オリ主によるストパンの学園もの   作:Ncie One to Trick

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クッソ長いけど頑張って書きました。褒めて。




 

 現時刻はカラスが鳴いたら帰ろう夕方、学校から帰宅した俺はテレビのニュースを見ている。

 前回と同様、ルッキーニが俺の膝上に乗っかっている。というか、この時間はルッキーニを膝に乗せてニュースを見るのが日課になった。

 

 それにしても、顎が乗っかるような丁度良い位置にルッキーニの頭があるので撫でやすい。

 

「ん~♪」

 

 俺が撫でてやると喉を鳴らして喜んだ。クッソかわいい(ノンケ)

 

 しかし、今回は前回と少し状況が違う。

 

「お兄ちゃん私もー」

 

 なんと俺の右隣に芳佳も座して体を寄せてくるのだ。ちなみに大の仲良しさんであるリーネは庭に洗濯物を取り込んでいるのでいない。

 

 それにしてもハーレムの王様かな?

 ま、手を出したが最後なんですがね。ロリコンと呼ばれるのが先か、責任を取らされるのが先か想像するだけでも恐ろしい。ハハァ……(乾いた笑い)

 

「はいはい」

 

 それでも癒されるので、二人の頭を撫で続ける。何というか、犬と豹が二人の使い魔だからペットの飼い主みたいな気分だ。

 

「お兄ちゃん♪」

 

 俺の心中を読み取ったのか、芳佳はポフンと耳と尻尾を出した。こーれは癒しポイントが高まりますね。ジンさんポイント+100くらい上げちゃうぞ。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 ……心なしか息も荒くなってきたようだが。顔色も上気して赤い気がする。

 

 そういえば、クラスメイトのジョゼは芳佳と同じ治癒魔法持ちだったが、魔法力を使うと体温が上昇して夏場は大変だと話していた。俺もその現場を見たのだが大変エロかった。

 つまり、同列の固有魔法を持った芳佳も魔法を行使すると体温が上昇する可能性が……?

 

「お兄ちゃん……ンッ」

 

 いや違う、芳佳が俺の右腕に体を擦り付けてきた。コイツ魔法関係無しに発情してるだけだわ。ジンさんポイント-1000。

 

 好意は嬉しいのだが、今俺が求めているのはアニマルセラピー的な癒しなのだ。

 それに芳佳はもうファミリーみたいなもんやし。恋人として見るのは難儀というか、困難を極めるというか、決して無理ではないけど意識するのは難しい。

 

「そうじゃなくて……まぁいっか」

 

 俺は芳佳の体から腕を引っこ抜くと、芳佳の火照ったホッペタをムニムニとつねった。

 こうして芳佳の顔を弄るだけでも癒しになる。物は考えようである。

 

「いひゃいいひゃい」

「痛い? どのくらいだ?」

「いっはいいひゃい!」

 

 おや、かなり手加減しているのにいっぱい痛いらしい。まぁそこそこ楽しめたし止めておくか。

 

「もー痛いよお兄ちゃん……」

 

 俺がパッと手を離すと、芳佳は抓られたホッペタとナデナデし始めた。

 

「痛い……うへへぇ……。優しいお兄ちゃんが痛いことするなんて……」

 

 それも嬉しそうに。

 

 えぇ……(困惑) お前精神状態おかしいよ!

 

「うじゅ……私もやるー!」

「おーやったれやったれ」

「え? ちょ、ちょっとルッキーニちゃん!?」

 

 一人だけ除け者にされていたのが気にくわなかったのか、膝の上からルッキーニが猫さながらの跳躍で芳佳に詰め寄り、即座に芳佳のホッペをぐにぐにし始めた。

 

「アハハー芳佳のホッペタ柔らかーい」

「い、いひゃいいひゃい! ルッキーニひゃん手加減ひて!」

 

 結構もみくちゃにされてる。子供は手加減を知らないから痛いときはマジで痛い。

 しばらくじゃれていたのだが、満足したのか、ルッキーニは芳佳から離れて俺の元に戻ってきた。

 

