東方供杯録   作:落着

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軽い運動に供する四三杯目

 

 客足が遠のくお昼過ぎ。幻想郷の外であればおやつ時とでも呼べる時間。客が捌け、閑散とした店内で涼介は洗い物をしていた。

 ハルも差し込む日差しが気持ち良いのか、くわぁと小さくあくびをした後に寝入ってしまっていた。

 そろそろ夏も終わり、秋が近づいて来ていた。移ろいゆく四季はそれだけで楽しい。幻想郷は外とは違い、妖精の恩恵で季節の特徴がしっかりとしている。

 春も秋も風情を感じられる。情緒ある世界。今年は紅葉狩りにでも行こうかなと考えながら涼介は先の予定に思いを馳せた。

 のんびりと思考に埋没しながら、片づけを進めている涼介の耳に鈴の音が届いた。来客を告げる音色に誘われ、視線が扉へと向く。

 

「やぁ、いらっしゃい幽香」

 

 まだまだ秋にはなるまいと粘る夏の日差しを、日傘で遮る幽香がいた。

 日傘を閉じた幽香は店内へと入り、涼介の目の前の席に腰を落ち着けた。

 落ち着いた、いつも通りの視線を涼介へと幽香は向ける。注文もせず、お品書きも見ない幽香に涼介が苦笑した。

 

「もう大丈夫だよ、幽香」

「あら、約束はたがえてはだめよ」

 

 涼介が言葉を口にするも、幽香がすぐに切って捨てる。楽しげな口調でも視線は平静そのものだ。

 見透かす瞳の幽香に涼介がため息を吐く。

 

「幽香、特に君に出すのならもっとちゃんとした――」

「ちゃんとしているわよ」

「……君も相変わらず頑なだね」

「貴方ほどではないとは思うわ」

 

 ああいえばこういうという言葉の如く、言葉が返ってくる。これはまた駄目そうだと涼介は感じた。

 幽香も肩を落とした涼介から、内心を読み取ったのか口の端が小さく上がる。嗜虐的な口がそれを形にする。

 

「それで、店主さん。あと何杯程残っているのかしら?」

「ちょうど二杯分。君と私、一杯ずつで終わりだね」

「そう。なら淹れてもらおうかしらね」

「はぁ……分かったよ、仕方ない」

 

 ため息交じりの涼介の返答に、幽香は愉快気な笑い声をあげた。鈴を転がすような笑い声。

 涼介は幽香の笑い声を聞きながら豆を挽く。風味の落ちてしまった豆を。

 

「君には美味しい一杯を淹れたいのだけれどね」

「なら現状で出来る最高の一杯を淹れなさい」

「君らしい意見だなぁ……」

 

 豆が挽き終る。フィルターを通し、二杯分の珈琲が用意された。

 涼介は一杯を幽香の前へ、もう一杯を自分の前へと。

 

「不満だよ、全く」

「敗けたあなたが悪いのよ」

 

 すまし顔で告げる幽香に涼介から苦笑いが漏れた。

 敗けた。そう、弱いからいけないのだ。幻想郷で意見を貫き通すには、涼介はまだまだ弱かった。今回の一杯はただそれだけの話。

 これはいつもより苦い一杯になりそうだと涼介は目の前の黒い液体を眺めた。

 思い出されるのは花畑での一件。鮮烈で、必然で、高揚した幽香との戯れ。

 

「精進なさい」

 

 短く告げられた言葉。その言葉が嬉しくて笑ってしまう。

 それだけなのに苦味が薄れそうだと、単純な自分に涼介は可笑しさを感じてさらに笑ってしまう。

 次はもっと頑張ろうと、カップへと手を伸ばす。

 

「次はもう少し頑張るよ」

「いつでも遊んであげる」

 

 強者の余裕。絶対の自信。そして少しだけ垣間見えた、楽しげな笑み。

 二人が軽くカップを掲げ、乾杯をした。

 

 

 

 

