イナズマイレブン!北のサッカープレイヤー   作:リンク切り

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目指せ、世界一! #07

 

 

 

 

 

「皆さん。お父さんの言う通り、この二日間この宿舎からは出られません。何か欲しいものがあれば、私たちに声をかけてくださいね。」

 

マネージャーの冬花が笑顔でとんでもないことを言う。

ああ、本当に二日間、合宿所に軟禁されるのか。

一体何を考えているんだろうか、あの監督は。

どんな理由があっても、練習しない方がいいなんてあるわけないと思うんだが。

 

耀姫(ようき)くん・・・・」

 

「大丈夫だって。監督にも理由があるんだよ、きっと。」

 

吹雪が再び不安そうにしていたからついつい前向きな言葉が口からこぼれる。

別に根拠は無いが。

俺だって監督の真意はさっぱりだ。

 

「基本自分の部屋にいてもらいます。ですが、部屋から出て食堂に行ったり、他の人の部屋に入ったりする事は大丈夫です。」

 

「と、言われてもな。」

 

「とりあえず、部屋に戻るか。」

 

俺たちは監督の指示に困惑したまま、自分の部屋に戻った。

 

「部屋に二日間こもってろって。何をすればいいんだ?」

 

まさか、二日間部屋の中で瞑想をしろとかじゃない、よな流石に。

あるいは、逆にサッカーから引き離す事で得られる者があるとか。

うーん、考えれば考えるほどわからん!

 

「二日間部屋にこもって、何にもする事ないって。もう()()しか思い浮かばないな。」

 

どうせ暇だし、俺は吹雪の部屋に突撃することにした。

俺以外も、それぞれの選手は好きなように過ごすみたいだ。

漫画を読むやつ、ゲームを持ち込んでするやつ、イメージトレーニングをするやつ。

全員が全員納得していないが、指示にはしっかり従うようだ。

だが、この宿舎から抜け出そうと模索する者が数人いた。

 

 

 

 

 

「だーっ!!練習したーい!!」

 

最初に根をあげたのは、当然の如く円堂守だった。

まだ部屋に入って数分しか経っていないが、サッカー馬鹿にはそれも耐えられなかったようだ。

元々が学校の教室だったためか、この部屋は大声を出すとすぐ声が漏れる。

円堂の声が廊下にも響いた。

 

っていうか、ほんの数分で我慢できなくなるのはもう中毒だぞ。

でも俺も昔ずっとゲームばっかりしていたら親に取り上げられた時、こんな調子だったっけ。

やりたくてやりたくて仕方ない、イライラが止まらないって、それもう薬物だろ。

バタップスリードが、未来からサッカーを止めに来たのも分からなくはない。

サッカーをしたすぎて禁断症状が出始めたら末期だ。

俺?

俺は別に円堂やそのメンバー達と違って、サッカー一筋じゃないから。

前の世界で好きだったゲームや読書やその他趣味も続けていたりする。

元の世界での物語の続きが気になってもどかしかったりするが、それは仕方ないと割り切っている。

ああ、でもやっぱり未練が・・・・・

 

ガラガラガラ

 

部屋の扉を開く音が小さく鳴った。

ついに、円堂が宿舎を抜け出そうと動き出したのだ。

 

「よし、誰もいない。」

 

今のうちに廊下に出て、誰にも見つからないようにパパッと階段を降りてしまおう。

円堂はそう考え、周りを注意深く何回も見渡す。

誰もいないことを確認した後、抜き足差し足で廊下を進んだ。

 

ガラガラガラ

 

「わっ!?」

 

円堂が歩いていたすぐ隣の部屋の扉が開いた。

声を上げた自分の口を慌てて抑えるが、もう遅いわな。

部屋から出てきたのは風丸だった。

 

「円堂?」

 

「なんだ、風丸かあ。びっくりした・・・・」

 

「お前も、部屋でじっとしていられなくなったのか。」

 

ガラガラガラ

 

「どうやら、考える事は皆同じのようだな。」

 