「もー……ルッキーニちゃんまで酷いよー」

「でもでもー、芳佳のホッペプニプニしてて気持ちよかった。ジンのホッペ固いんだもん!」

 

 そらそうよ。美容ケアだってしてねーんだから固いよ。

 

「でもシャーリーのおっぱいのが触ってて気持ちいいしもっと柔らかい!」

「うんうん! 私もそう思う!」

 

 いや芳佳も同意するなよ。この二人って変なところで意気投合するなぁ。つーかそっちと比較すると何にしたって柔らかくなくなるんじゃない? 

 

 いやそれはそれとして、二人ともあの胸を揉んだことあるのか……。俺も揉みたいなぁ……DJDJ(届かぬ思い)。

 

「お兄さーん!」

 

 邪な気持ちを感知したのか、ここで癒しの塊のリーネがご登場だ。

 しかし、彼女は洗濯物を取り込んでいたハズなのだが手にはスマホを持っている。何かあったのだろうか?

 

「た、大変です!」

 

 何かあったっぽいな。

 

「ん? 今リーネも俺達と一緒にじゃれたいって?(難聴)」

「え、いいんですか? ……じゃなくて、真面目なお話なんです!」

「ハハッ、悪い悪い。それで真面目な話ってのは?」

「その、お姉ちゃんが扶桑に来たって連絡が入って……」

 

 お姉ちゃん。名は確か、ウィルマ・ビショップさんだったか。

 

 ペリーヌやリーネやパティから、少しだけお姉さんの話を聞いたことがある。ただ、一番印象に残っているのが年上のおじさまと結婚した話だけだが。

 その差なんと30歳差。歳の差結婚って奴だろうがいくら何でも離れすぎだろ……。

 

 今回の来訪は、何でもその例の夫が扶桑に用事があったらしく、ついでに彼女も同伴して来たのだとか。

 しかし、扶桑に着いたのがさっきなら、ここに来るまでもう少しくらい時間はあるだろう。お茶請けとか扶桑土産とか買ってこなくっちゃな。

 

「それがもう、家の近くらしくって……」

「はやくなーい?」

 

 おいおいロスタイムも作ってくれなかったのか。というか、普通に考えてブリタニアを発ったタイミングで通知が来るだろ!

 何で到着してからなんだよ! はえーよ!はえーんだよ!

 

「やべーよやべーよ、どうすんだよ……。何の準備もしてねーよ……」

「ご、ごめんなさいお兄さん……」

「いや、リーネが謝ることじゃないけど……参ったな……」

 

 俺自身にウィザードというネームバリューはあるが、齢僅か17歳の高二男子が家主だから、留学に送り出したご家族はきっと心配しているだろう。芳佳の家族以外。

 

 故郷にいる家族さん達を安心させてあげるためにも、まずはリーネの姉ちゃんに、俺が良識と常識を兼ね備えた人間である事をアピールしなければならない。しかし初対面での好印象を獲得するには、最低限のラインとして美味しい茶菓子が必須だ。ウチにあるもので足らせるしか方法は無いのだが、そんなのあったかなぁ?

 

「へぇーリーネちゃんのお姉さん来るんだ。どんな人なんだろー」

「ねぇねぇ、リーネのお姉ちゃんもおっぱい大きい?」

 

 その大切なイメージ操作をこれからしなければならないのに、この二人、完全に他人事である。

 

「とりあえず、掃除しないと! 芳佳、そこら辺に散らばってるハルトマンの私服どっかにやっといて!」

「はーい」

 

 芳佳がソファの上や机の上に乱雑に置かれてるハルトマンの私服を持ってリビングを出て行った。俺も壁に立て掛けてあったコロコロで適当に床の上を掃除する。これで見栄えは多少良くなったはずだ。

 

