オリ主によるストパンの学園もの 作:Ncie One to Trick
(さて、やってきました横浜ウィッチ図書館)
今俺は、学校のすぐ隣に新説された図書館内にいる。ちょっとした読み物をするためだ。
学校が半ドンで終わった直後なので、館内には宿題をする学生ウィッチや子連れの主婦などが屯って居る。
(『モンテクリスト伯』『モンテクリスト伯』っと……)
そうした利用者の観察も程ほどに、900の文学に分類される本棚へ向かい、俺はお目当ての本を探した。
(『も』の欄だからここに……あった)
探し出した本を棚から引っこ抜くと、窓際付近の長机目指して歩く。
日光の当たるところで本を読むと本が日焼けするかもしれないが、俺は窓際が好きなのだ。将来会社員になったら喜んで窓際族になれるくらいに窓際が好きなのだ。だからこの歩みは誰にも止められない。
「……おや」
窓際に設置された長テーブルに付くと、本棚に隠れて見えない死角となる椅子に誰か座っていた。しかしその後ろ姿はあまりにも特徴的で、彼女を知る人物からしたら一目で判別できるだろう。
なにせ、もう春先なのに黄色と緑のマフラーをしているのだ。
俺は彼女の後ろから肩をポンポンと叩いてニコリと笑う。
「よっ、管野ちゃん」
「ん……あぁ波崎先輩か……」
彼女は顔を後ろに反らせて声の主を確認すると、すぐに本に顔を戻して睨めっこを始めてしまった。
ちょっと距離感の取りづらい彼女は中等部三年生の管野直枝ちゃん。
トゲトゲした風貌とツンケンした性格からヤンキーっぽく見られがちだけど、本質は読書大好きな文学乙女だ。雁淵さんの妹さんから又聞きしたから間違いない。
現に今もなんかそれっぽい難しそうな本読んでるし。
「何読んでんの?」
「『斜陽』」
「へ、へぇー……」
ちょっと小耳に挟んだことのあるタイトルだけど内容全然知らん。知ってたら「あーそれ○○の書いた本だよね。内容や雰囲気が~~~」みたいに蘊蓄話で花を咲かせられるのだろうが……。ダメだ俺の知識量じゃこれ以上話題を広げられない。
……よし!(思考放棄)
俺も自分の作業に集中しよう。
「横に座ってもいい?」
「邪魔しなけりゃな」
「サンキュ」
了承を取ると、俺はガリア語辞書とモンテクリスト伯(ガリア語Ver)とモンテクリスト伯(扶桑語Ver)と大学ノートの計四冊を机の上に置き、管野ちゃんの隣の椅子を引いて座った。
まずは扶桑語Verの1ページ目を捲って読む。次にガリア語Verの1ページ目の単語を少しずつノートに写し、それを辞書片手に翻訳しながら読み進めていく。そしてたまに日本語Verを読み、自分の翻訳した文章の大筋が正しいかどうかを確認し、また読み進めていく。
(うーん……あ、コイツが主人公なのか。それで主人公は……えーっと辞書辞書)
中々苦戦する作業だが、暗号を解読している気分に浸れて楽しい。もしかしたら俺には翻訳家の才能があるのかもしれない。多言語でも勉強して資格を取ってみようか。
そうやってあーでもないこーでもないと、四苦八苦しながら5ページ目まで読み進めたときだ。
管野ちゃんが口を開いた。
「……なぁ先輩」
「ん?」
「さっきから何やってんだ?」
「ペリーヌが……あー、ウチのガリア出身のハウスメイトに『暇つぶしに何か面白いの無い?』って聞いたらこれ勧められてさ」
そう言って、俺はガリアVerをこれ見よがしに振る。
ちなみにこれはペリーヌの私物である。
「それ、原文で読む必要ないんじゃねーの?」
「俺もそう思う」
「じゃあ何でそんな手間かけんだよ」
「だって和訳された本だとさ、翻訳する人なりの解釈や意訳が混じっちゃうでしょ? 折角ハウスメイトが勧めてくれたんだから俺が俺なりに解釈した『モンテクリスト伯』を読みたいの」
「ふーん……。先輩ってさ、適当そうに見えて結構頑固だよな」
「凝り性と言ってくれ。それに他人に迷惑かけない頑固だから良いの」
「そうかよ」
「そうだよ(便乗)」
しかし、なぜ彼女は本を読むのをやめて唐突に俺に話を振って来たのか。
何か気づかないうちに彼女の邪魔でもしてしまったのだろうか。それだったら面倒くさいけど……。
あ、もしかして彼女はコレを読みたいのだろうか。
「もしかして管野ちゃん、これ読みたい?」
「いや、もう読んだ」
「あっそうなんだ」
じゃあアレか。内容を早く俺に喋りたくてウズウズしてるのか。
俺は、本やゲームや映画のネタバレを気にしないタイプの人間なので、別に好き勝手喋ってくれて構わないのだが。
「実は俺さ、ちょっとだけガリア語できるんだ」
「はえーすっごい……」
全然予想と違った。まったく別方向からのアプローチだった。スペック高スギィ!