風丸に続いて鬼道の部屋の扉も開いた。

そして緑川やヒロト、豪炎寺達もが釣られて部屋から出てくる。

 

「み、皆!」

 

「「「しーっ!」」」

 

「あ、ごめんごめん・・・・」

 

あはは、とバツが悪そうに笑いながら頭をかいて謝る円堂。

円堂がいたら、隠密行動もろくにできないな。

そして部屋から抜け出したメンバーは、小さく頷きあった。

全員で静かに廊下を歩いて、とうとう階段まで辿り着いた。

 

「よし、行くぞ。」

 

円堂が壁に隠れながら階段を覗き、人がいないのを確認して合図を出す。

それを見たメンバー達は全員頷き、円堂に続く。

抜き足差し足で一歩ずつ降りて行く円堂達に、不意に声がかかった。

 

「どこへ行くつもりだ。」

 

「!?」

 

丁度階段から死角になる位置に、久遠監督が待ち構えていた。

久遠監督は、円堂達が宿舎から抜け出そうとすることを予測していたのだろう。

ご丁寧に本まで用意して見張っていた。

 

「か、監督・・・・」

 

「宿舎を出る許可は出していない。」

 

「ですが監督!俺たちはまだ、日本代表になったばかりでチームとして完成していません!オーストラリア戦は、このチームでの初めての試合なんですよ!?」

 

久遠監督には、どんな言葉をぶつけようとも無駄だ。

反応を見せただけかと思えば、本のページをめくるだけだった。

 

「アジア予選では、負けたらその時点で敗退決定なんですよ!?」

 

「・・・・」

 

そんな事は、言われなくとも久遠監督もわかっているだろう。

わかった上で、きっと何か策略とか作戦があるんだろう。

 

「・・・・久遠監督。あなたの噂を聞きました。」

 

「お、おい、鬼道・・・・!」

 

ついに、鬼道が本人の目の前で言った。

それを、円堂が止める。

誰が最初に言うんだろう、と思ってたんだが、まさか鬼道とはな。

鬼道はもっと我慢できると思ってたが、予想が外れたな。

 

「あなたには、桜木中学校のサッカー部を事件に巻き込んで廃部にした過去がある。俺たちイナズマジャパンも、潰すつもりなんですか!?」

 

「私の指示に背く事は許さない。宿舎を出たいなら、このチームを抜ける事だな。」

 

「くっ・・・・」

 

鬼道が言いくるめられる相手は珍しい。

久遠監督は本当に二日間、メンバー達を宿舎の外に出すつもりはないのだろうか。

円堂達は、ズコズコと部屋のある二階へ逆戻りになった。

 

「おかえり、お前ら。」

 

階段の上で一部始終を見ていた俺と吹雪が、円堂達を出迎える。

 

「見ていたのか。」

 

「ああ。どうせ出れないと思ってたしさ。」

 

「ごめん、立ち聞きするつもりはなかったんだけど・・・・」

 

開き直る俺とは正反対に、吹雪は律儀に謝った。

俺は吹雪の部屋に行った後、廊下で何やらグラウンドへ行く算段をしている円堂達に気がついた。

そして、階段を降りる円堂達を追って吹雪と俺たちの2人は盗み聞きをしていたと言うわけだ。

抜け出す事に成功したら、あわよくば便乗して一緒に外へ出ようと思っていたんだけどな。

 

「やっぱり、呪われた監督なんだよ。久遠監督は。」

 

「呪われてる、ってどう言う事なんだろうな。悪魔に取り憑かれてるとか?」

 

「こ、怖いッス・・・・」

 

「桜木中がフットボールフロンティアに出場停止になったのは、久遠監督が事件を起こしたからなんだよね?その事件があった時に、何かに呪われたのかな?」

 

「何にせよ、おかしな監督ではある。こんな大事な時に、練習禁止だなんて。」

 

「うるせえなぁ!」

 

俺たちが全員、うーんと首を傾げて悩んでいると、部屋から出てきた不動が声を荒げた。

 

「たった二日。練習できねえくらいで自信をなくしちまうような奴は、今のうちに代表を辞退するんだな。」

 

「不動・・・・」

 

かっこいい事言うじゃんよ。

でもさ、これ全員で監督の目を引いて、もう1人誰かが違う場所、例えば窓から抜け出したりしたら割と宿舎の外に出れるんじゃないか?

