生きる負けフラグと相成りまして   作:菊池 徳野

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お待たせしました。
どうにも筆をとる気力が湧かず放置気味になってしまいかなり遅い更新となりました。そして字数もあまり無いという…すみません。
べ、別に今更ダンガンロンパにはまったとかFGOに沼ってたとかじゃないんだからね!
…ホントダヨ?


お金で買えない価値がある

新学期早々2日で入院による欠席を決めた俺は、二年生同様まるで腫れ物に触れるのように扱われ早速孤立した。

休み時間を全て読書に費やし、昼休みには作った弁当を一人で食べる。早い話が、寮以外での友達が未だにいないのである。

明彦くんや桐条さんとはクラスも別なので休んでいた二日間のノートを隣の席の山田くん(仮)にお借りして事なきを得たが、それで友達になれたかどうかと言われれば微妙である。二三言話をしたが、その程度の関係では友人とは言えないだろう。

 

因みにあの大型シャドウとの戦闘で怪我をしたことは、ジョギングの最中に不審者に襲われて怪我を負ったという事に世間的にはなっているらしい。

 

だから脇腹の切り傷や火傷跡を隠す為に包帯を巻いていても奇異の目にさらされる事はないのだが、だから心配しなくてもいいという話でもない。

小市民の俺からすれば理事長の幾月さんと桐条グループの根回しによるその隠蔽工作ができるという事実の方が、よっぽど恐ろしい話である。

また、その説明があった為か俺と真田君が一緒にジョギングするくらい仲がいいという話になり、事実あの一件以来仲良くなっているので否定できず、真田君のファンクラブらしき方々への受け答えに四苦八苦したのだが完全に些事である。

 

そんな事もあり、放課後は雨で寮に戻ってもやることもないので、面倒事とは縁遠そうな図書室へと足を向けることにしたのだった。

友達作ろうと思っていたのに人目を避けている事は決して突っ込んではいけない。

そんな建設的ではない思考を遮るように図書館の中をざっと見ると、図書委員のオススメ!と書かれたポップの立っているコーナーやベストセラーの置いてあるコーナーが目についた。

 

「流行、知ってたら話も広がるかな…」

 

ぽつりと呟くが返事は返ってくる筈もなく、妙な気恥ずかしさだけが残ってしまう。周りには聞こえてないと思う。聞かれていたら赤面だけで済むものではない。

女々しいとは言うなかれ、一人ぼっちの高校生活なんて耐えきれない故のいじらしい努力なんだ。と、自分に言い聞かせながら適当に目についた本をベストセラーの中から一冊手に取ってみる。

 

「この本って、多分読んだことない…よな?」

 

少し頭を捻ってみるが、当然のように思い出せなかったので軽く目を通してみる。立ち読みになるが、人もあまりいないし邪魔になることもないのでいいだろう。

結局10分程ぱらぱらと捲って読んでみたがどうにも肌に合わず、それならばと他の本も手に取ったのだがどうにも楽しめない。

視線が活字の上を滑るだけでどうにも頭に入ってこず、結果的に無為な時間になってしまった。

 

「あの、どうかしましたか?」

 

適当にイヤホンで音楽でも聞いて放課後の時間を潰そうかと半ば諦めた気持ちになっていると、ふいに声を掛けられた。

視線を遣ると、どこかおっとりとした印象の女性徒が立っていた。立ち読みしていたのを見かねて声を掛けたのやもと思い、話題作りの部分は伏せて面白い本が無いか尋ねてみる事にした。

 

「では、これなんていかがでしょう」

 

不躾な発言にも関わらず嫌な顔ひとつせずにポップの立ったコーナーから本を探して差し出してくれる。

流行のブースで渋い顔をしていたのを見られていたのか図書委員のおススメコーナーから選んでくれたのだが、本のタイトルを見て面食らってしまう。

 

「えっと、これは…」

「私の選んだ本なんですが、よろしければ」

 

おそらく純度100%の善意なのだろうが

 

「実はこの本、持ってるんです」

「あら」

 

そう、今差し出されている本は実は最初入院していたときに暇をもて余していたところを見かねた看護師さんが貸してくれた本と同じなのである。

恋愛小説に分類されるそれは、男子高校生があまり好きこのんで読むようなものではない。目の前の彼女もそう思ったのか驚いた様に見える。

何となく居づらい雰囲気になったのでひと事お礼を言い、さっさとその場を立ち去ることにした…。

 

 

 

 

「心理描写とか主人公の葛藤とか、細かい部分が綺麗に纏まっていて読んでて入り込んじゃう作品ですよね」

「分かります。最後はハッピーエンドなのも素敵ですよね」

 

