英霊召喚システムで召喚される英霊は、有り体にいうと本物の英霊とは言い難い。世界の外側にあるとされる「英霊の座」に召し上げられた英雄達のコピー、と言い換えた方が正しいだろう。
サーヴァントというのは、そういう英雄達の一側面を抜き出し、決められた枠に当てはめた存在である。
例えば、ギリシャの大英雄ヘラクレス。現在ではバーサーカーとして現界している彼だが、その狂暴性はバーサーカーというカテゴリに当てはめられたことにより生前よりも増している。逆に三騎士のクラスで召喚されたとすれば、生前以上に高潔な精神が強調されて現界するだろう。
つまるところ、「いつ」、「どこで」、「なにをしていた」時の英霊を召喚するかは、召喚者側であるマスターの実力と運、加えて用意した触媒によって左右される。
「…………」
「…………」
苦虫を噛み潰したかのような表情で互いに目を合わす騎士王アルトリア・ペンドラゴン、光の御子クー・フーリン。彼女らもまた、そういった別側面を多方に有する英雄の一角といえよう。
カルデア内を適当に歩き回るだけで一日一回は別側面の自分と出くわす。中には「IF」の世界からやってきた色物もいるが、それとしても鏡でもない自分を見るのはあまり良いものではない。
「フハハハ! 実に痛快よな。あのハイエナランサーめが全身青タイツ。我が宿敵セイバーに至っては、此度の戦場ではか細き乙女ときた! セイバーに纏わりついていたあの女も、このセイバーを前にして同じ態度をとれるのか試してみたくなるな」
響き通る高笑い。金髪紅眼。傲慢不敵を崩さない黄金のサーヴァント。
英雄王ギルガメッシュ。古代ウルクを収めた原初の王であり英雄。そして聖杯戦争ではギルガメッシュ幾人かのサーヴァントと浅からぬ因縁を持つ厄介者。
----なのだが。
「……ランサー」
「……思うところはおんなじだろうよ、セイバー。こう、なんだ? 同じ顔がポンポン増えまくる俺らが言えた台詞じゃあねえんだが……」
片眉を吊り上げるクー・フーリン。ますます苦い顔を浮かべるアルトリア。
自然と、その口から漏れた言葉が重なった。
「「----コイツ、本当にギルガメッシュか?」」
姿形は確かにギルガメッシュと言える。彼の存在証明とも言える眩い黄金の鎧は、黒のライダージャケットを羽織っているため見受けられないが。
既にカルデアに滞在しているギルガメッシュと些か貌が違うところも許容はできる。
「世迷言を。我こそが最古の英雄、我こそが全てを統べし真の王。絶対強者たるギルガメッシュを名乗れる者など、最果てを探せど我以外におるまい!」
「……何だろう。この妙なテンションの高さは」
「ああ……。なんつーか、調子狂うな……」
唯我独尊がヒトガタになったような傲岸不遜の塊。この世全てを見下すような物言いがギルガメッシュ最大の特徴。傍観に徹し、先を知りながら語らず、自己の愉悦のためだけに活動する人類最古のジャイアニスト。
それが二人のよく知るギルガメッシュという人物像だった。
だが目の前ギルガメッシュはどうだ。相変わらず上からの言葉が目につくが、まるで別人かと疑うほどに知古のそれとかけ離れていた。
なんというか、暑苦しい。天上天下我以外格下な根本は変わらないものの、それ以上にグイグイ捲し立てる勢いが強い。
簡単に言えば、なんだかテンションが高いのだ。
「もとよりこの可能性上を
「随分楽しそうに笑ってるなあ。笑い袋でも飲み込んだんじゃねえのか?」
「これが笑わずにいられるかランサー。あれより幾分、齢を重ねた故の趣向の変化かは知らぬが、そのピチピチ青タイツは反則だろう! 仮装大会なら一しきり笑い倒した後に突き落としてくれるところだ!」
「ほんとなら裸でいいんだよ裸で! 色々アレな事情があったんだから仕方ねえだろ!」
アレな事情については深く言及することはない。そもそも裸でカルデアをうろつこうものなら、即座にはっ倒されたうえで師匠にお持ち帰りされる光景が容易に想像できる。