晩飯とか食事の時間とかに帰って来れば、割とバレない気がするんだけどな。

まあ、俺は代表から落とされるのが怖いからやりたくはないが。

 

「監督!帰らせてください!」

 

「ん?あの声、虎丸か?」

 

俺達は、階段の上から顔を覗かせた。

すると、ボストンバックを持って久遠監督に頭を下げている虎丸が見えた。

 

「あんなこと言っても、認めてもらえるわけないッス。」

 

俺も、壁山と同じようなことを思っていたのだが。

 

「わかった。今日はもういい。」

 

「ありがとうございます。」

 

なんと、虎丸はすんなりと久遠監督の許可を得て宿舎を出て行ってしまった。

 

「ど、どうなってるんスか!?」

 

「もしかして、今なら素直にお願いすれば聞いてくれるかも!」

 

円堂が元気よく飛び出して、久遠監督のもとに走って行った。

 

「監督!練習させてください!」

 

「お前は部屋に戻れ、円堂。」

 

勿論そんな事はなく、またもや撃沈した円堂が帰ってくる。

 

「ダメだった・・・・」

 

「お疲れ、円堂。」

 

「でも、何で虎丸だけ宿舎から出られたんだ?」

 

「何か、事情があるのかも・・・・」

 

「あ、フユッペ!」

 

新たな謎を増やした俺たちが悩んでいると、俺たちのいた階段のさらに上の階段から声がかかった。

新しくマネージャーに入った、久遠冬花だ。

 

「事情って、どう言う事だ?」

 

「さあ・・・・私もよくわからないんですけど、何となくそう思っただけで。」

 

「うーん、事情ねえ・・・・」

 

虎丸の事情か。

それに関しては、何故かシュートを自分から打とうとしないことも気になるな。

 

「お前達。用がないなら部屋に戻れ。」

 

いつの間にか、階段を上がってきていた久遠監督に怒られる。

まあ、こんな人数で廊下にいたら確かに通行の迷惑だよな。

俺たちは部屋に戻る事になった。

その前に、俺はどこかへ行こうとする冬花を呼び止めた。

 

「あ、えっと、冬花さん。」

 

「はい?」

 

背中を向けていた彼女がくるっと振り返る。

すると、長い髪が一拍遅れてなびいた。

わお、見返り美人。

じゃなくてだな。

 

「玲奈の部屋って、どこか知ってる?」

 

「玲奈さん・・・・八神玲奈さんの事ですか?」

 

「ああ。」

 

「それなら、この階段を上がって、右の廊下の突き当たりの左の部屋ですよ。」

 

「ありがとう。」

 

二階には俺たちイナズマジャパンの部屋があるが、マネージャーと女子メンバーの部屋の階は三階にある。

この階にも他の部屋は残りもいくつかあるが、まあやっぱり男女の区別は重要なのだろう。

俺は、階段を上がって玲奈の部屋へ向かった。

どうせ暇してるだろうから、顔覗きに行ってやろう。

何もやる事ないなら、吹雪とヒロトでも誘ってなんか遊ぼうかな。

そんな思いだ。

 

三階の廊下の突き当たりまで行くと、二階や一階には無い張り紙がしてあった。

 

「何だこれ?」

 

ろうか

はしるな

 

校舎を改装する前に、もともと貼ってあったものだろうか。

古いボロボロな紙に書いてあるその張り紙は、読みにくい事この上ない。

まあいいや。

俺はそれを無視して玲奈の部屋へ入る。

えっと、この突き当たりの左側だっけ。

 

「おーい、暇だから遊びに来てやったぞ。」

 

