もしあの英霊がカルデアに召喚されたら   作:ジョキングマン

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エルキドゥはもうすぐ実装されるので書かない(懇願)


ライダー(Fake)

 --轟音が響く。

 標高六千メートルを超える、人知れず並ぶ山脈の内部に造られた『人理継続保障機関カルデア』。最重要秘匿レベルに指定されているそこは科学的、魔術的防壁によって外来からの攻撃は概ね受けつけない。

 もっとも、カルデアの外側にいた人類種が焼却された現状では、カルデアを襲撃する存在など見当たるはずがない。その元凶であるソロモンもまた、慢心か否か攻撃を仕掛けてくる気配すら見せない。

 

 --ではこの轟音の出所は?

 

 簡単な話だ。外からの攻撃でなければ、中からの攻撃だったということ。

 

「待て、ナイチンゲール! これ以上暴れてはロマンの胃が捻れてしまう!」

 

 アパッチ族の英雄、呪術師ジェロニモ。本来の名はまた別にあるが、死して英霊に昇華された彼は自らをそう名乗っている。

 極めて我の強い、クセの塊みたいなサーヴァント達の中では飛び抜けて常識人として慕われるジェロニモ。そんな彼は今、褐色の顔色を青ざめさせ、アメリカの荒野で鍛えられた俊足をもって廊下を駆ける。

 

「待てません。あれは私にとっての生涯の天敵。命に代えても根絶すべき災厄の権化。例えマスターの命令に背こうとも、私はあれを滅却しなければならない!」

 

「君がマスターの命令を聞く時の方が珍しいだろうに……」

 

 返答虚しく、早足持ちのジェロニモのさらに先を突っ走るバーサーカー、ナイチンゲールは片手に携えた拳銃を強く握りしめ、壁や天井に銃弾や拳を撃ち込む。

 『狂化:EX』を保有する彼女は、カルデアに所属するサーヴァントの中でも一際強い我の強さと恐怖を振りまく天使の悪魔。昼間から酒をガバ飲みする輩には肝臓に悪いと銃弾を撃ち込み、風呂の概念がない時代の英霊には不潔と銃弾を撃ち込み、自らを母ちゃんと呼び畏怖する金髪親子をアルコール消毒液たっぷりのバケツへ突っ込ませる。

 自身が様々な意味で敬遠されていることは、当人は知ったことではないし知るつもりもない。

 そして知っても止めない。バーサーカーだし。

 

「ここには潜んでいないようですね」

 

「確認作業で備品を破壊して回るのはやめないか」

 

「おっ、ジェロニモの旦那。それと……うわっ、アンタかぁ」

 

 忌々しげに吐き捨てるナイチンゲールと嘆息するジェロニモの正面から、緑衣のアーチャー--義賊の弓兵ロビンフットが姿を見せ、ナイチンゲールの顔を見た途端に苦虫を噛み潰したような表情で立ち止まる。

 高潔な精神や騎士道といったものとは真逆の、知謀を巡らし罠に落とし毒で弱らせる森の暗殺者。実際アサシンとしての適性も併せ持つが此度は省略。

 なんとなしにこの組み合わせで現状を察知したロビンフットは、散らばった廊下の破片を避けながらジェロニモに囁きかける。

 

「まーたトンデモヘヴィな貴婦人に出くわしちまったなあ。そんで、ジェロニモの旦那がストッパーかけてたってところですかい」

 

「見ての通り全く止められていないがね。これくらいのことも成し遂げられない己が不甲斐ない」

 

「いや、あんたは悪くねえよ。あんな暴走特急止められるのなんて、それこそ同じ暴走特急ぶつけるぐらいしか思いつかねえや」

 

「そこの緑の方。ちょうどよかった。悔しいことに人手が足りないのです。人類を救うために今すぐ手を貸しなさい。その前にしっかりと手を消毒して。その衣も放置しておけば菌の苗床になります。私に貸しなさい。殺菌します」

 

「いや、これ宝具ですから。勝手に剥ぎ取られても困るし洗濯されるとかシュールすぎるから!」

 

 横からずいっと身を寄せてまくし立てるナイチンゲールに、ロビンフットは後ずさりしながら『顔のない王(ノーフェイス・メイキング)』を庇う。

 綺麗に整った顔立ちの彼女に迫られたら、普通ならば役得とも喜べよう。が、言葉に滲み出る狂気と有無を言わさぬ圧力が、その美貌を鋼鉄の般若と見紛うほどの威圧感と本能的な恐怖へと変える。

 

「ちなみに、一応聞くけどよ」

 

