もしあの英霊がカルデアに召喚されたら   作:ジョキングマン

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番外:鉄の黒騎士

 

 --本日、偉大なる我らが騎士王が来室された。

 

 微小に発生した特異点の修正のため、レイシフトして原因を絶ってきたという。

 世界が滅べば、ブリテンの栄光も無きものとされる。それだけは阻止せねばならない。

 しかし、陛下ともあろう御方があのような成人にも満たない若者に付き従うなど。

 陛下は寛容的だ。過ちを良しとし、罪を赦し、罰を免除する。それは完璧な王として、当然の振る舞い。

 対して、あれはどう取り繕っても平凡。平均で、平民だ。

 ただの民衆でしかないあれが勘違いし、陛下の対応につけあがった暁には、我が鎖の錆としてくれる。

 

 思考にふける自分に水をかけるように、陛下が使命を下された。昨今、不足しがちな資材を的確に調達できる時代の見直し、ということだ。

 カルデアにあらかじめ備蓄されていた資材も、イエローライン寸前だという。

 資材の不足は兵士たちの士気に大きく影響する。これは、重要案件として最優先に処理すべきか。

 その後、陛下へ提案するには不確定要素も多いが、今後の資材運営についていくつかの案を講じてみた。

 実行に移すには構想の域を出ない。もう少し、確実性を練り上げておかねば。

 

 ◇

 

 --本日、かの聖槍を携えた陛下が来室された。

 

 自分は騎士王アーサー・ペンドラゴンに仕えた身。しかしながら、かの王もまたアーサー・ペンドラゴン。

 ならば、忠節に尽くさない道理がない。

 惜しむべきは、自分がかの陛下に仕えた自身と記憶を共有できていなかったことか。

 気にするな、と王は笑う。だがこれでは、真の忠節を尽くせない。

 別の世界の自身の記憶程度、どうにか共有できないだろうか。

 

 聖槍の陛下が課題を持ってこられた。内容は、異性から貢物をいただいた時の適切な礼節の振る舞い方、というものだ。

 騎士王と違い、聖槍の陛下は誤魔化しきれない肉体。そうなると、それらしい振る舞いの一つや二つ、できて当然と解釈される。

 勿論、陛下はある程度の知識や技術を身に着けたうえで、私の実力に不足がないかを試しているに違いない。

 臣下の能力を常に気にかけ、向上心を捗らせる陛下の御心は深い。

 心なしか陛下の頬が赤いように見えたものの、知識の限りを搾り、王者の気風溢れる振る舞いの例をいくつか提案した。

 もっと陛下に最適な助言を与えられるよう、知識を蓄えておかなくては。

 

 ◇

 

 --本日、水上活動に適応された服装の陛下が来室された。

 

 なんというか、その、直視することがおこがましいほど輝いておられている。あまり肌をお焼きになられないようにクリームを手配しておく必要があるか。

 そして失礼ながら、湖の精霊が作りし星の聖剣を水鉄砲にくくりつけてまで使うのはいかがなものだろう。

 神秘性というか、色々と台無しに見えてしまう気がする。だが陛下はご満悦そうなので、それはそれで置いておく。

 

 シミュレータルームで構成した海辺での行動が多いためか、泳ぐ機会も多くなると陛下がおっしゃった。

 王たるもの、泳ぎの一つも手本を見せられずしていられるか、ということで相談に参ったらしい。

 陛下は精霊の加護を受けておられるので泳ぐ必要がないのでは、と返したが、それとこれとでは話が別のようだ。

 この場にケイ卿がいないのは痛い。とはいっても、ケイ卿はケイ卿であてにならない水泳方法を披露するので参考にならない類か。

 後日、直接陛下の泳ぎを見て考慮することにしてその場はどうにか収まった。

 そのための時間や場所、それと円卓の騎士の誰かを呼びつけておかねばなるまい。次に空いている時間はいつだったか。

 

 ◇

 

 --本日、無辜な民たちに正当な報酬を授ける姿の陛下が来室された。

 

 クリスマスという祝祭の主催を担う人物。端的に言って、サンタクロースの恰好をした陛下が現れた。しかも黒い。

 そもそもサンタクロースは聖ニコラウスという人物がモデルであり、まかり間違ってもアーサー王と同一視されるような存在ではなかったはずだと記憶している。

 まさか、単純にコスプレがしたかったのだろうか。いいや、陛下に限ってそれはあり得ない。それにしても、手足が冷えそうなお格好だ。

 

 後から来日したくせにでかい顔をするハロウィンをどうにかしろ、と申しつけられた。

 異国の文化だったものが、さらに別の異国の文化としてなじんだものをどうにかしろとは、あの蛮族共を根絶させることくらいに匹敵する難題だ。

 どうにかしろ、というのも陛下にしては随分と曖昧な表現である。文化が根付いた町村ごと根絶やしにする、という策も考えられるが、カルデアを根絶やしにするわけにもいかない。

 流石に、この場ではすぐに解答できないと陛下に頭を下げる結果となってしまった。

 そうか、と陛下は気にする素振りを見せなかったが、内心では自分への評価を著しく下げてしまったに違いない。必ずや陛下のお役に立つ、と忠義を交わしたにも関わらず、己はなんと不甲斐ない。

 また一つ、悩むべき課題を抱える形になった。

 