「なっ!?誰だ!?」

 

ガラガラと引き戸を上げると、そこには・・・・

何やら、肌色の多い玲奈が立っていた。

 

「うびゃあああ!?」

 

「ば、馬鹿!人が来たらどうする!?」

 

「ん!?んんんんん!?」

 

悲鳴を上げようとしていた口を、電光石火の早業で手で塞いだ。

確かに悲鳴なんか上げてこんな所で人が来たら大変だ。

そして、その後に重ねて低い声で念を押した。

 

「静かにしていろ。いいな?」

 

()()、玲奈の迫力にこくこくとただ頷くしかなかった。

不機嫌オーラを隠そうとしない玲奈は、俺の口から手を離す。

 

「今から服を着る。後ろを向いていろ。」

 

俺は玲奈に言われるがまま、後ろを向いて目を瞑る。

後ろから、きぬ擦れの音が聞こえる。

何だ、何が起こっている!?

よし、ここまでの状況をまとめよう。

 

俺が部屋に入る

下着姿の玲奈を視認

()()悲鳴をあげかける

()()()悲鳴をあげようとしていた俺の口を塞ぐ

後ろを向いて着替えるのを待つ

 

うん、何かがおかしい。

こう・・・・思っていた事と違う!!

 

「も、もういいぞ。」

 

「あ、ああ。」

 

最後に、チャックを閉める音が聞こえた後。

玲奈は、俺に声をかけた。

後ろを向いていた俺は、玲奈へと向き直る。

するとそこには、ちゃんとイナズマジャパンのジャージを着た玲奈がいた。

 

「それで、何の用だ?つまらない用事だったら許さないからな。」

 

「え?あ〜、えっと・・・・」

 

俺は玲奈から目を逸らし、視線を彷徨わせた。

き、気まずい・・・・

マネージャー2人の頭よしよし大事件よりも気まずい・・・・

これは、やっぱり謝り倒した方がいいのか。

 

「ん?」

 

キョドった俺が意図せずにキョロキョロと部屋の中を見回していると、あるものを見つけた。

それは、簡易ベッドの上に置いてあった。

 

「ペンギンの、ぬいぐるみ・・・・?」

 

「ば、馬鹿!見るなっ!」

 

玲奈は俺がそのぬいぐるみを認めた事に気付き、光の速さで手の中に収めた。

そして周りをすごい勢いで見回していることから、隠す場所か何かを探しているんだろう。

結局見つからなかったのか、ぎゅっと抱きしめて隠そうとし始める始末。

かなり大きなぬいぐるみで、玲奈1人じゃとてもじゃないが隠しきるなんてできない。

どっちにせよ、どうしようがもう今更だが。

 

「み、見たか!?」

 

「あー。意外と可愛い趣味してんな。」

 

「くっ・・・・!!」

 

俺が答えると、俺を仇かのように睨みつける玲奈。

殺せ、とかは言わないのかな。

というか、まるでそっちの方が下着姿見られるよりも恥ずかしいって反応だが。

もしそうなら、このことはすぐに忘れるからもう一度下着姿になってもらってもらいたいんだが?だが??

 

 

【挿絵表示】

 

 

「まあでも、可愛いんじゃないか?」

 

「え?」

 

「そのペンギンだよ。」

 

「・・・・本当にそう思ってるか?」

 

「え?まあ。ペンギン好きだし。」

 

完全に完璧なおまかわだけどな。

ぺたんと座ってぬいぐるみを抱きかかえる姿はとても愛くるしい。

でも、ペンギンが好きなのは嘘じゃない。

 

「そ、そうか?フフ・・・・」

 

嬉しいのか恥ずかしいのか微妙な顔をして、ぬいぐるみに顔を埋めて不気味な笑い声を上げる玲奈。

可愛いと怖いの合間をふわふわしてる感じだが・・・・

 

「あの、玲奈さん・・・・?」

 

「少し待っていてくれ。」

 

玲奈は、俺の問いかけを無視してゴソゴソとボストンバックを漁る。

ペンギンのぬいぐるみはもういいのか、隠そうとするのはもうやめたらしい。

というか、本当にどうやって持って来たんだ、そのぬいぐるみ。

ボストンバックにはさすがに入らないだろう。

 

「あ。あった!」

 

玲奈がバッグの中から出したのは、丁度いい大きさの箱だった。

何だよ、玉手箱か?