「もう掃除機かけてる時間は無いから……。えーっとお茶請けも準備しないと。リーネの姉ちゃんって甘いのとしょっぱいのどっちが好き?」 

「甘いのが好きですけど、用意してくれるのならどっちでもいいと思いますが……」

「どっちでもって……。うーん、ポテチと大福でも並べとく?」

「アレはー? ざらざらして甘じょっぱいやつ」

「そうだ粗目のお煎餅あったわ! 中間とってこ!」

 

 確か、買ってからキッチンの下の引き戸に保管しといたハズだ。お茶を淹れるついでに持っていこう。

 もう懸念事項は無いか。このまま家に上げて大丈夫か。

 玄関は……少し靴が多すぎるか。いや、そんな小さな事に気を配ってる暇はない。

 

「とりあえずお湯沸かさないと……」

「あ、お兄さん、それ私がやります」

「いやいや、リーネは姉ちゃんとどんな事話すのか考えながら、心の準備して待っとけって」

「私は何かやるー?」

「う、うーん……。今の所は無いかな」

 

 ルッキーニがお手伝いを申し出てくれた。気持ちはありがたいのだが、一番大人しくしてほしい人物である。

 これでルッキーニがリーネの姉ちゃんの胸でも揉んだら、俺の監督不行届が疑われかねない。まぁ、実際は甘やかしまくってるからある意味正しいのだけれども……。

 

「そろそろシャーリーが帰ってくるし、部屋でゴロゴロしてれば?」

「うんそーするー!」

 

 よし。これでルッキーニは自室から出なくて済む。急いでお湯を沸かしてお煎餅も用意しなければ。

 

 

 

 《ピンポーン》

 

 

 

 だから早いっつってんじゃねーよ(棒読み)

 

「やべーもう着いたの!?」

「ど、どうしましょうお兄さん!」

「とりあえず、リーネは姉ちゃんを自分の部屋に案内して適当に雑談でもしてて! 後でお茶とかお菓子持ってくから!」

「はい!」

 

 リーネを玄関に走らせた。

 

 本当はリビングを使ってほしかったのだが、ウチはリビングからキッチンが見える構造なので、最初から邪魔者がいては気まずいだろう。俺だって気まずいよ。

 それに、よくよく考えればまだ外出から帰ってきてない面々もいるし、事情も知らないそいつらがリビングに入って荒らし回るよりかはマシだ。無意識ながらナイスファインプレーだぞ、俺。

 

 よし、後はアドリブで野となれ山となれだ。俺もキッチンへ行こう。

 

 

 玄関からは、『久しぶりー』とか『また大きくなった?』とか、リーネと姉ちゃんの会話がちょいちょい聞こえてくる。

 しかしそれも段々と遠ざかり、やがて階段を上る音へと変化してそのまま何も聞こえなくなった。どうやらリーネの部屋に行ったみたいだ。

 

 一難去った。かなり際どかったがいなしきった。

 

 後はお茶をリーネの部屋に運んで、軽く挨拶を済ませてミッション終了だな。

 

 俺はお煎餅を袋から取り出して平たい木の器にザラザラーっと入れる。急須も食器棚から取り出して軽く水で洗い、茶こしもセットしてそこに茶葉を入れた。

 取っ手の着いた来賓用のコップも御盆の上で、今か今かと口を開けて待ちかまえている。準備万端だ。

 

 しばらくして、シーンと静まりかえったリビングにはヤカンの水が沸騰する音が聞こえる。ついでにポットに入れる分も沸かしているので、あと1~2分は待たねばならない。

 

 そんな時だ。

 

「ただいまー」

 

 がちゃりと、玄関のドアを開けてシャーリーが帰ってきた。ナイスタイミング。

 

「おかえりシャーリー。今ちょっと立て込んでるからさ、俺の代わりにルッキーニの相手してくれない?」

「おいおい、何か厄介事か?」

「それがリーネの姉ちゃんが電撃訪問してさ。リーネの部屋に通したんだけど、ルッキーニなら迷い無くちょっかい出しに行くだろ?」

「それでルッキーニを抑えておけってか」

「頼めない?」

「うーん……、さぁーどうしよっかなー?」

 

