ゲームとは所詮“運ゲー”でしょう   作:人類種の天敵

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上層探索組

 

 

キメラ型の気持ち悪いモンスターを倒した地下御一行。

そして彼らの上部階層では8人による探索が行われていた。

 

「食堂か。カメラを持ってる奴はいるか?」

 

大きな扉、食堂と書かれた看板の前に骸骨のバラクラバにサングラスを掛けた黒ずくめの男が1人、プレイヤーネームは《スカル》。

連携やフォロー力に定評のあるプレイヤーで、愛用しているSCAR-Lの銃口を下げて後続のプレイヤー達を振り返る。

 

「ある。これなら多分、隙間から入れられる」

 

小型カメラを取り出したのはチェック柄のマフラーに口元を隠した眠たげな二重瞼が印象的な女性。

プレイヤーネームを《グレムリン》といい、偵察用カメラや携帯用の罠などを入れてあるストレージから100円玉程の面積のカメラを取り出して扉に放った。

それは着地同時に動き出し、扉の向こうへ消えていく。

 

「何食ってるんすか。カルビさん」

 

「ぐふふふ。ビーフジャーキーですよぉはぐメタ君。君も食べてみますかぁ?」

 

全身灰色のSFチックなスーツを着た小柄の少年《はぐメタ》が横に太く、大柄な体型の《牛カルビ》に質問をすると、牛カルビはストレージから8枚入りビーフジャーキーと書かれた袋を取り出して、一枚どうですかな?と聞いた。

 

「んじゃ、お一つ。どもっす」

 

「ぐふふふ。いえいえ、1人より2人で食べた方が美味しいですしねぇ。池尻君もどうですか?」

 

「………」

 

《池尻》と呼ばれた寡黙な男が1人、ぺこりと頭を下げてビーフジャーキーを手に取る。

その横では某ロボット物に出てくるメカに酷似した全身プロテクターを装備した男が光線銃のエネルギーパックを交換している。

彼は《ジム》と呼ばれるプレイヤーで、彼もまた中々の実力を持っている。

 

「チョコちゃんチョコちゃん。そういえばにゃー、今日の宿題終わった?」

 

「バニラちゃんってばもしかしてまたボクにやらせる気でしょ。ボクやだからね」

 

「にゃー!?そんなこと言わないでほしいにゃ!バニラちゃん最大のピンチなんだにゃー!?」

 

一方は白髪、もう一方は黒髪。

顔の造形も瓜二つな少女は2人、リアル割れを気にせずお喋りをしている。

《バニラ》と《チョコ》というプレイヤーだ。

容姿の良さもあってかGGOでもかなりの人気を博す有名人である。

 

「……んーぅ。何も……無いよ。でも、中は暗くて……動きにくいかも」

 

「分かった。全員サーマルとフラッシュハイダーを装備しろ。準備が出来次第中に入って探索だ」

 

「オッケーっす」

 

「ぐふふふ。私のプロテクターはサーマル内蔵でしてねぇ。私の方はいつでも行けますよぉ」

 

「……」

 

10秒経過して問題なしと判断したスカルはゆっくりと静かに食堂の扉を開く。

サーマル越しに見える暗闇を足早にクリアリングしていく。

ざっと見渡していくと、食堂は全体の7割をテーブルや椅子が占め、3割ほどを厨房や冷蔵庫などで構成されている。

 

だが、この食堂、めぼしいものも何一つ見つからず、ただ探索を終えた8人は得るもの無しと若干落胆しながら直ぐに食堂から離れていった。

 

「しかし、ずいぶん楽に進むな。《看守》も不意打ちを喰らわなければ存外脆いモンスターだしな」

 

三階への階段を上る途中、スカルは朗らかに笑う。

今回、戦力増強の作戦として、傭兵の形で参加したスカルだが、普通のボスモンスターを倒すよりも簡単な労力でレア武器の報酬を山分け出来ると確信して気分が浮ついたのだ。

 

「それにしても、俺にはどうしてもお前達があの《看守》に負けるとは思えないんだが」

 

「違う」

 

スカルの疑問とグレムリンの即答。

自然と話す気配はなくなり、言葉を漏らすのはスカルとグレムリンだけになった。

 

「ん?……俺は前回加わってないから分からないが。……前回お前達を全滅させた看守長があいつらじゃないのか?」

 

「違う。……少なくとも、私や彼を全滅させたのは……あそこには、居なかった」

 

それは、どういう。

スカルの言葉だけが闇に溶ける。

 