 ◇

 

 --本日、黒く染まった陛下が----

 

 

 

 ◇

 

「アグラヴェイン卿の様子がおかしい、ですか?」

 

 自分でも間抜けに聞こえてしまうほど、口から滑り出てきた言葉はぽかんとしていた。

 定期的に行われるメディカルチェックの帰り道。微小な特異点も確認されておらず、自分たちにとっては貴重な休日。

 これといった予定も決めていなかったので、先輩の部屋にお邪魔するかレオニダス一世の守護陣形特訓に勤しもうかと決めあぐねていたところ、ばったりと出くわしたヒロインX、アルトリア・リリィにそのような話題を持ちかけられた。

 

 アグラヴェイン。

 誉れある英雄譚、アーサー王伝説に登場する円卓の騎士の一員。そして、ある特異点で敵として立ちはだかった強敵。

 アーサー王からの全幅の信頼を得るほどの忠義の騎士とも、魔女モルガンの手先で円卓を破滅に追い込んだ邪悪な騎士とも呼ばれている。

 評判はさておき、色々な意味で常識を打ち破ってくる円卓の騎士の中でも常識人というのが自分の認識である。

 だから、常識人たる彼が異様を示していると耳にして、思わず尋ね返した。

 

「はい。いつもの執務室を尋ねてみたら、いないんです」

 

「あのアグラヴェイン卿が執務室から……」

 

「しかもここ数日、毎日それが続いているんです」

 

「数日間もですか?」

 

 亀が自分の甲羅を放り投げたのを見たかのように、奇妙な声のトーンになってしまった。

 円卓の騎士の一角なだけあって、アグラヴェインの戦闘能力は非常に優れている。

 しかしもう一点。文官としての才も持ち合わせていた。

 それを買われ、彼はもっぱら執務室で各種書類の対応を任されている。騎士王アルトリアから直々に下された命令を実行している、と言い換えてもいい。

 膨大な仕事量から、アグラヴェインが執務室から外出することはめったに起こらない。人間嫌いを自称していることも理由の一つになるか。

 たまさか彼が執務室を出るときは、それほどの大事に対処している可能性が高い。まして、一回では片がついていないということだ。

 リリィの驚愕具合のほどがよく伝わってくる。自分が同じような現場を目撃してしまったら、すぐさま先輩に相談しに行っていた。

 

 付け加えるように、ヒロインXがピンと指を立てる。

 

「ちなみに、机にこんもり乗っかってた書類の束は全て処理されてました」

 

「流石、どこまでも抜かりありませんね……」

 

「なんたってアッくんですので」

 

 言って、自分の事のように誇らしげに胸を張る。

 あれほどの優秀な臣下なら、よそに自慢して回りたくなる気持ちも充分理解できる。

 ただ、貴方は一応騎士王とは別人の設定で通しているのではなかっただろうか。そこら辺の判断基準がかなり緩いが、自分としては何も口出しできない。

 

「他の円卓の騎士の方々にも話したのですか?」

 

「それが、今まさに師匠と相談していて、声をかけるべきか考えていたところなんです」

 

「うーん。だけど今のあれらが、果たしてまともに行動するかどうか」

 

 口にして、三人でうんうんと唸ってみる。

 カルデアボーイズコレクションに絶賛参加中の円卓の騎士たち。どこで仕立てたのか煌びやかなスーツを着こなして、おかしな熱に浮かされている光景が目に浮かんだ。

 

「うん、ないな」

 

「ないですね」

 

「ちょっと難しいかも……」

 

 どう思考しても余計な方向へ転がっていく展開しか想像できない。おまけに今回は、ベディヴィエールまで向こう側に回ってしまっている。

 似たような展開にしかならないと至ったのだろう。二人も同じく、苦々しげにかぶりを振っていた。

 

「今日も外出されているのでしょうか」

 

「いつもお昼前くらいに外出しているみたいです」

 

「食事、はとらないですよね。サーヴァントだから必要ないっておっしゃっていましたし」

 

「そういえば最近、ランスロット卿への当たりが強いような気がします」

 

「それはいつものことのような……」

 

 アグラヴェインが手をこまねくような事態。ダ・ヴィンチちゃんやスタッフの方々から緊急の連絡も届いていないので、人理を揺るがすような致命的な話という線は薄い。

 それでいて、たいていの事態を彼は執務机の上で片付けてしまうので、アグラヴェイン自体にとってよほど急を要する事態となる。

 散らばるパーツ。どうにかそれらを手繰り寄せ、なんとか頭を回転させて。

 ふと、打ち上げ花火みたいに浮かんだ発想をぽつりとこぼした。

 

「----もしかして、アルトリアさんが多いから、とか--」

 

「詳しく」

 

 光りのような速さで、格好の得物を見つけた猛獣よろしく瞳を光らせた宇宙人(エイリアン)が割り込んできた。

 

「そうです。なんだかんだでおざなりに流されてきましたが、私の本来の使命は私以外のセイバーを抹殺すること。それが臣下の悩みの種とあれば、公的な理由をつけて遂行できるということでは?」

 

「お、落ち着いてくださいX師匠」

 

 ふんすと鼻息を鳴らして興奮する彼女を、少女がどうとたしなめる。私的な理由で動いていた自覚はあったらしい。

 ひとまず、話を戻そうと二人に呼び掛ける。

 