 こ、こいつ……いつもだったら俺に頼まれるまでもなくルッキーニの相手を務めるくせに、ヘマできない俺の立場を見越して愉しんでやがる……。

 

「何が目的だ! 物か? 金か?」

「違う違う、そんなんじゃない。そうだなぁ……今度ウチの同好会に来てくんないか? 顔見せてくれるだけでもいいからさ」

 

 要求は俺の体らしい。

 

 彼女の言う同好会とは、ストライカーを弄ったりウィッチの装備を作ったりするのが好きな物作り集団の事だ。彼女が俺達よりも帰宅が遅いのはそのせいだったりする。

 シャーリーの他に、ハルトマンの妹やルチアナ先輩なんかがいる。一応、変なことをしてないか中等部のマロニー先生が見回りに来るらしい。誰も裏切り者がいないやさしい世界。

 

 俺は別に断る理由もないので了承する。これで取引が済むなら安いもんよ。

 

「あ、いッスよ(快諾)」

「そーかそーか来てくれるか! よし、早速あいつらに連絡しないとな!」

 

 そう言ってシャーリーは通学バッグをその辺にポイと投げ捨ててソファに横になり、スマホを弄り始めた。

 

「『ウィザードの衣装合わせ、ブースター実験可能』っと……」

 

 これは生き急いだか。早まったか。

 

「ところで波崎、お湯沸いてるぞ?」

「あ」

 

 ヤカンが蒸気機関車の汽笛を鳴らしていた。シャーリーが何を企んでいるのが気になるが、それは後回しにしよう。

 

 コンロの火を消して、沸騰したお湯を急須に淹れて、残ったお湯をポットに淹れる。これで乗り込む準備はできた。

 

「じゃあルッキーニ抑えといてね」

「おう、任せとけ」

 

 しっかりと最後に釘を刺し、御盆を手にして俺はリビングを後にした。

 

 

 

「フゥ……。よし」

 

 深呼吸をし、階段を上がっていく。リーネの部屋に近づくに連れて緊張も高まっていく。

 変な髪型になってないだろうか、さっきまで眠かったから目やにがついてないだろうか。身だしなみを整えてからでも良かったかもしれない。

 

 そんな事を考えていたら、あっという間にリーネの部屋の前に着いてしまった。

 

 両手で持った御盆を一度床に置き、コンコンとノックをする。

 

「入ってもいいかな? お茶持ってきたんだけど……」

『はい、どうぞ』

「じゃあ失礼しまーす」

 

 ドアを軽く開け、床に置いた御盆を手に持ってから半開きになったドアを体で押して入った。

 

 まずは挨拶から、次に「これどうぞ」とお茶を勧めて軽い世間話をしてから退散……。

 よし、我ながら荒波を立てない完璧なプランだ。

 

「お邪魔してまーす」

「ありがとうお兄さん」

 

 

「あ、お兄ちゃんお疲れー」

 

 

 最後の芳佳がいなければな!!

 な、なぜここにいる。彼女はハルトマンの部屋に行ったっきりだったじゃないか。

 

「芳佳お前……リビングに戻ってこないと思ったら……」

「それがね? 私もリーネちゃん達の邪魔しないように部屋で待ってようとしたんだよ? そしたらリーネちゃんとウィルマさんが来たから、そのまま。ねー」

「「ねー」」

 

 姉妹揃ってハモってんじゃねーよ。つーかビショップさんと芳佳、めっちゃ打ち解けてんじゃん。

 

 しかしなるほど、どうして芳佳が戻ってこないのか謎が解けた。

 

 そもそもの前提として芳佳とリーネは相部屋を使っている。

 当初はリビングでビショップさんをお出迎えする予定だったが、準備が間に合わないから慌ててリーネの部屋に急遽変更になった。しかし、ハルトマンの服を片付けてたからそんな事情は知らないので、そのまま邪魔にならないよう相部屋に引っ込んでいようとしていたのか。

 

 芳佳らしいと言えば芳佳らしい気遣いだ。今回は完全に裏目ってたけど。

 