 萃香と文に手伝って貰ったおかげで、店の修理は予定していたよりもずっと早く終わった。

 その時の文の様子に少しだけ悪い事をした気がするも、早期の復旧の為に犠牲も致し方ないと涼介は助けの手は出さなかった。

 決して常日頃の新聞に対する意趣返しなどありはしない。その時の涼介は楽しげに笑っていたと文は言うが、きっとそれは二人との作業が楽しかったのであろう。

 そんな涼介は現在、太陽の畑へと向かっていた。店は直った。身体も治った。なら次はと、目標になるものは商品だ。

 店で暴れたために瓶は割れ、豆が散ってしまった。焙煎前の豆であれば問題ない。しかし、煎ってしまった豆はそうはいかない。

 汚れを取るために洗えば、折角の豆が湿気てしまう。かといって全て廃棄してしまうのは涼介には憚られた。

 だからこそ、洗い煎り直した豆は自分用として、商売用の豆を仕入れに来たのだ。

 

「さてと。夏場は見つけやすくて楽ちんだね」

 

 目的の人物。商品の仕入れ先の幽香は、季節と共に花を探して幻想郷中をふらふらとしてしまう。

 飛べない涼介にとっては、見つけ出すだけで一苦労だ。夏場以外は霧雨魔法店へと依頼することもままあることだ。

 けれども夏場は、幽香自身の家もある太陽の畑にたいていは居た。

 夏の初めであった事は不幸中の幸いだなと涼介は考えながら先へと進む。

 しばらく歩けば、向日葵のカーテンの向こう側に赤いひらひらとしたものが現れた。

 赤に惹かれる様にそちらへ進めば、日傘を差している幽香がいた。

 

「やぁ、幽香。こんにちは」

「いらっしゃい、涼介」

 

 くるくると日傘を回し、手遊びをする幽香が、振り向き笑みを浮かべた。

 汗一つかかない涼しげな様子に、相変わらず現実離れしていると思わされる。

 

「それで今日はどうしたの、店主さんは? 鬼との喧嘩はもういいのかしら」

「えっと、幽香?」

 

 どうしてだろうかと涼介は困惑した。幽香の声色が攻めているように聞こえたのだ。

 それに何故、鬼と喧嘩をしたことを知られているのだろうか。境内の裏手には誰もいなかったはずだと思考がめぐった。

 驚きを浮かべる涼介へと幽香がまた口を開いた。

 

「自然が多いわよね、幻想郷は」

「あぁ……なるほど。怖いね」

 

 涼介が名も知らぬ草を撫でながら幽香は告げた。そしてそれは答えであった。

 自然がどこにでもある幻想郷では、幽香は多くの事を知れるのだろう。

 それこそ、紅魔の魔女の住処や、フランドールの部屋の様な一切の植物の無い場所でない限り。幽香にとってはどこにでも目撃者は居るのだ。

 だが、喧嘩を視られたのは分かった。だけれども何故責められる声色なのかはいまだに謎のままだ。

 

「で、用事は何かしら?」

 

 草を撫でるためにしゃがんだ姿勢のまま、幽香がまた問い掛けた。

 上目気味なのに威圧的に感じるのは幽香の持つ雰囲気か、声色に込められた非難の所為なのか。涼介には判断しかねたが、先に要件を済ませようと言葉を返す。

 

「豆の仕入れをお願いしたくてね」

「今回は随分と早いのね」

「意地悪を言わないでくれよ。その様子なら理由は察しているだろうに」

 

 幽香の返答に肩を竦めて応対する。幽香はそれに構わずに、髪をくるくると弄ぶ。

 何かを考えているのだろうか、視線が涼介を見つめる。僅かに細められた幽香の視線に、そこはかとない嫌な予感を涼介は覚えた。

 幽香が口元を歪めた。強く見覚えのある表情。手伝う際、幽香がからかう時に見せる嗜虐的な表情。

 

「幽香?」

「そうねぇ……」

 

 視線が動く。涼介の顔から腰元へと視線が下がった。僅かに高揚したのか、幽香の妖力が蠢くのが解った。

 漏れ出た妖力に僅かばかり気圧され、涼介は無意識に半歩後退さった。

 幽香が笑みを深める。

 

「ダメにしてしまった豆はどうしたのかしら?」

 

