東方供杯録   作:落着

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集う者たちに供する八杯目

「おいおい、これは結局どういうことなんだ、涼介」

「魔理沙、こんなところで何をしてるんだい」

 

 容体の安定したパチュリーにホッとしたのも束の間、背後から声がかかる。涼介にとっては見知った相手だ。

 霊夢の友人で時折店にもやってくる、普通の魔法使いこと霧雨魔理沙だ。

 しかし、なぜ彼女がこんなところにいるのだろうかと疑問が浮かぶ。

 彼女の本職は一応霧雨魔法店という何でも屋のはずだと思い出す。

 異変の解決の依頼でも来たのだろうかと勘繰る。

 

「あなタが……」

 

 涼介の背中から不穏な気配がゆらりと立ち上るのがわかる。

 左肩から飛び出ているフランドールの頭を右手でグッと抑え首元に近づける。

 涼介の意図を察して、フランドールはちゅうちゅうと吸血を始める。

 

「……おいおい、まさかそいつ、吸血鬼か?」

「そうだよ」

「いやなお前さん、そうだよ、じゃなくてな……なんで血を吸われて平然としてるんだよ」

「まぁ、色々あって」

「色々って、はぁ、訳がわからないぜ」

 

 そう言って涼介に答える気がないと解ったのかため息をつき、やれやれとでもいう様にかぶりを振る。

 

「確か、吸血鬼ってのは身体を霧に変えられるんだよな。て、事はそいつが異変の元凶か?」

「違う違う。異変を起こしたのはこの子のお姉さんだよ」

「なるほど、異変の元凶の身内か。いいぜ」

 

 何がいいのかわからないがカードを構えて臨戦態勢をとるのをやめてほしいと涼介は切実に思う。

 加えて言うならこの子はスペルカードルールを知らないから弾幕戦になったら魔理沙が危ないとも思う。

 だからこそ、涼介は諌める言葉を魔理沙にかける。

 

「魔理沙、この子はやらないよ」

「なんでだよ、異変の犯人の身内なんだろ?」

「私とこの子は見学組さ」

「異変にそんなのあるのかよ」

「ここにあるじゃないか」

「釈然としないぜ」

 

 そう言いながらもカードをしまう魔理沙に対し涼介はこの子はなんだかんだと話のわかる子だと笑顔を浮かべる。

 

「あぁ、そうだ。魔理沙」

 

 言い忘れる前に注意をしておかないと、と涼介は言葉を続ける。

 

「なんだ?」

「さっきのスペルカード戦は凄く綺麗だったよ」

「そういえば、そいつ大丈夫なのか?」

 

 涼介の背後にいる、随分と楽そうになったパチュリーの事を聞いてくる。

 

「もう大丈夫だよ。魔理沙がなんでも熱心で真剣に取り組むのは良いことだと思うよ。でも、もう少し周りを見る余裕を持たないと。途中から彼女の様子がおかしかった事に気がつけてなかったね」

「それは、そうだけど。弾幕の中でそこまで余裕は持つのは難しいよ」

「ん、それもそうだね。だから、それは仕方ない事でもある。だけど、最後に彼女が墜ち始めてから君は動けていなかった。魔理沙なら追いついて受け止められたよね」

「……あぁ、そうだな」

「でも、君はできなかった」

 

 責める様な口ぶりになってしまって悪いとは思うけど最後までどうか聞いてほしい、と内心の苦々しい思いに蓋をしながらも続ける。

 

「たぶん、驚いてしまったから動けなかったと思うんだ。スペルカード戦は、弾幕ごっこは美しさを競う遊びでもあるからね。遊びでもあるからこそ、危険であることを、魔理沙、君は忘れてしまっている」

 

 魔理沙の視線が床に落ちる。フランドールの吸血は止まっているが首にはまだ噛み付いたままだ。

 傷口からにじむ血を舐めるのは擽ったいから控えてほしいがそれは後においておこうと涼介はフランドールの行いを注意しない。

 それはフランドールも涼介の言葉に耳を傾けているからだ。

 フランドールがスペルカード戦のルールを覚えた後にまた、言っても良いがせっかくパチュリーが身を挺して手本を示してくれたのだ。

 今伝えるべきだと考える。だから話の腰を折らずに続ける。

 