「そ、そうなんだ……。あ、これお茶です。どうぞ」

 

 とりあえず、お茶を淹れていた御盆を机の上に置く。

 

「いえいえそんなお構いなく……。あ、私からもこれ、フェラウェイランド土産です」

「わざわざありがとうございます。こちらも扶桑土産を用意しようと思ったのですが……」

「気にしないで下さい。私としても、今回は些か急すぎたと反省していますから」

「そうですか」

 

 ビショップさんからは敵意を一切感じない。ファーストコンタクトは成功だという手応えを感じた。このまま何事もなくやんわりと終わってほしいな。

 

 しかし、立ったまま話すのは怠かったので座ろうとしたが、生憎リーネの隣は芳佳で埋まっている。小さいサイズの机なので、二人が座ったら一面は潰れてしまう大きさだ。

 だからと言ってビショップさんの正面ではなく、側面に座るのも忍びない。初対面だし。

 

 

 ……いや待てよ。もしかしたら、もしかするかもしれませんよ?

 

 

 さっきの様子を見る限り、芳佳とビショップさんはかなり打ち解けている。

 となるとだ、色々とリーネについての話題で弾んだだろう。学校生活とか、家での振る舞いとか、俺から話すことも無いくらいには喋ってくれてるんじゃない?

 

 ……よし!

 

 あとは芳佳に全部ぶん投げて任せちゃおう。じゃあ俺、お土産貰ってリビングに帰るから……。

 

「それじゃ俺はこれで……」

 

 そうして踵を返したのだが、そうは問屋が卸さなかった。

 

「あぁちょっと待って、貴方に聞きたいことがあるの」

「はぁ、何でしょうか?」

「ちょっと長くなるかも知れないし……リーネ、こっち側に来なさい」

「う、うん……?」

 

 リーネが何を話すのだろうと訝しげに立ち上がり、ビショップさんの隣へと移動した。

 

 座るスペースできちゃった。(もうこれ逃げ場)ないじゃん。

 

 渋々俺は芳佳の隣に座る。芳佳と俺を机で挟んで、その正面にビショップさんとリーネがいる構図となった。

 

「それで、俺……あぁええと、私に聞きたいこととは?」

 

 一応、保護者の前なので一人称をよそ行きに正す。さっきは失敗したけどね。

 

「まずは、ホストの貴方から見たリーネはどんな子ですか?」

 

 来た。想定通りの面倒くさい質問が来てしまった。

 この内容は文面通りに受け取ってはいけない。『ホストの貴方から』には『男の家主から見て』というニュアンスも含まれているからだ。

 もしもニュアンスを汲み取って返答したら、内容次第で彼女の柔和な態度が一変すること間違いなし。あっという間に男と女の関係についてまで言及される。

 

 なのでこれはスルーしよう。

 これが一番の安全策だ。それに俺、遠回しのやり取り嫌いだし。

 

「とても良い子ですよ。家事は手伝ってくれますし、買い出しも一緒に出かけてくれますし、自分の時間を削ってホストに貢献してくれていますからね。目立つ問題行動も起こしませんし、模範的な留学生です」

 

 保護者の手前、取り繕って良い点を挙げているのではない。ほんとに彼女は献身的に動いてくれているし、俺としても助かることばかりだ。それをただ述べているだけなので問題はないだろう。

 

「良かったじゃないリーネ、べた褒めよ?」

「う、うん……」

 

 「自慢の妹ね」とビショップさんがリーネの頭を撫でている。もうリーネは途中から照れ始め、今はもう顔を伏せてしまっているのでされるがままだ。とても可愛い。

 

「その、私も留学してきた当初は迷惑ばかりかけちゃいましたから、少しでもお兄さんに恩返しできたなら、嬉しい……です……」

 

 もう彼女のルートに入っても良いんじゃないだろうか。そう思わせるような天使っぷりだ。

 なんて考えていたら、今まで黙って聞いていた芳佳が俺の太股を抓ってきた。表情はムッとしている。何だこれは、芳佳なりの嫉妬か。

 

「……ん?」

 

 しかし、ここまで理想通りの展開だったのに、ビショップさんが怪訝そうに俺を睨んできた。

 

「お兄さん……?」

「あ」

 

 ちょっと、まずいですよリーネちゃん!

