これははたして鎮守府か?   作:バリカツオ

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駿河諸島鎮守府と帰還

ゆさゆさと揺さぶられ、目を開けると昨日寝た時と同じ無地の天井・・・ではなく、誰かがこちらを心配そうに見下ろしていた

 

 

 

「・・・・・・?」

「覚めましたか?」

 

 

 

目をこすりながら起きようとして、腹筋に力を入れたとたん痛みが走る

 

 

「ああ!ダメダメ!私が支えるからゆっくり起き上がってちょうだい。」

 

 

見れば、すでに拘束具は外されていた

介助を受け、やっとやっとの事で起き上がると手錠を外された

思わぬことで目をぱちぱちさせて目の前の艦娘をみた・・・

 

薄い紫色の髪に緑の瞳にセーラー服

 

「それじゃあ今からあなたを私、衣笠さんが玄関先まで連行します。何かあった時の非常階段はここを出て左側よ。」

「はい・・・・・・?」

 

 

 

不思議な説明をするものだと思いゆっくりと立ち上がる

力をうまく入れられないせいか、歩くのもやっとやっとで鉄格子をくぐり抜けて廊下に出る

見渡すと廊下の両端には鉄の扉がある

衣笠が出てくるのを待ち、彼女の先導で右の鉄扉を抜けた

そして、ホールでエレベーターを待っている間ずっとこちらをちらちらと小刻みに振り返っていた

 

 

 

 

ピーンという音がして、無人のエレベーターが到着する

 

が、衣笠は乗ろうとしなかった

提督は疑問に思いつつ、上に行くものだと思い、ちらりと上の行き先を見る

しかし、どう見ても行先は下であった

エレベーターは何もなかったかのように閉まり、下へと向かった

 

 

 

 

「あの・・・・・・。」

「逃げないの?」

 

提督が話しかけると、ぼそりと言った

 

「え?」

「わざわざ逃げ道を言ったのに。行ってもいいのよ?」

 

 

衣笠はこちらを振り返らず言った

 

 

「・・・・・・。逃げらんないねぇ。」

「どうして?」

 

提督は顎に手を当てて少し考えた後返事をした

 

「逃げたら君はどうするつもりだったの?」

「・・・・・・。」

「あんな外道に青ちゃんの妹をやらせるもんか。」

 

その一言で衣笠が振り返ろうとしたが、思いとどまった

以前、青葉から聞いたことがあったのだ

自分の妹は海軍病院の方にいると

 

 

 

 

 

「昨日来たのは青ちゃんだろ?」

「・・・・・・ええ。」

「やっぱりね。さすがにどうしようもないから最後に顔を見に来たのかなぁって思ってさ。」

「本当にいいの?」

 

確認の言葉に無言で答える

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずいぶん遅いじゃないか!・・・おい!手錠も外れてるぞ!」

「すみません。どうもけがの調子が悪かったので彼女に無理を言って外して肩を貸してもらったんです。」

 

玄関ロビーでは屈強な憲兵が二人待ち構えていた

手前にいた1人が衣笠に食って掛かろうとしたのを先手を打った

 

「・・・そうか。では行くぞ。」

 

両脇をがっちり固められ、護送車に乗り込む

乗り込む瞬間、横目で衣笠を見ると悲しそうな顔をしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後で・・・・・・。行くから・・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

 

護送車はそこそこのスピードで走っていく

備え付けられた硬い椅子が振動を体に直接伝えるため、傷の痛みがじくじくと痛んだ

しかし、誰に言っても仕方ないため黙っていたがどうやら顔に出ていたらしい

憲兵がこちらをちらちらとうかがっていた

 

 

 

「・・・・・・。痛みますか?」

「・・・・・・お恥ずかしいことですが。」

 

 

 

憲兵は無線機らしきものを取り出し、何かを話し始めた

何を話しているのだろうかと思うと車のスピードが少し落ちた

止まる気配がないことから憲兵がどうやら指示を出してスピードを落としてくれたようだ

 

「お手数をおかけしてすみません。」

「・・・・・・。もう少しいい車で護送したかったのですが申し訳ありません。」

 

病院のところでの態度は一転

恭しく答えたことに提督は驚いていた

憲兵は目を合わせず床を見ながらつづけた

 

 

「今回の件は何かの間違いであると信じたいのですが・・・。」

「・・・・・・。それ以上踏み込んではいけません。」

 