私の秘密を知ったお前には老人になってもらう!みたいな。

その箱を、玲奈は俺へと渡した。

 

「開けてみろ。」

 

「ああ。」

 

何だ何だ、何をさせようって言うんだ。

俺は言われるがままに箱を開けた。

そこに入っていたのは、大量のキーホルダーや小さなぬいぐるみ、人形の数々だった。

それらは全てペンギンで、正直ペンギンは好きな俺でもちょっとどうかと思った。

 

「どうだ?可愛いだろう?」

 

「ああ、そうだな。」

 

俺はうまい感想が言えなくて適当な返しをしてしまう。

それを聞いた玲奈は、少し訝し気な顔をした。

ま、まずいまずい。

ペンギンは好きと言えども、好きか嫌いかと言われれば程度のものだ。

このレベルのペンギン好きと比べられると、どうしても情熱の差が出てしまうのは仕方がない。

だが、話を合わせないと、許してもらえるか怪しいかもしれない。

どうせいい方向に話が進んでいるんだ。

玲奈をいい気分にさせて有耶無耶にしよう。

 

「あ、ほら、これなんか可愛いな。」

 

「あっ・・・・」

 

俺が調子付けようと箱に手を突っ込み、一つの皇帝ペンギンらしきストラップを摘み上げる。

すると、俺が掴んだ瞬間に玲奈が小さく悲鳴とも取れる声をあげた。

 

「わ、悪い、触っちゃ駄目だったか?」

 

「・・・・、いや。ペンギン好きの同志ならば許そう。存分に触ってくれていい。」

 

何やら許可が出た。

まあ、大丈夫ならば遠慮はしつつ触らせてもらうが。

 

「これ、皇帝ペンギンか?」

 

「ふふ。よく間違えられるのだが、この子は皇帝ペンギンではない。」

 

俺が触っていたキーホルダーを、玲奈が優しく奪い取る。

 

「これは王様ペンギンと言ってだな。皇帝ペンギンとよく似ているが、しっかり見てみれば違いに気づく。」

 

そして、ガサゴソ箱の中から同じようなペンギンのキーホルダーを探し出してもう一つと同じように手のひらに乗せた。

 

「ほら、よく見てみろ。これが皇帝ペンギンだ。」

 

「ほう。」

 

まあ、確かに、よく見てみると模様が少しだけ違ったりしていた。

ほとんど色も形も同じで、言われなければわからないくらいだ。

 

「こっちの皇帝ペンギンはテレビなんかのドキュメンタリーなどで一番よくみる種類だな。

ペンギンの中でも一番大きくて130cmにもなる。

そしてこっちの王様ペンギンの方は、皇帝ペンギンに続いてペンギン界で二番目に大きいんだ。

ちなみに三番目はキガシラペンギンで、一番小さいのがコガタちゃんだ。

おっと、すまない。話が逸れたな。

皇帝と王様の二匹のペンギンは見ての通りよく似ていて、見分けるのは最初は難しいと思うかもしれない。

でも安心してくれ。ちゃんとわかりやすいところに目印があってだな・・・・。

ほら、ここを見ろ。

皇帝ペンギンの方はオレンジの色が強いが、王様ペンギンの方はどちらかと言うと薄い黄色だろう。

そして皇帝ペンギンの方は首の模様が楕円型なのに対して、王様ペンギンの方は少し歪な雫のような形になっている。

ここを見るのが一番わかりやすい方法だ。」

 

「は、はい・・・・」

 

色々と情報が一気にきて、もう頭の中がパニックだ。

玲奈、こんな喋るやつだったのか?