「何でしょう。時間は有限です。今この瞬間にも病は侵行し、繁殖し、患者を蝕み続けるのです。一分一秒足りとも無駄にできません。ですので簡潔にお願いします」

 

「分かったからそれを向けるなって」

 

 ナイチンゲールは冷徹な表情のまま銃口を向ける。狂った彼女の判断基準では今すぐに撃鉄が落としかねない。

 こりゃかなわん、とロビンフットは慌てて言葉を続ける。

 

「あんたが今追っているのはなんなん--」

 

 --瞬間、銃声。

 

「何でだよ!」

 

「愚問に過ぎるわ。そんなことで時間を使わせないでくださいと言ったばかりです」

 

「せめて威嚇射撃にするとかだな……」

 

 アーチャー特有の目の良さがなければ、今頃ロビンフットの額には見事な鉛の黒子がめり込んでいただろう。ジェロニモがますますげんなりとした表情になる。

 抗議の声をあげるロビンフッドへ聞く耳持たず、硝煙を放つ銃口を吹き消しながらナイチンゲールは断固として言い放つ。

 

「--私が追いかけるべきものなど、無理をして出歩く患者と病以外に何があるというの?」

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 彼は--いや、彼女は--いや、それ(・・)はあらゆるものに「乗って」きた。

 水に、風に、虫に、鼠に、鳥に、人に。太古の、それこそ生命という概念が生まれる瞬間にそれ(・・)は誕生し、常に生命という存在を脅かし続けてきた。

 それ(・・)はどんな英霊よりも認知され、それ(・・)はどんな反英霊よりも命を奪い、それ(・・)はどんな存在よりも嫌悪されてきた。

 無慈悲に、無秩序に、無差別に。それ(・・)の意思とは関係なく、そもそもそれ(・・)の意思などなく、全ての命に対して等価値に「死」をもたらす死神。

 ある時は「黒死病」と呼ばれた。ある時は「スペイン風邪」と呼ばれた。ある時は「不治の病」と呼ばれた。ある時は「災厄」と呼ばれた。

 全ての「病」を一択に集め、それに無理矢理知識を与え、サーヴァントという殻に閉じ込めた存在。それがそれだった。

 

 それ(・・)のクラスはライダー。それ(・・)の名は、ペイルライダー。

 英霊でも人でも、ましてや生命体や霊魂と定義できるかすら疑念を抱く存在。「死」そのものとされる疫病の騎兵という枠を押し付けられたそれは、まさに名前に違わぬ最凶のサーヴァントとして世界に顕現した。

 

「ギギ……ギ……」

 

 --そう、少なくともカルデアにさえ召喚されなければ、ペイルライダーはあらゆる聖杯戦争で猛威を振るっていただろう。

 しかしここは絶対英霊戦線(カルデア)。そして、よりによって滞在するのは「病」の根絶を謳うナイチンゲール。

 出会って(0.)2秒で即殺菌。「死」という明確な終わりが訪れないペイルライダーでさえ、ナイチンゲールとばったり出くわした時は機械的に、尚且つ迅速に姿をくらました。

 

 --あれはまずい

 

 結果、遠くから鳴り響く銃声と廊下が砕ける音。そして暴れ狂うナイチンゲールを取り抑えようと、何人かのサーヴァントが慌ただしく走り回る音がカルデアによく反響した。

 

「よう。そんな隅っこでじっとしてないで、こっちに来ないか?」

 

 部屋の隅に広がる『暗がり』。一目でそう表せるペイルライダーは、円形の体を揺さぶって声のかけられた方へと向き直る。

 簡素な、それでいてしっかりとした作りと柔らかなベッドに腰掛けるサーヴァント。凶骨の余りをナイフで削り、弓に仕立て上げている青年--逃げるペイルライダーを匿った部屋の主、アーラシュは快活な笑顔で手招きする。

 

「ソレハ、サキニ、マスターヘ、ツカエテイタ、サーヴァント、トシテノ、メイレイカ」

 

 複数の蟲が互いにせめぎ合うような、奇怪な音に近い声でペイルライダーは言葉を返す。

 アーラシュは心外だとばかりに眉を顰めた。

 

「おいおい、サーヴァントに上も下もあるかよ。俺もお前も、今は等しくマスターのサーヴァントなんだ。そんな堅苦しいこと考えなくていいんだぜ」

 

「ジャア、イラナイ、アノ、サーヴァントカラ、スガタヲ、カクスタメ、ワタシヲ、マネキイレタ、アナタトハ、ソレダケ」

 

「そうか。んじゃ、無理に強いることでもないな。気がすむまでのんびりしていきな」

 