 

 本人もハッとした表情で、口元を手で押さえていた。どうやら今の今まで、俺の事は波崎さんとか迅さんとか、「お兄さん」以外の呼称でビショップさんと会話をしていたらしい。

 これ、下手に取り繕うと誤解を生むパターンだ。一から説明しなければ(使命感)

 

「いや、えーっと、芳佳と私は従妹の関係でして、それで芳佳は私の事をお兄ちゃんって呼ぶんです。だから、えーっと……なぁリーネ?」

「そ、そうなのお姉ちゃん! それでね、芳佳ちゃんに釣られて私も釣られてお兄さんって呼んじゃったのが始まりなの!」

 

 リーネが早口で一気に捲し立てる。ナイスだ、こういうのは俺より本人が言った方が効果がある。

 

「へーそうだったんだー。年上だからだと思ってた」

 

 芳佳がせんべいを食いながら驚いている。めっちゃリラックスしてんじゃん。つーか客より先に食うな。

 

「そ、そうなの……。まぁ本人達が納得してるなら私からは何も言わないわ。でもリーネ、貴女そのままでいいの?」

「うっ……」

 

 そのままでいいのとは、どういう意味だろうか。別に俺はお兄さんと呼ばれても不愉快に感じないし全く持って問題無いのだが。

 しかし当のリーネは言葉に詰まっている。

 

「えぇと……そのぅ……」

「ハァ……。波崎さん」

「えっ、あはい」

「貴方から見てリーネはどう映っていますか?」

 

 どう映っている、とはどういう意図があっての質問だろう。

 さっきと同じ『男から見て』というニュアンスだろうか。だとしたらまたスルーするけども。

 

「いやだから、さっきも言いましたけど家事は手伝ってくれるし良い子だと……」

「私が聞きたいのはそうではありません。恋愛感情があるかどうか、です」

 

 超直球のドストライクな剛速球が放たれた。俺の隣で芳佳がピクリと身体を震わせ、リーネはあわあわと取り乱している。

 しかし――――。

 

「無いッスよ」

 

 捕球成功。

 

 というか、俺の立場上これ以外に返す言葉がない。あるなんて口が裂けても言えるワケないじゃないか。そう、ウィザードとホストという立場上ね。

 

 けれども即答したのは少々悪手だったか。俺の言いぐさにビショップさんのこめかみがピクッと動いた。隣のリーネも若干しょげてる気がする。反面、芳佳はフフンと鼻を鳴らしたが。いやリーネに恋愛感情が無いからっつって芳佳にあるわけじゃないからね?

 

 もしかして「恋愛感情を持てないほどウチの妹は可愛くないんですか!?」って言われる奴っぽい。

 それは面倒くさいな、フォロー入れておこう。

 

「いやその、えー何と言いますか、こう、妹のような感じで接していてですね? ほら、俺もお兄さんなんて呼ばれていますし」

 

 ビショップさんは未だに怪訝そうな面持ちだが、多少納得したように話を聞いてくれている。よし、潜り抜けたか。

 しかしさっきよりもリーネが落ち込んでしまった。これはアレか、リーネは『可愛いよりも綺麗って言われたい系女の子』だったか。

 

「あ、えーっと、妹のような感じですが、時折女性らしさを感じさせてくれるっていうか」

「へぇ、どんな時に?」

「料理作ってるエプロン姿とか、後ろ髪を三つ編みに結い終わったときファサってやる仕草とか……」

 

 これでリーネの機嫌も治ったかなと思ったら、今度はそっぽ向いてしまった。リーネ的にはこれもダメなの?

