東方供杯録   作:落着

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幻想の茶会
風神少女と新聞取材に供する一二杯目


 カランカランと鈴が鳴る音がなる。霊夢が店からでて、帰る所だ。宴会の後、涼介は自身の店である桃源亭へと戻ってきた。それからは営業を再開し何事もなく3日が過ぎている。それまでに霊夢が約束を履行させるために昼食を食べに訪れたり、紅魔館の面々が訪れてきている。それ以外にもここ数日休みっぱなしであったために、久しぶりの開店ということで里の面々や慧音が訪れている。

 慧音には異変が起きているのにどこをほっつき歩いていたのかと問われ口を濁すが、そこにいた霊夢が犯人の所で異変に一枚噛んでいたわ、と言い頭突きと盛大な説教を賜った。

 

「やっぱりここがなんだかんだいって一番落ち着くね」

 

 涼介が洗い物をしながら零すと、ずっと留守番させられていたハルがしばらく店を開けていて何を言っているのかとでも言うように尻尾で足をビシビシと叩いてくる。

 

「ごめんごめん、色々あったんだよ」

 

 それでも不満は収まらないのか勢いは弱まるが、叩き付けるのをやめないようだ。涼介自身も自分が悪い自覚があるので甘んじて受けそれ以上の制止はしない。

 

「それにしても夜間の開店も真剣に考えないとなぁ」

 

 涼介はそう口に出し悩む。吸血鬼の知り合いが出来たのだ。これを機に以前から悩んでいた夜間営業を開始するのもいいかもしれないと。営業内容としては静かに飲めるようなバーを想定している。幸いにぎやかな幻想郷ではそういった飲酒店は中々見当たらない。良くも悪くも昔ながらの飲み屋、居酒屋といった営業形式の店が多い。

 だからこそ、そういう店が一店舗くらいあってもいいのではないのか常々考えていた。それに、落ち着いて飲むにはこれ以上の店は難しいだろう。そのように自分の能力を加味して涼介は考える。

 

「まずは試験的に週一回開けてみようかな。そうなると灯り用のランプと燃料を増やさないとな。霖之助の所にあればいいんだけれど」

 

 涼介はちゃくちゃくと夜間営業の構想を練っていく。

 

「置いていなかったり、売ってくれなければ自活しないとなぁ。ハルそうなったら無縁塚まで行くけどお供を頼めるかな?」

 

 ハルは任せろとでも言いたげに一度わう、と吠える。その様子に涼介は笑みをこぼすと、ありがとうと言いハルの頭を撫でる。

 

「ナズーリンに頼めばすぐに見つけてくれたりしないかなぁ。うーん、なんとなく望み薄な気がするが、挨拶ついでに頼んでみるかな」

 

 無縁塚で小屋を建てて住んでいる友人に思いをはせるが、事態は好転するビジョンは浮かばない。そんなことを考えながら昼時も過ぎ、客のいない時間の店内の掃除をしていると強い風でも吹いたのか窓の障子と扉ががたがたと音を立てる。涼介が今日は穏やかな天気でほとんど無風だったのにと、疑問に首をかしげているとカランカランと鈴が鳴り、客が入ってくる。

 

「いらっしゃいませ、お客様」

 

 黒髪で白の半袖のシャツに黒いフリルのスカートをした服装。黒髪で赤い瞳をしている女の子だ。しかし、涼介は彼女が人間でないのが一目でわかる。頭には頭襟をかぶり、高下駄を履き黒い羽毛の翼をしている。ここまでくればだれでも烏天狗を想像する。

 

「初めてご来店いただきありがとうございます。お品の説明は必要でしょうか?」

 

 珈琲というこの幻想郷で類似の商品を扱う店は存在しないため、一見様にはいつも行っている案内だ。

 

「あ、貴方が白木涼介さんですか!?」

 

 唐突に天狗の少女に名前を呼ばれ動揺が出る。涼介はどこかであったことがあるかと記憶をめぐらせる。そういえばこの前の宴会でカメラと、メモを片手に紅魔館の面々に色々と話しかけていた人物と目の前の人物が一致する。しかし、宴会では見ただけで自己紹介はおろか話したことすらないはずだ。

 

「えぇと、どちらで私の事を?」

 

 妖怪が自分個人に興味を持ち、店を訪ねてくる。戦う力の無いただの人間(涼介)としてはちょっとした恐怖を感じる案件ではある。能力でそのあたりの感情は意図的に無視できるが、感情は無視できても思考が危険を示唆するのは止められない。ゆえに警戒は解かない。

 