「ほう、中々話の分かる男ではないか。肉体こそ原初にして至高の武器。我も生前は地を駆け空を駆け、数多の怪物をこの拳で捻り潰した身だ。先も下半身をおおっ広げに晒した女とすれ違ったが……あれは置いておこう」
「こいつは意外だ。いつもは腕組んだまま宝具をバカスカ撃ってくるイケスカねえ戦法とってる割に、どうして粋な性格してるじゃねえか。度々重ねるがお前本当にギルガメッシュか?」
「くどい! この我に二言を応えさせるな!」
「へいへい。そういうとこは変わってねえな。むしろ安心したぜ」
太古の英霊同士通じ合うものがあったのか、互いに不敵な笑みのまま睨み合う青と黄金のサーヴァント。
その感性が全く理解できないアルトリアから見れば、露出狂二人という認識のままに終わってしまうのだが。
すると、ギルガメッシュがふと思い出したかのように紅瞳の視線をクー・フーリンからアルトリアへと移す。
「ところでセイバーよ」
「何でしょう」
「----貴様、女が好きとかではないか?」
「ブフッ」
真顔のまま尋ねるギルガメッシュ。突然のあまり咽び、暫く咳き込んだ後、背中をクー・フーリンに摩られて持ち直したアルトリアが頬を真っ赤にしつつ猛反論した。
「な、な----何を馬鹿なことを言っているんですか貴方は!」
「いや何。我の知るセイバー『アーサー王』はしっかりと男であったのでな。生娘である貴様が同性を愛する性癖ならば、それが分岐点となり我の知るセイバーと別れたのかと明察したのだが」
「そんなわけないでしょう! 私は、その……」
「んん? ----ほほう」
一瞬間を置き、はっとしたギルガメッシュは瞳を細めてニヤニヤといやらしい笑みと変わる。
「な、何ですかその目つきは」
「我としたことが一瞬気付かなんだ。生娘というのは訂正しておこう」
「…………----ッ!!」
「落ち着けってセイバー! こんなことでマスターの魔力吸い上げてちゃキリねえだろ!」
「離してくださいランサー! 多少違えども、やはり私はギルガメッシュとは相容れないんです!」
黄金の輝きを増し始めた聖剣を振り上げるアルトリアと、羽交い締めにしてどうにか宝具を抑え込むクー・フーリン。当のギルガメッシュはますます笑みを深めて喉の奥でくつくつと笑う。
「ククッ。激怒に駆られて我を睨むその姿もますますセイバーだ。そしてよく見れば見込みのある女でもある。彼女と出会うことのなかった我がいれば、貴様にも一声望むやもしれぬな」
「ギルガメッシュはお断りです」
「ハッ! 強く出るではないかセイバー。それでこそ我が宿敵と認めた男の女よ!」
「その言い方はやめてください。微妙な気持ちになります」
「しっかしこのセイバーが男の世界ねえ。どんな奴だったんだ?」
「フッ。我に問いを投げかけるとはいい度胸だ。だがいいだろう! 此度は機嫌がいい」
クー・フーリンも----ひいてはカルデアの人々全員が「アーサー王は女性だった」という歴史とは違う事実を既に受け止めている。
流石にぽこじゃか増えるアルトリアまでは計算外だったが、史実と違い実は女性だったという英霊はこのカルデアにおいて割と少なくない事例だったりもする。中には例外の白百合の騎士などもいたりするのだが。
だが、この英雄王のいうところのセイバーとは、真に男性であるアルトリア----アーサー・ペンドラゴンであるらしい。
それが逆に新鮮な話だと、クー・フーリンはなんとも奇妙な感覚を抱いていた。
「何も難しい性格ではない。マスターに従順で誠実、気遣いができて時折毒舌をかます、むしろわかりやすいまでに少女漫画の主人公そのものだ」
「聞いてる限りじゃたいして変わらねえ気もするな」
「マスターに付き従うその姿はまさに物語の騎士のような立ち位置だろうな。あやつの空気の読めぬ邪魔立てで何度空気を壊されたか……! 思い返したらあやつへの怒りと彼女への愛情がぶり返してきたぞ! この気持ち、まさしく愛だ!」
「うるせえ! いきなり叫ぶなよ!」
