妖夢の来店から六日が経ち、今日も今日とて宴会が有るらしいと涼介は常連の里の少女から聞いている。最近のハイペースな宴会の所為か空飛ぶ少女達の来店が減り、少しだけ寂しい心持ちながらも今日も今日とて涼介は店を開ける。
「最近の宴会のペースはどうしたのだろうね、ハル」
今日は外に散歩に行かず店内で微睡むハルに語りかける。しかし、眠気が強いのか、くわぁとあくびを一度するだけでそれ以上の動きは見せない。ハルの様子に笑みをこぼすとそれ以上は言葉をかけることなく豆を挽く。自分用の一杯を用意するためコリコリと音をたててミルで豆を挽く。カランカランと鈴が鳴り来客を告げる。
「あら、閑散としているわね」
「君たちの間では人のいない時間に来て酷い事を言うのが流行っているのかい?でも君が来てくれてうれしいよ、アリス」
「一回死んでもその軽口は治らなかったみたいね。馬鹿は死んでも治らないというのは本当の様ね」
「相変わらず手厳しいね。でも結局死んでいるのは一割だけで、その分は賢くなった自負はあるよ」
「程度が知れそうな自負ね」
「それはどうだろうね」
涼介が笑って見せれば、扉の前で腰に手を当てて呆れているアリスがやれやれと首を振った後中へと足を踏み入れる。後ろには今日は上海だけが飛んでいて、蓬莱の姿が見えない。
「今日は蓬莱の姿が見えないね」
「蓬莱は今日、お留守番よ」
「へぇ、じゃあ後で遊びに行こうかな」
「何する気よ、うちの子に」
「冗談冗談、眉間にしわが寄っているよ。美人が凄むと怖いから勘弁しておくれ」
「馬鹿な事を言っているからよ、まったく」
「それに君がいないのに家まで行くわけがないじゃないか」
「……はぁ、本当に誰かに刺されそうね」
「ふふ、残念ながらそういう意味ではないんだな」
「それならどういう意味かしら?」
「魔理沙がアリスの家は危険だから気を付けろと言っていたんだ。パチュリーの所にも人を取り込む魔本があるし、アリスの所も家主がいないのに押しかけようとは思わないさ」
「それは魔理沙が勝手に……あぁ、もう……」
涼介の話を聞くとアリスが眉間の皺をもむ様に手を当てる。頭を抱えるという普段の洗練されたアリスからすれば珍しい光景に涼介がクスクスと笑みをこぼす。
「アリスでも頭を抱える事があるんだね」
「憎らしい笑いね」
「初めて君をやり込めた気がするからね。一本開けたいくらいだよ」
「この不良店主。営業中に酒を飲もうだなんて」
「お客がいない店の店主だから仕方ないね」
「あら、今目の前にいるじゃない」
「これはこれは。失礼いたしました、お嬢様」
「まったく、天狗に告げ口してやろうかしら」
今度は涼介が頭を抱える番だ。帰ってきてから読むことになった文々。新聞で、アリスにイヤーマフラーの特注をした際のやり取りの内容を記事にされていたことが思い起こされる。元々は自分が約束を破り、非がある為に強く抗議もできず、うわさが消えるのをじっと待っていたのだ。アリスは涼介の姿を見ると溜飲を下げ、口を開く。
「私をやり込めようなんて百年早いわ」
「本当に幻想郷の飛ぶ少女達は手厳しいね」
「私をその括りで括らないで欲しいわね……」
「おや、どうしてかな?」
「私は巫女や黒白、他の妖怪達みたいに頭の中まで飛んでいないからよ」
「ははは、なるほど。君やパチュリーは確かに至極落ち着いているからね」
「さて、注文をしてもいいかしら」
「そうだね、ここでしっかり働いているところを見せて汚名を返上しないと」
「なんでもいいから落ち着けて、肝臓にやさしい珈琲を頂戴」
「……ん?」
アリスの注文内容に涼介が首をかしげる。彼女にしては珍しいと疑問が涼介の中に生まれる。いつもの彼女であれば涼介任せにせずにスパッと決めるからだ。涼介の態度にアリスが苦笑する。自分でもらしくない事が分かっているのだろう。アリスが補足する様に口を開く。
「ここ最近宴会が多くてね。そろそろ身体を労わろうかと思ったのよ」