「あぁ、これは失礼いたしました。私、射命丸文と言う者です。是非、文とお呼びください。それでですね、私は新聞記者をしておりまして、此度の異変の取材をしていると関係者の方々から涼介さんの名前を何度かお聞きしました。そのことから取材をさせていただきたいと思い訪ねてきた次第です」

 

 涼介が警戒している雰囲気を察し、文は事情を説明する。涼介もその説明で納得したのか肩の力を抜く。天狗が新聞を作り配っていること自体は聞いたことがあるために、特に疑うことなく信じる。文もその雰囲気を察したのか真面目な表情を崩し、親しみやすい笑顔を浮かべる。

 しかし、次の瞬間店内の空気が変わる。カウンターの中で伏せっているハルが、ぐるぅぅ、喉を鳴らし、カウンターから出てくる。それに気づいた文の笑顔の種類が変わる。先ほどの親しみやすさは消え、嘲るような笑みを浮かべる。

 

「おやおやおや、こんなところに白狼がいるなんて。道理で獣臭いわけだ」

 

 その文の言葉を聞いて、涼介と文の間に入ったハルが牙を剥く。

 

「人型もとれぬ白狼風情がこの私に牙を剥くか」

 

 涼介は店の中なのに頬を撫でる風が渦巻いていることに気が付く。そして、文の手にカメラでなく葉団扇が握られている事にも気づく。店の中で暴れられるのも困るが、このままいけばハルが怪我をするだけでは済まなくなる。涼介は相手の霊気や妖気を読む力にたけている訳ではないが、そういった手合いとの対峙経験は豊富な方だ。その経験が目の前の少女がただの一介の天狗ではないと警鐘を鳴らしている。

 ハルが妖怪の山の妖怪に何か思う所があるのは知っていたがいきなり、敵意むき出しで向かっていくとは思わなかった。

 しかし、今はそんなことを気にするのではなく同居人であり、心配性な家族を守る方が先決だ。だから、涼介は声を出す。

 

「ハル、少し落ち着いて。それと、文さん。暴れられるならここからすぐに出て行ってください」

 

 文から漏れ出ている妖力はひどく押し殺されたような印象を受ける。しかし、それでも力の弱い涼介すれば体が勝手に死の恐怖におびえるレベルとしては十分すぎるほどであると言える。だから、その恐怖を体の怯えをレミリアと対峙した時の様に能力で押さえつける。そして、強い口調で言い放つ。

 

「ほぅ…私に指図するか」

 

 文から威圧する様に立ち上る妖気が強まる。霊力の弱い涼介とすれば、それはまだ意識を保てるレベルではあるが、かろうじて保てるレベルというだけの話だ。だから、それも能力で押さえつける。膝を床につき、立膝の姿勢になるが視線は文から逸らさない。ハルは涼介の言葉を聞き彼を支えるように寄り添う。

 

「えぇ、ここは喫茶店で飲食をするところです。それに貴女は取材に来たはずだ。ならば、筋を通すなり、取材をしないなら帰っていただきたい」

 

 文から漏れ出る威圧がなくなる。その表情が虚を突かれたように崩れる。しかし、また表情が親しみを覚える笑顔に変わる。その時小さく、面白い、という呟きが涼介には聞こえた気がしたが確かめる前に文が口を開く。

 

「あやや、これは大変失礼いたしました。私としたことが柄にもなくつい熱くなってしまいました。謝罪を申し上げます。このようなことをしでかしておいて大変恐縮なのですが取材をさせていただけないでしょうか」

「いえ、もともとはこちらが先に手を出したような所もありますので、そのように恐縮されてしまいますと肩身が狭い思いです。ですので、頭をあげてください。取材でしたらお受けいたします。それと、うちのハルが先ほどは申し訳ありませんでした。少々、妖怪の山の妖怪に何か思う所があったようで、文さん個人に思う所があるわけではないと思うので許してはもらえないでしょうか、ほらハル?」

 

 頭を下げ謝罪する文に涼介が頭を下げ返し、ハルにも促し、頭を下げさせる。ハルも先ほどは山の妖怪ということで反射的に反応したようでただ涼介に寄り添っているだけで随分と落ち着いている。特別に能力を意識せずとも勝手に普段垂れ流しているそれだけで大丈夫なようだ。店内にいる三者全員が頭を下げ合い誰も先にあげようとしない。このままでいても拉致が明かないと思い涼介は話を切り出す。

 

「では、今回はどちらにも非があったということで手打ちといたしましょう。ハル、私はこちらの文さんと話があるから二階の部屋で待っていてくれないかな?」

 