「前にサンタオルタさんから伺った話なんですけど、アグラヴェイン卿はよくアルトリアさんからご相談を受けていたとか」

 

「アッくんは困ったときに頼りになりますからね。彼の提案する策はだいたい揉め事を解消してくれます。人間関係は別として」

 

 ヒロインXも助け舟を出してもらったことが何度かあるらしい。 

 さりげなく危険な要因を含んでいるように訊こえるが、今は触れずに話に集中する。

 

「ですけど、カルデアにはアルトリアさんがたくさんいます。ということは、全てのアルトリアさんから一極に相談を受けていたりしたのではないでしょうか」

 

「あ~、あり得ますね。私もよく足を運んだ口です」

 

「実は私も……。直接的な面識はないのですけど、何か困ればアグラヴェイン卿が解決してくれるとマーリンが教えてくれたんです」

 

冠位的(グランド)クズ……」

 

 ぼそりと、ヒロインXが悪態をこぼす。

 花のように咲き誇った笑顔で、華麗に面倒ごとを押し付けていく魔術師の幻が脳裏をよぎった。アグラヴェインのしわの一因が、また一つ分かった気がする。

 ん、んん、とヒロインXがわざとらしく咳払いする。おぼろげに宙を漂っていた幻像が、波立った水面月のように一気に霧散した。

 

「つまりは、こういうことですね」

 

 全てを悟ったと言わんばかりにヒロインXが断言した。

 

「私とリリィ以外のセイバーを合法的に抹殺すれば万事解決!」

 

「ダメです」

 

「むう」

 

 即答での却下に頬をむくれさせて押し黙る。冗談ではなく、本気が入り混じっての提案だから油断できない。

 あまり気にしないのか、ヒロインXはすぐさまふっ切れてアグラヴェインの現状をまとめはじめた。

 

「とはいえ、私以外のセイバー……もといアルトリアシリーズからの多種多様な相談。相も変わらずはっちゃけている円卓の騎士の後処理。いるだけでストレスのランスロット卿。カルデアスタッフから一任された書類整理。

 これら生前以上の高ストレス環境に耐え切れず、何かしらの奇行に走っているかも、と」

 

「可能性は高くないですけど、無しとも言い切れないです。それだけ、アグラヴェイン卿が引き受けている業務は多岐に渡ります」

 

 他者との交流を断つことを望んだとはいえ、常に複数の仕事を抱えての生活はとんでもない重圧だ。

 アグラヴェインがどれだけ有能な文官だとしても、その前に彼も一個の人間。抑えきれる精神にも限界は必ず訪れる。

 ブリテン、聖都での仕事量がどれほどだったのかわからない。けれど、ここでの彼が忙殺されていることは間違いなかった。

 すると、思いついたようにリリィが意見を出した。

 

「直接本人に訊くというのは?」

 

「アッくんは自分のことになると謙虚になるんですよ。それに私が訪ねても”王のお耳に入れるようなことではございません”と言って内に閉じたままにするのが目に見えますね」

 

「X師匠、声真似お上手です!」

 

 眉間に深いしわを寄せたヒロインXが、バリトンの利かせた声で当人の口調を真似る。特徴をしっかり捉えてのモノマネだからか、本人が王の前で発言している光景が容易に想像できた。

 声色を、バリトンから正常に戻して彼女は続けた。

 

 

「ですので、訊くのではなく()けましょう」

 

 帽子をかぶった少女の表情(かお)は、初めて悪戯を仕掛ける子供のように輝いてみえた。

 

 

 ◇

 

 

 執務室、とは言うが、カルデア内に設けられている執務室のことではない。

 第六特異点で観測したデータを元に再構築、復元したシミュレータルーム。城塞聖都キャメロットの一室にある執務室こそ、アグラヴェインが拠点に据えている空間だった。

 

 絢爛な白亜の城に相応しい、二頭の獅子が向かい合う紋様の扉が開かれた。

 扉の隙間から現れたのは、厳めしい面構えをした騎士。騎士はきびきびとした動きで扉を閉め、肩から羽織ったマントをなびかせながら、通路の奥へと消えていった。

 

「--本当に、外出されましたね」

 

「ええ。これはいよいよ気になります」

 

 柱の影での呟きに、隣で壁に身を預けていた帽子の少女が頷く。

 今しがた執務室から出てきた騎士こそ、問題のアグラヴェイン。決まった時間に外出するらしいという情報を頼りに、翌日になって自分たち三人は集合して、物陰で部屋を見張っていたのだ。

 そして予想通り、アグラヴェインは部屋を後にした。時刻を確認すると、針はぴったりと十一時を指している。

 

「部屋に鍵をかけた様子はありませんね」

 

「かけてもあまり意味ないですし。書類の整理といっても所詮は仕分け作業みたいなもの、意図的な悪意があったところでせいぜい紙を散らかすぐらいしかやることないってアッくんが言ってました」

 

「そもそも、好きでアグラヴェイン卿の機嫌を損ねる方なんていらっしゃいませんよ。怒らせると怖いお方ですから」

 

 冗談交じりで、リリィがあめ玉のようにころりと笑う。

 一部、視界に入るだけですごい形相にさせる憂いの騎士がいるが、彼女の言う通りである。わざわざアグラヴェインを敵に回すような者はいない。それだけ恐れられていて、それだけ他人と関わらないからだ。