 辺りを包む雰囲気とはまるでそぐわない質問。不気味さを少しだけ覚えるが、涼介は律儀に返答した。

 

「自分用にしたよ。商品にするのは憚られるけれど、自分で飲む分ならね」

「そう、大事にしてくれているのね」

「せっかく幽香が大事に育ててくれた物だからね」

「貴方らしい物言いね」

「そうかい?」

「そうよ」

「そっか」

 

 二人の間で交わされる言葉はまるでいつもと変わらない。違うのは幽香の醸す雰囲気だけだ。

 

「まだたくさんあるのかしら?」

「そうだね。しばらくは困らないかな」

「なら、それを私にも出しなさい」

「それは、断るよ。私にも譲れないことだね」

「ふぅん」

 

 幽香がつまらなそうにつぶやき立ち上がる。けれど、言葉とは裏腹に浮かぶ表情は満面の笑顔だ。

 押さえつけられているが、感情が高揚している事が分かった。それがどんな感情であるかまでは涼介には正確には把握できないが、たぶん闘争心。それに近い感情なのだとは分かった。

 

「意見が分かれたわね」

「……弾幕ごっこは出来ないよ?」

 

 無駄だろうなと分かっていても涼介は言わずにはいられなかった。

 幽香もそれは見越していたのだろう、まるで変化は見られない。

 

「飛べない貴方にそんなこと頼まないわよ」

「じゃあ何を頼むというのかな? いつものお手伝いでは――」

「ダメ、ダメよ。だって……」

「だって、なんだい幽香?」

「それより面白そうなことが有るのに――我慢なんてできないわ」

 

 涼介が身構えるより早く、幽香が踏み込んだ。空気を押しのける轟音と共に、日傘が振り抜かれた。

 腹部に直撃を受けて、涼介は水切りされる小石の様に、地面を跳ね転がった。

 打ち抜くというより、押し出す、といった側面の強かった一撃。それと反射の域になるまで藍や萃香に叩き込まれた、能力による防御で涼介は見た目の派手さとは裏腹に傷は無い。

 吹き飛ばされた事で向日葵畑から何もない草原まで飛ばされた。幽香が操作したのか、向日葵が飛ばされた涼介を避ける様に茎のアーチを作っていた。

 茎で出来た向日葵のアーチの先から幽香も姿を現した。

 

「立ちなさい、涼介。少し見てあげる」

「あぁ、なるほど……遠慮は、できないみたいだね」

「えぇ、許さないわ。しても良いけど――知らないわよ?」

「怖いなぁ……」

 

 立ち上がり、幽香へと視線を戻す涼介が服についた土を払う。

 強者の余裕か、ただ楽しむために準備が整うのを待っているのか、幽香は傘を片手に動かない。

 どうしたものかと涼介は思うも、すぐに考えることをやめた。気まぐれに理由などない。

 永きを生きるからこそ、そこに刺激があるのなら試さずにはいられないのだろう。

 

「飲みなさい」

 

 有無を言わせない意思の籠った強い声。

 

「何を知っていてももう驚けないな」

 

 この分なら他の人外たちも、何かしらの手段で知っていそうだなと涼介は感じた。

 確かに見逃すのには少々異色の対戦だったのかもしれない。少なくとも暇をつぶす程度の価値はあったのだろう。

 腰の後ろについたポーチへと手を伸ばす。中にはスキットルが一本。

 鬼の薬酒を湛える容器の栓が開けられた。幽香の笑みがまた少しだけ深まる。

 全く、娯楽に飢えた妖怪はと、小さく涼介が言葉を漏らした。僅かだけ弾んだ声色が彼の心情を表している。

 

「加減はしておくれよ」

「加減は上手な方よ」

「それは安心」

 

 それを最後に涼介は酒を煽った。一口、二口。僅かな量の服用。

 幽香にとっては遊び程度の闘気につられて、憑いた鬼が高揚するのが涼介には分かった。

 妖力が身体に満ちる。陶酔感と全能感。それらが身体を駆け巡る。

 暴れ出そうとする鬼を能力で抑え、身体の支配権を握る。

 全能感を消す。結局それは力無いものが妖力を得て感じる勘違いだからだ。

 鬼を憑けようと弱い者は弱い。それは変わらぬ事実だ。

 十全の鬼となればまた話は違うのだろうが二割程度ではたかが知れている。

 だからこそ慢心を消すのだ。いつだって自分は挑む立場だと涼介は自覚していた。

 