 ハルは一瞬拒否を示す様に首を振りかけるが、それを止めおとなしく二階に上がっていく。今は落ち着いていてもまたどうなるか分からないと判断したのだろう。それでまた涼介を危険にするよりも頭を冷やしてこようと判断し、ハルはその場を後にする。

 

「さて、文さん。異変に関する取材以外にも当店についてもいかがでしょうか?」

 

 涼介はそう言いながら、カウンターの椅子を一脚ひいて見せる。

 

「はい。それでは是非、謎に包まれた貴方のすべてを御見せ下さい」

 

 文はそう言い、お茶目な笑顔を浮かべ涼介のひいた椅子に腰かける。

 そして扉には張り紙一つ

『取材を受けているため取り込み中です』

 

 

 

 

 

 コリコリと豆を挽く音がする。カウンターの中と外で涼介と文は向かい合う。

「それでは異変自体には関係ないと?」

「えぇ、そのとおりです。実際に大図書館から一緒にいた魔理沙から聞いていただければ裏もとれるかと思いますよ。異変の時は見学組でしたからね」

「見学組というと?」

「異変の首謀者側と解決に来た解決人との弾幕ごっこを見学するグループです」

「なるほど。それでは途中から一緒に魔理沙さんといると言われていましたが、なぜ飛んで移動することもできない貴方が異変の現場であり里からも離れた紅魔館の内部、大図書館にいらしたのですか?」

「異変が起こる前に出張営業をしてほしいと依頼がありまして」

「異変が起こる前といいますといつごろですか?」

「確か八月六日くらいだったかと」

「霧の出始める前日じゃないですか……」

 訳がわからないと言いたげな表情し、困惑を漏らす。涼介は挽きおわった豆をフィルターに入れてお湯で抽出する。

「そうですね。パチュリーからすぐに異変を始めると話を聞かされましたしね」

「それからずっと紅魔館にいたのですか?」

「はい、四日ほど前までお世話になっていました。ここに戻ったのは三日前ですね」

「それまでずっとあの吸血鬼の館にいて大丈夫だったのですか?」

「えぇ、全く問題ありませんでした。みなさんとても親切でした。また仕事以外にも遊びに来いとレミリアさんに言っていただきましたしね」

「あの吸血鬼がですか!?どんな魔法を使ったんですか?」

「んー、まぁ色々とありまして」

 涼介はフランの事をあまり言いふらすのもよくないだろうと思い口を噤む。抽出された珈琲の入ったカップをソーサーに置く。棚から角砂糖とブランデーを取り出す。

「その色々を知りたいのですが涼介さん。出来れば詳しく!!」

 詳しくのあたりで目を爛々と輝かせた文が椅子から立ち上がり、涼介にカウンター越しで詰め寄るが、涼介はそれに取り合わず角砂糖にブランデーを染み込ませ火をつける。青白い炎がアルコールを纏った砂糖から立ち上る。文の視線がそれに奪われ勢いがそがれる。そして火の消えた砂糖をカップに落とし溶かす。完成した杯を文に供する。

「そのあたりは少々込み入っておりまして、私の口からは説明いたしかねます。少なくともレミリアさんの許可がなければ私が説明することはないでしょう。それと、お待たせいたしました、こちらカフェ・ロワイヤルとなります。お熱いのでお気を付け下さい」

「あ、これはご丁寧にありがとうございます」

 受け取った文は珈琲を口に運ぶ。好みにあったのか口角が僅かに上がる。目ざとくそれを確認した涼介はその反応に笑みをこぼすと淹れるのに使用した器具の片付けに入る。

「……ふぅ。洋酒の香りが混ざっていい匂い。それに、なんだか心がすごく落ち着く」

 かちゃかちゃと片づけを涼介はしている。つい漏れ出るように小さな声で文が感想を零す。その感想には先ほどまでの質疑の時のような、取材用に作られた丁寧で話しやすく感じさせるような明るさに、どこか感じる余所余所しさなかった。感想を漏らす声色に明るさはなく、されどそこには、純粋な賞賛と、崩れた口調から思わずこぼれ出た本心という印象を受ける。

 事実、そうなのだろう。ため口が出た文は驚きに目を見開くと片手が口元を隠す様に覆う。しばらくその姿勢で固まる文だが、ゆっくりと口元から手を離すとこちらに背を向けて作業をしている涼介に視線を向ける。

 

「あのー、涼介さん。今のお聞きになりました?」

「え?すみません、お呼びでしたか?ご用件はなんでしょう?」

「あー、どうしてこの珈琲を選ばれたのか気になりまして、何か理由などおありなのですか?」

 