 無機質に答え、ペイルライダーは染みのように部屋の隅に居座る。アーラシュもまた、人懐こい笑みと共にそれを受け入れた。

 

 骨が削る音が、しばらく部屋を支配する。

 

「--アナタハ」

 

 不意に、ペイルライダーが言葉を紡いだ。手に持っていたナイフを止め、アーラシュは目線を蠢く黒影に向ける。

 

「アナタハ、ワタシヲ、キラワナイ、シカシ、ワタシハ、アナタガ、ニガテダ、アノサーヴァントトハ、チガウ、ケド、ニガテ」

 

 ペイルライダーは、全ての生命体から本質的に憎悪されるべき存在。身体を縛り、心を削り、命を蝕む災厄を誰が愛するというのだろうか。

 ナイチンゲールがまさにその極例だろう。全て人間のために身を粉にし、心を砕き、命を燃やしてまで医療学に光をもたらした彼女は、ペイルライダーとはどこをとっても正反対の関係と言える。

 

 同時に、ペイルライダーはアーラシュに対しても似たような拒否反応を覚えていた。

 

 聖杯から知識を与えられただけの「災厄(ペイルライダー)」は自我というものを持たない。誰からも好かれる好漢であろうと、誰もが戦慄する稀代の殺人鬼であろうと、ペイルライダーの前では等しく一個の生命体という判断基準で認識される。

 そこに人格や趣向は考慮されず、故にそこから好意や拒絶を感じることはない。

 ナイチンゲールに拒否反応を示したのは、彼女のその生きざまがそのままペイルライダーの存在否定に繋がるからである。決して彼女の凶暴な一面を嫌っていたわけではなく、彼女自体を「天敵」と判断したがためにペイルライダーは撤退したのだ。

 

「--アナタハ、ワタシニ、トラワレナイ」

 

 つまり、アーラシュも彼女と同じく、ペイルライダーに対して何らかの「天敵」に近い素質を秘めているということを表していた。

 

「んー、こりゃまいったな。出会って早々苦手と言われちゃ、俺としては何とも言えないしなあ」

 

 困った顔を浮かべて顎をさするアーラシュ。不快感こそ抱いてないが、いきなり面と向かって苦手と告げられればさしもの兄貴肌も対応には難儀するだろう。

 やがて、アーラシュは手にしていた作りかけの弓とナイフをベッドに置いてペイルライダーへと向き直る。

 

「ペイルライダー、だっけか。確かにお前さんは俺のことが苦手かもな。俺はアーラシュ・カマンガー。傷も負うことも病にかかることもなく散った男だ」

 

 『頑健:EX』。それはアーラシュが傷を負わず、病で伏したことのない逸話から得たスキル。

 故にアーラシュもまた、ペイルライダーとの相性は絶望的に悪かった。アーラシュの保有する規格外のスキルが、ペイルライダーの存在そのものを寄せ付けないのだから。

 

「でも、俺もお前もマスターの力になりたいと思って契約を結んでいる。その気持ちは一緒だろ? 俺はこの弓で、お前はその力で。そこが違えることがない限り、俺はお前のことを仲間だと思っているぜ」

 

「……」

 

 そして--だからこそ、アーラシュは最大限にペイルライダーと相性が良かった。

 災厄を振りまくペイルライダーに対して、隣人のような気兼ねなさで話しかけられるサーヴァントなど、アーラシュをおいて他に適任がいようか。

 

「それに、ここに居住してるサーヴァント達が全員仲良しでハッピーってわけじゃないしな! いつもどこかで誰かと誰かがいざこざ起こしてる。そんなのここじゃ、日常みたいなもんだ」

 

 マスターとロマンの胃は擦り切れてるだろうな、とアーラシュは悪戯っぽく笑う。

 

「ワタシハ、マスターノ、ネガイデ、ウゴク、マスターガ、ソウアレト、ノゾメバ、ワタシハ、ソレヲ、ジッコウスルダケ」

 

 何をいまさらと、ペイルライダーは切り捨てる。

 

 ペイルライダーには感情が搭載されていない。

 向けられる嫌悪も不要。憐れみも不要。友愛も不要。

 孤独を嘆きはしない。喜びに跳び上がることもしない。怒りに震えることもない。淡々と、召喚したマスターに従うロボットのような行動理念で動くだけだ。

 気を利かせた大英雄アーラシュの寛容な言葉でさえ、ペイルライダーにとっては何の意味ももたない。

 

 しかし、とペイルライダーは続ける。

 