 

「こっちの子はどうだ?私の一押しだ。」

 

「あ、確かに。可愛いな。」

 

先程の皇帝ペンギンやら王様ペンギンやらと比べると、半分以上小さな奴だ。

 

「そうだろう?」

 

得意げに言って、また説明を始める玲奈。

この会話がまた10回、20回と続くとは思っても見なかった。

 

 

 

 

 

⚽️

 

 

 

 

 

「ありがとう。付き合ってくれて。」

 

「んやんや、俺も楽しかったから。」

 

その割にはかなり疲れたけどな・・・・

笑顔で俺は答えたつもりだったが、顔に疲れが出てしまっていたのか、あるいは元から気づいていたのか。

玲奈は俺がペンギンのことをさして好きじゃないことを察したらしい。

 

「無理、しなくてもいいぞ。私に話を合わせてくれていたんだろう?」

 

「そ、そんな事は・・・・」

 

まあ、若干その通りな所はあるのだが。

俺が言い淀んでいると、寂しそうな笑顔を浮かべた玲奈が俺の言葉にかぶせるように呟く。

 

「久しぶりに、楽しかった。だから、ありがとう。」

 

「・・・・確かに、俺は別にペンギンのことについて詳しくないし、玲奈ほど好きなわけじゃない。」

 

「そうか・・・・。」

 

やはり、少し落胆したようだ。

 

俺は、ジャージのポケットを弄る。

中には小さな携帯のスマートフォンが入っている。

それを取り出してイヤホンを繋ぎ、画面を操作する。

 

「ほら。」

 

「・・・・これは?」

 

俺は、玲奈にイヤホンを差し出す。

玲奈は、恐る恐るといったようにイヤホンに手を伸ばした。

 

「PENGUIN RECITALっていうバンドグループだ。」

 

「ペンギン・・・・リサイタル?」

 

玲奈は、耳にイヤホンを押し込む。

それを確認した俺は、音量を確認した後に再生ボタンを押した。

 

「その中のヒット曲、The Last Day。」

 

 

 

 

 

〜♪

 

忘れ去っていた幼い頃に好きだった人や事

なくなってしまったとても大切だったはずの夢と希望

どこに放り出して、いつの間にこんな場所へ来ていたんだろう

成長しているはずなのに子供の頃の方が良かったなんてさ

そんなことを思うと子供の頃の僕に失礼かな

 

進路僕たちのあの幾つもの流れ星に願いを

瓦礫と化したこの町の中でただ一つ願いを込めて祈ろう

僕ら世界の最後の日が終わる前にあなたと笑って過ごせますように

 

〜♪

 

 

 

 

 

イヤホンからは、こんな歌詞がロック調で流れて来ているはずだ。

俺の一番好きなロックバンドの歌う曲だ。

 

「何だか、いいな。この曲。」

 

「だろ?」

 

「でも、歌詞はペンギンと全く関係がないな。」

 

「そりゃあな。」

 

俺がペンギンが好きなのは、このバンドのボーカルが大のペンギン好きっていう事が大きい。

好きな人が好きな物には興味が出る。

俺がゲームであるイナズマイレブンをしていてサッカーが好きになったと同じような感じだ。

まあ、前の俺はサッカーをプレイする側にはなれなかったんだが。

 

ゴン

 

「ん?玲奈、何か鳴らしたか?」

 

「いや、私は何も・・・・」

 

ゴンゴン

 

「どうやら足元で聞こえるみたいだな。」

 

「二階からか?見に行ってみよう。」

 

玲奈は丁寧にペンギン達を箱に収める。

その音は、二階にある円堂の部屋から聞こえて来ていた。

俺たち以外にも音に気づいたのか、円堂の部屋の前には数人のメンバー達が集まっていた。

 

「とうとう、我慢できなくなって部屋でサッカーを始めたか。」

 

その部屋では、豪炎寺の言う通り部屋の中で円堂がサッカーボールを蹴っていた。

蹴ったサッカーボールは壁へと当たり、跳ね返って来たボールを受け止める。

それを何度も繰り返していた。

 