「今日で五回目だったっけ?そんなに頻繁に有るなら一回くらい休めばいいのに」
「そうね。ふふ、本当にそうよね」
「アリス?」
アリスが珍しく自嘲気味な笑いを漏らしそう口にする。涼介は今日のアリスは珍しい事だらけだなと思いつつも少しだけ心配になり労わる様な声が出る。
「いえ、貴方の言う事が至極もっともでね。まぁ、私もそう思ったからここに来たのよ」
「宴会を休むために私の店へ?因果関係が分からない話だね」
「分からないなら分からないでいいのよ。それで店主さん、ご注文にあった商品はあるのかしら?」
「そうだね、思い当たるものはあるよ。ミルクなしか、ミルクたっぷり、どちらがいい?」
「今の気分はミルクたっぷりね」
「畏まりました、しばしお待ちください」
先ほど自分用に挽いておいた豆がある為、それを使いさっそく入れる。濃い目に抽出した珈琲を用意する。同じ割合のミルクを手鍋に入れ、はちみつとすりおろした生姜を投入して火にかけて混ぜる。混ざったミルクを先に入れた珈琲と混ぜ合わせれば完成だ。
「はい、はちみつジンジャー・ラテになります」
「はちみつに生姜ねぇ」
「どちらも二日酔いの時に良い物だよ。能力も使っているから気持ちも安らぐと思うしね」
「まぁ、貴方の事だから変なことは無いでしょう」
アリスはそう言うとカップを傾ける。アリスの信頼の感情が少しだけこそばゆい。
「ん、美味しいわね。生姜の主張も強くなくていいアクセントになっているし、はちみつの甘さとミルクのおかげで飲みやすいわ」
「二日酔いによくて体にも優しい。ご注文に添えましたか、森の魔女殿?」
「えぇ、素晴らしい出来だわ。ここにきて正解ね」
「それは嬉しい感想だね。どうやら汚名も返上できそうだ」
「そうね、前言を取り消すわ。はぁぁ……やっと人心地つけたわ」
本当にほっとしたような声をアリスが漏らす。来店してからのアリスの様子に涼介はやはり心配の感情を抱いてしまう。
「本当にどうしたんだい、アリス。今日は様子が少し変だよ」
「酒に充てられたのかしらね」
「私には言えない話なのかな?」
アリスのはぐらかした様な答えに涼介が聞く。アリスは少しだけ考えるように沈黙して珈琲を一口飲む。
「そうねぇ……私としては言いたくないという答えかしら」
「言いたくない?」
「そう、言いたくないよ。私は貴方の事を友人と思っている。だからこそ話したくないのよ。私は貴方の性格を知っているからね」
「それは私が弱いからかな」
「そうね、否定はしないわ」
そう言われてしまえば涼介に言い返す言葉は無い。実際に店で待つという約束を反故にした過去がある為に涼介はアリスの言葉に反論できない。だから涼介は諦めて肩を竦めてみせる。
「悪いわね、涼介」
「構わないさ、アリス」
しばしの間沈黙が店内に落ちる。少しだけ居心地の悪い沈黙に、涼介が話題を変えようと口を開く。魔法使いであるアリスに聞きたい話もあったので涼介にとってもちょうどいい。
「そういえばアリスは魔法使いという種族なのだよね」
「えぇ、そうよ。もしあなたが魔法使いになりたいというなら諦めなさい、貴方の霊気量では捨虫捨食を修めるまでの魔道の研鑽は積めないわよ」
「そういう話ではないさ」
「あら、それは早とちりをごめんなさい」
「構わないさ、会話の流れでそう判断されても仕方ないからね」
「それでも、よ」
「それなら素直に、ありがとうと言っておこうかな。それで話と言うのは聞きたいことが有るんだよ」
「何かしら?」
アリスが興味深げに涼介を覗き込む。アリスの視線には隠しきれない好奇心が含まれており、魔法使いの知識欲を涼介は垣間見る。隣に浮かぶ上海も無機質な瞳を涼介に向けてくる。
「アリスが人から魔法使いになる時に何を考えていたのか気になってね」
「魔法使いになった時に?」
「あぁ、そうさ。人の寿命を捨てて長き生を得る時に何を思ったのかと思ってね」
「あぁ、そういう事ね」