「遊びであるからこそ、危険がないと思ってしまった。だから、咄嗟の時に動けないんだ。弾幕だってスペルカード戦用に威力を落としてあるのかもしれない。でも、当たりどころによっては気絶するかもしれないし。頭が揺れて飛行が維持できないかもしれない」

 

 魔理沙の視線が持ち上がる。魔理沙は努力家で頭も良い。涼介の言いたいことを察したのだろう。

 

「だからこそ、危険があることを忘れずにいて欲しい。また今回みたいなことが起こるかもしれない。次はまた別な危険があるかもしれない。そんな時に咄嗟に動けるようにしっかりと覚えておいて欲しいんだ。説教くさくなってしまってごめんね。だけど、魔理沙の弾幕は凄く綺麗なんだ。まるで、夜空にきらめく星々のように、見ている者達が魅せられる。そんな君の弾幕を血で汚してしまうような事は避けたかったんだ」

「いいや、言ってもらえて良かったぜ。最近霊夢としかやってなかったから忘れてたぜ。おかげで、スペルカード戦を始めた頃には持っていた危機感を思い出せた。感謝するぜ」

 

 そう言いながら、魔理沙ははにかむ。素直な良い子だ。霖之助の育て方というか、接し方が良かったのだろうと涼介は思う。

 今度、霖之助には何かしらの形で感謝を表しておこうと心のメモ帳に記しておく。

 

「妹様も、今の涼介の言葉を覚えておきなさい。貴女がいずれスペルカード戦を行う上で知っておかなければならないことよ」

 

 パチュリーが立ち上がり涼介の隣に並ぶとフランドールへ話す。フランドールもコクリと頷く事で理解を示す。

 

「えっと、あんた、さっきはすまなかった。そこの使い魔や涼介のおかげで大事にはならなかったけど、それで良いとは言えない。だから、ごめん! それとさっきの勝負は私の負けだ。あんたが万全ならあのまま押し切られていた」

 

 魔理沙がそういい、頭をさげる。パチュリーが魔理沙に近づき言葉をかける。

 

「いいえ、あの勝負は私の負けよ。体調管理ができていないのは私の責任。それに、墜ちたのだって、体調が悪化してきた時点で降参しなかった私の自業自得だわ。観客がいたから良い所を見せようとした私のミスよ。慣れない事はするものではないわね」

 

 パチュリーが涼介たちを見て苦笑いをする。どのタイミングかは解らないが観戦していた事はパチュリーにバレていたらしい。誠にもって、よく気の付く魔女だと感心する。

 

「いいや、私の負けだ! あんなの運で拾ったようなものだ。しかもそれが相手の不調だ」

「運も実力のうちよ。あの勝負は貴女がどう言おうと、私の負けよ。納得できないのなら努力なさい。それに、貴女は魔法を使っていてもただの人間なの。人外と戦うのならしたたかになりなさい。相手の弱い所を、苦手な所を責めるのは戦略よ。だから、胸を張りなさい」

「……次は絶対、万全なあんたに勝つ」

 

 魔理沙はそう言うと顔を見られたくないのか、かぶっている帽子のつばを下げ、表情を隠す。

 

「いつでも来なさい。それとここの本、あげられはしないけど貸し出しはしてあげる。精進するといいわ」

 

 魔理沙から返事は出ない。少しだけふてくされている雰囲気を感じる。頭では納得できても感情では納得できていないのだろう。

 

「パチュリーはやっぱり親切だな」

「ただのお節介よ。まだ、殻も取れないような雛を見て手を出したくなっただけよ」

「いつかその余裕、無くさせてやるからな」

「あら、それは楽しみね」

 

 魔理沙の憎まれ口にパチュリーは、笑みを浮かべて応える。

 

「さて、魔理沙は一人でここに来たのか?」

 