「こうやってボールを壁にぶつけて、落下地点に移動する!咄嗟の判断力を付ける特訓だ!」

 

なんと安易な練習方法。

でも、こんな特訓は俺も小学生の時くらいに何度もやっていた。

壁にボールを当てて、自分で受け止める。

サッカーの練習には、ボールがあればどんなことでもなるからな。

 

「どうしたんだ、皆!そんなところで見てないで、こっちに来いよ。」

 

「ああ。」

 

豪炎寺は、円堂が壁へ蹴ったボールを物の多い円堂の部屋の中で素早く受け止める。

 

「鬼道!」

 

一度ボールを跳ね上げた後、豪炎寺はボールを鬼道パスした。

急に飛んで来たボールに、部屋の入り口にいた鬼道は反応して見せた。

ボールを受け取り、何度か足の上でリフティングした後にその後ろにいた俺にボールを渡した。

 

「打て、耀姫(ようき)!」

 

そう言いながら、鬼道は部屋の入り口から避けてシュートコースを作る。

そして部屋の真ん中にいた円堂は、シュートを受ける構えをとった。

 

「来い!」

 

「受け止めろよ!」

 

俺は渾身の力を込めて、部屋の外から回転をかけてシュートを打つ。

廊下からなので回転をかけないと直線では物が邪魔して円堂まで届かないのだ。

っていうか円堂の部屋、物がごちゃごちゃしていて汚ねえな!

どうやったらこの数日でこんなに出来るんだ。

 

「くーっ!やっぱりいいシュート打つな!」

 

俺のシュートをガッシリと受け止めた円堂は、心の底から嬉しそうに笑う。

 

「なあ、皆。世界一って、考えたことあるか?」

 

「?いつも思ってるだろ?世界一になりたい、ってさ。そのために作られたチームだ。」

 

「そうなんだけど!そうじゃなくってさ!ほら、FFIには、世界から色々な強い選手が参加してくる。そんなすっげえ奴らがいっぱいいて、俺達はそいつらとプレーできるんだ。じっとなんかしてられない!」

 

俺達は、円堂の言葉に顔を見合わせる。

そして誰からともなく、俺たちは笑いだした。

 

「そうだな。我慢出来ない。そして、負ければそんな奴らとのサッカーが出来なくなる。」

 

「それは何としてでも勝ち上がらないとな。」

 

「俺は見てみたい!世界一のサッカーを。勝ち残ったチームだけが味わえる、最高の試合を!!」

 

「ああ!」

 

「だから、挑戦しよう!俺たちが目指すのは、優勝だけだ!」

 

「世界一に。」

 

豪炎寺が、人差し指を天に向かって突き上げる。

 

「世界一に!」

 

「「世界一に!」」

 

続いて鬼道が。俺とウルビダが。

そして、最後には部屋の外にいたメンバー達が混ざって来る。

 

「「「世界一に!」」」

 

「お前ら!聞いてたのか!?」

 

「そりゃあ、あれだけ騒いでればな。」

 

そこにいたメンバーは、虎丸や飛鷹、不動を除いた全員だ。

ヒロトも吹雪も、風丸やクララや立向居まで。

全員が世界一を目指している。

俺たちが目指すのは、同じ場所だ。

このメンバーなら、きっと、いや、必ずなれる。

世界一に!

 

「円堂さん!俺も、部屋での練習頑張ります!!」

 

「オレもッス!絶対に優勝するッス!」

 

「このスペースぼ狭さ。ボールをキープする練習にぴったりだね。」

 

「・・・・監督の指示に、納得がいかないからと言って立ち止まっていては駄目だ。どんな状況でも、今出来ることを精一杯やるだけだ。」

 

「よし、皆!優勝するぞ!特訓だ!!」

 

「「「おう!」」」

 

そして、俺達の部屋での特訓は始まった。

まさか、部屋でサッカーボールを蹴ることになるとは・・・・

 

 

 

 


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