 柱越しに前方を確認していたヒロインXが、くいっと指でジェスチャーする。

 

「ささ、後をつけますよ」

 

 そう言って、しなやかな身のこなしで通路に躍り出た。流石は暗殺者(アサシン)のサーヴァントだ。

 

「私は生まれてこの方、永久不滅にセイバーですが」

 

「えっ、なんで考えていることが……」

 

「セイバー忍法・ヒラメキスターです。元祖直感持ちは伊達ではないのだ」

 

「流石師匠です!」

 

「うむ、もっと褒めるがいい!」

 

 --深く考えても、どつぼにハマるだけな気がする。

 どうでもいい思考はさっさと切り上げて、先行するヒロインXの背中を必死に追っていった。

 豪奢な柱が並び立つ通路を過ぎ、絵画のように煌びやかな広間を過ぎ。

 気づけば、城の正面入り口まで移動していた。ずいぶんと長い距離を渡ったためか、足に軽い疲労の蓄積を感じる。

 他の二人は純サーヴァント体なためか、汗一つ流していない。

 

「むっ、二人ともストップ」

 

 先頭を切っていたヒロインXが、片手を突き出して制止をかけた。

 言われて足を止め、背中を壁につけて呼吸を消す。気配遮断スキルこそ獲得していないが、物陰に隠れて呼吸を止めて瞑想に浸ればどうにかなった前例を知っているので、形だけでも真似てみた。

 自分の後をついてきていたリリィが、戸惑ったように表情を曇らせる。

 

「X師匠、どうかしましたか」

 

「アッくんの動きが止まりました。どうやら、正門で何かを待っている様子」

 

「待っている、ですか?」

 

 壁越しから顔を出してみると、開け放たれた正門でアグラヴェインが佇んでいた。

 地に足を埋め込んでいるのでは、というほどに真っすぐな立ち姿は、そこに一つの鉄壁の塔が生えたのではないかと思わせる。

 その時、アグラヴェインの正面の空間がぐにゃりとねじ曲がった。おかしな表現になってしまうが、まるで見えない手が空間という紙を掴んで捻った、というぐらいに歪曲したのだ。

 

「な、なんですかあれは」

 

 普通では見られない異常に、リリィの右手が柄へと伸びる。

 次の瞬間、空間から出現したのは、緑の外套を身に着けた男だった。

 

「----あいよ、お待ちどうさまっと」

 

 ひょうきんとした若い男の声が届く。

 その声には聞き覚えがあった。というよりも、自分は何度となく彼と顔を合わせていた。

 

「あれは、ロビンフッドさん?」

 

「ロビンフッド? あのニヒル野郎ですか」

 

 煙たそうに、ヒロインXが口を尖らせる。

 彼がロビンフッドであれば、先程の不可解な現象にも説明がついた。

 彼の宝具『顔のない王(ノーフェイス・メイキング)』は、文字通り透明になれる能力をもった外套。それならば、あの空間が歪んだ状態も、ロビンフッドが宝具を解除したから発生したと納得できる。

 それにしても、まさかこのタイミングで彼を見かけることになるとは思いもしなかった。

 柄に伸ばしていた手を収めたリリィが、不意を突かれたように目を丸くしてぽかんとしていた。

 

「なんというか、ロビンフッドさんとアグラヴェイン卿って、一緒にいるイメージがないですね」

 

「全くです。あんな奴とアッくんに、つながりなんてあったかな」

 

 柳のようにひょうひょうとしているロビンフッドと、鋼鉄のように堅物めいたアグラヴェイン。

 主観的だが、気が合う性格とは考えづらい。むしろ正反対に思える。

 珍しい組み合わせに目を白黒させていた時、遠方からロビンフッドの声が聞こえてきた。

 

「アンタの言ってた代物、調合してきましたよ」

 

 ほら、と軽い口調で若者が手を差し出す。距離が離れているため、それが何なのかは認識できなかった。ただ、片手の平に収まるサイズということだけは推測できる。

 岩のような顔をしたまま、アグラヴェインがそれを受け取った。

 

「--問題なさそうだ。毒薬に精通しているだけはある」

 

「お褒めに預かり光栄ですってね。しかしアンタ、いいのかい? 今回の品、あの毒婦にも助力をいただいたんだけど。俺はさておき、あの女のことめっぽう嫌ってたじゃないの」

 

「信用に値すると判断したのなら、私は遠慮なく力を借りる。たとえそれが、自分を斬り殺した男の力だとしてもだ。そんなこと、貴様こそよく分かっているはずだが」

 

「まあ、そこはそれですから」

 

 はぐらかすように緑の青年は笑う。鉄の表情の騎士は、それすら眉一つ動かさずに眺めていた。

 

「ほいじゃ、あとはそちらのお仕事っつうことで、俺ぁ帰らせていただきますぜ」

 

「ご苦労だった。そちらの報酬は然るべき時に」

 

「あいあい、了解です」

 

 短く別れを済ませ、青年は透明色の筆で塗りつぶされたように掻き消える。一人残ったアグラヴェインは、受け渡された代物を改めて確認していた。

 あらかじめ示し合わせていたかのように、三人して同時に顔を近づけた。

 