したつもりだったのだが、あれよあれよという間に談話スペースで先程の本について語り合っていた。

確かに退出の流れまで持っていった筈だったのだが、長谷川さんの謎のオーラに流されてしまったのかもしれない。

 

「よかったら他にも長谷川さんのオススメの本があれば教えてもらえませんか?」

「はい、喜んで」

 

彼女の名前は長谷川沙織さん、図書委員をしている1つ年上の二年生。何やら諸事情により留年してしまったそうで、仲の良い友人が居ないのだと言うことから一気に親近感がわいて、ものの数分で話に華を咲かせる間柄にったのである。

ちなみに、

「浮いちゃうのってイヤですよね。俺なんて記憶喪失ですから、妙な距離感を感じちゃってクラスに友達居ないんです」

と言ったら長谷川さんの「(同情してるんでしょ?)」みたいなオーラが消えたことも一気に仲良くなれた要因な気がしないでもないが、深くは考えない事にする。可哀想な物を見るような目を向けられたなんて事実は存在しないのだ。

 

イヤァ、共通ノ話題ガアルッテイイナー

 

「また、お話してくれますか?」

 

長谷川さんオススメの本の貸し出しを済ませ、話も一段落したところで寮に帰ろうかとしたら突然そんなことを言われた。

 

「そう…だね。じゃあこの本読み終わったらまた来るよ。」

「はい、楽しみにしてますね」

 

無難な返しだがまた来るつもりだし、こんなものでいいだろう。長谷川さんも心なしか嬉しそうにしているし良かったんじゃないだろうか。

 

「またね、長谷川さん」

 

友達との別れの挨拶は「またね」だけだって偉い人も言っていた。

そんな事を考えていたからか、外はまだ雨がぱらぱらと降っていたけれどその時の僕には気にならなくなっていた。傘は無いのでとっとと帰るとしよう

 

 

 

「鹿島か、ちょうど良かった。話がある」

「話?」

「ああ、彼女の件だ」

 

寮に着くなり桐条さんからそんなことを言われた。

彼女――転入生の女の子の事だろう。

 

「他の皆にはもう言ったの?」

「岳羽にだけな。どう君に連絡をとったものかと考えていたからちょうど良かった」

 

どうやら待たせてしまったらしい。普段は直ぐに帰ってくるから困らせてしまったようだ。

それにしても岳羽さんだけにしか話してないと言うことは明彦くんにも話してないということだろう。腕が折れたというのにどこで何をしているんだ。

 

「明彦くんもそろそろ戻って来るだろうからその時にまとめて聞いた方がいいんじゃない?まだ話してないよね?」

「あぁ、ならそうしようか」

 

彼を待つ間、手持無沙汰になったのでキッチンへ紅茶を淹れにいく。桐条さんもいるし、それに雨で少し体が冷えているのもあって色々と都合がいいのだ。

 

「どうしたんだ二人とも。珍しいじゃないか」

「おかえり、明彦くんを待ってたんだよ」

「俺を?」

「明彦、それと鹿島に話がある。転入生の件だ」

 

桐条さんと二人、紅茶のカップを傾けながら待っていると10分もしない内に明彦くんが帰ってきた。雨とは別に濡れている所から察するに運動でもしてきたのだろう。

先ほど淹れた紅茶を飲みながら、桐条さんの言葉に耳を傾ける。

なんて事無い話の筈なのに何故か肌が粟立つ――。

 

風邪でもひいたかとこの時は思っていた。

今にして思えば、この時からおかしくなっていたのかもしれない。いや、正しかったのかもしれない。

どちらにせよ、この時はまだ夜は長かったのだから。

 




一応プロローグはこれでおしまい。
次回は転入生との顔合わせからですかね。書き溜めとかないので気長にお待ちください。

『隣の席の山田くん(仮)』
恐竜ではないです。
突然大量の消しゴムを使ってドミノもしません。

『不審者』
最近物騒ですからみなさんも気をつけてください。

『理事長と桐条グループの圧力』
権力は偉大。鹿島くんは小市民だから吹けば飛びます。後ろ楯も家族も無いので紙のように飛びます。

『流行とか分かれば~』
マジで実行に移ったことがあります。つまりはそういうことです。

『恋愛小説』
最近、妹のすすめで色々と読んでいるのだけれど青春パワーが強すぎて死んでしまいそう。
私は日の下では生きられないオケラのような生き物なのです。

『紅茶』
作者はコーヒー派。でも胃が弱いのでブラックでは飲めない。お酒もあまり飲めない。
一切酔わないのに穴は開く。理不尽

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