「いくよ、幽香」

「いつでも」

 

 けれど、闘う事への高揚は消しきれない。いくら落せどとめどなく高ぶってゆく鬼の性。

 弾んだ声の涼介へ、幽香がいつも通り落ち着いた声で応える。

 涼介が地を駆け、幽香へと近づく。鬼の膂力と妖力に任せた原始的な突進。

 地面の抉れが、踏み込まれた時の力強さを物語る。幽香から見てもそれは中々の具合であった。

 半妖以下の割合とはいえ、鬼の力だ。有象無象と比べる事さえおこがましい。

 

「でも――まだまだね」

 

 振りかぶられた涼介の拳に、幽香が傘を重ねた。僅かな拮抗の後、涼介が押し負ける。

 身体がのけ反り、無防備な涼介に幽香が掌を向けた。けれど、そこから何も起こらない。

 妖力が上手く集まらない。集まっても散っていってしまう。さらに、妖力自体の多寡が落ちていた。

 幽香はそれにすぐ気が付くと、掌を下ろすと同時に足を上げた。振られた足が涼介の足を払い、さらに隙を作り出す。

 更に生まれた隙を利用し、振った日傘を振り戻して再び涼介を弾き飛ばした。

 

「うん、そうね。守りに関してはかなりよさそうね。でも攻め手が素直すぎるわ。力勝負だと厳しいわよ?」

「冷静に評価されてもね……美鈴さんや妖夢には稽古の相手を時々して貰っているだけだから」

「そうね、自衛として見れば最低限は出来ているわ。でも、それでいいの?」

「それはどういう意味かな?」

「さぁ、そういう意味かしらね?」

 

 再び最初の位置と同じ場所まで飛ばされた涼介が、幽香に聞くもはぐらかされた。

 自らの中に何を視たのか気になるが、まだまだやる気を見せる幽香を前に、悠長な会話は難しいかなと口を閉ざす。

 腕に巻いている鎖を解く。金属が擦れる音と共に、だらりと鎖が垂れた。

 腕を振り上げ、地面へと叩き付けた。鎖の先端が地面へと刺さり、伸びてゆく。

 鎖をさらに伸ばし、自分もその場を離れ、再び駆ける。走り出す涼介の背を追う様に人魂も後をついてゆく。

 

「自信の程は?」

「あん、まりッ!」

 

 幽香に近づき、涼介が手に持つ小さな道具を地面へと叩き付けた。

 叩き付けられると同時に白煙が立ち上る。霖之助謹製の煙玉だ。萃香との一戦以来自衛手段を涼介は少しでも増やしていた。

 二人の姿が煙で隠れる。妖気を含む煙が互いの感覚を惑わす。

 幽香は涼介を見失う。けれど、涼介は幽香のいる場所を知っている。

 幽香は動かない。それは強者の余裕であり、この程度で揺らぐ自信では大妖怪などには到底成れないからだ。

 

「ふふ」

 

 さらに自らの存在を主張するように幽香は笑う。

 涼介が鎖を操る。直後、幽香の立っていた地面から鎖が飛び出す。

 日傘の振られる音と共に金属が砕け散る音。傘を振った体勢の幽香へと、涼介が肉薄する。

 涼介が拳を振った。幽香は笑い、それを片手で軽くいなす。先ほどの焼回しの如く、返ってきた日傘が涼介の腹部を打ち付けた。

 

「ぐっ」

 

 呻き声が僅かに上がる。しかし、今度は飛ばされない。日傘を掴み、その場に踏み止まる。

 僅かな進歩に幽香が口角をあげた。そして、

 

「一撃くらいは――」

「入ると良い――」

 