「あのアグラヴェイン卿に思わぬパイプがあったとは、思いもよりませんでした」

 

「マスターやマシュさんを除くと、円卓の騎士か、私が本来の歴史で成長したアーサー王、そして三蔵さん含めた一部のサーヴァントとしか知り合ってないとばかり」

 

「確かにそこも驚くべき点でした。けれど--」

 

 アグラヴェインが毎日、決まった時間にこの場所に来ていた理由は、ロビンフッドと何か密約を交わしていたためだった。

 では、なぜロビンフッドなのか。

 なぜ、毒手の英霊と物流を執り行っているのか。

 頭の中で稲妻が閃く。推理するまでもなく、いたって簡単に解答は導き出されてしまったからだ。

 想像を絶する解答に、唇がかすかに震える。

 

「アグラヴェイン卿は、毒薬を入手するために暗躍していた……?」

 

 まさか、と心のどこかで強い拒絶の悲鳴が響く。

 しかし、ここまで揃えてきた言動が、容赦なく事実の裏打ちを縫い付けてきた。

 

「毒薬、ですか。私もからめ手で毒を織り交ぜたりしますが、アッくんの戦闘スタイル的に毒は合わない気がしますが。まして、他人製の毒薬なら尚のこと」

 

「そ、そうですよね」

 

「ここはカルデアなんですし、アグラヴェイン卿がわざわざ毒薬で悪さを企むはずがないですよね」

 

 リリィと一緒になって、ほっと胸を撫でおろす。この中で一番アグラヴェインを理解している彼女が言うのだから、彼が毒薬を入手する動機がないことが断言されて安心した。

 だが、徐々にヒロインXの眉間が狭まっていき、雲行きが怪しくなっていく。

 

「いや待てよ、自分用でないのなら誰かに盛るのか? しかし、アグラヴェイン卿の交友関係を考慮すると、わざわざ毒を盛ってまで行動に移すような人物は--」

 

 細い指を顎に添えて、探偵物の主役探偵のようにヒロインXが思考を張り巡らす。

 いつになく真剣な目つきは、下手をすればセイバーを相手取った時よりも本領を発揮しているように見えた。口に出すとまず怒られるので、喉の奥で飲み込んでおくことにする。

 突然、ヒロインXが至ったかのように声を漏らした。

 

「--まさかアッくん。ストレスのあまり、一番のストレスであるランスロット卿に毒を盛るつもりでは!」

 

「ええっ!?」

 

 自らの師匠が弾き出した推測に、白百合の騎士が愕然とした。

 

「さ、流石にランスロット憎しのアグラヴェイン卿でも、そこまでは……」

 

「いいや、リリィくん。あの二人、本当に仲が悪いのだ。アグラヴェイン卿のストレスの半分はランスロット卿が占めているくらいに。

 とくに最近の卿の浮かれ具合、私でもちょっとイラっとするくらいですし。これがランスロット専用復讐者(アヴェンジャー)であるアグラヴェイン卿から見ればどう映るか……」

 

 舐めてはいけないぞ、とヒロインXが念入りにリリィへと注意する。

 最近というと、やはりスーツを着て瀟洒に着飾った写真が思い浮かぶ。

 自身の生前の所業を憂いながら、平然とああいう振る舞いに出る神経が理解できない。もはや病気ではなかろうか。

 

「それは同感です。けれど、卿がそんな冷静さを欠いた行動をとるとは思えないです」

 

「そうですよ師匠! 同じ円卓に集った仲間なんです。私は、アグラヴェイン卿がそんなひどいことをする人とは思えません」

 

 自分の意見にリリィも同意を示した。

 それでもヒロインXの表情は固い。

 

「しかし、現実に毒の名手から、秘密裏に何か受け取ってしまったのを見てしまうと……。最大のストレス源だけでも始末するくらい、冷徹なアッくんなら企んでもおかしくはないですからねえ」

 

「ですが--」

 

 あれでもない、これでもないと三人で議論を交わし合う。

 アグラヴェインは尋問官としての顔も持ち合わせている。

 尋問を担当する以上、人体をどこまで弱らせれば命を落とさないか、という判断にも精通していることになる。裏を返せば、命を奪う毒薬の分量にも知識が及んでいるということだ。

 しかし、だけど、けれど、それでも。

 目の前で何かを受け取った彼を僅かに疑う自分。心のうちの何処かで、彼を信頼している自分。相反する胸中に揺り動かされていた。

 その時、天井の光を遮り、暗がりが上から被さってきた。

 

「--何を、しておられるのですか」

 

 低い声が、背後から浴びせかけられた。

 三人して、油の切れたブリキ人形のようにさび付いた動きで振り返る。

 思っていたよりもかなり近い距離に、仏頂面で不動に立つアグラヴェインの顔があった。

 

「どわあ!」

 

 誰の口から飛び出したのか、いっそ全員で言ったのかわからないくらいの素っ頓狂な悲鳴。反射的に、自分と他の二人はそろって飛び退いていた。

 いつ接近したのか。それすら気付かなかった自分たちの揉め具合を省みるべきか、気取らせなかったアグラヴェインに(おのの)くべきか。

 どちらにせよ、当人に見つかってしまった。

 アグラヴェインの眉間の谷がますます深くなっていく。

 