「……あの時見た、看守は、あそこに居た看守達より……大きかった」

 

「まだ何処かにいるというわけだ」

 

「………」

 

階段を上りきり、右手に図書館が、左手に獄長室と書かれた看板を見た8人は、まず危険度の低い図書館から調べることにした。

 

「フラグアイテムがあるかもしれない」

 

とはスカルの言だったが、それに反論する者も少なからずいた。

 

「いやだにゃー!?絶対体に対して頭がすごくおっきいあいつが出てくるにゃ!バニラちゃんは反対にゃ!?」

 

「バニラちゃんビビりすぎ」

 

光学銃使いのバニラだ。

彼女は図書室に入ると某青い鬼さんのようなモンスターが出ると言って絶対中に入ろうとしない。

仕方なく廊下に池尻とバニラが見張りをして他の6人が中で探索をすることにした。

 

「ほわーっ」

 

「ナイスキル」

 

「……GJ」

 

ドスンと崩れ落ちたのは全身に黒い靄が纏わり付いている人型のモンスター。

名称を《司書》というらしいそれは、靄だらけの頭部を派手に撃たれまくってポリゴンとなり、消滅した。

 

「しゅーりょー。あ、なんかドロップ」

 

ドロップしたアイテムは、敵モンスターをキルしたプレイヤーに所有権が移される。

この場合は《司書》を倒したチョコに所有権が渡った。

 

「《なりきり司書コス》……あれ、ボクってて運が良いのか悪いのか…」

 

 

《なりきり司書コス》

普通に可愛い司書さんの姿になりきることができるレイヤー。

眼鏡をかけて本を持てば貴女も立派な司書さんに!

 

 

ドロップしたアイテムを見てコテンと首を傾げるチョコに周りのプレイヤーもぞろぞろ集まり各自の収穫を確認する。

 

中をくり抜かれた本の中に収納されていたグロック18、英語で書かれた官能小説、ハンドガン型光学銃×3(レア度はどれも低い)、快○天、ピースメーカー(SAA)で、所有権はグロック18が池尻、官能小説がはぐメタ、光学銃をチョコが2つと牛カルビが1つ、快楽○はジムだった。

 

(なんで日本の雑誌が……)

 

すごく気になったがスカルは心の中にとどめることにした。

あとジムによると「去年の3月号だな」との事。

 

「にゃー!チョコちゃんチョコちゃん!何かあったにゃ!?」

 

「んー、どうかもねー。ハンドガン型のブラスターくらいだよ」

 

「にゃはぁっ!!ブラスター!見せて見せて〜!!」

 

「ひゃー!?ちょちょ、ちょ!バニラちゃん!ブラスターくらい見せるからいきなり抱きつかないで欲しいかもー」

 

少女プレイヤー2人が抱き合い密着する百合百合しい姿にほっこり顔を綻ばせる男性陣。

その中スカルは顔をブンブン振って魅力状態から抜け出し、提案する。

 

「獄長室に行くか」

 

反対意見は出なかった。

これまでと同じように先ずドアの隙間に小型の偵察カメラを潜入して簡単なクリアリング。

 

バン! カランカラン パシィィン!!

 

「ゴーゴーゴー!!」

 

索敵は慎重に、突入は大胆に。

 

扉を開けてその中にフラッシュバンを投げ込むと、そのまま中へなだれ込む。

凡そ2メートルある机、棚、至る所をクリアリングしても敵の姿は見当たらない。

 

(………いない?)

 

スカルはただ、ただ違和感を覚えた。

fpsの他にもバイオハ○ードなどのゲームをプレイして鍛えたゲーマーとしての勘だ。

此処はイベント部屋だと油断なく周囲を観察する。

 

「お、良いもんあるじゃないっすか〜」

 

はぐメタが机の引き出しを開けてその中に入っていたショットガンを手に取るーーー所で、ズドン!!という大きな音と一緒にポリゴン片と化して死に戻りした。

 

「!?こいつ、まさか天井に」

 

驚いたのは束の間、驚異的なまでの冷静さで残る7名のプレイヤー達は動いた。

前転、ヘッドスライディングなどなどの動きで距離を離して障害物の影へ逃げ込んだ後、はぐメタを潰した存在はその暴力を振るう。

 

「……でかい」

 

ポツリと溢したグレムリンはストレージからクロスボウを取り出し、徐に撃ち出す。

どでかい何かにクロスボウの矢が刺さり、直後爆発するーーーー否。

 

「照明弾か?…ナイス!」

 