 文は内心で聞かれていないことに安堵する。初対面の人間に偽りのない本音の自分を見られそうになった。自らの内面を隠す天狗という種族の自分からすればありえない失態だ。何故、ああも簡単に外用の仮面が外れたのか分からず文の頭は混乱する。

 そして今も涼介と話していると、心が落ち着き安心する自分に初めて気がつき頭の中はさらに混乱する。気持ち悪いと文は考える。思考は混乱しているのに、心は落ち着いている。その乖離が文に、危険を感じさせる。いや、頭は警鐘を鳴らすのに感情がついてこない。

 

「理由はちゃんとありますよ。天狗という種族は酒豪が多いと聞いております。珈琲の中にはお酒をそのまま入れて楽しむものや、珈琲のカクテルなどもありますが、取材に来られた方にお酒を出すのも憚られます。カフェ・ロワイヤルならば酒精も殆ど飛びますし雰囲気は楽しめるので良いのではないかと提供させていただきました」

 

 目の前で話をする彼の言葉を聞けば聞くほど、心が落ち着く。一先ずここは撤退しようと思考が働く。まず先に涼介を知る周りから情報を集めようと決める。しかし、早く出ようと結論が出たのに、ここに残りたい、もっとのんびりしたいという思いが椅子から腰を浮かせてくれない。

 

「文さん、文さん?どうされましたか?ぼーっとされてどうされましたか?表情も少しこわばっているみたいですが、調子が悪いようでしたら取材の続きはまた後日でも構いませんよ」

 

 その言葉に文は助かったと思った。

 

「いえいえ、調子は問題ありません。ちょっと急用を思い出しまして、自分からお願いしたことなのにどうしようかと考え込んでおりました」

 

 そう言って申し訳なさそうな表情をとり、席を立つ。扉の外まで見送りに来た涼介に最後の質問をする。

 

「涼介さんと特に親しい方や詳しい方ってどなたかいらっしゃいますか?喫茶店のご店主さんの人柄を第三者目線でも記事にしたくて」

「親しい方に詳しい方ですか?そうですね、特に親しくさせていただいているのは、藍さんに霖之助、幽香、上白沢さん、霊夢、魔理沙、パチュリー、咲夜さんにフランあたりでしょうか。詳しい方となるとそうですね、紫さんに藍さんあたりが特に詳しいのではないでしょうか?」

 

 文は出てきた名前に絶句する。紅魔館の面々はなんとなく想像がつく。霊夢や魔理沙、それに人里の守護者である寺子屋の教師に雑貨店の店主は理解できる。しかし、花妖怪と八雲の二人は想定外もいいところだ。まさに藪をつついたら蛇が出てきたという言葉がうってつけだ。

 だからこそ知りたいと思う。霊力も弱く普通の人間に見える目の前の人物が何故大妖怪とも言える人物と親しく交友があるのか。そして、自分の感じた気持ち悪さの正体、絶対に突き止めてやると文は決意する。

 

「なるほど、なるほど。それでは、ぜひ参考にさせていただきます。本日は誠にありがとうございました。それでは、またいずれ」

 

 そういうと文は返事も聞かずに飛び立っていく。その姿はあっという間に涼介から見えなくなる。残された涼介がポツリと呟く。

 

「途中から様子がおかしかったけどどうしたんだろう。いきなり、威圧するような人だったから気が短いのかと思って能力を意識的に強く使っていたせいかとも思ったけど、それが原因だとしたらあの反応はおかしいし。本当に何か用事があったのかな?」

 

 そのつぶやきは誰にも届かない。文が威圧的だったのには理由がある。初めて来た場所なのに異様に緩む警戒心と心に抱く安心感。そのこと自体を文は自覚できてはいなかったが、無意識にその状態の自分に苛立っていた。だから、格下のそれも小間使いにしている白狼天狗よりもなお下の白狼の妖獣の威嚇がきっかけに不満が漏れ出た形なのだ。

 

 

 

「わたしは、いったい何をしているんだ……失態だ」

 

 文は幻想の空を駆けながら愚痴をこぼす。元来天狗とは、格上には媚びへつらい、明らかな格下には強気に出る。そして格上には媚びへつらいながらも弱みや弱点、本質を調べ、有事に備えるしたたかな妖怪だ。他者の情報を調べるという文化が変化したものが新聞だ。新聞とはいえもともとはそう言った背景があり、今も記事にしないことでも調べ保管する。そんな天狗の新聞記者の自分が相手を調べに行って素の自分をさらけ出しかけた。そのことが文のプライドを酷く傷つけた。