アリスの視線が涼介の人魂に向けられる。すでに、半人半霊についても知識を有しているらしい。涼介は魔法使いという種族の勤勉さには舌を巻く。さらには、上海が涼介の人魂に近づきちょんちょんと突き始める始末だ。
「くすぐったいから出来ればやめてもらいたいかな」
「これはごめんなさい。それでね……私はもともと人間ではないのよ」
「……そうだったのかい?」
アリスの予想外の返答に涼介が目を丸くする。アリスは予想通りとでも言う様にクスクスと機嫌よさげに笑い声をあげる。
「世界は外とここ以外にも、たくさんあるのよ。私はその中の一つの出身で言うなれば異世界人とでもいうのかしら。それでも魔法使いになる事で寿命は延びているから、貴方の問いに答えるならば別に何も考えていなかったわ。しいて言うなら達成感かしら」
「達成感?」
「そう、魔道の深淵はとても深いの。それこそまだまだ底もまったく見えないくらいにね。だから時間が欲しかった。魔法使いになったのはその手段であり、不老の寿命も目的ではなく手段よ。だから、ひとまず魔法使いになろうとして成れた時は適度な達成感を感じていたわね」
アリスはそう言いきって見せる。声にはまったく感情の揺れは無く、それが真実だと解る。涼介はそんなアリスが少しだけ恐ろしい。人間からすれば永劫に近い生を得ることをただの手段であり、それ以上の意味も価値もないと本心から言いきってしまうアリスの精神のありようが恐ろしいと感じる。知識欲の怪物、探究心の化け物、それが魔法使いの本質なのかもしれない。
「怖いかしら?」
「正直少しだけ怖いね」
「……貴方が怖がるなんて、それも冗談でないのに口にするなんて……初めて見るわね」
「そうかい?私はこれでも小心者だよ」
「どの口が言うのかしら」
「信用されていないね」
「小心者の人間は自分から異変に何て首を突っ込まないわよ」
「そうかもしれないね」
アリスが再びカップを傾けたため間が生まれる。
「それで、答えには満足いただけたかしら」
「そうだね。求めていた物ではないけれど勉強にはなったかな」
「それは良かったわ」
「感謝するよ」
「どういたしまして。そうだ、持ち帰りもお願いできるかしら」
アリスがぱちんと指を鳴らすと上海の腕の中に水筒が一つ現れる。上海はその水筒を涼介に渡す。
「同じものでいいかい?」
「えぇ、それでお願い。豆は深煎りで、能力もたっぷり使ってね」
「珍しい注文だけど承ったよ」
涼介はアリスの水筒に詰める分の珈琲の準備を始める。準備が終われば、アリスもカップの珈琲を飲みほしており、水筒を受け取ると帰り支度を始める。上海がその小さな手で代価を涼介に渡し、扉で待つアリスの元へ戻っていく。
「あぁ、最後に一ついいかしら」
「なんだい、アリス」
「寿命を延ばすならしっかり考えてすることね。種族を変えることも同じよ」
「まったくもって君は怖いね」
「ふふ、当たり前よ。魔法使いも妖怪の一種なのだから」
「忠告、痛み入るよ」
「そう。人間から何かに変わってしまえば、戻るのは至難よ。だから、よく考えて決めなさい」
アリスの親切な忠告に涼介は頷き肯定をしめす。アリスはそれを見て満足するとカランカランと鈴を鳴らして店から去っていく。外は薄暗くなり始め、幻想郷に夜が来ようとしている。
今日も今日とて誰も来ない夜間営業。宴会が三日おきに起きる為か中二日の宴会が無い日も誰も来ない日々が続いている。そろそろ、宴会に自分も参加して、夜間営業はひとまず休みにするべきかどうかを涼介が本格的に悩み始める。カランカランと来客を知らせる鈴の音に、思考の海に潜っている涼介の意識が浮上する。視線を向ければ紫色の服を着た親切な魔女、パチュリーがいた。
「やぁ、パチュリーが店に来てくれるなんて初めてだね」
「そうね。いつもは貴方が来るものね」
「一体どういった風の吹き回しだい?」
「最近宴会が多すぎてね。身体を休めに来たのよ」
「昼にもアリスが同じようなことを言って来店していたね。魔法使いの間で流行っているのかな?それなら次はいよいよ魔理沙かもしれないね」