 それでまた芳佳が太股を抓ってきた。同じ箇所を抓られると流石に痛い。

 

 しかしさっきとは打って変わって、ビショップさんは「よろしい」とばかりに頷いている。姉ちゃん的には正解だったみたいだ。

 

「ではリーネの身体はどうでしょうか。男性からしてみれば、魅力的で色気も備えてると思いますが……」

 

 ここでとんでもない爆弾を投下してきた。

 いい体してんねえ!通りでねえ!とでも言えばいいのだろうか。

 

「お、お姉ちゃん!?」

「でもリーネも気になるでしょう?」

「恥ずかしいからやめてよもう……気になるならないじゃないの! ジンさんも答えなくていいですからね!」

「う、うーん……」

 

 顔を赤くしたリーネがわたわたしながらビショップさんを制しに入った。

 なんというか、段々とビショップさんの纏う雰囲気がプレゼンして商品を売り込む営業さんみたいになってる。

 

「とっても私好みです!」

「おめーじゃねーよ」

 

 自信満々に芳佳が答えたので突っ込む。しかし、対象を切り替えるというのはナイスアイディアだ。リーネに関してはあやふやな感じにして無難に切り抜けよう。

 

「うーん……、色気だったらウチにいるシャーリーってリベリオン出身の子がいるんですけどね。彼女が俺の中では一番かなぁと――――」

 

 

 とまぁ、なんとも不健全極まりない内容だが、リーネから的を逸らして語ろうとした時だ。

 

 

 バタァン!

 

 

「「「うわあぁ!」」」

 

 

 情けない声と共に、部屋の扉が開いて中に人の塊が傾れ込んできた。

 

 一番下にシャーリー、その上にハルトマン、その上に坂本さんが、団子三兄弟みたいに被さっているではあーりませんか。

 

 なーにやってんだあいつら……。

 

「ちょっとシャーリー! なんで暴れちゃうのさー!」

「だって、まさか私の名前出されるなんて思わなくって……あっ」

「ハハハ。いやースマンリーネ、邪魔するつもりは無かったんだが……」

 

 こいつら、部屋の外で聞き耳立てて盗み聞きしてたな。つーかシャーリーにはルッキーニを止めるよう取引してたんだけど……。

 

「おいシャーリーにハルトマン、坂本さんまで……。悲しいよ俺は、特にシャーリーにはガッカリだよ」

「悪い悪い。つい……な?」

「テヘへ、バレちゃった」

「いやー私も止めたんだが好奇心が勝ってしまってな……。ハッハッハ」

 

 誤魔化し気味に笑う三人に俺は呆れたが、それ以上に自分の運の無さを呪った。まさかハルトマンがこのタイミングで帰ってくるとは、まさか坂本さんが気まぐれで二人を止めなかったとは。そしてこんな時、ミーナさんがいてくれてたらなぁ……。

 

「ふふっ、愉快なルームメイトさん達ね」

「ほんとすいません……。悪い人たちじゃないんですけどね……」

「いいじゃない。賑やかな方が楽しいわ」

「そう言ってもらえると助かります……。こいつらの場合は賑やかすぎますけどね」

 

 寛大にも、ビショップさんはフフッと微笑んで盗み聞きを許してくれた。

 

「よっ、流石リーネのお姉さん」

 

 よせシャーリー、余計な茶々を入れるな。

 

 しかし……何か彼女達から違和感がある。

 

 なんだろう。

 坂本さんのよそ行きの私服姿にか?

 ハルトマンがシャツしか上に羽織っていない事?

 珍しくシャーリーが照れたようにはにかんでいるから?

 

 いや違う。もっと重要な――――。

 

「あ」

 

 そうだ。ルッキーニがいない。ビショップさんに興味津々だったルッキーニも聞き耳を立てていると思っていたのだが、なぜ彼女達と一緒にいないのだ。

 

 ……もしや。

 

「あぁっ!」

 

 気づいたが、時既に遅し。

 

 ルッキーニはさっきのどさくさに紛れて部屋に侵入し、気配を殺してビショップさんの背後に回り込んでいたのだ。

 そして、楽しげにクスクスと笑うビショップさんの脇にそっと手を這わすと――――。

 

 

「おりゃー」

 

 

 ムニュッ

 

 

「キャアッ!?」

 

 

 や、やりやがった……ビショップさんの胸を鷲づかみにして揉みしだきやがった!