「陛下……が、お二人。それと、マシュ・キリエライトか」

 

 後半、嫌悪を微塵にも隠さない口調で自分の名を呼びあげる。

 数瞬だけ、自分を見下ろしたアグラヴェインだが、まるで興味ないとばかりにすぐさま視界から外された。

 

「陛下、私に何用でしょう」

 

 左胸に手を添えて、二人に向かってアグラヴェインが四角く傅いた。

 自分よりもひと回り以上大柄な男性が、自分とほとんど変わらない背丈の少女たちに膝をつく姿には、言いしれぬ圧と確固たる意志を感じさせる。

 

「その、今、ロビンフッド殿から何かを受け取っていましたが……」

 

「--見ていられたのですか」

 

 途端、空気が変わった。

 

「本来ならば、もう少し陛下には内密に事を進めたかったのですが」

 

 まさか、と先程否定した言葉がよみがえる。

 もう一度否定するかどうかさえ忘却してしまうほど、眼前に佇む男から有無を言わさせない重圧が叩きつけられた。

 怒気とも、殺意とも違う。アグラヴェインという男が積み上げてきた全てを、全身にぶつけられたかのような衝撃だった。

 尻餅をつきそうになって、震える足になけなしの力を込める。ヒロインXも、リリィも、この圧の中で変わらず立っていた。

 何より、彼女たちの前で、醜態を晒すわけにはいかないと霊基が叫んでいたからだ。

 

「--しかし、見つかってしまったならば仕方がない」

 

 俯き、傅いた体勢からゆるりと起き上がる。

 表情一つ変わっていないはずなのに、数瞬前とまるで印象が変貌したように見えた。

 その瞳は氷より冷たく、その口元は岩よりも固く、その意志は鉄よりも重い。

 自分たちが--否。マシュ・キリエライトが、このアグラヴェインの奸計を拝聴するに相応しい騎士か見定めているようだった。

 やがて、懐からロビンフッドから受け取ったらしい小瓶を取り出す。中は青と緑の絵具がごちゃ混ぜになったような、得体の知れない液体で満たされていた。

 手に取ったそれを、アグラヴェインはヒロインXに差し出した。

 

「これを」

 

「えっ、くれるんですか?」

 

 不意を突かれたのか、ヒロインXは一瞬固まったものの素直に小瓶を受け取る。

 少しの間、小瓶を揺らしてみたり覗いてみたり色々試しているようだった。

 すると突然、何か思い当たる節があったのか、目じりを下げていたヒロインXがハッとなって尋ねた。

 

「アグラヴェイン卿。これって、もしかして」

 

「はい。先日陛下が、フグペインと称されている毒物の解毒剤を切らしていたと伺ったので、予備を準備しておきました」

 

 そんな言葉が、目の前の騎士からさらりと放たれた。

 思いもしなかった予想外の展開に、三人して呆気に取られてしまった。

 こちらの反応を意に介さず、アグラヴェインは続けて楕円形の入れ物を取り出す。今度はそれをリリィへと差し出した。

 

「陛下にはこちらを」

 

「あの、アグラヴェイン卿。これは?」

 

「先日、調理場での火の扱いにまだ慣れないとおっしゃっていたので、万が一に備えて火傷に効く薬を揃えておきました」

 

 鳩が豆鉄砲を食ったよう、とはまさにこういうことなのだろう。

 白百合らしくない、間の抜けた顔でぽかんとするリリィをさておき、アグラヴェインは懐から次々と品物を取り出し始めた。

 

「こちらは筋肉の疲労を和らげる薬。こちらは過度な紫外線を遮断する塗り薬。これは低温環境でも足先が冷えないための末端を温める効能の錠剤。これは--」

 

「あ、アグラヴェイン卿?」

 

 淡々と薬品が取り揃えてられていく中、勇気を振り絞ってアグラヴェインに声をかけた。

 

「何だ、マシュ・キリエライト」

 

 打って変わって、鉛のように重く、冷たい瞳が向けられる。

 一瞬にして、喉元が干上がったような気がした。それでも唾を飲み込み、僅かでも喉を潤して言葉を紡いだ。

 

「貴方は、いったい何を?」

 

「見てわからないか。陛下の要望に応えるため、薬を準備していたのだ」

 

 何を馬鹿なことを、と不機嫌そうにアグラヴェインがぼやく。

 薬、と言ったのか。思考の片隅にも引っかけていなかった言葉に、ますます面食らってしまう。それでは、毒を扱うロビンフッドとは真逆の代物ではないのか。

 そこまで思い至って、ふと思考にふける。

 

「----あっ、そういうことだったのですね!」

 

「大方、貴様はあの男が渡したものを、毒薬だと思い違いしていたのだろう。無論、陛下がたに限ってそのようなことはあり得ません」

 

「そ、そうですね。流石はアグラヴェインだ、よくわかっていらっしゃる」

 

 虚空を見つめながら、固い笑いを浮かべる陛下その一。誤魔化し交じりに口笛を吹こうとしているが、慣れていないのかただの吐息が漏れ出すだけだった。

 

「つまり--毒を持って毒を制す、ということでしょうか」

 

 純心に尋ね返す陛下その二。嫋やかな花弁のような唇が紡いだ疑問に、アグラヴェインが礼節をもって訂正した。

 