 

「絶対に暴いてやる。隅から隅まで、自分でさえ知らないことも暴いてやる」

 

 涼介から離れ時間が経ったことで彼の能力の影響から脱した文は驚愕する。自分が警戒したくとも警戒できなかったことで涼介に恐怖を抱いていたことを、そして彼に対しいまだに安心感を抱いている自分に気がつく。だからこそあえて声に出す。

 

「おぉ、こわいこわい」

 

 その言葉は嘲るように、貶めるように、見下すようなに、そんな響きを持った声色だ。自分が恐怖をしているなどと認めるのが悔しい。だから、その感情を馬鹿にするように声に出し、自らに言い聞かせる。

 

「見ていろよ、人間」

 

 空を飛ぶ文の目つきは鋭く剣呑だ。素の自分を晒しかけ、逃げ出し、恐怖した。飛ぶこともできないほどに霊力の弱い人間相手にだ。だからこそ、文の意思は思いは強固となる。たとえどんな障害があろうと、調べ尽くしてやる、と。

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、至極あっさり答えにたどり着いた。親しくもあり、知識も豊富なことが理由で最初に紅魔館の魔女を訪ねると簡単に答えを教えられた。そういう能力だからと彼女の知る詳細とともに教えられた。何故あっさりと教えたのか聞くと、貴女が警戒しているみたいだから誤解と教えてあげただけよ。教えた方が彼の身も安全でしょ?と見透かしたように笑う魔女に文は表情が引きつる思いだった。

 何のことはない独り相撲だったのだ。警戒しなかったのは彼の能力と彼自身が吹けば飛ぶほど脆弱だからなのだ。だから、すべては自分の勘違いであり、心配はない。そう結論付けるまで時間はそうかからなかった。

 だからこそ、文はまた取材に行く。

 だからこそ、文はまた客として店を訪れる。

 この安心と安らぎは能力のせいだと、自分の本心に建前を設けて。誰かに対して心から安心できて一緒に過ごすそんな時間があってもいいのではないかと。天狗の組織は縦社会でそういった交友ができにくいのだ。だから、私がここで羽を伸ばしてもいいのではないかと、文はそう考える。この人間の能力を利用して心をリラックスしていると、ストレスを発散しているのだと言い聞かせる。

 今はまだ、そうなのかもしれない。今はまだそれでいいのかもしれない。

 でも、これから先は分からない。

 二人の関係がどう変化をするのか、それは誰にもわからない。

 

「涼介さーん、取材前の一杯をいただきに来ましたよー!!」

 

 文の前に一杯のカフェ・ロワイヤルが供される。

 

 

 

 

 

 

 数日後発刊された射命丸文の『文々。新聞』に桃源亭の記事が載った。

 怪異!人たらしの店主!?

 人里の外と中の境界上に建つ一軒の喫茶店がある。そこに人妖問わず誑し込む生粋のたらしがいると聞き、本誌記者である私、射命丸文が突撃取材を慣行した。その結論をまず述べようと思う。その存在は実在した。数々の取材をこなし、対人、対妖関係のスペシャリストを自負する私でさえ及びもつかないたらしが存在したのだ。一度店に行き半刻も話をし、飲み物でも頼めば誰でもきっと誑し込まれることだと記者は確信する!!そして、客層を見ると女性の数が多い。それは里の人間だけにとどまらない。例えば、博麗の巫女、例えば紅魔館のメイド、そして紅魔館の当主に妹、はては人里の守護者まで誑し込まれているではないか。では、その店が危険なのか?と聞かれれば記者は首をひねるだろう。店主である白木涼介自身は力も弱く霊弾の一発さえ撃てないほどだ。白木涼介の力も弱いが、本人も温厚であるため危険は皆無と言える。しかし、しかしここで記者である私はあえて警鐘を鳴らしたい!確かに危害的な意味合いでは危険はないだろう。だが、白木涼介は男である。成人の男である!!ゆえに!ゆえに!店に通う婦女子の皆様は決して絆されないように用心をするべきだ。出来るなら異性の同伴者を伴うのを記者は進める。今後も記者は彼を追い記事にしていこうと思う。彼は、以前起きた赤い霧の異変にも大きく関係があったようだ。その事件への関与も調査し、事実が判明次第記事を発刊する所存である。追伸、店に行った際何を頼もうか迷った時はカフェ・ロワイヤルを頼むといいだろう。記者の一押しだ。

 

 

 幻想郷のどこかで誰かの怒声が空へと向かって鳴り響いた。


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