 

「ルッキーニイイイィィ!」

 

 俺は慌ててビショップさんに駆け寄り、胸の感触を楽しんでいるルッキーニを引きはがしにかかった。

 

「バカお前手離せルッキーニ! ほんとすいませんビショップさん!」

「な、何なの一体……! アンッ」

「うじゅーもちもちするー! リーネと同じくらいの大きさだけどこっちのを揉んでたい!」

「そりゃ良かったな! いや良くねーけど!」

「あールッキーニちゃん狡い」

「何が狡いだバカその2!」

 

 まだ胸を揉み続けるルッキーニの手首を少し力を入れて握り、彼女が痛さに手を緩めた所で思い切り後ろに引っ張った。勿論、ビショップさんの胸には手を触れないように細心の注意を払って。

 

 そのままルッキーニを抱きかかえて距離を取ると、胸を揉まれて少しばかり息の上がったビショップさんに弁解する。揉んだのは俺じゃないんだけどな!

 

「えっと、この子ロマーニャ出身の留学生なんですけどまだ中一でして! 凄い性に興味を持つお年頃でして! だからすげー胸を揉む子でして! 決して俺が常識を教えていなかったのではなくって! なぁリーネ!?」

「う、うん、そうなのお姉ちゃん! 私も何回か揉まれてるけど、それも仕方ないかなって!」

 

 子供だからという免罪符に加え、さり気に情熱の国出身という事もアピールし、だめ押しに身内の口添えも借りる。

 これで許してください!何でも許してください!オナシャス!

 俺は彼女を甘やかしてただけで何も変なことは教えてないんです!

 

「え、えっと……仕方ない?」

「そうですしゃーなしなんです!」

「仕方ないのよお姉ちゃん!」

「うんうん。私も仕方ないと思うな」

 

 芳佳も参戦した。 HERE COMES A NEW CHALLENGER!

 お前は揉む側だろうが、もうこうなったらヤケクソでごり押しだ。三人に勝てるワケないだろ!

 

「そう……仕方ない……のかしら……?」

 

 よし、まだ若干戸惑ってるけど受け入れようとしている。ナイスアシスト。

 

「けど、いくら何でも初対面の人の胸をいきなり揉むのはダメよ? 国が国なら訴えられてもおかしくないんだから」

「ハーイ」

 

 許しながらも叱る。なるほど、押しに弱くても自分の意見を申し立てる所がリーネそっくりだ。

 しかしその押しに弱いところさんで助けられた。ありがとうリーネに似てて。

 

 

 そんなゴタゴタもあったが、その後は割と砕けた雰囲気で話もでき、お煎餅も気に入ってもらえたので幾つか包んで臨時のお土産として事なきを得た。

 そのまま時間は夕刻に差し掛かったので今日はお開きとなり、ビショップさんは迎えを呼んで帰っていったのだった。

 

 もう懲り懲りだよ……トホホ~。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、シャーリー今日の約束なしな」

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 






―― その後の二人 ――


「じゃあね、お姉ちゃん」
「またね、リーネ。大きな休みが取れたら帰ってくるのよ?」
「うん」
「それと……まあ悪い人じゃなさそうだし、私からアドバイスあげる」
「うん……?」
「彼のことよ。このままお兄さんなんて呼んでると、リーネを女として意識しないわよ?」
「うん!? まだその話続くの!?」
「当たり前じゃない。自覚はあっても行動に移さないと何も変わらないわよ。手始めに彼のことを名前で呼んでみたらいいんじゃないかしら。きっと今までと見る目が変わるわよ」
「う、うん……。頑張ってみる……!」



「そのままゴールインして、私とリーネで姉妹揃っての挙式よ!」
「もーお姉ちゃん! 早く帰って!」

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