 話が一区切りついたのを察し涼介は話題を切り替える。

 

「んにゃ、霊夢も来てるはずだぜ」

「という事はもう一つの音は霊夢だったのか、フランまだ音が聞こえるかい?」

 

 図書館に入ってから、もう一つの音は、涼介には拾えていない。

 

「ううん、少し前に聞こえなくなった」

「なるほど。でもまだ赤い霧がなくなってないから、異変の解決はしていないみたいだ。ここみたいに他の誰かと戦って勝ったんだろう」

「あら、その霊夢って子が勝っているのは疑わないのね」

「あー、まぁね。流石は博麗の巫女って感じだよ」

「霊夢が負ける姿は想像できないぜ」

「そこまで言わせるほどなのね」

「勝ってる姿が思い浮かぶというより、負けている姿が想像できないって感じかな」

「分かるような分からないような話ね」

「見るのが一番早いかな」

「そうだな、口で説明するのは難しいものがあるぜ」

 

 涼介と魔理沙の言葉に、パチュリーは頭をひねるが、二人は考えるだけ無駄であると思っている。

 霊夢のなんというか、万物からも浮いたような超然したさまは口で伝えるのは難しいと思い涼介は口を濁す。

 

「というか、魔理沙はいかなくて良いのか?霊夢に先を越されるかもしれないぞ」

「あぁ、良いんだ、私は。そこのパチュリーって奴にどんな形でも勝ちは勝ちって言われたけど、やっぱり私の中では消化不良だ。だから、私の中では今回はここまで」

「そっか。それじゃあどうするんだい?」

「どうやら異変には、犯人側と解決人側以外にもう一つ派閥があるらしい」

「なるほど」

「というわけで、ここから先は私も見学組さ。早速、霊夢の見学に行こうぜ」

 

 そう言って頭の後ろで手を組んで、へへっと笑う魔理沙は相も変わらず、たくましい限りである。

 

 

 

 

 そんなやり取りの後、善は急げというように霊夢がいるであろう所を探すために移動を開始する。

 涼介を仲介人として、それぞれの自己紹介を移動しながら簡単にすませる。

 フランドール、パチュリー、小悪魔、魔理沙にそして涼介と中々の大所帯だ。見学組五名、四名分の足音が廊下に響く。

 

「んで、結局なんで涼介がここにいるのかは教えてくれないのか?」

「別に構わないよ。出張営業をして欲しいって言われてね。ほら、吸血鬼だと太陽が出ている時間に店に来られないだろう」

「あー、なるほど。て事は頼めば出張営業してくれるのか。今度はウチにも頼むぜ」

「ツケを払ってくれたら喜んで行くよ」

「それもツケといてくれよ」

「まったく……あぁそうだ。霧雨魔法店に依頼でもしようかな」

「この流れでの依頼の話なんてぞっとしないな」

 

 ふと思いついたことがあるのでお願いしようと涼介は魔理沙に話を振る。

 ツケを盾にとるのは心苦しいが、魔理沙としてもツケが消えるのは嬉しいだろう。

 言葉では嫌そうにするが、その声は明るい。

 

「なに、たいしたことじゃないよ。フランがスペルカード戦のルールを覚えたら一度遊んでやってくれないか?飛べもしなけりゃ、弾も撃てない私ではどうあがいても遊べないからな」

「んー、なるほど構わないぜ。というか、遊ぶだけじゃなくて、私がティーチングしてもいいぜ」

「それには及ばないよ。ティーチングはフランのお姉さんに頼む予定だから」

「お、お兄ちゃん!?」

「いい考えね」

 

 涼介の言葉にフランドールが驚き、声を上げる。襟をひくな襟を首が絞まる、と涼介は心の中で叫ぶ。

 パチュリーは賛同の意を示してくれる。そして、フランドールのそんな様子に魔理沙が反応する。

 

「なんだ、姉妹仲が悪いのか?」

「ちょっとすれ違いがあるだけさ。すぐに仲直りするから問題ないよ」

「まぁ、なんでもいいさ。その時が来たら声をかけてくれよ」

「了解」

 