「あぁ、アリスも来たのね…………なるほど、だから今日は来ていなかったのね」
「ん?なんだって、パチュリー?」
パチュリーの呟きの後半が聞こえなくて涼介が聞き直す。パチュリーは何でもないとでも言う様に手を軽く振るとカウンター席に着く。
「黒白はまだまだ魔法使いと言うには程遠いわよ」
「彼女は捨虫捨食の魔法を使うのかな」
「さぁ、それは私には解らないわ。レミィに色々言われて悩んでいるみたいね」
「私にも思う所がある話だったからね」
「そう」
パチュリーの返答は素っ気ない。視線は店内を見回しており、始めてくる場所を興味深げに観察している。一通り観察すると視線が涼介に戻る。
「落ち着けていい店ね」
「それは嬉しい評価だね」
「特にその飾りが秀逸ね」
パチュリーが指し示すのは瓶に詰められている煎った珈琲豆だ。煎る深さごとにそれぞれ違う瓶に入れて保存してある。それがカウンターの上に飾ってある。持ち帰りや、お土産用にカウンターの隅にも同じような煎った豆が小さな瓶に詰められて置いてある。
「そうかい?喫茶店らしくていいってことかな」
「ふふ、そうね。雰囲気も出ていていいわよ」
どこか楽しげな雰囲気のパチュリーに涼介も笑みを深める。パチュリーの来店理由も同じであるならば目的となる商品も似たようなものなのかもしれないと涼介は思う。
「お客様、ご注文は酔い醒ましになって体にやさしいものですか?」
「えぇ、それでお願い。出来れば飲み物は珈琲系でお願い」
「アリスもパチュリーも珈琲を好きになってくれたみたいで嬉しいよ」
「今回はそれだけではないけれどね」
「何か含みがあるのかな?それでミルクはたっぷりか、無し、どちらがいいですか?」
「そうね、色々含んでいるわ。ミルクは無しでお願いするわね」
「なるほどね。注文、了解いたしました」
涼介は豆を挽き一杯分の珈琲豆をドリップして淹れる。カップに淹れた珈琲におろした生姜とはちみつを加えて溶かす。
「はちみつしょうがコーヒーとなります」
「ジンジャーティーみたいなものかしら」
「そうだね、コンセプトは似ているだろうね」
「ん、美味しいわ」
「採点の程は?」
「今の状況も加味して優はあげられるわ」
「過去最高点だね。これは進級も安心だ」
「あら、他の科目も単位は取れているといいわね」
「それは私の頑張り次第かな」
「精進なさい」
パチュリーの言い方に藍を思い出し、涼介は笑いをこぼす。真面目でよく気の付く所は二人の共通点なのかもしれない。レミリアと紫、トップが自由奔放だと下にはしっかりとした人材が集まるのかもしれないと涼介は思う。しばらくはどちらも話さない静かな時間が流れる。いつもは小悪魔が元気に話すことが多いが二人きりの時は互いに沈黙になって本を読むこともしばしばある。先ほどまではハルも寝てしまい誰もいなかった店内に、誰かがいて珈琲を飲んでいるそのことがこの上なく嬉しいと涼介は感じる。自分も一杯飲みたいと豆を挽き珈琲を淹れる。一口飲めば自然と口元に笑みが浮かぶ。
「あの時みたいに貴方は何も聞かないのね」
「そうだね」
「あの時から進歩がないと言う事かしら」
「意地が悪いね、その言い方は」
「そうかしら?」
「どうせ君の事だから聞かない理由くらい察しているのだろう」
「アリスに釘を刺されたのでしょうね」
「ほら、やっぱり意地悪だね」
「ふふふ、ごめんなさい」
「それにあの時とは状況が違うさ」
「どう違うの?」
「あの時は渦中にいた。今は部外者」
涼介はそう言って肩を竦めてみせる。
「渦中に飛び込むつもりはないのかしら?」
「冥界から戻った時に小言を言った君が進めるのかい」
涼介の顔に苦笑が浮かぶ。人魂をくっつけて紅魔館を訪れた時にこんこんと常識と節度、身の程についてのお小言をパチュリーからいただいている。苦笑する涼介にパチュリーが語りかける。
「あの時とは違うのではないの?」