 

 

以前手がけた仕事の中に、陸軍から直接の要請書があったことを思い出した

鉄や原油などの物資を積んだ輸送船が艦娘の護衛なしに行けるのは日本近海のみだ

そして、陸軍と海軍は水と油のような関係である

このことから物資の輸送を海軍に頼むにしても極力は力を借りたくない

そういった経緯から生まれた艦娘もいるのだが、それはまた別の話

艦娘ができる前は陸でも文字通りの水際迎撃作戦を行っていた時期もある

しかし、艦娘の登場から事態は一転、予算の大半が海軍に回されることになった

 

端的に言えば陸軍の再建が当時ほとんどされていなかったのだ

雀の涙ほどの予算で行ってきていたが限界を感じたのだろう

武装を作るための鉄、及び訓練に使う弾薬や原油の定期的で安定した値段での供給をうちに願い出てきたのだ

その際には、陸軍の当時の大将が頭を下げに来たため、驚いて対応した記憶がある

 

その大将曰く

 

「ここは海軍の資本が入っているとはいえ資源関係は君個人の会社だろう?ならば海軍に頭を下げたことにはならない!(はず)」

 

すさまじい解釈に思わず苦笑いしてしまったが、大将の顔を立てて「それもそうですね」と相槌を返しておいた

 

 

このことから陸軍とのコネクションは海軍の中でも一番といっても過言ではないくらいだ

 

 

 

 

 

「しかし・・・。」

 

何か言いたげな表情だったが、黙って首を振ると憲兵は押し黙った

その表情は悔しそうな顔をしていたが、それ以上は何も言わなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

車はゆっくりと裁判所の中に入っていく

裁判所の前では記者がちらほらいるが、護送車に寄ってくる様子はない

どうやら、完全非公開で結果のみを報道する予定のようだ

裏側の方に回り、降りると憲兵たちが再び両脇についた

普通なら控室に通されるが、控室の前を通り過ぎた

そして、法廷の入り口の扉までくると憲兵は「我々はここまでです。」

そう言って扉の両隣に立った

 

 

 

 

 

扉をくぐると一段高いところにいる裁判長らしき男に証言台に行くように言われる

誰もいない弁護側のテーブルを回り、証言台につく

左の検察側には志垣がいて沈痛な面持ちをしている

裁判長とその両脇にいる裁判官の三人は現役の将校であり、タカ派だ

つまりは、その中には法務官はいない

 

 

 

「・・・それでは開廷いたします。志垣軍令部長。罪状認否の方を・・・。」

「はい。被告人は・・・」

 

つらつらと罪状が述べられていく

戦果詐称、敵前逃亡、国家反逆罪、軍用物損壊罪とありもしない事から過去のカレー洋解放作戦の時の責任までもが追加されていた

 

「被告人。間違いないですか?」

「いいえ。私はやっておりません。」

 

きっぱりと答える

その後は普通の裁判の流れ・・・・・・

と言うよりも弁護側がいないため、ただただでっち上げの証拠を出されては否定するだけの状態であった

 

志垣は志垣で君のためを思ってとか認めれば多少減刑がとか見え見えの嘘をついていた

そんな茶番が2時間もかけて行われた

 

 

「今回は作戦中という事もあり、早急な判断が望まれるため今回の公判で結審します。・・・主文!被告人を・・・・・・。」

 

 

 

提督はあきらめた表情をし、志垣はほくそ笑んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとまちぃや!!」

 

扉が壊れんばかりの勢いで開いた

そこにいたのは・・・

 

「・・・!吹雪ちゃんに龍驤・・・・・・。」

 

吹雪はどこか緊張した顔、龍驤は笑ってはいるが青筋を立てていた

 

「なっ!何をしている!憲兵たちはどうした!」

「ああ?憲兵さんか?おらんかったなぁ吹雪?」

「はい。」

 

よく見ると扉の横から小さく握りこぶしが出てきた

そして、親指を立てるとすぐに引っ込んだ

 

「弁護人もおらんと裁判だなんて笑わせてくれるなぁ?!うちらが弁護を務めるからもう一度やり直さんかい!」

「しっしかし・・・・・・。」

「まぁまぁ。一応彼らの言い分もあるし、弁護側の証拠提出や立証を行ってもらおうじゃないか。」

 

 

 

志垣は龍驤たちが突入してきたときこそ驚いた顔をしていたものの、余裕たっぷりの表情で裁判長を制する

 