「アナタト、マスターガ、ワタシニ、ムケルソレ、ワタシハ、ソレヲ、ドコカデ、シッテイル、キガスル」

 

 知識を植え付けられただけの概念。

 自己を持たない従僕。

 存在するだけでイレギュラー。

 他の聖杯戦争では呼ばれることすら怪しいこのサーヴァントは、知識という漆黒の海の中で淡く輝く一筋の光を想起する。

 それは与えられた知識には載っていなかったもの。どこか、遠いどこかで知識の深海に迷い込んできた、か細い小魚のようなもの。

 知識ではない違う何かに、それはこびりついている。自分に向けられていたような気がするその光は弱く、柔らかで、しかし確かにペイルライダーという曖昧な存在を確固たるものとして成立させていた。

 

「なあ、ペイルライダー」

 

 病とは無縁だった男。

 だが彼自身は病にかからなくても、彼の知り合いは、親族は、何人かはきっと「病」によって命を落としているのだろう。

 それでも、アーラシュは憎しみの感情を「病」に向けることなく、生まれたての赤ん坊に語り掛けるような穏やかな表情を浮かべる。

 

「お前は、自分は人間から嫌われてもいいとか、たぶんそんな感情すら沸き起こってないのかもしれない」

 

「……」

 

「でもマスターの、人理焼却の危機にこうして召喚に応じたってことはさ。

 

 

 お前は、少なくとも誰かのことを--」

 

 

 

「--近いですね。この部屋から漏れ出す空気からあれの気配を感じるような気がします」

 

 短く放たれた言葉と共に、金属で構成された自動ドアが枯れ枝のように吹き飛ばされ、アーラシュの頬を掠める。

 

「えっ--」

 

「失礼します。緊急を要するのでこのような入室手段をとらせていただきました。ですが、人類史に新たなる希望をもたらすためと思ってください。それと、今の一撃であなたに傷を負わせたこと、深く謝罪いたします。しかし、これも治療のため。あなたの命に代えてもあなた達を救いますので、しばしお待ちを」

 

 冷徹に、鋼鉄にまくしたてながら姿を現す赤い看護師。引きずるように連れているのは紛れもなくサーヴァント。

 右手にジェロニモ、左手にロビンフッド。攻守を逆転させたりはしないがずっと攻撃表示のデストロイナース。

 

 サーヴァントが暴れても多少のことなら凹むことはない、と得意げに語っていたロマンの姿が脳裏に浮かぶ。彼ご自慢の耐物理防御ドアは、中心をハンマーで叩きつけられたアルミホイル紙のような無残な姿へと変わり果てていた。

 

「------!!」

 

 隅っこにいたペイルライダーが、スライムのようにぐにゃぐにゃと姿を激しくよじらせる。例えるならそう、漫画などでよく使用されるギザギザした吹き出しのような形になっていた。

 

 ペイルライダーには感情が搭載されていない。

 ……されていないはずなのだが。

 

「--病理発見、摘出開始!」

 

「!! !!」

 

「ちょ! ここで暴れるな! 部屋がぶっこわ--あーっ! せっかく作ってた弓がァーー!!」

 

 

 

 人理継続保障機関カルデア。

 今日もマスターとロマンの胃に厳しい一日が始まる。

 

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クラス:ライダー

 

真名 :ペイルライダー

 

キャラクター紹介

 風に乗り、水に乗り、鳥に乗り、人に乗り--。

 それこそ世界を制覇したといってもいいその存在は、確かにライダーのクラスに相応しいとも思えた。

 だが、それよりも何よりも--。

 人々がその『災厄』に与えた二つ名。疑似的な人格こそが--彼をライダーとして顕現させた最大の理由になるかもしれない。

 

パラメーター

筋力:

耐久:

敏捷:

魔力:

幸運:

宝具:

 

小見出しマテリアル

 実はペイルライダーに抵抗できるサーヴァントは探せば割といたりする。

 アーラシュの他には、疫病としての側面を持つ「吸血鬼」と化した狂ヴラド三世。

 病とは無縁の存在である鬼、酒呑童子&茨木童子。神や架空の存在にも効き目が弱まるか。

 反英霊に堕ち、正真正銘の怪物となったメドゥーサ。しかもその血は万病を治し、死者をも蘇らせる効能付き。

(*個人の感想です)




ここのペイルライダーは、fake本編で敗退したけども何らかの理由で繰丘椿の事を「記憶」に遺した、あり得たかもしれない「IF」の存在、て感じで進めてます。
それと最後の小見出しマテリアルですが、これも個人的な見解の元勝手に付け加えてます。矛盾があったらゴメンネ!

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