「ぐふふふ。サーマル要らず…ですねえ!」

 

暗い獄長室に光が灯る。

次々と速射されるクロスボウの雨あられが巨大な存在に突き刺さり、自身を主張するように煌々と部屋を照らしているのだ。

 

「……分かった?…これが、《看守長》」

 

「確かに、デカイな」

 

部屋が明るくなり、その存在の大きさを認めたスカルはウッ、と小さく呻く。

デカイ、その大きさは実に8メートルはあろうか?2メートルの机でさえミニチュアグッズに見えるほどだ。

それが、不気味な1つ目でプレイヤー達を見下ろし、クフォクフォクフォと嗤う。

 

「撃て!」

 

弾丸、閃光、爆発。

7方向から放たれる射線を物ともせず、看守長は右腕をやおら持ち上げると、そのまま振り下ろした。

 

「死んだ死んだ死んだーーあーッ!!?」

 

「ジムがやられた!」

 

「ぐふっ、まさかこんなに強いとは…ですねえ!!」

 

「クッ、頭集中的に狙え!身体はプロテクターでガードしてるぞ!」

 

ブチュッと、白いプロテクターを着ていたジムが潰れてポリゴン片がキラキラ光る。

嘘……、黒髪の少女が呟きを残し、手のひらで顔を覆う。

 

「こんなに、こんなに看守長ってノロマなんだ。……なーんだか、ボクがっかりしたかも」

 

「バニラちゃんもチョコちゃんに同意にゃ!」

 

不敵にも2人の少女が笑う、その幼さに不釣り合いな銃を引っさげて。

 

「よっ、ほっ、ほっ」

 

「にゃーははー。鬼にゃんこちら〜」

 

軽快なステップを刻み2人は動く。

机の上を飛び回り、壁を走り、棚を、模型を、アイアンメイデンを蹴り飛ばし、看守長の周りをうろちょろと駆け巡る。

 

「やたっ、橋が架かったかも」

 

看守長が左手を振り下ろす。

しかしそれすらも背面跳びで交わしたチョコはぺろりと舌を出してその腕に乗っかる。

高い敏捷性に《アクロバット》スキルもかなり高いことが窺いしれる動きだ。

……もしくは、リアルでこのような動きを実際に出来るバランス感覚と体幹の持ち主か……。

 

「ほいほいほいっと」

 

看守長の腕を連続ジャンプで上り詰め、肩から頭へクルクルと空中一回転して着地したチョコは、同じように駆け上がって来たバニラと看守長の頭上でハイタッチして看守長の頭から飛び降りながらプラズマグレネードを看守長の口に放り込んだ。

 

数秒後、起爆したプラズマグレネードが青白い光を発して看守長の頭を爆散させた。

 

「しゅーりょー」

 

「お疲れにゃん」

 

「……」

 

呆然としたスカルは、この瞬殺劇を繰り広げた少女を見て絶句する。

 

(アリーヤから強いとは聞いていた。fps系は元よりVRMMOが初めてにしてはセンスが良いとも!……最近のGGO関連のスレ立てでもGGOのアイドルとか聞いて今回実際に戦いながら観ていたが!こいつら、こいつら…!今まで実力を隠していたのか?)

 

道中の戦闘でもチョコとバニラの戦闘力は自称fps中級者のアリーヤを凌いでいると判断していた。

しかし、対人戦からモンスター戦まで幅広いジャンルを戦って来たベテランのスカルでさえ一瞬慄いた看守長を瞬殺したチョコとバニラは、既に上級の域に達しているといえる。

 

(アリーヤもいい拾い物をしたな)

 

古参のプレイヤーからはお財布、サンタクローズなどと嘲られている1人のGGOプレイヤーを思い返し苦笑していると、少女が首を傾げた。

 

「……あれ、ドロップしなくない?」

 

『クフォクフォクフォクフォクフォクフォクフォクフォクフォクフォクフォクフォ』

 

「!?なっ」

 

「……しぶと」

 

頭を爆散された筈の獄長から新しい頭が生え出している。

そのまま不気味な笑い声を木霊させて、右腕を振りかぶる。

 

「ぐふふふ。消化不良でしたしねぇ。第2ラウンドといきましょうかぁ」

 

「………」

 

「うわー。バニラちゃん。ちょっとあれ、グロいかも」

 

「チョコちゃんチョコちゃん。ちょっとも何も、アレはグロテクス過ぎて気分悪いにゃ〜」

 

一体の骸骨と6人のプレイヤーの第2ラウンドが始まるーー。

 

 

 


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