一方の提督は何が起きているのかが全く分からなかった

なんでここにいるのか、鎮守府の方は大丈夫だったのかなど聞きたいことが山ほどあった

しかし、それを聞く前に裁判長が弁護側の立証をお願いしますと言って裁判が再び始まった

 

「まず過去のカレー洋解放作戦の戦果報告書なんやけどな?これが大きく違うんや。」

 

そういって龍驤は裁判長達に冊子を配る

 

 

 

カレー洋解放作戦(真実)

 

この作戦の立案、指揮を執ったのは耳本訓練生であった

耳本訓練生は作戦立案、指揮に飛びぬけた才能があったため、見学だけでなく実際の指揮を特別に取らせることにした

そして、結果は大成功

夜間空襲戦法を筆頭に様々な新しい戦術を多用し、実用化への道を開いた

結果としてリランカ島の敵基地に甚大なるダメージを与えた

 

 

そして、その復路で事件が起きた

 

 

復路で、偵察機が輸送船団を発見したという報告があった

これに対し、耳本訓練生は囮の可能性を指摘

損害を受けている艦娘がいることから、座標を確認して偵察隊の燃料の限界までの偵察のみとし、撤退を指示した

しかし、当時中将であった志垣が猛烈に反対した

 

「発見した敵艦隊をみすみす逃すとは貴様は提督になるつもりの男か!」

 

そう主張し、指揮権を無理やり剥奪

艦隊に勝手に指示を出した結果空母瑞鶴を除いて全員が大破

その瑞鶴も中破状態であり、推進器に異常をきたしていた

 

志垣は瑞鶴1人を残し撤退する囮作戦を指示

瑞鶴を除く誰もが反対したが、聞き入れず指示を出したのち指揮権を放棄

耳本訓練生に返上した

 

 

 

そして、打ちひしがれている耳本訓練生と快方に回った桐月中将の隙を突き、勝手に上層部への報告を行った

 

 

 

 

「・・・・・・ばっばかばかしい!なんで私が悪いことになっているのだ?そもそもこの報告書のどこに証拠があるというのかね?!」

「弁護人。何かありますか?」

 

 

 

 

裁判長がやる気なさそうに龍驤に振る

現状証拠がない以上、どんなに志垣が動揺しようとも戯言でしかない

 

 

 

 

「あるで。公にされているのと大本営の奥の奥に保管されていた報告書。この二つには絶対ついているはずのものがないんや。・・・当時の通信記録が。」

「それが証拠か?だったら君が提出した報告書だって通信記録がないじゃないか!」

 

志垣は鼻をふんと鳴らし、笑った

 

 

「せやな。・・・・・・というわけでや。川内連れてきてや。」

 

龍驤の呼びかけに扉をくぐって来たのは二人

先導しているのは川内で、その後ろから出てきた人物をみて提督と志垣は目を見開いたまま動けなくなっていた

川内が先に提督に近寄り、弁護側の被告人席に座らせた

そして、もう一人の人物とすれ違った時に後で詳しく話すからと言った

 

 

 

 

 

 

緑色の髪のツインテール、白と赤の弓道着に金色の瞳

 

 

 

 

 

 

「翔鶴型2番艦 瑞鶴です。」

「・・・・・・。ばっばかな・・・。偽物じゃないのか?!」

 

ようやく口を開いた志垣は震えた指で瑞鶴を指した

 

「あのねぇ・・・。まぁいいわ。そんなに気になるなら艤装の登録番号を見る?」

 

はいといって飛行甲板を手から外し、裏返した

そこに刻まれていたのは確かに撃沈登録されている瑞鶴の物だった

 

「それと・・・。よくもまぁここまで耳本君を悪者に仕立て上げたわねぇ!証拠はこれよ!」

 

バンと大きな音を立てておいたのはICレコーダー

ボタンを押すと流れてきたのは語るまでもない

作戦時の通信の会話すべてだった

 

瑞鶴は途中でレコーダーを止めた

 

「今は持ち運びしやすいようにICレコーダーにダビングしたけど艤装の方にだって残ってるわ。なんなら声紋検査だってしてもいいわ。」

 

しなくてもわかるでしょうけどと小さくつぶやいた

それを聞いて真っ白になりかけている志垣だった

それでもなお、あきらめなかった

 

 

