「何者だ。」その人が最初に言い放った言葉はそれだった。無愛想で、何者も通す気がないようなその様な言葉。其れだけで充分に伝わった。だが彼女は臆する事なく
「私達は旅人です。一泊だけ、この館に泊まらせて貰えませんか?」はっきりと言い切った
「…宿泊?フン、此処は宿屋じゃあ無いんだぞ。宿屋なら人里に有るだろう、そこに行った方が得策じゃあないのか?」
「お金がないんですよ、お金が。お金があったら態々こんな所来ていません。」
少しむっとした様な顔をしたが、その門番は困った様な顔をし「それにしても私が決める事じゃあないからな……お嬢様か、魔女に聞かなければならん。少し待っていろ」と門を越えて館に入って行ってしまった。
「案外優しいんじゃないですか、あの人」
「素直じゃあないんだよ、きっと。」
暫くして門番さんが帰って来た。そして「お嬢様が少し興味を持たれた。一応入ることを許可しよう」こいしとお空は顔と顔を見合わせ、ニッコリと笑った
「やぁ。私がこの館の主人、レミリア・スカーレットだ」
風貌はこいしと同じ位幼いが、その言葉には威厳と畏怖が感じられる身体とややアンバランスな声をしていた。それが許されるのは、その背中に生えている蝙蝠の翼か、それともその堂々とした態度か。頬杖を付き、その紅い瞳で2人をジィッと見つめる。
「それで、私の館に泊まりたい、と。それはどうしてなのか、聞かせてもらおうか。」ニコニコ、と新しい玩具を買って貰った子供の様に楽しみな笑みで彼女に語りかける。
「お金がないのです。人里の宿屋に行きたいのは山々なんですが、いかんせんお金が足りなくて。なので一泊だけ雨風をしのげるこのお屋敷に失礼をしようかと。」というと、レミリアは途端に詰まらなそうな顔をし
「ふぅん、金か……つまらん、態々この館を出選んだからには何かしら面白い理由があるのかと思ったのだが、杞憂だったか。おい美鈴、此奴らを摘みd……」
フッと言いかけた時、少しレミリアの頭に妙案が刺した気がした。
「……そうだ、一泊だけならば幾らでもとめてやろう。だが、二つ条件がある」
「条件?」キョトンとした目で首を傾げるこいし。
「一つはこの館の家事の手伝い、もう一つは……
私の妹の世話だ。嫌とは言わせんぞ?」
「……分かりました、やってみます。レミリア嬢の寛大なる御心に感謝しますね」その言葉を聞いたとたん、笑顔が苦笑いになったのをレミリアは見逃す筈は無かった。