「少し、違います。同じ極東のことわざで例えるなら、蛇の道は蛇、ということです。もしくは、薬も過ぎれば毒となる、でしょうか」

 

「--あっ、なるほど!」

 

 その一言でリリィも真意にたどり着いたのだろう。ぱちんと手を合わせ、ようやく発芽した新芽のように初々しい面立ちをしていた。

 

「つまり、過ぎなければ毒は薬になる(・・・・・・・・・・・・)。ボールスやパーシヴァルがいれば薬草探索に向かわせましたが、いないものは仕方がない。しかし、私自らが取りに行こうにも執務が片付くのに時間がかかってしまう。

 さいわい、この施設には有数の毒薬使いがいました。なので、彼らに薬の調合を依頼していたのです」

 

 ロビンフッドから入手した代物は、毒物などではなかった。

 むしろ驚愕させられた。あれだけの激務でなお、アグラヴェインは陛下のために奔走していたのだ。僅かにでも、疑ってしまった自分を恥じてしまう。

 だが、そうなるとまた新たな一つ疑問が浮かび上がってくる。

 待った、とヒロインXが呼びかけ、自分が抱いた疑問を代わりに問いかけた。

 

「だけど、それでしたら有数の回復魔術の使い手とかいませんか? ほら、そろそろ適齢期を気にして婚活考えていそうな魔女の魔女っ子とか、逆に幸せそうな新妻オーラ満載の露出服さんとか」

 

 辛辣な物言いを混ぜた、遠回しな意見をヒロインXがあげる。おそらくメディア・リリィと、天の杯となったアイリスフィールのことを言っているのだろう。

 彼女の言うように解毒や回復に関しては、彼女たちのような英霊が適任である。危険度の高いレイシフトを試みる場合などは、彼女たちがいるだけで継戦能力に大きな差が出てくる。

 その疑問に、アグラヴェインは巌とした口調で断言した。

 

「我ら円卓の騎士に、魔術師を信用できる瞬間があったでしょうか」

 

「確かに」

 

 ヒロインXも即答で頷いてしまっていた。

 

「ええ……」

 

「X師匠、即答ですか……」

 

「リリィは知らない方がいいのです……。ブリテン時代における、円卓絡みの魔術師のいざこざは」

 

 生前のどろりとした闇色の政争を思い返していたのか、少女はひどく遠い目をしている。

 伝承を振り返ってみれば、そこは同情せざるを得ない。アーサー王の姉モルガンは、事実上円卓を崩壊させた黒幕とされている。味方側についていたマーリンもまた、平時はご覧の有様。

 面白半分で余計な手心を加えられるよりは、確実性のある調合された薬の方が信頼しやすいということか。

 

「しかし、アグラヴェイン。何もあなたがここまで手筈を整えなくても大丈夫だとわかっているでしょうに。あなたは頼りませんでしたが、盾子も言ったようにここには回復術に長けたサーヴァントがいるし。何より、マスターに魔力を回してもらえば多少のけが程度、どうにかなりますって」

 

「失礼ながら、陛下」

 

 ヒロインXが話している最中に、珍しくアグラヴェイン卿が口を挟んできた。

 

「そも、陛下をサーヴァントとして従えるという所業を犯しておきながら、陛下との騎士の誓い(・・・・・)を交わさないあれをかばい立てする必要はありますか」

 

 あれ、とは先輩のことだろう。多数のサーヴァントを契約を結んでいる先輩は、必然的に構う回数に偏りが生まれてしまう。

 無論、自ら先輩に関与しないサーヴァントもいるし、それでなくても先輩に懸念を抱くような人柄な者はいない。善であろうと、悪であろうと、全てを受け入れてしまうのが先輩の何より尊敬するところだ。

 だが、アグラヴェインはそれが気にならないらしい。

 それは違う、と胸から込み上げる何かを反論と共に吐き出した。

 

「先輩は、決してアルトリアさんたちを蔑ろにしていません。アグラヴェイン卿のおっしゃっているアルトリアさんがどのアルトリアさんを指すのかは不明ですけど、戦術にどのアルトリアさんが最適かを瞬時に見極めたり、カルデアの中でも時間を見つけては、各アルトリアさんの様子を伺ったりしています」

 

「だからこそ、だ」

 

 強く、がんとして強く言い切った。

 爬虫類のように煌々とぎらついた瞳が、一斉に自分へと向けられる。途端に胸が締め付けられ、呼吸が苦しくなった。それでも、真正面から受け止めようと意地でも動かなかった。

 

「私は、あれ個人での召喚ならば応じるつもりは毛頭なかった」

 

「それでは、なぜカルデアの召喚に応じたのですか?」

 

「愚問なことを」

 

 一拍置き、鉄の黒騎士は言い放つ。

 

「陛下がおられたから、私はここに来たのだ。例え、仮初の主を得ることになったとしても、このアグラヴェインが真に仕えるのは我が王のみ。そして、私を召喚するのだから、あれも陛下に忠誠を示すことは当然の理だ」

 

 マスターの呼び掛けにではなく、生前付き従っていた王気を感じ取ったから召喚された。

 円卓の騎士は皆、死後もアルトリアを慕い、尊び、忠誠を誓っている。だが、アグラヴェインはどこか異質なものを感じた。

 