「どう違うんだい?」
「貴方は抗う力を手にしたのではないの?」
「小さな種火だよ」
「成長するためには試練は避けて通れないと思うわ」
「今回の事がそうだと?」
「さぁ、知らないわ」
あまりにも無責任に言い放つパチュリーに再び涼介は苦笑いを浮かべる。パチュリーはそんな様子など知らないとでも言いたげにカップを傾ける。
「君はもっと過保護だと思っていたよ」
「それは対象に寄るわ」
「私はもうその限りではないと」
「そうね。私は貴方の事を認めているのよ」
「そいつは光栄だね」
「だから貴方がどうするのかを見てみたいから勧めているのよ」
「これは毒りんごかも知れないね」
「知恵の実かも知れないわよ」
内容とは裏腹な気安いやり取りに思わず互いに笑みをこぼす。こういった言葉の応酬も幻想の少女達との付き合いの中での楽しさだと涼介は考えている。
「それでどうするのかしら?」
「そうだね……」
涼介は目の前の魔女の誘惑に乗るかどうか考える。終わらない冬の異変では力が足りず、心配をかけた。その出来事から学び、戦う力を手に入れた。しかし、戦えるだけだ、抗えるだけだ。けれど、ここまで突かれてしまえば知りたいという感情を抑えるのは涼介には難しい。能力で抑えることもできるが、することもなくパチュリーに向けて口を開く。
「今起こっていることは異変なのかい?」
「そうよ」
異変とは幻想郷中を巻き込む事件の事だ。そう断言されてしまえば涼介は欲求を完全に抑えられなくなる。
「今回の宴会が?」
「そうよ。誰かが宴会を起こしているの」
「どうやって」
「感情に作用させて」
「そういう能力?」
「たぶんね」
「想像がつかないなぁ」
涼介が頭を悩ませ、どうやれば宴会を起こせるような能力があるのかと考える。パチュリーがクスクスと笑いを漏らす。
「意外とできるものよ」
「そうなのかい?」
「レミィであれば全員が神社で宴会をする運命を引き寄せる。境界の妖怪であれば、行うと行わないの境界を弄る。貴方であれば宴会をしたいという感情以外の他の感情の多寡を落してしまう。そうすれば皆宴会に参加しようと思ってしまう」
「なるほど。すべての道はローマに通じるのか」
「そう言う事よ」
「どうしてそんなことをしているのだろうね」
「それは本人だけが知る事でしょうね」
「うーん……危険はあるのかなぁ」
話を聞いて思うのは危険を感じられないことだ。ただ宴会が起こっているだけで害がありそうに感じない。
「そうねぇ、参加者の肝臓が危ういとかかしら」
「それは、何とも危険な話だなぁ」
パチュリーの冗談に笑みがこぼれる。実際冗談でもなくこのまま宴会が続けばそういった可能性もあるのだろうが、さすがにそこは各々の自制心に頑張ってもらいた所ではある。
「実際、現状では危険はないのでしょうね。でも、妖霧に含まれる妖力は増してきている」
「妖霧?」
「あぁ、この店の周りにはないものね。だから、私やアリスはここに避難してきた様なものだけれど」
「それは何故だかわかる?」
「人間だから興味がないのか、他に理由があるのかどちらでしょうね」
パチュリーの瞳が愉快に歪む。知っているけれど教えてくれる気はなさそうだと涼介は思う。自分から話をふっておいて思わなくもないが、紅魔館の住人らしいと思ってしまうあたり毒されてきていると涼介は内心で笑ってしまう。
「だから、もしかしたらこれから何か起こるかもしれないわね」
「なるほど。それなら今度は私も宴会に参加しようかな」
「そう、楽しみにしているわ」
「ご期待に添えるように頑張るさ」
「咲夜にも結果で示すと言ったのでしょう?」
「……咲夜さんは身内にオープンすぎやしないだろうか?」
「あらあら、妬けちゃうかしら?」
「勘弁してくれ」
パチュリーがクスクスと愉快気に笑いを挙げる。夜間営業には結局パチュリーだけしか訪れず、そのまま閉店時間まで二人はたわいない話を続ける。十三日目、五回目の宴会の裏で二人だけの茶会が続く。