 先ほどからフランドールが異議を示すように涼介の服をつかみながら体をユッサユッサと揺らしている。

 しかし、言葉で拒否を示さない時点で強い拒否ではない。沈黙は肯定と同義とはまさに至言である。

 ひとまず、最初にこの館の当主であるフランドールの姉と出会った部屋へと向かっている。

 

「しかし、この屋敷ちと広すぎないか?」

「家には空間をいじるのが好きな人がいるのよ」

「なんだそりゃ」

 

 パチュリーと魔理沙の話に耳を傾ける。空間をいじるという単語に涼介の耳が反応する。瞬間移動していたから侍女の事かもしれないと思考がめぐる。

 先ほどから、不安ゆえに落ち着きのないフランドールを落ち着けるように涼介は少し能力を強めに意識しながら歩く。

 

「というか、なんだこの大量のナイフ」

「この屋敷を大きくしている人の持ち物よ。廊下で戦っていたみたいね」

「霊夢がここで戦っていたのか」

 

 涼介の視線の先で蹲る様に俯いている、銀髪に所々焦げたり、破れたメイド服を着ている侍女を見つけた。

 何があったのかわからないが肩が震えている様子からして、もしかしたら泣いているのかもしれないと感じる。

 無言で全員が視線を合わせる。パチュリーと小悪魔が彼女に近づく。涼介とフランドールそれと魔理沙は、パチュリーの魔法で姿を隠される。

 

「咲夜。何を蹲っているのかしら」

 

 パチュリーの声に反応し、体がビクンと跳ねる。

 

「貴女、最近少し変よ。何をそんなに思いつめているの?」

 

 静かな廊下に侍女のハッと息をのむ音が響く。床につけられている手からは音が出るくらい強く握られる。強く握り絞めているため爪が肌に食い込みうっすらと赤い雫がにじみ出る。

 

「わ、わたしは……」

 

 血を吐くような、絞り出された声がする。声が震えているのが聞く者全てにわかる。

 

「完全で……なければ、ならないの、です」

「そう? だから博霊の巫女に負けたのが悔しいのね」

 

 伏せたままの顔を振り、腕の間に挟まる頭が振れる。

 

「……負けたのは確かに悔しかったです。でも違う、そうではないのです」

「何が違うのかしら?」

 

 話していて少しは落ち着いたのか、言葉は詰まることなく紡がれる。しかし、そこに込められる感情は悲しげだ。

 

「私はあの人を見殺し、に……違う……違う!!」

 

 吐き出されるそれは、怒声である。

 

「私が殺したんだ! 私が自分で!! 殺したんだ!!!」

「咲夜……」

 

 先ほどの静かな受け答えは、感情の爆発する前の静けさだったようだ。彼女が顔を、丸めていた背中を勢いよく伸ばし、上体が持ち上がる。その瞳からハラハラと涙が流れる。

 

「名前も知らないあの人を私は殺したのだ! お嬢様のメイドであるために! お嬢様の完全で瀟洒なメイドであるために私はあの人を殺したのだ!!」

 

 彼女の叫びが廊下に響く。それは懺悔の様であり、助けを求める悲鳴の様でもある。涙は、止まらない。

 

「だからこそ私は完全でなければならない!」

 

 完全でなければならないのだと叫ぶ。まるで自分に言い聞かせている様に感じる。

 

「それがッ、今は亡き名前も知らないあの人に対して私のできるたった一つの贖罪だから!!」

 

 喉が裂けんばかりに吠える。しかし、また頭が否定を示すがごとく横に振られる。

 

「いや、贖罪なの? 自分を、この罪悪感を誤魔化す為に……自分を偽るために、そう在ろうとしているだけなのかもしれない」

 

 彼女の瞳はひどく虚ろだ。パチュリーは応えない。

 

「でも、だってそうでないなら……そうで在らないと……私は……私が完全であるために、見捨てたのに……私が完全でないのだとしたら、私はいったい何のために……なん、の、ために……あの人を殺したの」

