日向改二はまだ来ない雰囲気ですが楽しみなことが目白押しですねぇ・・・

ちなみに艦これJAZZは昼の部に見事当選しました(*´ω`*)
最近リアル関連での当落関連は上々ですねぇ・・・!(あとアーケード2周年の記念缶バッチも当選していたという不思議)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。