というか、ウチの学校の公用語になってるブリタニア語ならまだしも、ガリア語を習得してるとは意外や意外である。一体彼女とガリアのどこに共通点があったのだろう。
「へー、何でまたガリア語を?」
「昔からガリア文学って有名だろ?」
「いや、だろって言われても……」
「とにかく有名なんだよ。だから読みたくって勉強してたんだ」
そうだったのか。
ガリアと言えば、料理が旨くて観光名所がたくさんあるところみたいなイメージしかなかった。まさか文学まで堪能できる国だったとは。恐るべしガリア。
「……ちなみに先輩が読んでる奴、アニメにもなってるくらい有名なんだけどな」
「あ、そうなの?」
さっきから感心してばかりである。これじゃ俺が無知なだけじゃないか(呆れ)
……で、ガリア語が達者な子猪の本題はなんなのだろうか。よもや知識をひけらかしたいワケでもあるまいし。
「少しくらいなら……その……見てやろうか?」
「見るって……この作業を?」
「あぁ」
見る、というのはただ見学するだけじゃなくて、手伝ってやるという意味も含まれているだろう。
しかしさっき邪魔するなと言っておきながらそっちからちょっかいかけて来るのか(困惑)
正直な話、俺一人でやった方が自分のペースで読み進められるから効率は落ちそうだけど……それに俺なりに読み解いてみたかったし。
けど、珍しい後輩からの有り難い申し出だ。ここは俺の評価を下げないように素直に受け取っておこう。
「まぁ一人でやるより楽しいかもね。一緒にやろっか」
「っしゃ!」
管野ちゃんがニヤリ顔で小さくガッツポーズをした。何だこの手ぇ、何だこの手は。
「……何で喜んでんの?」
「え? いや、えーとそれはアレだよ……。そ、そうだ、恩返しだよ、恩返し」
「恩返しって……まだアレ引き摺ってんの?」
「ま、まぁな」
恩返し、と言われて思い当たる節が一つある。
以前、後進の育成として中等部の演習風景の見学に行ったときだ。
エイラとパティの同郷で、二人と非常に仲の良いニパという子が学校の屋上から落ちてきたのだ。いつの時代のラノベだよオラァン!と怒り半ばに魔法力を展開して彼女を受け止めた事がある。
その落下の原因となったのが、雁淵さんの妹さんと管野ちゃんだった。
三人で仲良く屋上で昼食を取っていたのだが、御飯を食べるのが遅いニパに痺れを切らした雁淵妹と管野ちゃんが、ニパの腋を擽りだしたのだ。
擽りに耐えかねたニパが二人の手から逃れようとしてフェンス側まで逃げたのだが、何もないところで急に足を捻ってしまった。その理由は不明だが、ニパ曰くただ不幸なだけだったとか。
そして転ばないように慌てて近くのフェンスに手をかけたのだが、そのフェンスが壊れて向こう側に倒れてしまったらしい。フェンスが壊れた理由も不幸だったからで片付けられた。それしか言えんのかこのニパァ!
そうして俺が助けた事故に繋がるわけだが、どうやら管野ちゃんはまだその時のことを気にしてるらしい。ちなみに落ちてきたフェンス直撃で俺は入院したがそれは別の話。
しかしこういう荒っぽい子が実は繊細……というギャップも中々オツだが、そんなの済んだことだからもういいじゃんアゼルバイジャン。被害者側が気にしてねーってんだから割り切ればいいのに。
「それに……それだけじゃねーよ……」
「ふーん、それだけじゃないって?」
「気付けバカ」
唐突な罵りと共に肩パン食らった。大胆なボディタッチは美少女の特権。
「そういや先輩、それ和訳した奴だけでも七冊あるけど全部読む気か?」
「は?」
シリーズ物だったのか、てっきり一巻だけだと思ってた。偶になら良いけど、こんなんずっとやってたら心壊れっちゃ^~う↑
「し、仕方ねーな! 七冊全部俺が面倒見てやる! そうだ、この後暇ならウチに来いよ、ガリア辞書も持ってるしさ!」
「えぇ……めんどくさいから一巻だけでいいかな……」
「は?(威圧) 全部見ろブン殴んぞ」
「ヒエッ」
大胆な脅迫も美少女の特権。
ちなみに図書館だったので全ての会話の音量は小さめだった事をここに記します。
折角アニメやってるんだし502組も出して行きたいですね。