「いやいや、そんな重い感じで言わなくたって」

 

「御冗談を、陛下。あなたに比べれば、私などまだまだです」

 

 冗談めいて茶化した風のヒロインXに、本心からずしんと重い言葉を投げかけている。

 それよりも、アグラヴェインが言い放った言葉に、強い不安を覚えた。

 翻せば、アグラヴェインはマスターに忠誠を誓わない、或いは二の次ということになる。それは、先輩への叛逆の可能性を言外に伝えてきた。

 叛逆の騎士や圧制の反逆者、裏切りの魔女などが集うカルデアでは今更な話かもしれない。しかし、こうして面と向かってその可能性を示唆されてしまうと、心の中にいやな暗雲が再び立ち込めてしまう。

 その時、ぽんぽん、と軽く肩を叩かれた。

 

「マシュさん。アグラヴェイン卿は、たぶん大丈夫です」

 

「どうしてですか?」

 

 ヒロインXと会話しているアグラヴェインに聞こえない声量で、後ろにいたリリィが囁いてきた。

 思わず返した問いかけに、咲き乱れた楽園のような笑顔で彼女は微笑んだ。

 

「だって、少なくともアグラヴェイン卿は、アーサー王への忠誠を示すこと(騎士の誓い)を許すくらいに、マスターを信頼しているということですよ」

 

 ----ああ、なるほど。

 差し込んだ一筋の光が、心にかかりかけた暗雲を綺麗に取り除いた。

 アルトリアのあらゆる側面が、先輩をマスターとして契約を結んでいる。

 こうまでして崇拝するかの王が、先輩を信頼における人格や性格だと、彼は既に認めていたのだ。

 先輩はアルトリアが認めた、高潔な精神の持ち主であると。

 

「ですが、アグラヴェイン卿には言わないでおきましょう。X師匠の通り、謙虚で頑固なお方ですので、この場では決して認めようとしないはずですから」

 

「----そうですね」

 

 生まれが何であろうと、同じ騎士たちから嫌われようと。本人が、それを望んでいたとしても。

 彼もまた紛れもなく、アーサー王に生涯を賭して尽くした騎士の一人だったことに変わりはなかった。

 それが、鉄のアグラヴェイン。鋼鉄の身体と鋼鉄の意志を持つ、愚直なまでに忠実な男の正体だった。

 

「--とりあえず、アッくんが思い悩んでいないようでよかったよかった。いや、てっきりランスロットに毒でも一杯盛るのかと思いましたよ」

 

「おや、流石は陛下」

 

「えっ」

 

「最近、騎士としての矜持が揺らぎつつある円卓の騎士たちに、もう一度騎士としての高潔さを取り戻してほしいと思っておりまして。少なくとも、自身の不貞を兜を被ってまで逃避する愚か者や、見知らぬ女なぞにうつつを抜かして滑空する馬鹿などの惨状は嘆かわしいことです」

 

「あの、たぶん元からです」

 

「ええ。ですので、バカにつける薬というものを用意しました。ご安心を、こちらは信用できない魔術師たちに依頼しておいたものなので。また、トリスタンの伝承を考慮して、身体に害をなす毒物ではございません。あくまで薬です、あくまで」

 

「アッくん一旦休もうかやっぱりおかしいぞ君!?」

 

 背後で二人の騎士が何か騒いでいたようだったけど、リリィと微笑み合っていた自分の耳には不覚にも届かなかった。

 

---------------

クラス:■ ■ ■

 

真名 :アグラヴェイン

 

キャラクター紹介

 円卓の騎士。アーサー王の姉、魔女モルガンの息子。

 いかなる強敵と打ち合おうとも傷一つつかない姿から、『鉄』、『固い手』の異名を駆る。

 ブリテンを存続させるために王に仕えたが、ギネヴィアとランスロットの不貞をモードレッドと共に暴き立て、ギネヴィアを侮辱したために激昂したランスロットに斬殺された。

 

パラメーター(詳細不明)

筋力:

耐久:

敏捷:

魔力:

幸運:

宝具:

 

小見出しマテリアル 

 円卓の騎士の、本当の意味での後処理係。ベディヴィエールさえ時折はっちゃける同僚たちの身勝手さに、頭と胃へのダメージがたまるばかり。

 あまりに過剰なストレスからか、二十代前半とは思えない老け顔に。どこか親近感を覚える、とは諸葛孔明の談。

 この時はまだ、自分をマスターと呼び慕うアルトリアや男のアーサー王、なんて事態など想像すらできなかった。王よ、何があったのです。

 面白みがない、魂までカッチカチ、と愉快痛快を求めるタイプのサーヴァントたちからは煙たがられる。

 だが、冷酷ながら確実に勝利へとつながる采配を、方向性は違えど真理であると老人は褒め称える。それと彼の胃痛に同情する駄妹や無銘なども少数。

 ちなみに所属は「アーサー王燃え派」。

 




Xオルタ「マスター私は動けません。原動力、ひいては甘味を要求します」
セイバーライオン「肉を寄越すべし」
アーサー「やあ。こちらの君も変わらないね」
モードレッド「男の父上だ!?」
アグラヴェイン「そうだな(死んだ魚のような目)」

まさかこの時期に男のアーサーが来るとは思わなんだ。
それと活動報告にて少し募集をいたします。

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