 

 言葉がなくなる。再び蹲ると、あとはただ押し殺した泣き声が聞こえる。

 

「う、うっ……ひっぐ……うぅ……」

 

 ここまで侍女へ涼介に対して安心感を、親近感を持たせていたとは想像もしていなかった。涼介の能力と彼女の相性が異常なほどによかったのだろう。

 だから、こんなにも彼女は心が壊れそうなほど苦しんでいるのだ。

 涼介はその彼女の姿に、失ったあの娘の姿が思い出される。涼介の胸が軋む様に締め付けられる。

 自らの能力(ガイアク)は、心に作用する力なんてモノは、碌なことがないと再度強く認識する。

 

「咲夜」

 

 パチュリーが話しかける。

 

「私は貴女に謝らなければならないことがあるみたいね」

 

 侍女は応えない。

 

「私は貴女に伝えたわね。あの客はダメだったわ。でも、妹様のフラストレーションは発散されただろうから、異変の間は安心ね、と。」

 

 侍女がさらに小さく縮こまろうと、体を丸める。聞きたくないと示すように伏せたままの首が振られる。

 

「でも、本当は違うのよ」

 

 え、と聞き間違えたかと思うほど小さな声がする。

 

「彼は生きているわ」

 

 顔がゆっくりと持ち上げられる。

 

「うそ、です。やめて、ください。そんな、うそ」

 

 声が、震えている。

 

「いいえ、嘘ではないわ」

「うそです。うそうそうそうそ!! だって彼は飛ぶことさえ叶わ」

「今証拠を見せてあげる」

 

 パチュリーが彼女の声を遮る。

「よく見なさい。これが真実よ」

 

 涼介たちの姿を消している魔法が解かれる。侍女の瞳が零れそうなほど大きく見開かれる。驚きで呼吸が止まっている。口がパクパクと言葉にならない驚きを表している。

 まだ、目の前の光景が信じられないのか、瞳がゆれ、手を伸ばそうとしては引っ込める。そんな彼女に微笑みかけて、涼介は声をかける。

 

「紅茶の御嬢さん、あなたの名前を教えてください?」

 

 息をのむ音が聞こえる。侍女の思考が驚愕によりほとんど働いていない。問いかけに対し、簡潔な答えが返される。

 

「さくや。十六夜、咲夜」

「いい名前だね、咲夜。私の名前は白木涼介。」

「しら、き。りょう、すけ。涼介、さん」

「なんだい、咲夜?」

「わたし、涼介さんのことを」

「違うよ、咲夜。前にも言ったが君は何も悪くない。悪いのは私だよ」

 

 違うと否定するために咲夜の首が振られる。

 

「私も大概だが、君も頑固そうだ。じゃあ、こうしようか」

 

 きっとどちらも自分が悪いと言い続けて結論は出ないそう確信する。だから涼介は提案する。

 

「ここから、私たちの関係を新しく始めよう」

 

 言葉の真意が理解できないのか、咲夜の顔に疑問が浮かぶ。そんな彼女に涼介は近づく。フランドールが気を使って、背中から降りる。

 座り込む彼女のそばへ行くと、片膝をついて彼女の片手を涼介が両手で包む様にとる。

 

「『お初にお目にかかります』、私は白木涼介と言う者です。里の近くで喫茶店を営んでおります。可憐な御嬢さん、私の友達になってくれませんか?」

 

 涼介の顔を咲夜がじっと見つめる。握った掌が強く握り返される。意識を切り替えるためか、彼女が深呼吸する。

 

「『初めまして』、私は十六夜咲夜と申します。ここ、紅魔館でメイド長をしております。ぜひ、私の初めての友達になってください」

 

 そして、満面の笑顔が浮かべられる。もう悲痛な叫びも、瞳から流れ落ちる、心の欠片も存在しない。二人の関係は、今ここから始まるのだ。

 

 

 

 異変の結末を見届けるための移動が再開する。見学組はここで新しい仲間を加える。見学組六名、五名分の足音が廊下に響く。

 


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