「・・・・・・。そうだとしてもだ・・・。そうだとしても!カレー洋解放作戦での罪がなかったとしても!!今回の欧州作戦の失敗はどう説明するのだ!まさかこれもわしのせいだという気かね?!」

 

 

「それについては私が弁護しましょう。」

 

 

声がした方をむく

先ほどまで誰もいなかった傍聴席に二人腰かけていた

 

「青ちゃん・・・・・・!衣笠君・・・?」

 

座っていたのは青葉と今朝会った衣笠だった

青葉は何かを小脇に抱え、衣笠は何かを持っていた

青葉と衣笠はすっと立ち上がると柵を飛び越えて証言台に向かった

瑞鶴は弁護人の席に戻っていき、青葉が証言台に立った

 

「被告人が無罪という証拠はこちらです。」

 

青葉が小脇に抱えていたのはノートパソコンだった

操作をして、終わると席に取り付けられた画面をご覧くださいと言った

 

 

 

そこに映し出されていたのは・・・

 

 

 

『さて、お加減はいかがかね?』

『・・・志垣軍令部長。』

『おっと・・・もう階級なんぞ付けなくていいぞ?・・・・』

 

 

 

 

 

昨日の提督と志垣の会話だった

最初は志垣の体だけだったが、映像が進むと志垣の顔が見えるようになった

映っている角度から提督は気が付いた

昨日黒フードをかぶった青葉がかけた毛布

肩の違和感

すべてが合致した瞬間だった

 

 

 

 

「・・・・・・!・・・・・・!」

「裁判長。こちらの映像が被告人が無罪と言う証拠です。」

「あっああ・・・・・・。席に戻ってください。」チラッ

 

 

 

裁判長はどうするんだという顔で志垣を見る

当の本人は気がふれたようにこれは合成だ!偽物だ!と叫んでいる

 

 

 

「ええ・・・と・・・判決だが・・・・・・。」

「銃殺だ!こんな奴らもろとも銃殺だ!裁判長!こいつらは銃殺だ!」

「因みにですがこの裁判は現在配信中ですよ。」

 

 

「「「「「は・・・・・・?」」」」」」

 

その場にいた提督も含めて5人はまた固まった

 

「軍管轄の全鎮守府に流しています。これが何を意味するか分かりますね?」

 

衣笠が持っていたのは小型のカメラだった

そして、これが意味をするのは先ほどのような判決が下せないという事にある

 

 

「カメラ・・・!裁判所での撮影は禁止されているのだぞ!貴様・・・法廷秩序違反で・・・・・・。」

「どうぞご自由に。ですが先に逮捕されるべきものがいますね?」

 

青葉が毅然と言い終える前に、大勢の者たちがぞろぞろと入室してきた

憲兵隊である

 

「志垣軍令部長。あなたを国家反逆罪及び外患誘致罪で拘束させていただきます。」

「はっはなせぇ!貴様ぁ!この私を誰だと!」

 

 

どたばたと暴れるが、憲兵たちにあっさりと取り押さえられた

 

 

「憲兵隊も全員銃殺だ!!銃殺!全員銃sモガー!!!」

「舌をかみ切られては大変だ。布で覆いなさい!」

 

 

先ほど身を案じていた憲兵が提督と目線を合わせると、会釈をし志垣を連行していった

 

「しゅっ主文!被告人を無罪とする!」

 

志垣が連行されていくのを見て、裁判長と裁判官は判決を言うと慌てて出て行った

 

 

 

しかし、その先では当然憲兵隊が待ち構えており拘束された

収賄罪の疑いでの連行だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令官。」

「・・・・・・吹雪ちゃん。」

 

ぼんやりとしている提督に吹雪は手を差し出した

先ほどまでは死を覚悟していたのがウソのようだ

目の前に再び会うことはないと思っていた姿にこれは夢ではないかと思い始める

 

 

「帰りましょう!」

 

 

元気のいい聞きなれた吹雪の声に提督はじっと手を見た

そして、恐る恐る手を取った

手の温かさが、今起きていることが夢でないことの何よりもの証明だった

 

 

 

 

「ああ・・・・・・。帰ろうか。鎮守府に。」




この日この時間にこの場面を投稿したかったのです・・・(´・ω・`)
吹雪の戦没日(11日)だったのと自分の誕生日(12日)なのとで・・・

間に合ってよかった・・・
そして100話にも到達・・・!
ありがとうございました!
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします!

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