アーサー、そしてそのマスターに思うところがあるのか途中からかかっていくエンジン。セイバーのマスターのことになるとどうもテンションが振り切れて一層面倒くさい。
長話をくどくど語られる前にいったん退散しようと二人が食堂の席を立った、その時だった。
「----先刻から耳障りな怪音を放つ不敬者は誰ぞ」
食堂入口から届いた底冷えした冷気を伴った一声。
アルトリアとクー・フーリンの顔が今日一番で苦々しく染まった。最悪だ。最悪すぎるだろう。直感スキルに頼らなくても非常に面倒な未来が見える。
「……やべえ。このタイミングで一番やべえのがきたぞ」
「ええ、あれとこれを会わせるのは非常にまずい。ランサー、貴方の奥義『ブーメランサー』で時間稼ぎをお願いします」
「そんな奥義ねえよ! っつかできても稼げるわけねえだろ!」
「どうした。何を狼狽している? 今から我の愛しき女について語ろうというのに」
「その話はまた……ええ、いつか聞きますので。今はどこかに----」
だが時すでに遅し。コツ、と小気味よい足音が鳴る。
勢いよく食堂の扉が蹴り飛ばされ、その足音の持ち主が姿を現した。
三人の視界に飛び込んできたのは、紛うことなき黄金だった。
「誰の許可を得て我の耳にそれを聴かせた。その罪、本来であらば死をもって贖うべき大罪である!」
「「----あっ」」
----英雄王ギルガメッシュ。
一人だけでも多くの厄介事を振りまく愉悦極まりない超越者。
そんなギルガメッシュ同士が偶然の、万分の一にも満たない奇跡の確率をすり抜けて邂逅したのならば。
「----貴様! その品のない鎧でギルガメッシュを語るとは迷惑千万! 我の気品に泥を塗る気か! アヤカにでも知れ渡ったらどうしてくれる!」
「ええい、貴様こそ一人の雑種如きに現を抜かすとはギルガメッシュの名折れよ! ギルガメッシュを騙るならばその思考を捨てて万物の観測者となるところからやり直せ間抜けが!」
「愛に生きずに何が英雄か! 観測者である前に我は英雄、そして一人の男。欲した女を求めて何が悪い!」
「そこは分かる。だが貴様は許せん! 今ここで我が宝物庫の錆にしてくれる!」
その場に居合わせた----というか逃げ切れなかったアルトリアとクー・フーリンをも巻き込んでの四つ巴の争いが今まさに食堂で勃発するせんとした最中、レイシフトから帰ってきたマスターによってどうにか事なきを得た。
その後マスターが呟いた「英雄らしい振る舞いをした方が格好いいよね」という言葉により、二人の英雄王はどちらが真の英雄王らしいか見定めてもらうべく竜なり何なり狩り始めたそうな。強制的にマスターを連行して。勿論ありがた迷惑である。
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クラス:アーチャー
真名 :ギルガメッシュ
キャラクター紹介
かつて世界の全てを収めた英雄王ギルガメッシュ。
アルトリアと対峙した彼とはまた違う別の存在。
もう一人の英雄王にして「原点」。
パラメーター
筋力:C
耐久:C
敏捷:B
魔力:A
幸運:B
宝具:EX
小見出しマテリアル
stay/night英雄王とは仲が悪い。品がない金ぴか鎧だけどとりあえず寄越せと剥ぎ取りにかかる。
子ギルからは「成長した本来の僕よりマシ」とさほど嫌われてない模様。
AUOよりも好戦的な性格のためか、アキレウスや金時といった英雄色の強いサーヴァント達と波長が合う。
たまにトレーニングルームにこもって手合わせしている。本人たちにとっては遊びの一環だが時折カルデアが揺れるのでクレーム殺到中。でも聞く耳持たない。
双剣、オカン属性とアーチャーエミヤとの相性自体は良い。ただエミヤ側が複雑な気分。というか第五次聖杯戦争参加者は皆複雑な気分。
ギル「我ら」
旧ギル「輝ける」
オジマン「黄金の古代王」
「「「その一番と二番と三番である!!」」」
ニトクリス(これはひどい)
イシュタルが金切り声を上げそうな面子