 言葉を重ねる二人以外に、人影が増えた。煙の先から半透明の人型が現れる。

 妖力を込められた人魂だ。妖夢の作り出す半身の様に、しっかりと存在感を持つそれが、幽香の背後から蹴りを放つ。

 幽香の顔に僅かな驚きと、関心が生まれた。日傘を振って腕の上がっている横腹めがけた蹴りが迫る。

 幽香は咄嗟に日傘を手放し、折り曲げた腕で身を守った。

 

「――! あはっ」

 

 蹴りを受けた直後、僅かに瞳を見開き、小さくも確かな驚愕をみせた。

 けれど、それも一瞬の事で身を守る腕とは反対の、空いている腕で傘の柄を掴む。

 そのまま涼介ごと傘を振り切り、背後にいる霊体をも巻き込んで殴り飛ばした。

 

 

「中々どうして面白いわね、涼介。褒めてあげる」

 

 先ほどの一撃がそうとうお気に召したのか幽香が弾んだ声で涼介へと告げた。

 煙も風と、幽香の振り切った風圧で散ってしまった。さて、どうしたものかと涼介は次の一手を模索した。

 蹴られた腕を興味深げに幽香は眺め、手を握ったり開いたりとしきりに動きを確認していた。

 まだまだ研鑽が足りないかと涼介は目の前の光景にため息をついた。

 

「さて、じゃあ終わらせましょうか」

 

 初めて幽香が足を踏み出した。初めて一歩を踏み出す幽香に涼介は警戒を示す。

 

「まだまだね。注意力が散漫よ」

 

 出来の悪い生徒をしかりつける様な声色で幽香が告げる。

 ちくりと涼介は足に刺す痛みを覚えた。視線が反射的に下がり、見た物は蠢く植物。

 

「まず――」

 

 その場を離れようとするも、膝から力が抜け落ち、崩れ落ちた。

 植物が身体を拘束する様にその蔓を伸ばす。倦怠感を感じる身体は意思に反して動かない。

 そして自らの中から鬼が消えてゆく事が分かった。それは追加で肌に刺さって何かを流す植物か、はたまた嗅覚を擽る香りを匂わせる花の花粉か。

 鬼が消え、能力が上手く使えない。思考がまとまらずただぼんやりと近づく幽香を眺めた。

 

「そうね、及第点……には届かないわね。精進してもっと楽しませなさい、良いわね?」

 

 跪く涼介の目の前に幽香が立つ。傘の先端を向けていた。

 涼介の能力の影響がなくなり、妖力が戻った幽香がその先端に妖力を溜めた。

 その切先を向けられ、命の危機を感じるも涼介は指一本動かせない。

 

「じゃないと――怖いわよ?」

 

 幽香が込められた妖力を解き放った。力の奔流が行く手を阻むもの全てを押し流さんと、すさまじい勢いで伸びてゆく。

 発射口を僅かにずらされ、頭の横を過ぎ去ってゆく妖力の奔流。それを最後に涼介は意識を落した。

 

 

 

 

 

 

 涼介が目を覚ましたのは次の日。

 すでに商品たる豆は用意してあった。

 そして起きた涼介に幽香は告げた。

 

 

――敗者は勝者の言う事に服従なさい

 

 

 短くそして何よりも明瞭な内容。

 そのまま店まで連行され、一杯目の提供と豆の量まで把握されたのだ。

 そして、今回淹れたこの二杯が最後であった。植物に聞いたのか、その把握力には相変わらず脱帽してしまう。

 結局、今回の一連の出来事は全て幽香の思い通りであった。

 けれど、それも悪い事ばかりではないと涼介は思う事にした。

 確かに不備のあると分かっている物を出すのは忸怩たる思いではあるが、幽香が店に来る習慣がついたと思えばきっとプラスだろうと。

 この一杯が終わってもまた店に足を運んでくれると嬉しいなと、そう思いながら涼介は杯を傾けた。

 

「うん、こっちは及第点ね」

「それは良かった」

 

 二人が向き合い笑みを浮かべた。




珍しく(?)主人公が闘う話。
涼介だって頑張れば戦えるんです(なお結果はお察し)
そして嫉妬する幽香さん。
私だって遊ぶのッ!!

次回からは永夜抄に入ってゆきます。

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